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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 09 * RECKLESS DAYS
53/119

* Contradiction

 「ごめん、無理」

 そう言ったエルミは私の横を通り過ぎ、ルキアノスから距離をおいて隣にある二人掛けのソファに座った。脱力気味らしい。

 「実は完全に落ちてたのか」と、私。

 彼女は苦笑ってうつむき、両肘をテーブルについて髪をかきあげた。

 「見てらんない。話についていけない」

 「え、よくわかんないんだけど」ルキがこちらへと視線を戻す。「嫉妬?」

 「そう。インゴを完全に好きになっちゃったのに、リーズが仲良く話してるから」

 彼は目を丸くした。「ベラはてっきり──」

 「エルミに怒ってるのかと思った? あんなのはどうでもいいの。ホントのことだもん」

 そう答え、一口サイズに切ったパンケーキに生クリームとチョコソースをつけて口に運ぶと、半分ほどになったパンケーキ皿を、身を乗り出してエルミのテーブルに置いた。

 「食え。食い終わったらカラオケに行く。ナンネとジョンアも呼ぶ。金は出す」

 エルミは泣きそうな表情で再びチェアに腰をおろす私を見上げると、皿を引き寄せて黙々とパンケーキを食べはじめた。ヤケ食いだ。

 「え、帰るってこと?」ルキが訊く。「むこうどうすんの?」

 「だから、どうでもいい。話を続けるなり帰るなり、好きにすればいいよ」

 そう答えてカフェオレのグラスもエルミに渡した。続けて彼に言う。

 「こっちのことは、私がエルミを連れて帰ったって言えばいい。私はね、とんでもなく自己中なの。たぶんあなたの想像以上。イライラしたら他人を巻き込む癖がある。それはリーズも知ってる。念の為に言っておくけど、エルミのために怒ってるんじゃないわよ。自分がムカついたからこういう行動をとるだけ。自分が自己中なのに、他人の自己中はムカつくの。だから性悪だってよく言われる。自分でもわかってる。でもこの行動は、まだマシなほう。他の奴を巻き込んで、相手にもっとイヤな思いさせたこともあるから。それを繰り返したくはないから、そうなる前に手を打つ」

 彼はきょとんとしている。「──友達、じゃ、ないのか」

 私は鼻で笑った。

 「友達よ。大事な友達。どっちかっていうと、エルミよりも大事な友達。でもね、私の思う筋が通ってないなら、友達だろうとなんだろうと、私は怒る。ああ、前に言ったっけ。怒ったら直接言うって。正確には違う。怒ったら、私は復讐するの。相手にわからせるために。これはその一歩手前。薄情だと思うなら思えばいい。でも私は友情だのなんだのよりも、自分の中の筋のほうが大事。ほとんどのことには無関心だし、動じない。動かない。短気だからすぐキレるけど、ムカついても行動を起こさないことのほうが多い。でもね、わからせなきゃいけないことってのはあるの。エルミを連れ出してやるんじゃないし、カラオケでストレスを発散させてやるわけでもない。リーズにわからせるためよ」

 私は言いきった。ルキアノスは呆気にとられていた。かまわずテーブルの脇に置いたバッグから携帯電話を取り出し、ナンネに電話した。

 ジョンアと一緒に家でカラオケの練習──ようするに音楽を流してうたっているだけ──をしている彼女たちを三十分後、キャッスル・ストリート沿いにあるクイーンズというカラオケ店へと呼び出した。奢るからウサ晴らしにつきあえ、と。

 続けて電話したアニタにも、同じように言った。でも彼女は親に言ってお金をもらえたら半分出すとかで、来ることを了承した。私がお金を出しすぎると、アニタは必ず怒る。

 電話を終えると、一度携帯電話をテーブルに置いてバッグから財布を取り出し、三千フラムをテーブルに置いた。

 「とりあえずエルミのぶんも出しとく。足りなかったらリーズにでも請求しといて。あとで彼女に返すから」

 ルキはまだきょとんとしてる。「ええ」

 「食い終わった!」エルミがソファに背をあずける。「もう無理。苦しい」

 「あんた、そのパンケーキはいいけど、自分のランチのぶんはあとで払ってよ」

 彼女は視線を合わさないまま右手を挙げた。「わかってます」

 私はニコラに電話した。二回目の呼び出し音が途切れ、彼女の声に変わる。

 「はいはい」

 「そっちの様子がどうかは知らないけど、私とエルミはもう帰るね。お金はルキに渡したから。アニタとナンネとジョンア呼んで、これからクイーンズにカラオケに行く。たぶん夜七時くらいまではいると思うから、来られるなら来ればいいよ。リーズを連れてこられちゃ困るけど。リーズとはそのあと、マブか家で話す」

 「え、ちょっと待って──」考えてるのか少し黙り、彼女はまた口を開いた。「すぐに帰る」

 リーズがどういう反応をするかはわからない。「うん、外で待ってる」

 「──リーズが帰るって言ったら」携帯電話をバッグに戻す私に、冷静な表情のルキが切りだした。「引き止めようか」

 変な奴だ。「そうしてくれると助かる」

 彼は立ち上がって微笑んだ。

 「貸しにしとく」

 「返す機会があったら返します」

 先にルキアノスが彼らのところに戻り、私とエルミは店を出た。席順は、リーズたちについていくと流れでそうなり、反対側からインゴが座って、アドニスとルキが来てさらに詰めたらしい。

 数分でニコラが出てきた。すぐに帰ってこいと親から電話があったなんていう、適当すぎる言い訳をしたという。

 ルキアノスが、私とエルミがもう帰るところだと伝えたこともあり、リーズも帰ると言ったけれど、男三人はさすがにむさくるしいなどと理由をつけ、彼が引き止めた。あとで送るからと。

 やはりニコラも、居心地は悪かったらしい。テンションが違いすぎると。リーズがなぜはしゃいでいたかはわからないけれど、私とルキが席を移動することには反応していたし、テンションも少し下がっていたから、インゴのことが好きというのではなく、単に彼と気が合っただけなのでは、という話だ。それでもエルミが席を立ったことは特に気にしていなくて、そこにいちばん違和感を感じたらしく、ニコラはリーズの代わりにエルミにあやまっていた。

 歩いてウェスト・キャッスルへと戻り、アニタたちと合流してカラオケボックスに入った。ニコラとエルミはストレスを発散するように、打ち上げの練習をしたいナンネと、それにつきあうジョンアは真剣に歌をうたっていた。私はそんな彼女たちをよそに、とりあえずの状況をアニタに話した。彼女もさすがに呆れていた。もちろん、エルミの味方をするわけではないけれど。

 アニタが彼女たちと一緒にうたいはじめると、私は仕事中だろうアゼルにメールを送った。状況を説明するためだ。今度こそ本気でおもしろがられるかな、などと思いながら。

 送信から三十分ほどが経った頃、彼から返事が届いた。“喧嘩するならマブでやれ”と。

 約四時間のあいだ、休む暇もなく彼女たちはうたい続け、私とアニタとニコラが割り勘で料金を払い、解散した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 マブでアゼルたちと一緒に夕食をとると、ニコラはリーズを呼んだ。マブにカバンを持ってきてくれないかと言って。

 夕方、ルキアノスたちに送ってもらって家に帰ったというリーズもさすがに違和感を感じていたようだったけれど、ニコラは気にしなかった。カラオケでうたっているあいだに、ストレスを発散するどころか、本気でムカついてきたらしい。リーズはなにもわかっていないと。

 リーズがマブに来た時、窓側のソファにブルとマスティが、コーナー部分にアゼルが座っていて、私とニコラは二人掛けのソファに座っていた。

 ニコラのカバンを持ったリーズはキッチンとリビングの間仕切り壁の脇に立った瞬間、この異様な空気になにを感じとったのか、つぶやいた。

 「えーと──」

 「座って」

 私の右隣でソファに背をあずけ、腕と脚をそれぞれに組んだニコラがキッチン側ソファを示して言うと、リーズは少し身構え、彼女のカバンをソファ脇に置いて座った。

 不機嫌ニコラが低い声で切りだす。

 「今日のあれ、なに? 席順のことじゃない。それはいい。ベラはエルミがインゴと会いたいって言うから、人見知りするのに、あたしたちに気遣わなきゃいけないのわかってて、ランチに呼んでくれたんだよ? なのに、なんであんたがインゴとばっかり話してんの?」

 リーズは戸惑い、けれども顔をしかめた。

 「だって、ベラはエルミのこと、どうでもいいって──」

 「どうでもいいよ」視線を合わせないまま、私は彼女の言葉を遮った。「でもおかしい。なんかおかしい。無神経通すにしたって、ちょっと状況が違う」

 ニコラが続ける。「どうでもよくても、ベラは今日、エルミがインゴに会いたいっていう頼みを聞いてあげたんだよ。エルミが誘えないって言うから。ベラがインゴから会ってみたいって言われたのはマジだけど、ベラは断ることだってできた。けどそれを、無理して会ったの。わざわざうちらまで呼んでくれて。なのに、おかしいじゃん。さすがにエルミに気遣えとか、協力しろとまでは言わないけど、あんたが好き勝手にインゴと話していいところじゃなかったじゃん。むしろあんたは、ルキに積極的に話しかけなきゃいけないところじゃないの?」

 困惑の表情を浮かべたまま、彼女はたじろいだ。「──それは──」

 「ルキのこと、もうどうでもいいの?」

 ニコラが続けてした質問に、彼女は少しむきになった。「そうじゃない!」反論したものの、その勢いはすぐに落ちた。ソファに背をあずけながら、言葉を濁した。「そうじゃない、けど──」

 「あんたがやったの、ただの嫌がらせだよ」ニコラは言いきった。「さすがになにがしたかったのか、あたしにもさっぱりわかんない。あれじゃルキに、自分はインゴが好きだって言ってるようなもんじゃん」

 「そうじゃない」

 彼女は懇願するようにニコラに言った。再び視線を落としてソファに背をあずけ、浅めの深呼吸をし、言葉を続けた。

 「──メール、してんの。よく」

 ニコラとマスティ、ブルの三人は声を揃えた。「は?」

 「え、インゴと?」

 確認するようにニコラが訊くと、彼女は視線を落としたままうなずいた。

 「最初に遊んだ日、メールが来て、なんとなく返しただけだった。それから何度か、てきとーにやりとりしてた」

 「それは──知ってるし、あたしも来たけど。普通に返して、たまにメール来て返してたけど。今はぜんぜんだけど」

 彼女はまたうなずいた。

 「八月に入って、ベラがアニタたちと花火するってなった時──ゲルトのこと思い出した」

 私は、閉じていた目を開いた。

 リーズが続ける。「ベラとゲルトの関係が、絶対ないと思ってた男と女の友情みたいなのが、なんかすごい羨ましくて」

 自分の耳を、疑った。

 「エルミに嫌がらせしようとか、そういうんじゃないけど、インゴはおもしろくて、よく喋るし話も聞いてくれるし、ベラとゲルトみたいな友達なれるんじゃないかと思った」

 ちょっと待て。

 「それでだんだん、メールの量が増えて、たまにだけど、電話もするようになって──」

 ちょっと待て。

 「けどキアのことは、協力してなんて言ってない。好きだってのは知ってるけど、んなことしなくていいって言った」

 ちょっと待て。

 「その代わり誰にも、しょっちゅうメールしてるなんてのは、言わないでって──」

 「ちょっと待ってよ」

 私は、リーズの言葉を遮った。

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