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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 12 * REALIZE DAYS
69/119

* Homecoming Realize

 ベネフィット・アイランド・プレフェクチュール。

 空港から、バスでウェスト・キャッスル中学校へと戻った。グラウンドに集合し、学校に残っていた教諭たちと一緒に待ち構えていた校長の話を少し聞いたりしてやっと解散、修学旅行が終わった。教師陣は、“家に帰るまでが修学旅行だ”と言うけれど。

 私は迎えに来てくれたアゼルとマスティ、ブルとニコラに呆れられつつも、大量の荷物と共に家に送ってもらった。

 とはいえ、大きさの統一されていない紙袋十三袋のうち、五袋はそれぞれひとつずつ、彼女たちへのおみやげだ。食べ物だけでなく、服やキャップ類、アクセサリーと、そう多くはなくてもいろいろ買ったので、それぞれに小分けしたのだ。祖母への一袋もあるし、ケイへの一袋もある。お菓子だけではあるものの一応、マルユトとサイニへのおみやげも。つまり自分用の紙袋は五つだけだ。それでも多すぎだと、学校で別れるまで荷物運びを手伝ってくれたゲルトたちには散々文句を言われたが。

 荷物を祖母の家に置くと、リーズに会いに行ってくると祖母に伝え、ニコラたちと一緒にリーズの家へと向かった。

 リーズが住む平屋は、祖母の家の向かいブロック、東の角にある。L字になった家屋の西側、歩道に面した部分の一部には褪せたウッドフェンスが設置され、そこからリーズと彼女の姉が共同で使っている部屋に入れる。

 だが乗り込もうなどとはせず、車道に自転車を停めて、ウッドフェンス脇の歩道に並んで座った。

 「やっぱダメだわ」電話を閉じたマスティが言う。「ぜんぜん出やがらねえ」

 中学校を出てニコラが、私とニコラが荷物を祖母の家に運び入れているうちにブルが電話したのだが、どちらにもリーズの反応はなかった。彼女は今日、学校を休んでいたらしく、誰の電話にも出ようとしない。

 私の左隣でアゼルがつぶやく。「もう放っとけばいいんじゃね。どうせ明日と明後日、休みだし」

 「けどこの調子じゃ、いつ出てくるかわかんねえぞ」ブルが言った。「どんだけ廃人になってんのか知らねえけど、土日も出てこないようなら、月曜はもっと出てきづらくなる」

 ニコラは私の右隣に座っている。「やっぱ乗り込むしかないかな。でも会いたくねえとか言われるし」

 彼女たちは中学に私を迎えにくる前にも、リーズに会いにきたらしい。だが“会いたくない”と、玄関で彼女の姉を介して追い返されのだとか。

 「っつーか、その男がなんか言ったんじゃねえの?」ブルが言った。「フるどころか、こんな状態になるくらいまで落ち込むような衝撃的なこととか」

 マスティがひらめく。「“お前みたいなブスとつきあえるわけねえだろ”、みたいな?」

 「ルキはそんなんじゃない──」言いかけたものの言葉を切り、ニコラは不安げな表情をこちらに見せた。「よね」

 「さあ」どうなのだろうと思いつつ携帯電話を取り出す。「電話してみて、ダメだったら諦める。乗り込むのもどうかと思うし、ルキに状況訊くなんてのも変だし」携帯電話を操作し、リーズに電話した。

 「この無駄な時間、なんだ」アゼルはまたつぶやいた。「マジでめんどくせえ」

 「風邪とかならある意味安心なんだけど」と私。リーズは電話に出ない。「ニコラにも理由言わないってのが、よくわかんないよね」

 彼女は遠い目をした。「ルキに会ってからのリーズ、変なとこだらけだもんな。ヒトのこと言えないけど、それ以上」

 「もしかして、インゴなら──」

 何度目かわからない呼び出し音が途切れ、声に変わった。

 「──はい」かなり小さいけれど、リーズの声だ。

 「なにしてんの?」私は訊いた。

 「──なんも」

 暗い。「おみやげ買ってきた。けど、いらないならニコラにあげる。服とかアクセとかお菓子とか、いろいろ詰め合わせてんだけど。奪い合いにならないよう、ひとりにつき紙袋ひとつ状態にしたから、買いすぎだってみんなに文句言われたくらいなんだけど。どうする?」

 彼女は数秒沈黙し、口を開いた。

 「──どうすればいいか、わかんない。自分が、どんどんイヤな人間になってく」

 なんの話だろう。「私以上にイヤな人間なんていないと思うけど」

 「違う」リーズは泣きそうな声で否定した。「──ルキを好きになって、周りが見えなくなってた。インゴとエルミのことがあって、そういうの、反省して──なおしたつもりだった。──けど、変わってなかった」

 なにを言っているのか、よくわからない。「内面ではってこと?」

 「うん──」泣いているのか、鼻をすすった。「ルキにフラれて、自分のことも、周りもぜんぶ、イヤになった。逆恨み──みたいなのも、いっぱい──」

 フラれて逆恨み。

 “完全な悪役ってのはやっぱ、逆恨みがツキモノなんじゃね?”

 以前ゲルトが、私に言った言葉。

 「べつに、いいと思うけど」私は答えた。「逆恨みすることだってあるでしょ。周りがイヤになることだって、当然あるでしょ。私なんかしょっちゅうそうなるけど」

 「でも」リーズが続ける。「関係ない──っていうか、ぜんぜん悪くない相手のことまで、イヤになった。逆恨みして、いなきゃよかったのにとか、そんなん思っちゃって──相手と自分比べて、劣等感みたいなん、すごくて──フラれたことより、そういう自分が、ほんとイヤになって──」

 だから、引きこもった。「だから、べつにいいじゃん。相手と比べてどうこうってのは、正直よくわかんないけど。なにが羨ましいとか、誰かの前でイイ子ぶるとか、私ならむしろ、そっちをイヤだと思うけど。逆恨みして卑屈になるとか、私にとっては日常茶飯事だもん。自分のことがイヤになるってのも、しょっちゅうだよ。ヒトと自分の考えかたの違いを見つけて、自分が変なんだって気づいた時とか。恋愛に純粋になれない自分も、たまにすごくイヤになる。リーズとかアニタとか他の奴らみたいに、惚れた男のちょっとした言動で一喜一憂するってのが、私にはないもん。でもそうやって色々考えることすら、私は面倒だし。イヤになることは常にあるけど、考えたってしょうがないじゃん。バカになるところはバカになって、悪になるところは悪になって、うざいとか死ねとか、思いたい時は思えばいい。相手に言わなきゃ知られないんだから、それならいいでしょ」

 そう言うと、隣でアゼルが笑った。ニコラも苦笑っている。

 「復讐したいなら、するよ」私はリーズに言った。「ルキに」

 また数秒沈黙して、彼女は苦笑った。

 「──筋、通んないじゃん」

 「確かに通らないかもだけど、たまにはいいんじゃない。今日は筋違いの日なんだよね。あたりまえのことを捻じ曲げて破棄して、新しいものに変えたから」

 彼女の声が疑わしげなものになる。「──また、なんかしたの?」

 「ちょっとね──あ、今ブルとマスティがリーズへのおみやげ、漁りはじめた」嘘だけれども。

 「え」

 「あ、ニコラも便乗してる」嘘。「あ、ネックレスが見つかった。いちばんの高級品」嘘。

 「え」

 「ニコラが服もらうとか言ってる」嘘。「あ、マスティがお菓子の包み開けた。食おうとしてる」嘘。

 「え!?」

 アゼルもニコラもブルもマスティも、声を抑えて笑っている。

 「今ね、リーズの家の前にいるんだけど──あ、ブルが自転車に乗った」嘘。「ニコラもそのうしろに乗った。リーズ用のおみやげが入った紙袋、しっかり持ってる」嘘。

 「はあ!?」

 「持って帰るとか言ってる」嘘。「リーズが出てこないから」

 「ちょ、ちょっと──待っ───」

 リーズがなにか言っているにもかかわらず、アゼルは私の右手から携帯電話を取り、ニコラに渡した。

 笑いながら彼女が応じる。「もしもし? あたしだけど。持って帰るよ、マジで」

 ニコラが彼女と話すのを無視して、アゼルは右手で私の首に触れ、私にキスをした。深いキスだ。

 「あ、ちょっと待って」ニコラが電話に向かって言う。「今ベラとアゼルがイチャつきはじめた」

 そんなセリフを気にせず、アゼルはまだ私へのキスを続ける。

 「見てらんないから帰るわ。当然あんたのみやげ持って」

 アゼルが小声で言う。「マブの玄関の鍵変えるか。そしたら明日一日、邪魔されねえ」

 「ものすごく怒られる気がするけどね。っていうか、この時間にどこで買うんだよって話──」

 背後でウッドフェンスが勢いよく開き、慌てた様子のリーズが現れた。

 振り返ったマスティが言う。「やっと出てきた。引きこもり女」

 「相変わらず色気ねえな」と、ブル。「Tシャツにジャージにサンダルって」

 ただリーズ、格好にどれほど色気がなかろうと、実はとある猫のキャラクターが大好きで、サンダルだけはいつもそのキャラクターのものを履いている。といってもサンダルそのものはボロボロなのだが。

 ニコラは笑いながら立ち上がった。

 「バカ」

 嘘だとわかったのか、リーズが苦笑う。「ごめん」

 「どうせなら明日まで引きこもれよ」アゼルが言った。「このアホ共と一緒に」

 「は?」マスティも立ち上がる。「明日は夜中まで邪魔するだろ、当然」

 ブルが笑う。「飲んで潰れてベッド奪うっていうアレな」

 「お前ら、それしたらマジでキレる」と、アゼル。

 彼女たちも笑った。

 まだ少々気まずそうにも、リーズが口元をゆるめてこちらに言う。「おかえり」

 私も微笑みを返した。「ただいま」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 次の日──ドラッグストアに寄ってピアッサーをひとつ調達してから朝十時すぎ、リーズとニコラと一緒にマブに行くと、マスティとブルもすでに来ていて、アゼルはうんざりそうにしていた。

 修学旅行の話をしながらお菓子を食べつつ、彼らは私があげたおみやげの色々を見せ合った。ランチは祖母が六人分も作ってくれ、それをリーズとニコラと三人で取りに行き、またマブに戻って食べた。

 私は左右両方にひとつずつピアスの穴を開け、左に三個と右に二個、ぜんぶで五つのピアスをつけられることになった。

 夜になると、それは飲み会に変わった。彼らはいつものようにゲームをしながら、リーズとニコラは失恋を酒で流すかのようにバカ騒ぎをはじめた。二日前の寝不足を引きずっている私とアゼルは、彼らを放置してシャワーを浴び、奥の部屋に入った。

 「やっぱ鍵変えてやりゃよかった」暗い部屋の中、ベッドにあがりながらアゼルが不機嫌そうに言う。「お前がいねえあいだ、わりと静かだったのに。なんで帰ってきたとたんにこうなんだ」腰をおろして壁にもたれた。

 ドアの鍵を閉め、私も彼のあとに続く。

 「んなこと言われても。私は朝ここに来た時の、リビングの散らかり具合のほうが衝撃的だったけど」彼に背を向け、彼の脚のあいだに座った。「あれこれ散乱しすぎだし。洗濯物は放置だし」

 彼が私の背中を受け止める。

 「男三人が二泊三日で生活してたからな。仕事で朝から夕方までは家にいなかったのに、それでも散らかった。かなりダラけてたから」

 「あんたはキレイ好きだと思ってたんだけど。マスティの部屋と違って散らかってないし」

 「いや、モノに興味持たねえだけ。あいつもブルも、いちいちあれこれ好きだからな。なんか買ったら、とりあえずここに持ってくるし。けどこっちなんかまだマシ。あいつらの本家の部屋のほうがもっと散らかってる」

 「せめて洗濯くらいしてくれないかな。なんであいつらのまで洗わなきゃいけないのか教えてほしい」

 「放っとけよ。ぜんぶマスティの部屋に放り込んどけ」そう言うと、私の右の首筋にキスをした。「で、誰かに告られたりは?」

 「だから、ないって。でも他はあったみたい。知ってるだけでも──三組。ぜんぶダメだったけど」

 「つまんね」

 アゼルはベッドを逆さに、私を押し倒した。伸ばした両手をベッドにつき、私の上に乗る。

 「ふと思ったけど、先週もお前、泊まったよな。泊まりすぎじゃね」

 「泊まりすぎだから、来週と再来週とその次くらいはやめておこうか」

 「好きにしろ」

 肘をついて顔を近づけ、彼は私にキスをした。

 それだけで、溶け込む。すべてが溶け込む。

 キスだけで、ひとつになれる気がする。

 何度かキスを続けたあと、アゼルは唇を離した。

 「──実際、どんくらいヤらなくて平気なんだろな」

 「どっちが? 両方?」

 「自慢じゃねえけど自信はない」

 「私は余裕な気がする。でもあんたのことを考えれば、キスもしないほうがいいのかな。それは無理」

 「キスなら他の奴とすればいいんじゃね」

 私は少々むっとした。「今からブルとマスティにしてこようか。深いの」

 だが彼は笑う。「してくりゃいいんじゃね。朝起きたらリビング、乱交騒ぎになってるかもしんねえけど」

 「なにその最悪な状況。怖いからやめて」

 そう言って、右手でアゼルの頬に触れた。

 「──会いたかった。夜中に電話した時、会いたくてしょうがなかった。キスしたくてしょうがなかった」

 微笑む。「知ってる。だから昨日、してやっただろ」

 あと数秒続けられていたら、きっと、まずかった。

 「あんなんじゃ、足りない」

 「それも知ってる」

 そう答えるまた、キスをした。深くて深い、私が夢中になってるキス。


 あの時──夜中だったからかもしれない。でも、はじめて気づいた。

 私にとっては祖母よりも、アゼルのほうが存在が大きい。

 会いたいのはアゼルで、一緒にいたいのはアゼルで、恋しいのはアゼルで、愛しいのはアゼルだ。

 祖母のことは大切で、大好きだけれど、それよりもアゼルへの愛のほうが、ずっと深い。

 アゼルの腕の中、罪悪感が少し、顔を出した。でも私は、それを無視した。

 私が今、なによりも手放したくないのは、アゼルただひとりだ。

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