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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 10 * ASKING DAYS
58/119

○ Late September

 翌週火曜、九月十二日。

 放課後、担任を介して久しぶりに生徒指導室に呼び出され、私はその部屋のドアを開けた。だけどそこにいたのは生徒指導主事ではなく、生徒会長だった。

 私は当然、呆気にとられた。「主事はどこですか」

 向かって右側のソファに座った生徒会長の第一声は、謝罪だった。

 「ごめん。僕が頼んだんだ。相談したいことがあるって」

 今度は唖然とした。あれだけやめろと言ったのに。「なんですか」

 「とりあえず」気まずそうにドアを示す。「閉めてもらえると──」

 舌打ちしたい気分をおさえ、ドアを閉めてそこに背をあずけると、腕を組んで彼の視線を受け止めた。

 「で?」

 「──くだらないってのは、わかってるんだけど」こちらに身体を向けた彼が切りだす。「文化祭の開会式の時、生徒会長の挨拶ってのがあるんだ。文化祭そのもののテーマなんてのはないんだけど、生徒会長はいつも、なにかテーマを決めてスピーチをする。そのほうが話しやすいから。けど情けない話、そのテーマで行き詰まってて──もちろんありきたりなテーマなら浮かぶ。今まで何度も使われてきたような、一致団結とか、絆とか進歩とか──でももうちょっと、なにか欲しいなと」

 「だからなに? 私に関係ないんですけど。生徒会長でしょ? 自分で考えなきゃ意味がないじゃない」

 彼は言い訳をはじめた。「そうするつもりだった。どうせ自分もありきたりなテーマを掲げて話すんだろうなって。でも、今年は球技大会があったし、女子の新しい制服も取り入れられた。もう“普通”を抜けるべきなんじゃないかと思って」

 「思うなら考えればいいでしょ」私は言った。「私が普通じゃないって思うのはかまわないけど、そんなことを言われても困ります」

 一度なにかを言いかけた口を閉じ、視線をそらして小さく深呼吸すると、彼は改めて真剣な表情をこちらに向けた。

 「──君なら、なにをテーマにするかなっていう意見を訊きたくて」

 なにか言うまで話を終わらせないつもりらしい。

 「あなた、どこに住んでるの?」

 生徒会長はきょとんとした。「──ニュー・キャッスル」

 私は鼻で笑った。

 「“ウェスト・キャッスル”でしょ。ニュー・キャッスルだのオールド・キャッスルだのっていうのは、ウェスト・キャッスルの外ではあまり通用しない。そう答えるあたり、あなたもわりとそういうのにこだわるほう? 視野が狭い? 私がいちばんどうにかしてほしいのは、そのどちらかの名前をすぐに出すこと。さすがにキャッスル・ロードを壊せなんてのは言っても無駄なんだろうけど、どこの人間なのかって質問された時、自分がどこにいたって、ニュー・キャッスルだのオールド・キャッスルだのって考えを抜きにして、ウェスト・キャッスルの人間だってすぐに答えてもらいたい。いいかげんうんざりしてるの、あっちだからこう、こっちだからどうっての」

 そこまで言うと、向きなおってドアノブに手をかけ、肩越しに彼へと視線を戻した。

 「私が言えるのはそれくらい。こういうの、本気でやめてください。主事には世話になってるんですよ。次またやったら、キレてなにするかわかりませんよ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 九月は日が経つにつれ、本当に忙しくなっていった。

 あくまでA組の担任がいないところで、ではあるものの、A組の写真撮影の打ち合わせにも少し参加させられた。演技しない連中が衣装や小道具を用意するあいだのことで、私は主に、カップル役を演じる奴らに、“このくらいはしてほしい”と命令する役割だった。手を繋がせたり、肩を組ませたり、頬に触れて顔を近づけさせたり──アウニとヤーゴはもちろん、女子が男子に好意を寄せてというのがもう一組いて、もうひとりの女子を交えての三角関係を演じるそちらにも、同じようなことを要求した。つまり私は、“リアリティのために強制する役”だった。ある意味悪役。

 D組はといえば、中旬から空き教室での作業と小物や衣装作りが本格化し、私は面倒に思いながらも、在校時の休憩時間にできるだけのことをした。ギリギリまで放課後を使いたくはなかった。私が動けば、やる気のなさが同じくらいなゲルトやダヴィデも動いてくれる。二人は裏方でなければ絶対イヤだと言い張ったけれど。

 ちなみに、D組では七不思議すべてに幽霊を用意するわけではない。たとえば図書室の話だと、通路のひとつにダンボールで本棚を作って図書室を再現し、本棚もほとんどは印刷した写真とダンボールで済ませて、その中に紛れ込ませるよう、日記を用意した。日記を開くと、いくつもの恨みの言葉が何ページにも渡って書かれている。これは私のおかげで超リアル。でもこれだけ。ただいくつかのページには、印刷した恐ろしい幽霊の顔が見開きでという仕掛けもあるけれど。

 別の通路ではみんながでたらめに、だけど妙にリアルに書いた肖像画のコピーがいくつも飾ってあり、それをダンボールで作った額に似せたものにセットした。目の部分だけは器用にくり抜いていて、その目がぎょろぎょろと動くだけでなく、いくつかの肖像がからは突然手が飛び出したり顔が飛び出したりするという計画になっている。そのまえに、“あなたの血をちょうだい”という、様々なトーンの声が小さく、徐々に大きく、いくつも聞こえてくるわけだが。

 技術室での話も、通路に置いた手に客が触れた時だけ襲いかかる。

 だけど、これらみっつはサブ的なものだ。一応、D組ホラーハウスの宣伝ポスターに、“指と日記と呪われた絵を探して”と書いてあるから、その気になった生徒だけを対象にする。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「もうマジでおもしれえの」ヤーゴがにやつき顔で言う。「顔真っ赤。すげえ真っ赤」

 九月二十二日、金曜日──文化祭まであと二週間。五時限目が終わるとすぐ、ヤーゴが二年D組の教室に来た。昼休憩のあいだに、アウニとの撮影をすべて終えたらしく、その報告に。

 私たちのクラスは、始業式の日にまたも席替えをした。私は窓際のいちばんうしろを陣取り、前の席にダヴィデ、そのさらに前にゲルトがいる。彼の左隣の席にはセテ、うしろにカルロ、そのうしろで私の左隣にイヴァン。アニタはカルロの左隣で、完全に私と席を離した。以前のような席だと、他の女グループと絡みづらいらしい。だったら自分がはみ出るほうがいいと。

 私はとりあえず、ダヴィと前後に並んで廊下側の端の列に座るんだと言い張った。ただ腰窓を開けるためだ。そうすれば、ナンネが廊下から奴を見られるかもと思って。それなりに身長があれば、うしろの席は取りやすい。

 そして今、アニタとセテ、イヴァン、カルロがクラスメイトのほとんどと一緒になって隣の空き教室に、文化祭の準備をしに行ったため、私はダヴィデとヤーゴ、そしてイヴァンの席に座ったゲルトと四人で話をしている。というか、ヤーゴの話を聞かされている。

 「あんま言うなよ」ゲルトはヤーゴに言った。「誰が聞いてるかわかんねえぞ、ここ」

 ダヴィデが苦笑う。「企み知られたら、印象最悪」

 ヤーゴは残念そうに天を仰いだ。

 「お前らまでトルベンみたいな反応すんのかよ」

 ゲルトは呆れている。「声がでかいって。どんだけ言いたいんだよ」

 彼ら一応、声を落として話している。教室にはクラスメイトが数人残っているが、腰窓も教室後方の戸も閉めていて、聞こえるだろう範囲にはヒトはいない。

 「もうカラオケでフラれちまえ」私は口をはさんだ。「ものすごくカッコ悪い思いしやがれ」

 「なんでそういうこと言う!?」

 「どうでもいいよ。他人の色恋に興味ないよ」

 なにか言いたげなヤーゴを無視してダヴィデがこちらに訊く。

 「そういや打ち上げに呼ぶ奴、決めたんか」

 「まだわりと悩んでる。誘えば行きたがる女ってのは、絶対いると思う。でも一応お金のかかった勝負だから、それなりにうたえることが条件のような気もするし。でも行きたい行きたいって言って、いざその時になると恥ずかしくて無理だとか言い出す奴は、絶対いらないでしょ。アニタは、私と二人で最初にうたわなきゃだろうなって言ってる。なんなら最初は何人かでうたえばいいんじゃないかって言ったけど。ペトラやカルメーラはスターターじゃないなら平気だって言ってるものの、カルメーラはこっち側で一緒にうたえてもペトラはB組。B組であいつがつるむ中には、エデたちがいるわけで」

 彼は苦笑った。「来るとは思えねえな。カルロは平気だろうけど、お前に呼ばれるとなると、どうなることやら」

 「でしょ。チームが違うわけだから、私の存在は無視できるにしても──ヤーゴやトルベンにエデたちがついてるような状態になると、また嫉妬がはじまるわけで」

 「ああ、オレ、すごいモテ気分味わえる気がする」ヤーゴは幸せそうな表情を浮かべている。「このうえベラと“I Run To You”とかうたったら、半端なく嫉妬してもらえる気が」

 「敵チームだっつってんじゃん。それにあんたのところに駆けていくなんて絶対イヤよ。あんたがあれを覚えようとしてるってことは、カルメーラ経由でアウニに伝わってるから、そこはあいつとうたってよ」

 「それじゃ嫉妬が──」

 ゲルトが割って入る。「そっちの話はとりあえず。なにげに気になってたんだけど、チャーミアンはどうするわけ? お前、気づいたらわりと普通に話してるけど」

 私が普通に相手しないと、奴がクラスからハブられる可能性があったので。

 「あれは呼ぶつもりでいる。アニタはちょっとふてくされ気味だけどね。一応文化祭に関して、各クラスの中心になってる奴らがいたほうがいいとも思ってるし。でもほんとにグループをちゃんと考えないと、ツンケン組と地味組で対立するようになるのは困るし、みたいな」

 「女はめんどくさいな」ダヴィがつぶやく。「男はあんま、そういうの気にしないのに。まあ一部の奴らは、若干からかい気味にってのもあるけど。女子に対しては、話す話さないもあるけど。あからさまな不良はいないし、そこまでこだわる必要はない」

 私は肩をすくませた。

 「ほんとにね。たとえばジョンアとエデなんて、高確率で話さないでしょ。ほとんど見たことないもん。サビナやカーリナはまあ、ひとりになったら一応話す。エデはそれすらめったにしないから、呼んでも来るかってのが微妙」

 「女はグループ意識が強いのがダメだよな」ゲルトが言う。「いちいち差別して考える。責任転嫁が得意。陰口が得意。その気になりゃイジメなんてすぐ起きそうだもん」

 彼の言葉にヤーゴが反応した。「あ、だからお前、いつもこいつらとつるんでんのか。アニタはともかく」

 「そうよ。そういう女の生態がキライ。嫉妬で逆恨みってのもキライ。されても特にダメージはないし、そういう喧嘩を売られるなら喜んで買うほうだけど、嫉妬されるたびに喧嘩買うってのも面倒だし。喧嘩売られると反撃したくなる性格だし。だから小学校の時から仲のいいゲルトたち以外とは、できればつるみたくない。だからあんたがこうやって来るのも、実はものすごく迷惑」

 「はっきり言いすぎ!」彼はしかめっつらをダヴィデに向けた。「オレとお前らとのなにが違うわけ?」

 彼が答える。「アホな噂を気にも相手にもしない。お前みたいに勘違いして調子づかない。いちいち恋愛感情をはさまない」

 ゲルトも補足する。「変に遠慮しない。普通の女として扱わない。面倒な頼み事をしない。けなすとこはちゃんとけなす」

 ちゃんとけなすってなんだ。

 ヤーゴはぽかんとしていた。「それでいいのかお前」

 「いいもなにも、これがいちばんなんだもん」あっさりと答え、私は身体を起こした。「とりあえず、そろそろはっきりさせなきゃいけないから、今日の放課後はみんなの準備を無視してリスト作ってみる」ゲルトとダヴィに言う。「男子のほう、ちょっと協力して。誘うのはアニタやペトラにやらせるのでもいいけど、男子事情はよくわかんないから、先にそっちから決めてみる」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 放課後、文化祭の準備をよそに、ゲルトとダヴィデと三人で、呼べば来そうな男子をリストアップしていった。男子にいたっては、地味すぎて真面目すぎる、文化祭においては特になにもしないだろう連中は呼ばないことにした。カラオケで打ち上げだから、うるさいくらいのほうがいい。ただ難しいのは、各クラス男子五人程度、女子五人程度が目安だということだ。つまり、うちのクラスからはもう、男は呼べないことになる。そこはまあ、かまわないのだが。

 もちろん、男女五人ずつというのが絶対というわけではない。各クラスからの人数をできるだけ合わせてさえいれば、たとえばC組のように、エルミとナンネとジョンアで一組、カルメーラと他の女二人で、男子を四人とすることもできる。ただあまり女が多いと、男が引いてしまうのではというのが心配なだけだ。そういうことも踏まえ、男のほうには男の意見が必要だった。

 ちなみにアニタが生徒会で粘ったこともあり、今年からは放課後の準備を、夕方六時まで引き伸ばせることになった。たいして変わらないとは思う。だがその三十分の差が、真面目に準備している人間にとっては大きいらしい。そして私たちのクラスは大掛かりなうえに空き教室での準備だから、後片づけが間に合わなければ翌週月曜に繰り越してもいいという許可までもらった。

 そしてこの日の放課後、ペトラとカルメーラと一緒に、アニタの家に行った。安くパーティールームが使えるカラオケボックスをインターネットで探すためだ。できればセンター街ではなく、近い場所がいい。そして現地集合、つまり自転車で行ける距離。

 アニタやペトラは、エデたちを呼ぶことに反論はしていない。アニタは相変わらず奴らを許していないけれど、散々からかってやったし、私が味方にいるカラオケでの勝負なら、負ける気がしないのだとか。それについては、ペトラが卑怯だと文句を言っていたけれど。

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