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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 01 * NEW DAYS
6/119

* Interchange

 ひとり祖母の家へと帰宅している途中、三年生のリーズから、気になる話を聞いたと電話がかかってきた。ケイにキスされたことだとすぐにわかった。暇なら家に来ればと言い、約二十分後、玄関で彼女とニコラを迎えた。

 彼女たちも私と同じオリジナル制服を着ている。去年の文化祭のあと、私がオリジナル制服をやめる気がないことに気づいて便乗、真っ先に同じ格好をした。リボンも私と同じで、私の祖母に作ってもらった。

 身長が低く華奢なリーズ・ランズマンは栗色の細い髪を肩下まで伸ばしていて、ブルーの瞳を持っている。性格は少々短気で好奇心旺盛。不良なのに天然なのか、たまによくわからないことを言う。酒はチューハイを飲むものの、酔うと記憶がなくなるらしく、マブの男三人ほどは飲まない。しかし間食による体重増加を防ぐ目的で煙草は吸う。といってもこれ、間食を防いだりはまったくといっていいほどできていない。私が住んでいる祖母の家と同じ通りにある向かいみっつめの、角に建つ家に住んでいる。

 そしてグリーンの瞳を持つニコラ・モナハンは、ライトブロンドの髪をやはり肩下まで伸ばしている。昔からつきあいのあるらしいリーズといつも一緒につるんでいて、リーズよりはしっかりしているものの、やはり酒も煙草も嗜むし、なぜか私の強さが羨ましいと言う。

 祖母が用意してくれていたお菓子とジュースを持ち、彼女たちを連れて自室である三階の屋根裏部屋へとあがった。ラグの中心にそれらを広げ、囲むようにして三人で座ると、私はケイのことを少し話した。

 「んじゃ、ケイはベラのことが好きとかじゃないの?」ニコラが訊いた。

 「だから、確かにキスはしたけど、あれはただの間違った挨拶なのよ」私は答えた。「ハグの仕方も間違ってるし、本来なら頬にするはずのキスを口にしたってだけ。入学祝いとかふざけたこと言って」おそらく昔のリベンジもあるのだろう。「私の隙をついたのもあるけど、私が本気で怒らないってのがわかってたのかも。よくわかんないけど、口説かれてるわけじゃないことは確か」

 遠い目をしてリーズがつぶやく。「ベラはモテモテだなー。羨ましい」

 なにを言っているのだろう。「っていうか、二人はあれでしょ。私がアゼルにそのことを話すのかどうかが気になってるだけでしょ? 二人がケイに会ったとして、奴らにケイの話をしていいのかどうかってのが」

 ニコラは悩ましげな表情になった。「話すの?」

 私は肩をすくませた。

 「どっちでも。言うのは変な気もするけど、べつに言ってもかまわない。今言ったとおり、間違った挨拶だから。ただあいつらがもしケイに会ったとして、ケイの口の悪さにあいつらが耐えられるかって言われたら、それはよくわかんない。っていうかできれば、二人にも会ってほしくはない。なに言いだすかわかんないから」

 「興味あんだけどな」と二コラ。「けどアニタが太刀打ちできないって、相当だよね。ベラに懐いてるのにアニタに懐かないって、小さいアゼルみたい」

 すかさずリーズが反応する。「ミニアゼル!?」

 私たちは笑った。

 「まあ、さらにガキっぽくした感じなわけだけど。確かに性格も口も悪いけど、アゼルみたいにスレてはないのよ。よく喋るし笑うし、無邪気で生意気でマセガキ。アゼルとマスティとブルを足して小さくした感じかも」

 私がそう言うと、彼女たちはさらに笑った。

 「あー、やっぱ興味ある」リーズが言う。「けどなに言われるかわかんねーってのはちょっと怖い。ブスとかならべつにいーんだけどさ。他になんか言われたとして、一年相手にキレるってのもなんかね、おとなげねーし。反応の仕方がわかんなくなったら、別の意味でヘコまされそ」

 ニコラも同意した。「だよね。とりあえず学校でベラとケイが話してるとこ見かけたら、観察するか、かまわずぶっこんで行っていい?」

 「いいけど、なに言われても知らないよ」

 「覚悟しとく」と、リーズ。「で、アゼルたちに話してもいいんだっけ。キスのことはうちらが言うのは変だし、知らない状態でそういうのがいるってのを話すのも変だから、会ってみるまでは話さないほうが無難なわけだけど」

 ニコラがあとを引きとる。「この一年でかなり丸くなったとはいえ、どいつもこいつも短気だからな。話だけならおもしろがる気はするけど、見てみたいとか言ったらね。どーなることやら」

 リーズははっとした。「そーいやブルたち、そのうち中学に乗り込むとか言ってなかったっけ。いつかは知らないけど。そん時に会ったら、しかもまたキスしたり、ケイの態度にあいつらがキレたりしたらマズい気がする。中学だし」

 「あいつらはともかく、ケイの中学生活が危ない気がする」

 「心配しすぎだって」私は言った。「一年は校舎違うし、あいつらが第一校舎に行ったとしても、私が一緒にいなきゃケイには見つからないわけだから。たぶん平気」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 夜。

 祖母と二人で夕食を食べたあと、キッチンカウンターにななめに向かい合って座り、いつものようにミルクティーを飲んでいた。

 彼女は昔、綺麗なベビーブロンドの髪を持っていたはずなのだが、今ではほとんど白くなっている。それでも瞳は相変わらず透き通るようなブルーで、アニタいわく若く、美人だ。洋裁の仕事をしていて、時々、私の欲しい服を作ってくれる。

 夕食を食べている時から、私はオリジナル制服を着る生徒がまた増えていたことや、マルユトとサイニのような、年相応の後輩がいることを話した。制服の一件では、一年が少々混乱しているらしいことも。

 「中学って不思議」半分以下まで減ったミルクティー入りのカップを両手でソーサーに置きながら、私は切りだした。「小学校の時、確かにクラブで先輩後輩はあったけど、それほどつきあいはなかった。マルユトもサイニも、会ったら挨拶して、ちょっと話す程度で──私は、リーズたちのことも知らなかった。でも中学に入ってから、部活繋がりでもないのに、やっぱ上下関係があからさまになるからか、三学年しかないからか──先輩後輩のつきあいが、あからさまになってる気がする」

 祖母は微笑んだ。

 「あなたがより“先輩らしく”なったってことじゃない? それにやっぱり、中学は特別なのよ。これから社会に出るうえで、上下関係はもっと明白になる。中学は先輩後輩っていうのを学ぶ、いちばんの場所なのかもしれない。あなたが実感してるように、その先輩後輩っていうのに不安を感じてる新入生だっていると思うわ。ウェスト・キャッスルのように、過去に東のオールド・キャッスル地区と西のニュー・キャッスル地区に別れて対立していたような小さな町では、特にね。あなたは先輩風を吹かせたりしないんでしょうけど、彼女たちからすれば、あなたは中学に何人かしかいない、貴重な先輩なのよ」

 貴重な、先輩。

 思わず苦笑った。「私はそういうの、苦手。盾みたいに扱われるのが苦手。同級生にも何人かいるけど、先輩がどうとか同期がどうとか、モメ事の仲裁だとか──頼られるのは、苦手」だって私は、常に正しくはいられない。

 彼女も苦笑う。

 「確かに受ける側からすれば、心境は様々でしょうね。だけど、そう難しく考えることはないのよ」身を乗り出し、再び微笑んだ。「たとえ仲裁のために相談されたとしても、あなたは思うように行動すればいいわ。味方になってほしくて相談する子も、もちろんいるでしょうけど。もしかしたらあなたは味方にならなくて、その子は不満に思うかもしれないけど。でも、すぐじゃなくても──いつかは、わかるのよ。その時なにが正しかったのか、誰が正しかったのか。あなたはそれを、瞬時に見抜く力を持ってる。あとから考えれば、正解はひとつじゃなかったかもしれないし、もっといい答えがあったかもしれない。だけど後悔っていうのは、始めたらキリがないでしょう? あなたはそれもわかったうえで、その時正しいと思った判断を瞬時に下せる。そういう部分が、わかる人にはわかるのよ。だから頼りにするんだわ」

 おそらく祖母は、私を買いかぶりすぎている。だけどアニタは、そんな祖母を信じろと言う。

 私は視線を落とした。

 「味方になってほしくて相談してくるってのはわかってたけど、自分がそうなれないからそういうの、苦手だって思ってたけど──そうでもないのかな」再び祖母の視線を、まっすぐに受け止める。「無理して味方になろうとしなくてもいい?」

 「もちろん」と、彼女は笑顔で答えた。「他人に合わせるようなことはしなくていいの。そうしようとしないところが、あなたのいいところ。確かに時々──制服のことなんかは突拍子もないことだから、驚いてしまうけどね。

 だけど、あなたはあなたの中にある揺るがないものを、ちゃんと守ってればいいわ。そのうえで行動すればいい。その時その瞬間に、なにがいちばん正解に近いかっていうのをすぐに判断できる人間なんて、そういないから。頼りにされてるって意識しなくてもいいの──思ったことを伝えればいい。あなたは強制もしないんだから、そのあとどうするかっていうのは、相手が自分で考えるわよ。そのせいでこんな結果になったってあなたが責められたとしても、それは相手が間違ってる。あなたが気にすることじゃないわ」

 思わず笑った。素直に嬉しい。

 「そうね、気にしない。でも考えたら、何度かは強制したこと、あるの。春休みの花見に同級生が来たいって言いだして、だけどその子の元カレも来るかもって、私は言った。そしたら微妙そうな顔するから、みんなの前で泣いて雰囲気ぶち壊しにするようなことしたら怒るよって、完璧に出来るとは思ってないけど、来るならそのくらいの覚悟で来てって言った。そこは強制した。私は間違ってないって確信があったからかも」

 「あらあら」祖母も笑う。「訊いてもいいかしら? その結果がどうなったか」

 「それがね、どっちも花見に来たんだけど、同級生の女のほうは、元カレの姿を遠目で確認してすぐ、泣きそうになったらしくて。慌てて鳴ってもない携帯電話を出して、電話かかってきたフリして、親に呼び戻されてるから帰る! とか言って、帰っちゃった」

 同級生と女というのはエルミで、元カレというのはブルだ。エルミの反応を見るために花見に来たブルとマスティ、アゼル、リーズと二コラは舌打ちした。だがこれで終わりというわけではなかった。

 私は説明を続けた。「でもそのあと、私はその同級生に電話して、元カレの男が友達に戻れないかって言ってるって伝えたの」ブルたちに強制されたので。「その子はしばらくして戻ってきた。泣いたみたいだった。男リードのまま、何人かと一緒に気まずそうに話しながらランチを食べたあと、私は他のみんなとバドミントンをはじめた。そのあいだに男のほうが、頼むから普通にトモダチしてくれって、説得めいたことしたらしくて。けっきょく花見が終わる頃には、なんとかつきあう前の友達状態に戻ってた」ようするに特に話さない顔見知り程度。「会ったらまた好きな気持ちが戻ってくるかも、とは言ってるけど、わりとふっきれて平気になったみたい」

 祖母は苦笑った。

 「まあ。でもちゃんと、その子もわかってくれたでしょうね。雰囲気を台無しにしなくてよかったとも、戻ってきてよかったとも思ってるわよ、きっと」

 だといいのだけれど、なんたってバカだから。

 「うん。ありがとう、おばあちゃん」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 シャワーを浴びて屋根裏部屋に戻ると、ラグの上に放置していた携帯電話の着信ランプが光っていることに気づいた。アニタからの不在着信だ。木製のダブルベッドに仰向けに寝転び、電話をかけなおす。

 電話に出た彼女の第一声は、咎めるような声だった。「あんた、ケイとキスしたって!?」

 思わず耳から少し、携帯電話を離した。うるさい。

 携帯電話を耳元に戻し、質問を返した。「マーニに訊いたの?」

 「は? マーニ?」彼女はなぜか不機嫌そうだ。「違う、ペトラに聞いた。A組の子が見たってのを聞いたらしくて、言いふらしてはないけど、あたしならなんか知ってるんじゃないかって」

 やはり知られないようにというのは無理があったらしい。「確かに抱きつかれてキスもされたけど、あれは間違った挨拶なのよ。変な意味はない」

 納得したのか、彼女の声の勢いは落ちた。「──ああ。なんなの? あいつ、なんであんななの? 昔から生意気だったけど、なんでそれほどあんたに懐いて、他にはあんな態度なわけ? 意味わかんない」

 私が知るはずない。「年の離れた兄貴の影響が大きいのかも。ブラコンなのよ」

 ケイの兄、マルコは確か、今年十九歳になるはずだ。アゼルたち以上の不良で、昔から酒や煙草はもちろん、喧嘩や恐喝、無免許運転に暴走族入団といったことをあたりまえのように繰り返していた。暴走族は他の町を根城にしていたから、ここでは目立っていなかったけれど。今現在どうしているかまでは知らないものの、昔何度か会って少し、彼と話したことがある。私が知っているマルコは、不良ながらもケイを大事にしている、弟想いの兄貴だった。

 私は続けた。「懐いてるのは、その兄貴が私を可愛がって? くれてたからかも。や、変な意味じゃなくて、それほど話したことはないんだけど、会えばやさしかった。アイス奢ってくれたり」

 ちなみにそのアイス代やジュース代というのも、どこかのバカから巻き上げた金だけどなと、マルコはさらりと言っていた。

 「ふーん? まあ、そんなならいいけどさ──気をつけなよ。そんな堂々とされたら、またなにするかわかんない。ペトラたちには、ただのマセガキの間違った挨拶だって言っとくけど、言いふらさないようにも言っとくけど、噂なんてあっという間なんだから」

 それなら毎回毎回、イヤというほど実感している。「どうでもいい。私が気にしてないし、むこうも軽い気持ちなんだから。言いたい奴には言わせておけばいいのよ。それにそのキスは油断してたけど、アレがどんなかってのはちゃんと思い出したから、だいじょうぶ。次やったら蹴飛ばしてやる」そしてまた泣かせてやる。

 電話越しにアニタが笑う。

 「そうして。んじゃ、シャワー浴びてくる。また明日ね」

 「はいはい。じゃあね」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 アニタとの電話を切るとすぐ、メールが届いた。噂をすればケイからだ。

  《なにしてんの?》

 私は返事を送った。

 《今友達と電話してたとこ。そっちは?》

 またメールがきた。

  《テレビがつまんねえ。ゲームしてると怒られる。しょうがないからお前にメールした》

 選択を間違っていることに、彼は気づいているのかいないのか。などと思いながらもまた返信した。

 《それはありがとう。しょうがないってなに? 暇なら勉強でもしてろ》

  《お前は勉強してんの?》

 《私が勉強なんてすると思ってんの? するわけないじゃない。今もヘッドフォンで歌聴きながらベッドでゴロゴロ、あんたにメールしてる》

  《オレも似たようなもん。中学、楽しい?》

 《楽しいよ。いろいろ面倒事があるけど、でも小学校より楽しいかも。今年は特に、仲のいい友達がまとまって同じクラスになったから。毎日お祭り騒ぎ》

  《お前、アニタはともかく、いつも男といるよな。どんだけの男たぶらかしてんの?》

 《たぶらかしてないし。あんたと同じで、男友達は気を遣ってこない。だからそっちのほうがラク》

  《なるほど。オレ、同級生の女から白い目で見られてる。顔はいいからモテはするんだけど、真面目なのばっかだから、陰で怖いとか言われてるらしい》

 《私と同じだね。白い目ってわけじゃないけど、異端児扱い。あ、私はモテないけどね》

  《お前がモテないわけないじゃん。オレが知ってる中でいちばん顔いいぞ、お前。オレの好みじゃないけど》

 《好みってなに? 好きな子いるの?》

  《いねえよアホ。同級生になんか興味ない。みんなガキだもん》

 《あんたがいちばんガキでしょ》

  《は? 違うし。だって同級生の女とか、テレビの中のアイドルがかっこいいとか言ってるんだぞ。マジありえねえ》

 《あ、それはわかる。でもあんたたちは、雑誌の中の女見て可愛いとか言ってるんだよね。あんま変わらないよね》

  《うるせえ! でも確かに言ってる。今日お前に抱きついたけど、ムラムラしなかった。なんでだろ》

 《私が怖いから》

  《お前なんか怖くねえ。でも胸はデカくなったよな。背もデカくなってたけど》

 《本気で殺されたいの? 今度やったらまた泣かせるわよ》

  《絶対泣かねえし、やられたら犯してやる》

 《あんたじゃ無理。指一本とは言わないけど、私はあんたを片手でひねり潰せるわよ》

  《そういやお前、オトコいるって言ってたっけ。キスしたのまずかった?》

 《どうかな。話すつもりはないけど、話しても大丈夫だと思う。でも次やったら本気で──》

  《わかった、悪かったって。リベンジなの。はじめてヤるのがお前だとは思ってないけど、最初のキスは絶対お前にしてやるって思ってた。これは四年の頃からのこだわり》

 《なんでそんなこだわりを持つのかがよくわからないけど、好きな子にしなさいよ。女はそういうの、喜ぶよ》

  《お前のはじめてのキスは今のオトコ? で、よかったと思う?》

 《うん。難しい質問だな。最初はよくわかんなかった。興味本位でされただけだから。けっきょくそれがつきあうきっかけになったから、よかったんだろうけど》

  《ふーん。好きってのがよくわかんねえ。同級生に対するのとは違う意味で、お前のことは好き。でも恋愛感情だとは思ってない。お前も昔、好きな奴いなかっただろ。今はそのオトコのこと、好きなの?》

 《すごく好き。あんた以上に性格悪いけどね。私もあんたのことは好きよ。生意気だけど。でも友達っていうより、弟みたいに思ってる》

  《あ、それだ。オレも兄弟みたいに思ってる。姉貴じゃねえよ、男のな。女で好きな奴って言われたら、真っ先に浮かぶのはお前。でもそんなだから、恋愛感情ってのがわかんねえ》

 《姉貴じゃないのかよ。べつにいいけど。恋愛感情はね、私もよくわからない。他の子と違って、嫉妬とかしないもん。たとえば同級生の女の子見てて、その子が他の男の子と話してるのを見た時、イライラしたりモヤモヤしたりしたら、好きってことになるみたい》

  《ああ、んじゃまだないか。でもお前が嫉妬しないんなら、それがすべてってわけでもないよな。他にないの?》

 《そうだな、一般論でいう片想いだけど──見かけたら近づきたくなる。声が聞きたくなる。一緒にいるとドキドキする。男はどうか知らないけど、女子はそう言う。いろいろ知りたくなるんだって。誕生日とかアドレス、好きな女のタイプ。休みの日とか、特になにも用はないけどメールしたくて、でも気まずいしどうしよう、みたいな》

  《ちょっと待て、お前はそんなんじゃないよな?》

 《ないない。そんな乙女じゃないし。つきあってても、みんなの前でイチャつくってのもほとんどしない。好きだけど、みんなとはちょっと違うみたいね。友達は友達、オトコはオトコ。みんなでいる時は、オトコも友達みたいになる》

  《へえ。でもそれがいちばんいい気がする。女に夢中になってダチ捨てるとかイヤだし》

 《うん、イヤ。あ、でも、だからってもし誰かとつきあったとして、なのに別の女にキスするとかはダメよ。気にしない人間なんてたぶんめったにいないし、つきあってもないオトコとキスして平気なのなんて、私くらいなんだから》

  《そりゃしねえよ。だからあれはリベンジでこだわりで挨拶代わりなの。今日は久々すぎて浮かれてたのかも。あとから気づいたんだけど、思いっきり胸にさわってたし。次抱きついたりキスしたりしたら、女として好きじゃなくてもムラムラするかもしんねえ。それはイヤだし、お前もイヤだろうから、もうしない》

 《それでいい。っていうか、もっとちゃんとしたハグを覚えなさいよ。コイビトじゃない男女のハグの場合は、胸に触れないようにするのがマナー。この国では頬にキスはしても唇にはしない。他の女なら、ぶっ飛ばされてもおかしくないんだから》

  《ゴメンナサイ。んじゃ、今度ハグしようと思った時はそうする。身内除けば、ハグする女なんて他にいないけど。ダチが、よく殴られなかったなって笑ってた。お前美人だけど怖そうなのにって。怒ると怖いけど、あの程度じゃ怒らないって言っといた》 

 《へー。まあ、懐かしいって気持ちはこっちもあったから、とりあえず怒らなかったけど。知らない奴にアレされたら、さすがにキレるわよ》

  《わかってるよ。だからダチにも、するならちょっと話してからにしろよって言っといた。当然あいつらはムラムラ目的でするんだろうけど》

 《ふざけんなアホ!》

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