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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 09 * RECKLESS DAYS
51/119

* Feeling Of Wrongness

 曇り空で蒸し暑い、九月一日金曜日の、午後十二時半前。

 ウェスト・キャッスルとはナショナル・ハイウェイを挟んで向かいにある、アロウ・アイレットという少し大きな町。ハイウェイ沿いにあるチック・ノーティド・ショッピングセンターの敷地内、ベアラック・ダイナーの東側出入り口前。

 造りつけの木製ベンチに、リーズ、ニコラと並んで座る私に、インゴは「写真で見るよりずっと可愛い」と、照れることなくさらりと言った。

 明るめのゴールドブラウンの髪は短く、顔が小さいのか、耳が少し大きく見える。顔がどうこうというわけではないけれど、喋り方と細さのせいか、猿みたいだと思った。そしてブルやマスティと同じくらい軽いのでは、と。灰色に黒の縁取りが入ったシャツに細いジーンズを履いた彼は、エルミと連絡をとりつつ、アドニスたちより一足早くダイナーに辿り着いた。

 ジーンズのポケットに両手をつっこんだインゴが続けて言う。「っていうか、なんでひとり私服?」

 「制服がイヤだから着替えたの」

 私は無愛想に答えた。ニコラはリーズの家にカバンを置いている。迷惑なことに、エルミは私の家に。

 「ベラの家は学校から近いから」私の脇に立つエルミが補足した。「着替え貸してっつったのに拒否られた」

 「べつにいいじゃん。オレ、学校が私服だから、制服の女の子が恋しいんだわ。テクニクス・サイエンスの子はよく見かけるけど、なんかブルーの制服着てる女の子って、可愛さ半減だし」

 軽いな。ふわふわだな。

 「制服マニアなの?」リーズが訊いた。「制服が好きなら、制服がある学校に行けばよかったのに」

 「あー、それね。高校はやっぱ私服だろと思ってたんだよね。毎日同じ制服なんて、見てるこっちも飽きるじゃん。んでまあ、あいつらほど勉強が出来るわけじゃないし、ちょっとレベル落として、みたいな感じなんだけど。よくよく考えたら、私服姿なんてそこらで見れるんじゃね? みたいな。でも気づいた時には高校入っちゃってたよ、みたいな」

 そのうちこいつ、バルーンみたいに空に飛んで行くんじゃないのか。

 彼女たちは笑った。

 「たぶん新鮮なだけだと思う」と、ニコラ。「中学の制服なんてセーラーだから、特にでしょ。うちらも普段は男子の学ラン見てるから、冬にブレザー着た高校生見た時、すごい新鮮な感じするもん」

 リーズも同意した。「それ。超オトナに見える。ヒトによってはまあ、老けただけにも見えるけど」

 彼女たちはなんというか、ルキアノスやアドニスがいる時とは違っている。いつものマブでの感じだ。

 インゴも笑う。「アドニスとか、三年になったら老けて見えそうだよな。ルキはともかく」

 バッグの中で携帯電話が鳴った。アニタだ。先に店に入って席をとっておくよう言い、私は彼女たちに背を向けて歩きだした。

 「許可とれた!」電話越し、アニタは興奮気味に切りだした。「空き教室使える! ベラの言ったとおり、やっぱ今年も使う予定はなかったって。担任がダメダメだから、学年主任についてってもらって校長に直談判。来週から準備できるよう、鍵も預かった! んでそのあと、学級委員と一緒に文化祭実行委員の会議に出席。二年フロアの空き教室使いますって報告した。久しぶりに生徒会長に会ったんだけど、あのヒト、六月だか七月だかに副会長と別れたんだって。みんなの前では普通なんだけど、なんかやっぱ微妙な空気っぽい」

 どうでもいい弾丸トークを聞きながら、私は東側にある平屋の建物のほうへと向かっている。車が来ていないことを確認してショッピングセンター内の車道を渡った。

 「一応一学期の終業式の時、根回しはしておいたからね。校長もこれで、うちの担任が使い物にならないってわかってくれたと思う。あのおっさん、なんか言っても知らんの一点張りなんだもん」

 ショッピングセンター入り口車道をはさみ、ベアラック・ダイナーの向かいにあるオフホワイトにブルーの屋根という色合いのこの雑居平屋には、ピザ屋やネイルショップ、向こう側にはドーナツ店が入っている。金融関係の店も入っているけれど、よくわからない。

 アニタはけらけらと笑う。

 「そう、そんな感じだった。あ、あとね、ホラーハウスをやるのはうちのクラスだけ。暗幕もできるだけ借りられるよう、頼んだよ。予備のがそれなりにあるらしいんだ。あと、特別教室のぶんをいくつかね。ちゃんとどれがどこのかをメモして、終わったらそのとおりに返すことが条件だそうです。んで足りなかったら、あとは自分たちで他のクラスの先生たちに頼むようにって」

 雑居平屋の屋根下に入った。地面から腰の高さあたりまでが、赤と白っぽい色のレンガのような模様になっている。陰だ。

 こうやって話が具体的になってくると、本当に面倒なことになっていると再度実感してしまう。

 「月曜、おばあちゃんがもらってきてくれたフェイスマネキンみっつ、学校に持って行く。そんで来週の土曜、アゼルたちがセンター街につきあってくれるっていうから、マスク買いに行く。うんと不気味なやつ。もしかしたら予定してたのと同じのになるかもしれないけど」

 「え、借りるんじゃなかったっけ。買うの?」

 「貸してくれるって言ってるけど、考えたら誰がかぶるかわかんないし、どっちもイヤなんじゃないかと思って。あと、そういうのがある店ってのも知らないから、見てみたいなと。エイト・フラッグらしいんだ。行ったことないから」

 「へー。あたしも行ったことないな。なんか怖いし、あのあたり」

 「小学生が行くような場所じゃないもんね。なんなら一緒に行く? リーズとニコラは誘ってない。五人で行くこともできるけど」

 彼女が悩ましげに唸る。「うーん──睨まれないかな」

 「なんで? 睨まれる意味がわからない」

 「だってあの二人、嫉妬が──特にリーズ。恋愛じゃなくて友達だけど、ベラとあたしとアゼルたち三人でセンター街ってなったら、どうなのかと思うけど」

 私は溜め息をついた。

 「ねえ。そういうの、考えるのやめようよ。っていうか、考えさせないでよ。私がマスティやブルと遊ぶことにはなんにも言わないし、そんな素振りも見せてない。あっちだって文化祭の準備があるんだもん。たぶん大丈夫でしょ」

 電話のむこう、彼女は肩をすくませた。

 「ならいいけど。あんま高いのはダメだよ」

 「個人的な趣味で買うのよ、私は。気にしないで。それに、夏休み前に両親から振り込まれた無駄に多めの額の小遣いぶんが、まだ残ってる。平気」

 「──ねえ」アニタは真剣そうな声で切りだした。「寂しくならない?」

 思わずきょとんとしたものの、私は「まさか」と答えた。「ケイは、私が昔よりよく笑うようになったって言ってた。自分でもそう思う。しんどいことも多いけど、それはまた別の話。気持ちがラクなの」

 「けどそれが時々、無理してるんじゃないかって思う」

 「無理してたのは、小学校の時。今は平気。最近は夢もみないよ。考えもしない」だって、アゼルがいる。「おばあちゃんとは相変わらず、あのヒトたちの話はしないけど。私はそれでかまわないと思ってる。話したくないし、最初からいなかったものだと思ってる。私の親はおばあちゃんだけよ。あんたは似てない双子の妹みたいなもんで、ケイは弟みたいなもの。ゲルトはイトコみたいなもの。つきあってるのはアゼルで、でもあいつも含めて、マスティとブルはダメな兄貴みたい。それだけいればじゅうぶんだと思うけど」

 納得したのか、アニタは笑った。

 「そうだね。大家族だ。ごめん、もう言わない。あ、ランチ行ってんだよね。ごめん邪魔して」

 「んーん」顔をあげ、ダイナーのほうを見た。リーズたちはすでに中に入っている。「けどもう行く。うるさそうなところに紛れてくる」

 「がんばれ。報告ならいつでも待ってるよ、今日はデートじゃないから」

 「明日デートの邪魔しないよう、努力するわ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ベアラック・ダイナーの店内に入った。褪せたミディアム・シー・グリーンの床にブラウンの家具で統一された、家族連れや大人同士、高校生たちで賑わうアットホームな雰囲気の、広いけれどごちゃごちゃとした店内。フロアの奥の角──間仕切りで仕切られたU字型ボックス席に、彼女たちはいた。すでにアドニスとルキアノスも到着している。

 ただ、なにをどうすればそういう座りかたになるのか──奥の端からエルミ、向かって右側にニコラ、リーズ、インゴ、アドニス、そしてルキアノスと座っていて、私はルキの隣に座るしかなかった。なにがどうなっているのか、さっぱりわからない。

 わざわざ待っていてくれたらしく、とりあえず食事をオーダーした。

 「ランチにワッフル!?」店員がさがったところでインゴが私に言った。「腹おきるのかそれ」

 「だってね、やさしいエルミがデザート奢ってくれるって言うから。だいじょうぶ、それ食べてもまたデザート食うから」

 エルミはぎょっとした。「え!? ちょっと違くない!?」

 「冗談よ」そのままいければとは思ったが。

 私は手を伸ばし、テーブル中央に置かれた小ぶりな店員呼び寄せボタンを押した。

 「さっき店員引っ込んだばっかりだけど?」と、インゴ。

 「ふと思いついた。ワッフルの前にバーガー食べておく」

 彼が呆れた顔をすると同時にリーズとニコラ、アドニスとルキが苦笑い、エルミは溜め息をついた。

 「やっぱダメだ。あんたと一緒にこういうところ来たら、絶対変な目に合う」

 「あんた以上に変な目に合わされてる奴は何人もいるから、気にしないでくれる?」

 せわしくやってきた店員に、チキンバーガーとポテトのセットを注文した。店内のどこからでも賑やかな笑い声が聞こえる。と思ったら、子供の泣き声も少し聞こえた。こういう店の飯時は特に、流れる音楽など意味がない。お前ら全員黙れと思う。

 食事が届くまでも食べるあいだも、会話は主にインゴとリーズが引っ張っていた。アドニスとニコラとエルミが笑いながら口をはさみ、ルキアノスと私はほとんど聞いている状態だ。時々二人でぜんぜん関係のない話をし、彼らに会話に引き戻され、またそのうちといった感じで、同じことを繰り返していた。

 相手のタイプもあるのかもしれないけれど、その状況は、私にとってはあまり、居心地のいいものではなかった。うるさいのがキライというわけではない。聞き手にまわるのがイヤというわけでもない。教室でアニタやゲルトたちが、マブでマスティやブルが勝手に喋っているのを、ほとんど聞いているだけということもよくある。だが今現在のこの状況には、半端ない違和感を感じていた。

 私はなぜかルキアノスの隣にいて、彼を好きなはずのリーズはインゴとよく喋っていて、アドニスは二人の会話についていってはいるものの、時間が経つにつれ、ニコラとエルミは笑いながら相槌をうつ程度になっている。そんな状況に、いつものように喋る自分をわざわざ投げ込むというのも、なんだか気が引けた。リーズが楽しそうなのだ。

 そのうち、リーズはインゴのほうがよく話せているのではと思いはじめた。もちろん照れなどない。ある程度のカマトトぶりは、彼女がルキアノスに惚れてからはそれが定着しつつあり、なのでほとんど素のままというか。ある意味それは友達だから、ということなのだろうけれど、二人が恋愛関係になったとすると、エルミが──となるし、わけがわからない。

 自分がなぜここにいるのかが、私には本気で謎だった。

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