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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 11 * TRIP DAYS
64/119

* Choose Between The Two

 修学旅行二日目。

 平日だろうと、かまわずヒトで溢れるテーマパーク──ここはセンター街のように、名前のついたいくつかのエリアに分かれている。どこを見まわしても大勢のヒトがいた。土日はこの倍異常混むらしいので、かなりマシだと思われるのだが。

 学校規定の冬のセーラー服姿で、さっそくアトラクションに入ったあと、東にあるブルーエリアでランチを食べ、デザートにソフトクリームを買った。私はジョンアとエルミに、ダヴィデはナンネに、イヴァンはアニタに、カルロはゲルトとセテに奢って。

 それは、いいのだけれど。

 白とブルーで統一された建物の外階段をおりると、前方から三人の男子と一緒に歩いてきたA組の色白男子が声をかけてきた。

 「あ、ベラ。向こうのフードコートでトルベンたち、見つけた。ボダルト主事と教頭と保健の先生が一緒。かなり悲惨」

 またこの話だ。「だからなんですか?」

 「なんでもない。じゃーな」

 笑ってそう言うと、奴らは立ち去った。

 「やばい」チョコレートとバニラのソフトクリーム片手に私はつぶやいた。「そろそろ爆発しそうです」

 バニラソフトクリーム片手にゲルトが笑う。「何回目だっけ、これ」セテに訊いた。「五回目?」

 「だな」彼が口元をゆるめて答え、こちらに言う。「そのイライラをどこにぶつけるかが問題なわけだけど」

 アニタが提案する。「ジェットコースターでも行けばいいんじゃない? 叫べるし」

 「ジェットコースターで怒りの叫び!?」

 「そうそう、“お前ら全員うっせえよボケ!”、みたいな」

 彼らは笑ったものの、私は愛想笑いしかできなかった。

 テーマパークに入ってから約二時間、なぜかずっとこんな調子だ。最初は女子数人が、エデとカーリナがそこに捕まっていると言ってきた。あんなでも一応、友達はいるから。あとは男子だったり女子だったりが、誰がどこで捕まっているとか、空気がかなり重いとか可哀想だとか、いちいち報告してくる。

 カルロは苦笑った。「けどちょっと、罪悪感はある。オレもそうなってた可能性はあるわけで」

 「女子のチェックが甘いってのが気に入らないけどな」セテが再びこちらに言う。「ほんと、どこに隠してたわけ?」

 私の代わりにアニタが答えた。「それは言わない。見つからなかったんだからいいじゃん」

 隠した場所を言わないことに、特に意味はない。昨夜検査をパスしたと報告した際にどこに隠したのかと訊かれ、私が秘密と答えたから単に、そのままそれを言っているだけだ。

 前方から、今度はチャーミアンとアウニが歩いてきた。私たちに気づいたチャーミアンがこちらに声をかける。

 「あ、ベラ。みんなも」

 「二人でまわってんの?」アニタが訊いた。彼女のことなど、もうどうでもいいらしい。

 チャーミアンが答える。「うん。っていうか」セテの傍らで立ち止まり、あからさまに落ち込んだ様子のアウニへと視線をうつす。「ランチは食べたけど、なんにも乗ってない。ヤーゴとトルベンと四人で一緒にまわる約束してたんだけど」またこちらを見て苦笑う。「ヤーゴ、捕まっちゃったし」

 どいつもこいつも。もういいよ、お前ら。

 ゲルトが私の腕を肘でつついた。声を潜めて言う。「わかってんだろ。ふたつにひとつ」

 わかっている。アニタやセテが彼女と話すのを無視し、小声で応じる。

 「これ食ったら、またデザートショップ探す。食ってやる」

 「食いすぎ。甘いもん食ったあとでアトラクション乗ったら、ヘタしたら気分悪くなるぞ」

 「吐いたらすっきりするかな」

 「さすがにそれはやめてくれ」

 「けど食わなきゃ──」制服のスカートのポケットの中で携帯電話が震えた。「電話っぽい」取り出して画面を見る。ペトラだ。通話ボタンを押して応じた。「なに」

 「今どこ?」

 「ブルーエリアの二番館前」

 「ああ、そっち行っていい? サビナも一緒だけど」

 イヤな予感。「なにしに」

 電話越しに彼女が苦笑う。「サビナが、エデとカーリナ、助けられないかって」

 またこれかよ。「今どこ」

 「近くだよ。三番館にいるあいつら、見てきたとこだから」

 私は深すぎる溜め息をついた。

 「今からそっち行く。見つからなくてわかりやすいとこで待ってて」

 電話を切ると、ゲルトは苦笑った。

 「けっきょくやんのか」会話を聞いていなくても、私の表情を見ただけでなんとなくがわかるのだ。

 「え、マジで?」と、アニタ。

 ソフトクリームを一口食べた私は、苛立ち混じりに低い声でつぶやいた。

 「やってやる。なにがなんでも、全員解放してやる」

 チャーミアンとアウニもついてきた。ペトラと合流すると、サビナだけを連れ、彼らが捕まっている場所へと向かった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「どうすんの?」

 三番館へと向かいながら、右隣を歩くサビナが私に訊いた。まず、それを聞いてどうするのかを教えてほしいのだが。

 「私は事実をひとつ伝えるだけ。あんたや、連中の居場所をいちいち報告してきた奴らの言うことを聞くわけでも、連中を助けるわけでもない。っていうか、解放されるとは限らないし。とりあえず解放されたら、あんたの仕事はみっつ。エデとカーリナに、抜き打ち検査のことを言い忘れてたリーズが私を説得してくれたって言うこと。解放したがったのは私じゃなくて他の奴らだし、私は教諭たちを説得するわけじゃないから、礼なんかいらないってあいつらに言うこと。アウニに電話するよう、ヤーゴに言うこと。教諭たちと話すのは私ひとり。あんたは邪魔」

 視線を合わせようとしない私に彼女は眉を寄せ、また前方の三番館へと視線をうつした。

 「わかった」

 三番館は、白とブルーの大きな建物だ。正面入り口の左右にあるそのテラス部分には、アイボリーカラーのテーブルと赤い座面のチェアが無数に置かれていて、たくさんの家族連れやカップルがいる。さすがにか、テラスにうちの学校の生徒は見当たらないようだけれど。

 入り口左、建物の外壁際席に生徒指導主事とB組男子──ヤーゴとアウニがつきあいはじめたあと、サビナたちとよくつるむようになったグループのうちの二人と、C組男子がひとり。その左隣の席にトルベンとヤーゴ、C組男子ひとりと教頭先生。さらにその左隣の席にエデとカーリナ、保健の先生が座っていた。捕まった連中はそれぞれが無愛想に沈黙し、なにかを書いている。

 いちばん最初に私に気づいたのは教頭だった。

 「おや、ミズ・グラール」

 校長先生に継いでヒトのよさそうな顔。暗めのマットブラウンの髪で、校長よりも髪の量は多いものの、前はわりと危ない。そして黒縁の四角い眼鏡をかけている。そして去年、私が祖母と一緒に“保護者名”を書き換えたいと申し出た時、対応してくれたヒトだ。主事やA組の担任ならともかく、こんなヒトが抜き打ちの持ち物検査をしたとは思えないのだが。

 教頭の声で全員が一斉にこちらを向いた。

 片眉をあげて私を見たボダルト生徒指導主事がチェアに背をあずけ、腕を組む。

 「なんだ」サビナへと視線をうつした。「お前は確か、ランズマンの──」

 「彼女のイトコ、B組のモラッティですよ」

 主事がいるテーブルの脇にサビナと並んで立ち、私は彼に答えた。ランズマンはリーズのことだ。捕まった連中が書かされているのは反省文らしい。

 席を立った教頭はこちらに来ている。

 「ミズ・グラール、ミズ・モラッティ。このテーマーパークは楽しいですか?」

 「ええ、とっても」私は微笑んで応じた。少なくとも今は、そんな状態でもないのに。「ただちょっと、困った話を聞きまして」

 「困った話?」彼は主事と顔を見合わせ、またこちらに視線を戻した。「どんな?」

 「ここではちょっと、なので」主事に言う。「ちょっといいですか? 三人で」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 サビナを連中のところに残し、主事と教頭、三人でテラスの柱の前に立った。二人は彼らが捕まった連中に背を向け、私は拘束された連中のほうを向いているが、私から連中の姿は見えない。

 主事が促す。「で?」

 「あの中に冤罪が紛れ込んでるらしいです、少なくともひとりは確実に」私は二人に言った。「誰とは言いませんけど」

 「冤罪?」

 声を揃えた彼らは再び顔を見合わせ、またこちらに視線を戻した。

 「全員認めたぞ」と、主事。

 「らしいですね。だからそこにいるんだし」

 トルベンははしゃぐ気にならないとかで、やってもいない罪を認めた。情報によると、捕まったC組の二人と同室だった奴は、昨夜呼び出された時にやってないと言い張り、他の二人もそれを認めたので、冤罪は免れたらしい。ということはトルベンも、言えば捕まらずに済んだのだ。

 私は続けた。「友達のことを考えて、一緒に罪をかぶる奴もいるってことです。誰なのかを言っちゃえば、他の奴らが友達を大事にしないみたいでイヤだから、言いませんけど。しかも私は彼らとも彼女たちとも仲良くないし、正直どうでもいいですけど、一応報告までに」教頭に訊く。「あと、興味本位で気になったので教えてください。彼らの親がここのテーマパーク──少なくともフリーパスぶんの代金を返還しろって言ってきた場合、学校は応じるんですか?」

 教頭ぽかんとした。「いやいや。まさか」

 「ああ、そうですか」このヒトを脅すなどということは、したくない。私は苦笑った。「それもそうですよね。わざわざ時間を換算して細かい金額を出すなんて無理ですし。いきがって、修学旅行に煙草なんて持ってきた彼らが悪いんですし」

 主事は呆れた顔で私を見ている。「お前な──」

 苦笑った教頭が主事に言う。「もう解放しましょうか。毎年のことですが、周りが気になるのか、反省文は全員、あまりすすまないようですし」

 あともう一押し。「書き終わったら解放の予定だったんですか?」

 「いいえ」教頭が答える。「というか、態度しだいです。最初から慌てたりせず、いさぎよかった生徒は、あの中で一人だけ。他はみんな、煙草が見つかったことよりも、抜き打ち検査に腹を立ててる感じです。もちろん拘束されることにも。反省と更生への姿勢というのが感じられたら解放するつもりですが、全員が揃ってそれを見せてくれないといけない。結果、ほとんど遊べずに終わります。解放しても十六時頃。代金を返還しろなんて親は今までひとりもいませんでしたよ、僕の記憶では」

 「ああ、そうなんですか」いないのか。つまらない。「まあ、自業自得だと思えばそれに頷けますけど。でもあの中にひとり、冤罪が紛れてるわけですから。そこは自業自得にならないわけで」

 主事は溜め息をついた。

 「けど罰はどうするんだ。代わりの」

 私は口元をゆるめて彼の視線を受け止めた。

 「反省文は書かせましょう。でも今じゃなくてホテルに戻ってから、夕食後のレクリエーションまでに提出。レクリエーションの時に生徒たちの前に立たせて、ひとりずつ反省文を読みあげる。“抑圧”の罰はこれで終わり。次は“恥”の罰」教頭へと視線をうつす。「なんならホテルに戻ってすぐ書かせて、夕食までに提出させて、夕食の時にそれを読ませるのでもいいですよね。みんな食べてるのに、本人たちも食べてたのに、夕食の途中で突然ひとりずつ中央に呼ばれて、提出したはずの反省文を読まされる。イヤなドッキリ企画。すごい屈辱ですよ」

 彼らは小さくふきだし、その笑いをこらえた。教頭が口元をゆるめて主事に言う。

 「そうしましょうか」

 同じく口元をゆるめる主事も頷いた。

 「それでいきましょう」いつもの偉そうな表情で私に言う。「解放してやる。だが他言するな。誰が冤罪なのかは知らんし訊かんが、そいつに訊け。やってもない罪をかぶって一緒に犠牲になるのが、本当に正しいと思うかどうか」

 どちらなのだろう。「はい」

 「あと」教頭が補足する。「その生徒だけに伝えてください。反省文は提出しなくてもかまわないと。それでこちらは誰なのかがわかりますが、それ以上はこちらも、もうなにも言いません。ボダルト教諭の問いの答えをよく考えたうえで、反省文を提出するかどうか決めてくださいと」

 これは、難しい問題だ。「はい、わかりました」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「あーあ。見てらんねえよ、あのバカっぷり」

 右隣でカルロがつぶやいた。私が教頭たちと話すのを、彼らはサーキット・アトラクションの前にある、植え込みを囲んだ水色のコンクリートに座って待っていた。アウニはヤーゴとトルベンが来るとすぐさま立ち上がり、ヤーゴのもとに駆け寄った。ヤーゴは笑いながら半泣きの彼女の手をとって頭を撫でている。その隣では、アウニを追いかけたチャーミアンがトルベンに声をかけた。彼女たちには、奴らに礼なんか言わせるなと言ってある。誰にも、なにを言ったかは教えていない。

 「あんたもカーリナとヨリ戻せば? そしたらバカできるよ」

 イヴァンにもらった謎の細長いスナック菓子を食べながら、私はカルロに言った。ペーパーカップにチョコレートソースが入っていて、それをつけて食べる。なんとも言えない、未知の感覚だ。ただでさえ変わった形の、細長いスナック菓子なのに、そのスナック菓子にチョコレートソースをつけるなんて、ものすごく違和感がある。なのに、なぜか食べてしまう。おいしい。

 彼が言葉を返す。「いやいや。オレ、そんなイチャつくタイプじゃねえし。見てらんねえっつってんの」

 「そもそもどこまでをイチャつくって言うのか、さっぱりなんだけど」半分以下になったスナック菓子にペーパーカップの中のチョコレートソースをつけ、左隣に座るイヴァンに差し出した。「よくわかんないけど、うまい」

 彼は躊躇なくかぶりつく。「うまい」

 「これもイチャついてるって言う?」私は再びカルロに訊いた。「なんか覚えのある光景なんだけど」

 「去年の打ち上げだろ」彼が無愛想に答える。「お前の場合、誰となにやっても、特にイチャついてる感じがしねえ」

 「だよね」最後の一口になったスナックにチョコソースをたっぷりつけると、口に放り込んで立ち上がり、並んで座る彼らを見やった。「さて、遊ぼーか」

 そう言うと即、ペトラと並んで座っていたアニタは笑顔で立ち上がった。

 「カーレースで勝負!」

 「マジで」

 アニタの逆隣には、ナンネとジョンア、エルミがいる。アニタに続き、みんな続々と立ち上がりはじめた。

 「ベラはカーレース、本気でヘボいって話だぞ」ゲルトが言った。

 「実物はどうか知らねえけどな」と、セテ。

 ペトラが彼に訊く。「勝てる!?」

 「可能性はある」彼はにやついて答えた。「ボッコボコにできるかも」

 お前はマスティか。ブルか。「棄権します」実物は知らないが。

 「そりゃないだろ」ダヴィデが言う。「お前の弱点の可能性見つけて、俺らが遠慮すると思ってんの?」

 私はイヴァンに助けを求めた。「助けて」

 彼は笑った。「無理だろ。何人だ、今。こんだけいたら逃げられねえよ」

 笑顔でこちらに来ると、アニタが私の左腕を、ペトラが右腕をしっかりとつかんだ。

 強気に微笑んだペトラが言う。「逃がさないよ」

 「ボッコボコにしてやんよ」と、アニタ。

 ええー。ちょっと待て。落ち着け。私が苦手なのは、テレビゲームのカーレース。私は運動神経がいい。頭は悪いけど。私はドッジボールが強い。頭は悪いけど。うん。

 「あ、なんかできる気がしてきた」

 「立ち直り早!」カルロが言う。「とりあえずオレはお前に勝たねえと、なんにも勝てないことになる。本気でやる」

 頭の悪さは同レベル。運動神経もほぼ同じ。でもドッジは私のほうが強い。

 「ナメんな」

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