* First Served Basis
翌日。
昼休憩の時間になると二年D組の教室に、当然のようにトルベンが現れた。
月曜にゲルトたちと一緒になって私のお菓子を食べた彼は、火曜にもお菓子があるかと教室に来て、けっきょくなかったのに文句を言いながらも教室に居座った。水曜はダヴィデが持ってきていないと報告したから来なかったものの、親切ダヴィデからのメールで今日はお菓子があることを知り、食べに来た。
私の傍らに立つトルベンに向かってダヴィデが説明する。
「わざわざ小分けしてるんだって、こいつ。平等だとか言って、いろんなお菓子詰め合わせにしてるっぽい」
イヴァンが補足する。「しかもなぜか十二袋っていう、なんか半端な数」
私は口ごたえした。「しょうがないじゃん。バームクーヘンが十二個入りなんだもん。っていうか、なんで私があんたたちに自分用のお菓子を分けなきゃいけないのかが謎。自分のために買ったのに」
アニタが口をはさむ。「でもよくよく考えたらベラ、ほとんどのお菓子、二箱ずつ買ってたよね。しかもベネフィット・アイランドからの修学旅行生だってことを理由に、どこに行ってもかまわず値引きしてもらって。しばらくはランチ後のおやつに困んねーとか言ってた」
セテは笑った。「分ける気満々」
「だからそれは──」
「それだろ?」トルベンは私の机の上にある中サイズの白い紙袋をあごで示した。「なんで食わねえの?」
にやつくゲルトが答える。「お前を待ってた。ベラは普通に分ける気なんてねえ。勝ったもん勝ちだってよ」
「は?」
私は簡単に説明してさしあげた。「ちなみにお菓子はね、このあいだのクッキーだけじゃなくて、チョコレートとサブレとラスクとバームクーヘン、あと別のクッキーもある。わりと豪華」紙袋に手をかけて立ち上がり、トルベンに言う。「体育館に行く。バスケットでシューティング対決。同じ本数やって、ゴールを多く決めた奴がお菓子を食べられる」
秋になったらバスケで遊ぼうと言っていたのに、バタバタしていてけっきょく、できていない。
トルベンが反論する。「んなことしなくても普通に食えばいいだろ」
「それはダメ。他の奴も誘うもん」
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C組でカルメーラとエルミ、ナンネとジョンアを誘った。ナンネは運動音痴だから、見ているだけにするらしい。恥をかくよりは、と。
A組でヤーゴを呼ぶよう男たちに言うと、エルミたちを連れた私とアニタは、B組の教室、ペトラとカーリナを前方の戸口に呼んだ。新制服に身を包んだ彼女たちにシューティング対決のことを話すと、カーリナは眉を寄せた。
「話さなきゃ大丈夫だって」私の前に立つペトラが声を潜めてカーリナを促す。「あんたミニバスやってたんだから、うちらほどかっこ悪いことにはなんないはずだし」
「ヒト呼びすぎな気もするけど」と、ドアにもたれたアニタはそっけなく口をはさんだ。「ペトラと二人でお菓子勝ち取れば、あんたの大好きなエデとサビナと四人で分けられるじゃん」
いぶかしげな表情のカーリナは、声を潜めて私に訊いた。
「知ってんの?」
「なにを?」すっとぼけた。「単にあんたがミニバスやってたから、ペトラとセットで誘ってるだけ。ひとり予定してたのが抜けちゃったから、人数合わせに。一応二人組を作っておくほうが、食べられる可能性は高くなるからね」
信じたのか信じていないのか、彼女はバツの悪そうな顔をペトラに向けた。
「どうかと思うけど、たぶん嫌がらせでもなんでもないから。つきあってよ」と、ペトラ。
カーリナは溜め息をついた。
「しょうがないから行く」
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ゲルトたちはA組の教室前で待っていた。
「何人いんだよ」ヤーゴが私に言った。「お菓子、十二個じゃねえの?」
十二袋だよ。「うっさいな。人数多くないとつまらないでしょ。しかもまだ呼ぶ」
A組の戸口から、今度はチャーミアンとアウニを呼んだ。私は教室に顔をつっこんでいるし、トルベンの表情は見ていないからわからない。こちらに来た彼女たちを誘うと、アウニはすぐ笑顔になったものの、それを取り消すよう、気遣わしげな表情をチャーミアンに向けた。
「あ、ちなみにあんたはヤーゴとセットだから」私はアウニに言った。「ひとりずつ勝負だけど、分ける前提での一応のセットね。両方が勝ったらお菓子は二人ぶん、片方が負けたらひとりぶん、両方負けたらゼロだけど」ゼロということもない。「で」戸惑い気味のチャーミアンに向かって声を潜める。「お互いに避けてるんだろうけど、避けすぎたらまわりに変に思われる。気づかれるよ。それなりの距離は保ちなよ。せめてアウニとヤーゴが別れるまで」
とたん、アウニは不機嫌になった。「ちょっと? 別れないから」
さっさと別れろよ、と思っているのがこの学年にどれほどいるのか、彼女は知らない。私も知らないが、彼女よりは知っている。
「冗談よ」と答え、視線をチャーミアンへと戻した。「話さなくていい。あんたは私とセットってことにしとくから、話さなくても平気。私も話さないし、どっちにとっても都合はいいわよ」
「ちなみに」右隣に立つアニタも小声で口をはさむ。「トルベンはあたしとセット。言っとくけど、あたしが決めたんじゃないよ。元ミニバス部のダヴィをカルロに取られたうえに、ベラがイヴァンはカルメーラとセットだとか言って、ゲルトとセテには下手そうだとかで拒否されて、なんだかんだでトルベンとになった」
チャーミアンは苦笑った。
「そっか。わかった、行く」
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入りやすいようバスケットボールより少し小さなバレーボールを使っての、決まった位置からのシュート十本、ローテーション勝負──男子七人全員と私、チャーミアン、カーリナがいち早くお菓子を獲得した。
残ったのは三本しか決められなかったアニタとペトラ、カルメーラとジョンア、そして二本しか決められなかったアウニとエルミ。
アニタとペトラは、普段はもう少し出来るはずなのだが、成功率の高い男子陣とふざけながらも六本を決めた私のあとに続き、変なプレッシャーがかかっていたうえ、私がいちいち横からよけいなことを言うものだから、やたらとはずしていた。
けっきょく彼女たちだけでゴールに近づいてのサドンデスに突入し、ペトラとジョンアが残りふたりぶんのお菓子を手に入れた。ペトラとカーリナは颯爽と教室へ戻り、ヤーゴは本気でヘコむアウニを連れ出した。
「超へこむ」アニタがつぶやいた。彼女はみんなから隠れるように私の背後に座り、私の背中に額をあずけてうつむいている。「いつもならもっと入るのに」
紙袋を目の前に置いた私の右隣にはチャーミアンが座っていて、さらに右にカルメーラ、イヴァン、カルロ、ダヴィデ、トルベン、ゲルト、セテ、ジョンア、ナンネ、エルミと座っている。
“もっと”は言いすぎだろ。
「お前、もうちょっとうまいと思ってたわ」ゲルトがアニタに言った。彼はあぐらをかいた脚の上でバレーボールを、両手を使って回転させている。「よかった組まなくて」
六ゴールのセテが笑う。「ベラがあれこれ言ったからってことにしといてやれよ。んで、お前もそれで無駄にはずしたってことにしとけ」
五ゴールの彼は天をあおいだ。
「ベラに負けたっつーのがムカつく。あと一本で並んだのに」
「いろいろ言ってきたのはそっちも同じ。気にするかしないかの違いだから。しかもそっちの勝ち負けにこだわるな。お菓子争奪戦なんだから」そう言って、私はカルメーラに訊いた。「へこんだ?」
彼女が苦笑う。「ううん。変なプレッシャーはあったけど、おもしろかったよ」
いい感想。「だよね」紙袋の中に入れていた小サイズの紙袋から、賞品とは別の袋をひとつ取り出し、チャーミアン越しに彼女に差し出した。「あげる。なぜか箱に入った高級ラスクとチョコレートとサブレ。あまりだからひとつずつだけど」“ケチッたから”とも言う。
彼女は受け取った。「うそ、マジで?」
「え、んじゃ分けなくていい感じ?」イヴァンが彼女のお菓子へと視線をうつす。「あれ、けど少ないよな」
「いいよ。チャーミアンが分けてくれるって言ってるし」
「んー」イヴァンは自分のお菓子の袋を開けると、月曜に食べたのと同じ二種類入りのクッキーをひとつ、彼女に差し出した。「最終的にベラをいい奴にするのはアレだから、オレもやる」
どんなだ。
彼女は笑って受け取った。「ありがと」
「しょうがないから」私はさらに袋をふたつ取り出し、エルミに渡した。「あげる。ナンネも」
「マジで?」とエルミ。
「え」ナンネも袋を受け取った。「いいよ、やってないし」
「ああ、気にしなくていいよ。アウニのぶんだから」私はけろりと言った。
「あっちに対する嫌がらせだから気にすんな」と、ゲルト。
セテも苦笑う。「本気でヘコんでたもんな、アウニ」
「ヤーゴが取ってくれてよかった」ダヴィデがつぶやいた。「二人とも取れなかったら、あいつらどうなんだろうとか思って」
トルベンが口をはさむ。「俺はむしろ両方はずして、気まずいまま別れろとか思ってたけど」
その言葉に全員がふきだして笑ったり、笑いをこらえたりした。私のうしろで沈黙を続けていたアニタもだ。トルベンはめずらしく、私と同意見らしい。
ヤーゴとアウニのカップルは、実はわりとうんざりされている。というか、アウニが。イチャつくだけなら呆れで済むものの、嫉妬がすごいのだ。ヤーゴは嫉妬のことをわかってはいるけれど、彼自身もわりと面倒に思っているけれど、ベッドに連れ込むまでは別れるつもりがないらしい。家に誘ってはいるけれど、なかなか来ないのだという。修学旅行が終わって落ち着いたらというおかしな約束は一応していたらしいのだが、まだなんの進展もない。
カルメーラが私に言う。「っていうか、なんでベラ、イヴァンと組まなかったの? あたしとチャーミアンでも平気だった気がするんだけど」
「イヴァンとはドッジボールでのコンビが最強ってことにしときたかった。これでボロボロだったら、ドッジボールの無敵感が薄れるじゃん」
その言葉にイヴァンは笑って同意し、カルメーラは納得の表情を見せた。
私は続けた。「それに結果的に言えば、あんたとチャーミアンて組み合わせも、わりとギリギリだったと思うけど」
カルメーラは三本、チャーミアンは四本だった。
チャーミアンが苦笑う。「やっぱ変なプレッシャーがあったから。バスケットボールじゃないし、もうちょっとできると思ってた」
私も思っていた。「ま、ペアは一応のもんだからね。アウニはヤーゴと分ければいいし、カルメーラとチャーミアンが分けるのでもいいとも思ってた。まさかアニタがあそこまでひどいとは思わなかったけど」
アニタは背後でさらに私に近づき、私の右肩にあごを乗せた。
「悪かったね、ひどくて」不機嫌らしい。
「怖いよお前」カルロが言う。「背後霊みたい」
「待ってんだろ。餌もらえるの」と、セテ。
「そんなんじゃないよ?」アニタが答える。「ただ、どのタイミングでくれるのかなと思ってるだけで」
「あれ、計算間違いかも」私はすっとぼけた。「もうない」
「は?」彼女は身体を起こした。「嘘つくなこら」
私は振り返り、挑戦的な目で彼女に言った。
「シューティング・サドンデス、さらにする? 私に勝ったらあげる」
彼女は空笑った。
「絶対イヤ!」




