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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 11 * TRIP DAYS
65/119

* Evening Emerald

 テーマパークで散々遊んだあと、夕方、宿泊しているホテルに戻った。部屋に荷物を置き、アニタがシャワーを浴びに行くと、私は発信履歴からトルベンに電話して、生徒指導主事と教頭先生が言っていたことをそのまま伝えた。

 「じゃ、そういうことだから」電話に向かってそう言った。私は制服のまま、奥のアームチェアに腰かけている。「お好きにどうぞ」

 トルベンは引き止めた。「ちょっと待て」

 「なに」

 「お前ならどうした? アニタと同じ状況になったら」

 「アニタは煙草なんて吸わないわよ」

 「仮にだよ」

 それは、私も考えていた。

 「私は煙草を吸うから、よくわかんない。でも仮に去年、アニタが先に煙草を吸おうとしてたら、私は止めたかもしれない。それでもあの娘が吸いはじめて、昨日みたいなことになったら、きっとあんたと同じことしてた。同情とかじゃなくて、一緒に犠牲になるとかでもなくて、止めなかった自分も、止められなかった自分も悪いんだろうから。そういう意味では同罪。それでもアニタは、罪を一緒に引っかぶったこと、喜んだりはしないと思う。

 でも私の現実では、状況は逆。アニタは私が煙草を吸うようになっても、止めなかった。止めても私が聞かないって知ってるから。流されたんじゃなくて、私が自分で選んだことだって知ってるから。でも、それでやっぱり昨日みたいなことになったら、アニタはちゃんと否定したはず。私も一緒になって、彼女は吸ってないって言い張る。教師と喧嘩になってでも、完全に敵にまわしてでも。

 なにが正解かはわからない。要は本人たちが、お互いの行動をどう思うかでしょ。確実なのは、私もアニタも、やってない罪を相手が引っかぶることを、よくは思わないってこと。正直に無罪だって認めたからって、それを逆恨みしたりしないってこと。逆恨みするような奴なら、そこは縁を切ってもいいところだと思うし」

 黙って話を聞いていたトルベンは、沈黙を数秒引き延ばすと、溜め息でそれを破った。

 「反省文なんか出さねえ。あんなアホらしいもん、誰が出すか」

 「いいんじゃない。煙草を吸ったことに対する感想なんて、吸ったことない人間には書けっこないんだし」

 「吸ったことはあんだよ。けど部活があるし、体力失くしたくないから、最初の一回きりだ」

 「じゃあヤーゴも部活に引き込めばいいんじゃないの。そしたら改心するかも」

 とは言ったものの、C組のひとり、サッカー部だが。あれはどうなのだ。

 「あいつには無理──あ、ヤーゴが戻ってきた。切る」

 最初から無理だと決めつけるのは、どうかと思う。「はいはい」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 宿泊しているホテルのウェスト・プルームという建物、二階──大小様々なパーティー会場がいくつも設置されたフロアの中の、イヴニング・エメラルドというパーティールーム。ここは縦長のとても広い部屋で、それと同時に豪華でもあり、天井中央に大きなシャンデリアがひとつ、周りに小さく丸い照明がいくつもついている。奥左と正面は大きな窓になっていて、高級そうなカーテンがついていた。床はアイボリーとシアンカラーで、大きなダイヤモンドのような模様が描かれた絨毯が敷かれている。

 朝食と夕食は正餐スタイル、丸テーブルがいくつも並べられた状態で食べる。丸テーブルはほとんどが九人席で、それが二十テーブルほど、あらかじめ用意されていた。手前に四テーブルを横に二列、中央部分をレクリエーション用に空けて両側、縦に二テーブルずつ、奥にまた四テーブルを横に二列と並べられている。

 初日──昨日の夕食時、ナンネとジョンアをテーブルに交えると、エルミがやたらうるさく文句を言った。彼女はけっきょく、C組の女子を交えてハヌルたちと一緒にテーブルについたが。

 それでも昨日のレクリエーション時、無駄に愚痴ってきたものだから、今日の朝食時は仕方なく、学年主任に許可をとり、テーブルを十人席にしてもらった。といっても、チェアと料理を運ぶ許可をもらっただけだが。

 朝食を終えてもそのチェアを戻さずにいたからか、今日夕食のためにまたパーティールームに向かうと、そこは席が十人用になったまま、料理が用意された。エルミはご機嫌だった。

 ちなみに私とアニタ、今夜は二人揃って甚平を着ている。私は夏休みに花火で着ていたもの、アニタは新しく買ったものだ。生徒指導主事に呆れ顔で見られたけれど、教頭には似合っていると褒められた。他はみんな、Tシャツにジャージかハーフパンツなどという、“シンプル”な服装なのだけれど。

 そして夕食時、捕まった連中はB組男子を筆頭に、全員の前で反省文を読まされた。これには同級生たち、失笑ものだった。ヤーゴを含む一部の男子はヤケ気味だったものの、エデとカーリナは屈辱でいっぱいといった様子で、さっさと終わらそうとしたのか、やたらと小声、やたらと早口でそれを読み終えようとしていて、主事にもっとしっかりと読めと怒られ、よけいに赤っ恥をかいていた。ほとんどの生徒はさすがに同情していたものの、私とアニタとゲルトとセテとカルロは、天を仰いで笑いたい気持ちを必死にこらえていた。

 そんな夕食が終わると、食器をさげ、レクリエーションがはじまった。これについては各クラス、なんだかんだと小さな企画を二回分、考えなければいけなかった。文化祭が終わってまだ、そんなに経っていないというのに。

 私たちは部屋の入り口側、ドアから見て右の隅のテーブルについている。時計回りに、アニタ、ダヴィデ、セテ、ゲルト、私、イヴァン、カルロ、エルミ、ジョンア、ナンネと座って。

 二十一時前、C組の番になり、ナンネとジョンア、エルミは席を立って中央スペースへと向かった。地理クイズをするらしい。テーブルには一席にひとつずつ、常にマイクが用意されている。

 イヴァンとカルロの三人で、クイズにまったく関係のない話をしていると、甚平のポケットの中で携帯電話が震えた。ニコラからだ。この修学旅行中、学校側は、家族との安否確認のために携帯電話を所持することは許可しているけれど、あまり使いすぎていると怒られる。さすがにここで応じるわけにもいかないので、電話してくると彼らに言い、私は席を立った。

 イヴニング・エメラルドの前室を通り抜けて廊下に出ると、右サイドにある壁にもたれた。

 ホテルの一階ロビーやパーティールームの前室、パーティールームそのものの内装はとても豪華なのに、この通路は本当に残念な感じだ。グリーンがかった灰色の無地の絨毯が敷かれた床、ブラウンのいくつもの四角い柱と壁、天井はアイボリーで、丸く小さなライトがいくつもついている。つまり地味。廊下とパーティールームで“扉を開けたら別世界”というキャッチフレーズが出来そうだけれど、それにしても地味だ。メイン階段やエレベーターホール等、一部はいかにも歴史あるホテルといった感じの豪華仕様なのに、なんというか、ただの宴会場への道という感じにしかなっていない。

 ちなみにイヴニング・エメラルドのパーティールームの正面には、通路に囲まれた小さなパーティールームが横にふたつ並んでいて、通路をはさんだ右側にはチャペルまである。つまり結婚式場。

 忍び込んで窓ガラスを割ってやりたい気持ちを抑えつつ電話に応じた。

 「あ、ベラ?」電話のむこうからニコラの声。「ごめん。今、平気?」

 「うん、平気」どこまでを平気と言うのかがわからないが。「どした?」

 「今日、ルキと話した?」

 「ルキ? ううん。一昨日? 修学旅行の前の晩、電話かかってきたけど。レコード化されてない“I Run To You”の別バージョンを、PCサイトで見つけたとかで」ものすごく興味をそそられる話。

 「え、マジで?」

 「うん」と答えながら、私は床に腰をおろした。「なに?」

 「ああ──いや、リーズがさ。電話で告ったらしいんだ、ルキに」

 あら。

 彼女が続ける。「んで──フラれた、らしい」

 あら。イースト・キャッスル高校の文化祭に行った時は、かなり楽しかったと、笑顔で報告してきたのに。

 私は訊き返した。「──で?」

 「なんか、他に好きな人がいるとか言われたんだって」ニコラが説明する。「電話切って、ひとりで一時間くらい泣いてたらしくて、さっきやっと電話してきた。行こうかっつったんだけど、来るなって言われて。しょうがないから放置するけど、一応報告しとく」

 恋がすべて、実るとは限らない。「そっか。わかった」ただこれを聞いて、私はどうすればいいのかという話なのだが。「ブルたちには?」

 「まだ言ってない。リーズもたぶん言ってないんじゃないかな。ベラは? アゼルに電話してないの?」

 「してない。するタイミングがないんだよね。マスティとブルはメールくれるから、それには返してるけど。なんか電話したら、監視してるみたいでイヤだもん。そんな気ないのに」

 答えながら、アニタもカレシに電話をしていない気がすることに気づいた。

 「確かに」と、彼女が苦笑う。「──言わなかったし、リーズにも言ってないんだけどさ。あたしはね、文化祭に行った時、完全に脈ないなってのが、わかっちゃったんだよね。なんか、やたらと男友達紹介されてさ。紹介って言っても、アドレス交換しろとかはなかったけど──それに深い意味がなくても、たぶんアドニスもルキと一緒で、誰にでもやさしいし、おもしろいんだと思う。実は文化祭のあとから、ひとり諦めモードに入ってて、もうあんまり、メールもしてない。だからたぶん、リーズもそうだけど、もう会うってのはないと思う」

 リーズはもしかしたら、ルキアノスのやさしさを鵜呑みにしてしまったのかもしれない。

 「名前ももう、出さないほうがいいかな。少なくとも、リーズが言ってきた時以外は」

 「うん──たぶん。もしルキとまた話して、その話になっても、ルキからなにか聞いても、言わなくていいと思う」

 「わかった。そうする」

 「うん、ごめんね。明日は? 帰ったらマブに行く?」

 「行かないと思う」

 私はふいに視線をあげた。前方から、なぜかトルベンが歩いてきている。

 しかし気にせず、ニコラとの会話を続けた。「予定では確か、夜の八時頃解散だったと思うし。おばあちゃんが家で待ってるから」

 「ああ、だよね。じゃあ──会うとしたら土曜かな。リーズが行くかはわかんないけど」

 「おみやげ渡すとかの雰囲気じゃないね、なんか」

 私に気づいたらしいトルベンは罰の悪そうな表情をし、でも気にしないことにしたのか、私が出てきたのとは別のドアから、イヴニング・サファイアの前室へと入っていった。

 「ああ──確かに」ニコラが言う。「土曜になってもまだ吹っ切れてなさそうだったら、連れてかないことにする。なんか最初から最後まで気遣わせて、ほんとごめん」

 「や、あやまることじゃないし」どうすればいいのかは、よくわからないけれど。「とりあえず、そっちに戻ったらメール入れる。あと土曜も」

 「うん、こっちもなんかあったらメールする。ブルには連絡入れとく。あと約二十四時間、楽しんで」

 「わかった、ありがと。じゃね」

 電話を切り、立てた両膝に腕を乗せると、顔を伏せてうつむいた。

 なぜフッたりするのだろう。なぜって、好きじゃないから? 試しにつきあうという考えはないのか。それはダメか。アニタはわりと、そんな感じなのだが。私ですら、そんな感じだった。真面目だとこうなるのか。いや、でも好きな女がいると言っていたらしいし、それが本当なら──本当かどうかは、わからないけれど。でもインゴも、リーズにそんなことを言っていた。というか好きな女がいるなら、誘ったりするべきじゃない。だからリーズは期待したのかもしれない。いや、でも、トモダチとしてなら──?

 とにかくこちらがどういう態度をとればいいのかは、次に会った時のリーズしだいでしかないけれど──。

 「ベラ!」

 慌てた様子のアニタの声に、私は顔を上げた。イヴニング・サファイアの前室から出てきた彼女がこちらに駆け寄る。

 「なに」

 「イヴァンとカルロが喧嘩した」アニタは相当焦っている。混乱してるというか、戸惑ってるというか、とにかく焦っている。「あたしらC組のクイズに参加してたんだけど、二人はなんか話してて、気づいたらイヴァンがカルロ殴ってた」今にも泣きそうだ。「カルロも殴り返して、すぐゲルトたちや先生が止めに入ったから、それ以上にはならなかったけど──」

 「へえ」立ち上がり、携帯電話をポケットに戻した。

 「なんで平静!?」

 「慌ててなんの意味があるのか教えてほしい」私はパーティールームへと歩きだした。「喧嘩なんか誰だってするでしょ。あんたと私だってするじゃない」

 わけがわからないといった様子で、彼女もあとに続く。

 「殴り合いだよ!?」

 「だからなに。一発ずつで済んでよかったじゃん」もっと殴るヒトもいるので。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「理由を言いなさい! 理由を!」

 前室からイヴニング・サファイアへと続く観音開きの白い扉を開けてすぐ、部屋の右手前隅から、並んで立つイヴァンとカルロをものすごい剣幕でまくし立てる、学年主任の声がした。

 パーティールーム内は妙に静まり返っている。中央でクイズを出題をしていたらしいC組の連中は固まっていて、室内の奥、A組とB組が多く座っているあたりではほとんどの男子が、様子を伺うようにチェアの上に立ち上がっていた。

 ゲルトたちが立ったり座ったりしているテーブルの脇に、こちらに背を向けたイヴァンとカルロが主任たちのほうを向いて並んでいて、奥に立つ学年主任の後方には、冷静な表情で腕を組む生徒指導主事、向かってその左に、眉を寄せて口をはさみたそうにしているA組の担任、右に戸惑いを隠すよう険しい表情をした、我らがスーパー役立たずのD組担任がいる。

 「どうして喧嘩になるの!?」二人を見やりながら、主任は責めるように続けた。「理由はなに!?」

 室内に彼女の声だけが響く。

 うるさいよ。「理由なんか訊いてもしかたないですよ、先生」近づきながら彼女に言い、カルロと一緒にこちらを振り返ったイヴァンの右腕をとると、当惑した様子の主任に向かって微笑んだ。「喧嘩にこれといった理由がない時もあります。ただイライラしただけの八つ当たりからはじまったとか。もちろん彼らには理由があるでしょうけど、言いたくないですよ。誰にも」主事へと視線をうつす。「ちょっとこの二人、追い出しますね」

 彼は肩をすくませた。

 「そうしろ」

 主任が振り返って主事に言う。「でもですね──」

 「こいつらのことは、僕らよりもグラールのほうがわかってますよ。どうするべきかもわかってるはずです」

 最初のほうはわかりませんごめんなさい。

 「そういうことです」そう言い添え、無表情のカルロへと視線をうつす。「行くよ。あんたは前室で待ってて」

 少しだけ後悔の色を浮かべるイヴァンを連れて向きなおり、不安げな表情のアニタのほうへと歩いた。

 「できるなら、やってこい」アニタに言う。「エルミでも連れて、二人で仕切りなおせ」

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