* Conclusion
「私とゲルトがなに?」私はリーズに言った。「なんでそこにゲルトが出てくるわけ? 私とゲルトの関係? 小学校一年の時から五年の時を除いて、ずっと同じクラスで仲がいいっていう、そういうの? 小学校三年の時から、私のちょっとした変化に気づいて、三年生なりにそれを理解しようとして、私がなにも言わなくても、なにも訊かずに、なんとなくをわかってくれて、怒ったり呆れたりしながらも、今までずっと私とトモダチしてきてくれたゲルトのこと? そういうのに憧れたからって、知り合って一ヶ月やそこらの人間と、それを再現しようとしたわけ? バカにしてんの?」
「バカになんかしてない!」リーズは泣きそうな表情で、声をあげて否定した。「ほんとに、ただ──」
彼女の声は無視した。「バカにしてるようにしか聞こえない。インゴとメールしてることはどうでもいいけど、そこにゲルトを持ってこないでよ。ゲルトを言い訳に使わないでよ。ヒトの友達をなんだと思って──」
「ベラ」マスティが口をはさんだ。「落ち着け」
はっとした。また、あの状態だ。去年、アゼルとつきあい始めた時、インミに対してキレた時のような状態。
私は視線をそらし、またソファに背をあずけて目を閉じた。
煙草が欲しい。酒が欲しい。もうやだ。こんなの、同期のアホ共と同じじゃない。
マスティがリーズを促す。「いいから、続けろ」
困惑の表情と涙を浮かべたまま彼女はしりごみし、また視線を落とした。
「──ニコラには、ブルがいる。まえにベラには、ブルたちとは、私たちが一緒になってたまに話してた、みたいに言ったと思うけど──実際は、ニコラとブルの親が知り合いで、たまにニコラがブルと話してて、そこにマスティとアゼルもいたりして、極たまに私がいてっていう状態だったじゃん。そりゃ中学に入ってよく五人でつるむようになったし、そんなことはどうでもよかったけど──ベラとゲルト見てて、ベラにとってのゲルトみたいな存在が、すごい羨ましいなって──もちろん、ブルたちがダメっていうんじゃない。けどブルたちは、ベラがくるまでホントに、ただの遊び友達って感じだったじゃん。一緒に学校サボッてゲームして、煙草吸って酒飲んで──相談に乗ってもらうみたいなの、なかったじゃん。理解してる、みたいなのは、なかったじゃん。だから──」
呆れた様子のニコラがあとを引きとる。
「そういうのに、憧れて、インゴとそういう友達になりたくて、メールとか電話してて、その流れで、二人して器用にそのこと隠して、今日のあの状態ってこと?」
涙を拭きながら鼻をすすり、リーズは静かにうなずいた。
「──ごめん」
リビングは深い溜め息で溢れ返った。
「お前、どこまでアホなんだよ」ブルが言う。「確かにベラとゲルトは、恋愛感情なんかない普通のダチだって一貫して言ってるけど、それはさっきベラが言ったように、何年もかけてそうなったってだけだぞ。計算したわけじゃねえ。そもそもダチなんて、計算してなるもんじゃねえだろ」
全員が押し黙った。
誰とも視線を合わせないまま、私は口を開いた。
「ゲルトにあからさまに相談したことなんてたぶん、ほとんどない。家のことちゃんと話したのだって、今年に入ってからよ。私は詮索されたくないし話したくない。相談するなんてこともめったにしない。最近はちょっとだけ、アニタやアゼルに相談することはあるけど──それだって、私の答えはたいてい決まってる。ひとり暴走するとまずいこともあるから、普通の感覚がわからないなりに、他の意見を聞いてるだけ。
さっき言ったとおり、三年生の時、ゲルトは私のちょっとした変化に気づいて、普通なら気にしないような愚痴に対しても心配して──私が家に帰りたがらなかったこともあって、アニタやセテを誘って、夕方まで遊んでくれてた。二人もそうだけど、なにも訊かないでいてくれた。私が話さないのは、話したくないからだろうって理解してくれた。中学に入って、親が離婚して引っ越したことは話したけど、私がつっこんで訊かれたくないのをわかってるから、私が自分から話すまで──今年に入るまで、急かさないでいてくれてた。
ゲルトと私は、空気も読まずに自分勝手に喋りまくるインスタントの関係とは違うわよ。私がそうだとしても、ゲルトは違うわよ。なんならゲルトは、空気の読めない私を止めてくれる奴よ。一緒にしないでよ」
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言葉を吐き捨てると、リビングはまたも重苦しい沈黙に包まれた。
それを、アゼルの溜め息が破いた。
「ちなみに、こないだベラがその男らと三人で会った時、どうでもいい奴が無神経にあれこれ頼んでくるって言ったけど。あれ、エルミのことじゃねえ。別の同期の男のことだ」
その言葉に、リーズは丸くした目でこちらを見た。
「──ほんとに?」
私は答えなかった。応える気力すらなかった。
アゼルが続ける。
「確かにベラは、エルミのことどうでもいいと思ってるけど。遊び目的も二股も放置するほどどうでもいいと思ってるけど。ベラがムカついてんのは、自分の中の筋に反する行動をお前がとったから。
ベラは今日、エルミと相手の男を会わせるために奴らを飯に誘った。そこにお前らが惚れてるっつー奴らもいるから、お前らが会いたいだろうと思って、気遣い地獄になる可能性もあったのに、こないだ話した、妙な嫉妬はしないっていうお前らの言葉を信じたから、お前らを誘った。
ツレとしての優先度じゃなくて、今日のベラのいちばんの目的は、むこうと会わせてうるさいエルミを黙らせること。お前らはついで側。けどお前はそれを無視した。自分の惚れてる男に近づこうとするどころか、エルミが惚れてる男と一緒に、ニコラが惚れてる男まで巻き込んで、好き勝手に話した。お前はあんだけ、ベラが自分の惚れてる男と会って話すことに嫉妬して、愚痴りまくったくせに。
ニコラがキレてんのも同じ理由。ニコラに対してもエルミに対しても、お前がやったのはただの嫌がらせでしかねえ」
戸惑うリーズに向かってマスティが補足する。
「だからって、ベラに対して、じゃあお前がやったのはなんなんだ、とか言っても仕方ねえぞ。自己中だから。それに一応、お前らを気遣ったとか、お前らの反応を見たかったってのがあるわけだし」
「そもそもエルミのことはともかく、ニコラにまでそういうイヤな思いさせるってのが、本気で意味わかんねえ」と、ブル。
「あたしはいいよ」ニコラが言った。「ベラのこと考えたら、あの状況でそんなはしゃぐってのも、変だと思ったし」リーズとに言う。「あたしがいちばん気に入らないのは、ベラとルキが席を立ったあと──あれ、警告だったのに、あんたそれにも気づかなかったじゃん。耐えられなくてエルミが席立つまで、そのあともかまわず続けたじゃん」
リーズは困惑した様子でまた、視線を落とした。
「──ごめん」
ブルが言う。「とりあえずお前、もうちょっと周り見ろよ。頭悪いのはじゅうぶんわかってるけど、ベラみたいに自己中で謎めいた奴を理解しろとは言わないけど、ニコラやエルミがどう思うかくらい、わかるはずだろ。自分がイヤな思いしたのに、なんでまた同じことをニコラやエルミに対して繰り返してんだよ」
彼女はうつむいたまま、またあやまった。「──ごめん──」
「あやまるなら」ソファにもたれて目を閉じたまま、私は言った。「エルミにあやまってよ。けどあやまるよりは、あいつが誘えないってまだ言うようなら、あいつ誘って四人か六人で遊んで。何度もとは言わない。近いうちに一度だけでいい。私はもう降りる。五人でのカラオケは平気だったけど、いつまたこうなるかわからないから、仮にルキやアドニスと会うことがあっても、私はもう誰も誘ったりしない。完全別枠でいく。つってもあんな状況にしちゃったから、彼らがどう出るかはわかんないけど」
「──ニコラも巻き添え?」ブルが訊いた。
「そうじゃない」ニコラが答えた。「あたしが言った。人数合わせのためにどっちかだけ誘うようなのは、たぶん喧嘩になるから、それならどっちも行かないほうがいいって」
彼は納得した。
マスティが言う。「つーかどいつもこいつも、なんで自分から誘わないわけ? お前ら二人もエルミも。ベラなんか、ひとりどころか三人の男誘ったわけだろ?」
「そりゃお前、惚れた相手で脈ナシだからだろ」と、ブル。
彼は顔をしかめた。「ダチとして誘えばいいんじゃねえの? ベラみたいに。誘われないからとか、むこうからメールがこないからとか、けっきょく言い訳でしかないと思うんだけど」
「それは」ニコラが口をはさむ。「友達になれてんのかも、よくわかんない状態だったから。少なくとも誘われて、カラオケに行くまでは。今はだいじょうぶだとは思ってるけど──ベラと違って、友達として、なんてのも言われてないし」
「いやいや」ブルが言う。「ダチになるとかならないとか、普通いちいち言わねえって。ベラはむこうが恋愛目的でナンパしてきて、その気がないってのを言ったから、そういう会話になっただけ。むしろ変に意識するからダメなんだろ。最初からダチとして誘ってりゃ、こんなことにならなかったのに。まだ告る気ねえんなら、普通に遊べよ。待つだけじゃなくて誘えよ」
「なんならエルミもついでに」マスティはつけたした。「あいつに協力しろとは言わねえけど。お前らが誘うんなら、今日みたいな状態になっても、誰も文句は言えねえんだろうけど。お前らの狙ってる男は別々にいるんだから、全体で話すんじゃなきゃ、狙ってる男に近づけよ。いつまでもぐだぐだトモダチごっこやってたって仕方ねえだろ。突き放しても周りが勝手についてくるベラとは違うんだから、お前らみたいなのは積極的にアピらなきゃ、いつまでたってもつきあえねえぞ。特にリーズ」
彼は一度言葉を切り、身構える彼女へと視線をうつした。
「お前たぶん、今日のでわりと不利。いくらエルミの惚れてる男が、お前とはダチだってわかってたとしても。お前が惚れてるほうが勘違いする可能性はじゅうぶんある。ベラとゲルトが今まで何度も周りに疑われてきたように、むこうがそんな気ないって言い張っても、お前がむこうに惚れてんじゃねえかって話になる可能性はある」
リーズはぎょっとした。
「ええ──」
「あたしたちだって経験したじゃん」ニコラは呆れた顔をしている。「この性格のクソ悪い、あたしたちのこと女として見てない三人組のこと、好きなんじゃないかって、散々言われたじゃん。自分たちがどう思ってるかなんて、周りは考えてくれないんだって」
彼女は思い出したらしい。「ああ──」
「っつーか」アゼルが口をはさんだ。「話終わったんならもう帰れよ。お前らが今後どうするかなんて、興味ないし聞く気もない。俺はとりあえず、そこで黙りこくってる自己中女を元に戻す」




