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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 10 * ASKING DAYS
56/119

○ Performance

 アドニスとの電話を終え、なんとなくだが思った。

 アゼルのそれがどのていど効果があったのかはわからないけれど、元の自分に戻った気がする。なにもかもが面倒で、どうでもいい。考えたくないから考えない。この状態が落ち着く。単純でいい。ごちゃごちゃ考えるのはもうやだ。

 ルキアノスに電話すると、彼はすぐ電話に出た。

 「今日はもう連絡ないかと思ってた」

 すでに夜の十一時を過ぎている。「ごめん」

 「いや、平気。リーズとは話せたのかなと思って」

 「一応ね。私が復讐するほど怒ってるんじゃなくてムカついてるだけだってのは、わかってもらえたと思うし」ゲルトのことを言われた時にはキレたが。「あとはニコラが話してくれるって言ってたから、たぶんもう平気。しばらくは変な空気かもしれないけど、たぶんだいじょうぶ」

 「そ。ならいいけど。──三百八十フラム、釣りが来た。リーズに渡してないっていう」

 「詫び賃でいいよね。あげる」

 「いやいや」

 「そんなのをわざわざ取りに行くほど、私は細かくない。自販機で百二十フラムのジュース、三本買えるじゃない。すごい。ちょうど三人分」

 「いや、ちょうどじゃないよな。二十フラムあまる」

 「だから、細かいって」

 彼は笑った。

 「とりあえず覚えてる限りは預かっとく。そのうち財布に入ってるかもしれないけど」

 それでリーズに奢ればいい。「うん。とりあえず今日はもう寝る。来週からまた、騒がしい学校生活だから」

 「あ、ちょっと待って」彼が引き止めた。「ひとつ訊きたいことが」

 「なに」

 「言ってたよな。いつも男友達とつるんでるって。そこに恋愛感情が入ったことってないの?」

 「ない。ただの友達。悪友。ふざけた友達」

 今まで何度、このセリフを言ってきたのだろう。

 「けどむこうはわかんないだろ?」

 「ない」と、私は即答した。「一緒にいても、平気で私の悪口言うんだから。私の性悪度をわかったうえでトモダチしてくれる友達だもん。こんな女イヤだってよく言われてる」

 「ああ──じゃあ、その男友達から今告白されたりしたら、どうすんの?」

 「女として好きって意味で?」

 「他になにがあるんだよ」

 想像できない。「どうもしない。意味わかんないと思う。信じられないと思う。どうせからかってんでしょ、みたいな。そんなの考えたことないし。友達は友達だし。みんな、私が恋愛感情をまじえたがってないのを知ってる」

 「──友達、続けられる?」

 「無理でしょ」またも即答した。「人間関係が崩れるのがイヤなの。みんなそれをわかってる。今一緒にいるのは、笑ったり喧嘩したりふざけたり、遠慮なくなんか言ったりできる友達。私はそれが大事。その状態が好き。みんなもその状態が好き。恋愛感情なんか入れたら、気まずくなるじゃん。私にその気がないんだから。仮につきあったとしても、別れたらぐちゃぐちゃになる。気遣って遠慮して、みんなで一緒にいられなくなるでしょ。そんなのイヤ」アゼルとつきあっている私が言うセリフではないのだが。

 「──そ」彼は納得したらしい。「ごめん、変なこと訊いて」

 「じゃあね。おやすみ」

 「うん、おやすみ」 



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 翌週月曜。

 大きな白い紙袋に、祖母が知り合いにもらってきてくれたヘッドマネキンみっつを入れて登校した。D組に向かう前にA組の教室へと入る。

 中央列後方にいるチャーミアンやアウニを含むA組連中の視線が徐々に集まることは気にせず、廊下側から二列目、前から三番目の席にいるヤーゴを見つけた。彼の隣、廊下側の席にはトルベンがいるけれど、そこも気にしない。

 すでに右手に持ったCDアルバムをちらつかせながらヤーゴに近づき、私は微笑んで言った。

 「持ってきたわよ、CD」

 彼はなぜかそわそわしはじめた。「なんだ。どした」

 「どうもしないけど」アルバムをヤーゴの机に置く。「おすすめはね、一曲めと十二曲め。でもノリがいいのなら、ある意味六曲目もアリかも」

 CDを見やり、またこちらに視線を戻す。

 「なんか怖え。こないだとぜんぜん態度が違う」

 ベアラック・ダイナーにいる時の電話のことを言っているらしい。

 「そう?」私はすっとぼけ、紙袋を彼の前の席に置いた。「もうどうでもよくなった。あんたがやるって言うならやる。ふたりっきりでカラオケデートするって言うならする。一緒にうたうって言うならうたう。とことんつきあってやる」

 その言葉で、A組教室内が一気にざわついた。

 ヤーゴは呆気にとられたが、トルベンに軽く脚を蹴られると、すぐ我に返った。

 「マジで? んじゃそのうち行く? んで」紙袋を見やる。「なにそれ」

 彼の演技はザルだった。

 「ヘッドマネキン。ホラーハウスで使いたいなと思って」

 そう言って紙袋の中から肌色のヘッドマネキンをひとつ、取り出した。なんだかわからないけど弾力のある素材で、首までしかなく、スキンヘッドですっぴんだ。メイクの練習用マネキンらしい。つまり一応、性別は女。不要になったものらしいけれど、まだまだ余裕で使えるという。

 「メイクの練習用らしいんだ」と、簡単に説明しておく。「これに顔描いて、生首にしたいなと思って」

 「なまく──」言葉を切り、ヤーゴはトルベンに言った。「やべえ。なんか怖い」

 彼はいつも冷静。「こいつはこういう女だ」

 「女として認めてくれてるだけでも感謝するとこかしら」なにか言いたげなトルベンを無視し、私は後方の席にいるチャーミアンへと視線をうつした。「チャーミアン、一個使ってみる? あとふたつあるから、こっちは平気だけど」

 「欲しい!」立ち上がりながら答えた笑顔で彼女は、一緒にいたアウニともう二人の女子を置き去りに、ひとりこちらに来た。「すごい。メイク用だよね」受け取ったヘッドマネキンを観察しながら言う。「美容院にあるのとおんなじだ」

 「メイクしてもクレンジング用品で落とせるらしいから、やり直しはできる」私は声を落とした。「うちは生首扱いする。どんな顔になるかはわかんないけど」

 彼女が苦笑う。「自由にやっていいの?」

 「うん」

 ヘッドマネキンを見るためか、A組生徒たち数人が彼女の周りを囲むために集まってきた。

 私はチャーミアンに向かって続けた。「文化祭が終わったら、可愛くメイクして、ヤーゴのロマンスの相手にしてあげて。寂しがりやだから」

 「いやいやいやいやいや」

 トルベンやチャーミアン、他A組生徒数人が笑いにふきだすと同時に、ヤーゴは全力で私を止めにかかった。

 「人形はねえよ? やだよ? オレどんだけ変人?」

 彼は変人ではなく変態だ。「だめよ、いくら美人に仕上がったからって、人形に恋しちゃ」

 「しねえよ!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 D組の教室。

 休憩時間を使い、アニタや学級委員、ハヌルと他数人を含む、ホラーハウスに特に乗り気な連中はさっそく、誰がヘッドマネキンにメイクをするか、どんなメイクにするかを話しはじめていた。私とアニタ以外、実際に自分にメイクをしている人間などいないが。

 ちなみにA組にもD組にも、“いじめや自殺防止啓発ポスターを書けば、内申点は上がるかもね”なんてことを言ってある。A組が自殺防止啓発ポスターを、D組がいじめ防止啓発ポスターを描くことになり、けっきょくD組でのそれは、学級委員とハヌルが中心になって描くことになった。ポスターと言ってもチラシのようにするから、A4サイズになるが。

 私は一応アニタに、できるだけ計画を立ててから準備に取り掛かるよう言ってある。あまり早い時期からすると、わけがわからなくなるからだ。それに普段開け放たれている空き教室が、長いこと使えないとなると、やはり反感を持つ者は出てくる可能性がある。それを避けるために。

 計画のこの段階では、時間が進んでもできるだけ、私は傍観者をとおした。周りに無駄に群がられるのは好きではない。思いつく限りのことは、夏休みのあいだにアニタに伝えてある。あとは訊かれた時だけ答えた。

 そして二時限目の休憩時間、ヤーゴからメールが入った。

 A組の女子二人に、私になんのCDを借りたのかと訊かれたらしい。私が堂々と渡したものだから彼の予定とは違っていたものの、一応彼女たちに教えたという。あえて“気に入る曲があったら今度カラオケでベラと一緒にうたう”と、耳元で言ったらしい。文化祭の打ち上げのことは私が口止めしているから、そうするしかなかったのだとか。そしてトルベンが言うには、その光景を離れてみていたアウニの表情が固まっていたとか。完全におもしろがっているようだ。

 私の頭の中はずいぶんとすっきりしていた。夏休み中はいろいろありすぎて少しおかしくなっていた気がするけれど、また私は、動じない私に戻った気がする。ムカついても少々のことでは行動を起こさない私。悩むことも反抗することも面倒で、だったらさっさとそれを解決しまおうという考えに走る私。それがいちばん、私らしかった。

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