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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 08 * EXPERIMENT DAYS
49/119

○ New Plan By Act Of Urges Envy

 「こん中でいちばん歌うまいの誰?」ヤーゴが訊いた。「あ、女子限定な」

 「ベラ」

 アニタとペトラ、カルメーラとナンネとジョンアが声を揃えて答え、顔を見合わせて笑った。

 彼が続けて質問する。「んじゃ二番目は?」

 ペトラとアニタは眉をしかめて顔を見合わせ、首をかしげた。「このメンバー全員では行ったことないからわかんない」とペトラが答えると、アニタは「なにうたってもうまいって言えるのはベラだけ」と、わけのわからないことを言った。

 ヤーゴはにやにやしはじめた。「んじゃベラ。今度一緒に行くか」

 まだやんのかお前。

 「行ってこい」ゲルトが言う。「二人っきりで行ってこい」

 セテも便乗した。「デュエットしてこいデュエット。しかも甘々のバラードを」

 彼らは私に喧嘩を売っていると思われる。

 「そうね。それもいいかも」私は冷静に応じた。「始業式の日とかどうよ」

 ヤーゴはにやつくのをやめない。「んじゃどっかで飯食ってから?」

 視界の端で、アニタとペトラがやめろと言いたげな表情でこちらを見ているのがわかる。

 「うん。採点勝負ができるから、それで勝負すればいいよね。負けたほうが料金全払い」

 「マジか」ヤーゴがゲルトに訊く。「オレに勝てる見込みある?」

 「お前の歌がどんなもんかは知らねえけど、採点システムも知らないけど、たぶん無理」

 どうにか声を振り絞り、アウニが割り込んだ。「彼氏は──」こちらに言っている。「先輩が、怒るんじゃない?」不自然極まりない。

 「それは平気。そんなの気にする奴じゃないけど。なんならアウニも一緒に行く?」

 彼女はかたまった。「え」

 「なんならもうちょっと人数集めて、みんなで行けばいいんじゃないの?」私はきょとんとした表情のアニタに言った。「パーティールームの予約は数日前じゃないとダメだから、すぐにとは言わない。今年の打ち上げはカラオケで決まりかな。三十か四十集めて、二チーム──紅白に分かれる。何人かでうたうのでいい。採点システム使って紅白交互にうたって、合計得点を競う。で、負けたチームが料金を割り勘で払う。歌に自信がなくても、何人か一緒にうたってれば、そんなにバレないし」

 アニタとペトラは口元をゆるめて顔を見合わせた。

 「行こっか」笑顔のアニタが言う。「二学期の打ち上げでもいいけど、文化祭の打ち上げでもいいよね。修学旅行前にもう一回、そういうイベントが欲しいって言ってた子もいるし」

 「んじゃ文化祭のあとか」私はヤーゴへと視線をうつした。「そういうわけで、あんたと一緒にカラオケに行くのはかまわないけど、みんな連れてくことにする」

 彼は顔をしかめた。「いや、文化祭の打ち上げはそれでいいけど、始業式のあとはあとで、普通に行けばいいんじゃね?」

 私は、彼にやさしく微笑んだ。

 「せっかくだけど、あんたとふたりっきりで長時間密室にこもるなんてのは死んでもイヤ」

 後半部分を強調してそう言うと、ヤーゴが呆気にとられると同時に、ゲルトたちは天を仰いでげらげらと笑った。意外にもここではトルベンもふきだし、顔をそむけて笑った。

 「完全にフラれたな」と、ダヴィ。「残念」

 「今のはひでえ」笑うカルロが言った。彼はすでにソフトクリームを食べ終えている。「一生の傷だ」

 ヤーゴがはっとした。「いや、告ってねえのになんでフラれなきゃいけねえんだよ」トルベンに訊く。「フラれたの? オレ」

 彼は冷静に応じる。「他になにがあんだ」

 イヴァンが口をはさむ。「あれでヘコたれなかったら尊敬するな。死んでもイヤって」

 「あんまりしつこいと恐ろしい答えが返ってくるからな」ダヴィデは遅すぎる助言をした。「気をつけろよ」

 「もう遅いわ!」

 ヤーゴが叫ぶように言い、彼らはまた笑った。

 そんなやりとりの中、私はソフトクリームを食べ終えた。

 「っていうかわかってると思うけど、あんたたちも行くのよ」彼らを見やる。「女とうたってもよし、男同士でうたってもよし。どうせ曲が流れたら、マイクを持つかどうかなだけで、みんなうたうと思うし。もちろんうたわなくてもかまわない。同じチームの子に恨まれるかもしれないけど、負けた時にお金さえ出せば文句はないはず。人数多いほうが支払い額が少なくて済むし。カラオケは女子のほうが好きだから、積極的にいかないと、女子の独壇場になると思うけど」

 ヤーゴは少々ふてくされている。「ようするに金のためかよ」

 私は身を乗り出して彼に微笑んだ。

 「行かないってことは、歌が下手だって認めてるようなもの。うたわないってことは、私に負けるのが怖くて逃げるようなもの。みんなで行っても、一対一で勝負することはできる。私はあんたをフッたんだから、当然敵チームでしょ? 勝負するよね?」どうでもいい。

 彼らが笑いをこらえる中、ヤーゴはまたも呆気にとられた。

 だがかまわず続ける。「ちなみに巷では、歌がうまい男はポイント高いって話。それに中学にあがって、周りの女子もやっと、まともな恋愛ソングを聴くようにもなった。誰かに歌をとおして告白されるかもしれない。あんただってアピールできるかもしれない。あとね、このあいだ男友達とカラオケに行った時、男女ツインボーカルのラブバラードをハモってうたったけど、すごい達成感あったの。楽しすぎてハイタッチまでしたんだけど、別の子とバラードをうたったあとは、思わずハグしたくなったのね。してないけど。デュエットは完成度が高いほど、すごく盛り上がる。もちろん同性でうたうだけでもストレス発散にはなるし、楽しいけど。その楽しさに比べれば、割り勘で支払う額なんて、たいしたことじゃないのよ」ものすごく適当な言葉で締めた。

 肩を震わせながら笑いだした彼は、口元をゆるめてトルベンに言った。

 「行く。お前も引きずっていく」彼が答える前にイヴァンとゲルト、カルロへと視線をうつす。「お前らも」今度はダヴィとセテに言う。「お前らも全員」

 カルがすかさずこちらを見る。「オレ、とりあえずお前のほうのチームにいる」

 「いや、それやっても勝てるとは限らねえぞ」ダヴィが口をはさんだ。「ベラも何人かでうたうとしたら、点数がちゃんと反映されないかも」

 「けどあたしは同じほうにいる」アニタが宣言した。「ベラと一緒にうたうんだったら、点数は上げられる」

 ペトラが呆れた顔で口をはさむ。「あんたも歌うまいんだから、そこは敵チームにいなよ。そりゃベラのほうも、リーダーは必要なんだろうけど」

 気が早いな、と思いながらも私は割り込んだ。「チーム分けはそのうち考えるよ。二人か三人で一組。それをクジかなにかで決める。もしくはクラスで分けてもいい。A組とB組がひとつのチーム、C組とD組がひとつのチーム。人数もできるだけ平等にすれば、それなりになる。A、B組はペトラとアウニが相談しつつ、C、D組はアニタとカルメーラが相談しつつで決めることもできる。けどとりあえず、明後日始業式を迎えたら、私たちがやらなきゃいけないのは文化祭の準備。特にA組とD組。教室部門のくせにやることでかいんだから、そっちに集中。で、今は花火よ」

 アニタははっとした。

 「そうだ。花火だ」立ち上がってみんなに命令する。「一人二本か三本か四本! 持て! ものすごい勢いで消化する! 線香花火だってやるんだからね! そのための浴衣なんだからね!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 彼女たちが花火を再開して騒ぐ中、私は甚平を脱いで黒いタンクトップとショートジーンズ姿になり、サングラスをかけて髪形とピアスを変え、ひとりコンビニへと向かった。

 なぜ甚平の下にそんな格好をしていたのかって、イライラして煙草が欲しくなった時に備えていたのだ。年齢確認なんてことはされず、サングラスをかけているからか、何事もなく買えた。ちょっと切なかった。

 サングラスを頭にかけ、遊具コーナーの端にある木製の三人掛けベンチに寝転ぶと、火をつけて煙草を吸い、煙を吐き出した。雲ひとつない夜空に浮かんだいくつかの星がほんの少しのあいだ、煙で隠れた。

 吸っているのはアゼルと同じ、“Back Black”という銘柄の煙草だ。おなかの上には買ったばかりの煙草と携帯灰皿とライター、そして長財布を乗せている。

 他人を巻き込むことのない恋愛というのは、存在しないのか。私は巻き込んだり巻き込まれたりしている気がする。アニタは──今は巻き込んではいないけれど、以前の嫉妬王子は──巻き込まれたのかと言うのか。よくわからない。

 というか、イライラするからという理由で煙草を吸うようになったら終わりな気がする。アゼルたちは、なにかを食べたあとはとりあえず煙草が欲しいらしい。寝起きにも、ビールを飲んでいる時も、もちろんイライラした時も。そのうちあんなふうになってしまうのか、私。

 ステンレスのシンプルな丸型携帯灰皿を開け、長くなった灰を落とした。

 ああ、なにこの慣れた感じ。イライラした時に煙草を吸うようになったら終わりなのではない。自分で煙草を買うようになったら終わりなんだ。いや、終わりというのは大げさか。

 ジーンズの右ポケットから携帯電話を取り出し、煙草を吸いながら、アニタがいつのまにか撮って送ってくれた写真を数枚選んで加工した。アプリを使って、一緒に写ったゲルトたちの顔の一部にモザイクを入れる。なにこれ。かなり怖い。心霊写真か。

 新規メール画面を開き、“花火中”というタイトルで、別々の写真を添付してアドニスとルキアノスに送信した。今日いきなり“キア”呼びすると不自然だから、今度は“ノア”と呼ぶことにする。と、提案してみる。つっこまれる気がするけれど、他にどんな呼びかたがあるかを考えてたと言えば、どうにかなるような。

 アドニスはリーズと関係があるのかと勘ぐっているらしいけれど、アウニと同じで、相手に気づかれたことに本人が気づいていなければ、べつにいいのではと思う。ええ、思う。そんなことは知らない。アドニスもきっと、それをルキに言うようなことなどしないだろう。おそらくだが。

 カメラ機能を起動し、おなかの上にある煙草グッズを写真に撮った。これはアゼルとマスティとブルに一斉送信。笑われること間違いなしだ。

 ルキアノスからメールが届いた。

  《楽しそう。浴衣じゃないんだ? 似合いそうなのに。でも甚平も似合ってる。カラオケ行った時、花火すればよかったな。でもさすがにベラは飽きたか。今あのアルバムの最後のほうに入ってる“I Run To You”聴いてる。今度これ一緒にうたうってのはアリ?》

 ルキはカラオケで一緒にうたった曲が入ったアルバムを、けっきょく買った。気に入ったらしい。ちなみに、リーズとニコラも買った。デュエットのためらしい。

 あの曲もいい。詞の内容はあまり考えたくないことではあるものの、あれも好きだ。煙草の火を灰皿で消し、蓋を閉めて返事を打った。

 《諸事情により甚平。でも今はさらなる諸事情により、普通の格好してる。そうね。べつに花火、好きってわけじゃないし。今も逃亡してるし。あの曲も好き。またカラオケ行くの? リーズとニコラも知ってる曲だから、彼女たちと行けばいいよ。私はカラオケはキライなので。しかも今日話してて、また十月にカラオケ行くことになっちゃったし──》

 送信した。リーズを無駄推しすることはしない。やりすぎるとバレる。

 電話がかかってきた。マスティからだ。

 「はいはい」と応じた。

 「とうとう買ったのか。自分で」

 「買った」枕代わりに右手を頭の下に敷いた。「さりげなく面倒を押しつけられつつ、さりげなく喧嘩売られてるみたいで、なんかムカついたから」

 彼が笑う。「家に持って帰る気にならなかったら持ってこいって、アゼルが言ってる。吸ってやるって」

 「気が向いたら持って行くって言いたいところだけど、欲しくなるたびに買って渡してたら、さすがにお金がかかるからイヤ。今度シガレットケースでも買って、一本とライターをその中に入れて持ち歩くことにする。一箱じゃなくて」

 「まだハマりはしねえか。けど今吸って平気か? お前、いつも泊まりの時しか吸わねえことにしてたのに」

 私ははっとした。本当だ。なにをしてるんだ。

 「ヤバい。どうしよ。しくじった。や、おばあちゃんに怒られたりはしないはずだけど、そんなことすっかり忘れてた。なにやってんの私」

 マスティはけらけらと笑って、一緒にいるらしいアゼルに私の反応を伝えた。ブルが笑う声も聞こえる。

 彼は再び電話口に戻った。「アゼルが煙草一箱で泊めてやるって」

 「いいわよもう。そこまでして隠すことじゃないもん。帰ったらすぐシャワー浴びる」

 「ちょっと待てよ──あ、浴衣だったらタダだって」

 「着替えたから普通の格好。甚平はあるけど、もう着る気ない。暑いから」買った甚平が思いのほか涼しく、それを着てマブに行ったことは何度かあるが。「でも、煙草三箱で泊まりに行ってやるって言ってみて」

 彼はまた笑って、それをアゼルに伝えた。再び電話越しに喋る。

 「切れっつってるから切る。また帰り遅くなるんなら電話しろ。あと、明日は俺ら三人とも仕事。夕方までだから、昼に来ても俺らいねえぞ」

 やさしい。「わかった。じゃね」

 「ん」

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