○ Second Fireworks Night
八月二十九日、水曜日。
前日に連絡網をまわしたとおり、前回と同じメンバーで花火をする日がやってきた。
ミッドオーガスト前、誰がなにを着るかをメールや電話でやりとりしていたのだが、カルメーラから、ヤーゴの好みは普通浴衣かミニ浴衣か、どちらだと思うかを訊かれた。私は迷わず、男はミニだと答えた。というか、ヤーゴは確実にミニ派だと思った。
私はミニ浴衣を着るのをやめた。なぜって、よくよく考えるとミニ浴衣、ものすごくガキっぽくなる気がしたのだ。先日センター街に行った時、商品として売られたミニ浴衣を見たけれど、本当にガキっぽかった。それを着た自分を想像するとぞっとした。
結果、アウニとカルメーラがミニ浴衣を着ることになった。ジョンアと私は甚平、アニタとペトラとナンネは、それぞれに新しい浴衣を買った。ペトラは甚平でもいいと言っていたのだけれど、ナンネが首を横に振ったこともあり、私が浴衣にしろと言った。アニタと二人で浴衣だと、体型が違いすぎて目立つと思ったらしい。ペトラは太ってるわけではないものの、スポーツ女らしい体型なので、アニタとナンネの中間、少しアニタよりかなというくらいの位置にいる。と、思われる。
そしてナンネ、私とジョンアが甚平なものだから、キャッスル・パークまでとはいえ、さすがにひとり浴衣が恥ずかしいとまで言いだした。かといって親に送ってもらうのも抵抗があるだろうからと、私はナンネの家の近くまで、五人乗りタクシーを呼び寄せた。ついでにルートを変え、アニタとペトラも拾った。タクシーの運転手はさすがに驚いていた。ウェスト・キャッスルには夏祭りなどないし、周辺の町であったとしても、もうすべて終わっているからだ。
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午後七時三十分前、キャッスル・パークの隣にあるコンビニエンスストア、駐車場。タクシーから降りる私たちの姿を確認すると、すでに到着していた男たちのうち、ダヴィデとイヴァン、マーニとヤーゴは、揃ってぎょっとした。ヤーゴからはリッチ扱いされた。千フラム払えば釣りがくるのだが。
アウニとカルメーラはまだ来ておらず、ヤーゴは協力するよう私に話を持ちかけた。同時ではなく、別々に様子見したいのだという。どちらかが協力しているとすれば、引き離さなければならないのだが、その方法は、まったく浮かばないらしく。
「いきなりセクハラしようかとか言ってんだぞこいつ」セテが言う。「肩組むとか言ってる」
「アホか」私はさらりと言った。マスティやブルじゃあるまいし。
ヤーゴは声を潜めて反論する。「他になにがあんだよ! んじゃどうにかしろ!」
彼の脳内をシャッフルしたほうが色々と、てっとり早い気がするのだが。
「あ、あいつら来た」ダヴィデが駐車場の端にアウニとカルメーラを見つけた。「おお、あれが噂のミニ浴衣」
こちらも彼女たちの姿を確認した。後方にいたアニタたちも二人に気づき、そちらへと歩いていく。ミニ浴衣、オレンジカラーのカルメーラとピンクカラーのアウニは一台の自転車で来たらしい。
ゲルトが私に言う。「そういやお前、ミニやめたんか。普通に甚平着てる」
「ええ、諸事情により」
「ガキっぽい」そうつぶやくと、トルベンはヤーゴに訊いた。「あんなんでいいのか」
彼は空笑った。「中学二年はガキだぞ?」
イヴァンが弁護する。「まあ、年相応というか、キャラ相応というか」
「お前それ言うと、甚平着てるベラとジョンアがおっさんみたいになるから」と、セテ。
確かにジョンアの甚平は完全な男モノだが。
「とりあえず、カルメーラと同じ飲み物買ってみて」私はヤーゴに小声で言った。「あんたのだってわかるように一応、ラベルの端、ちょっとはがしておいて、目立たないように。そんでこないだと同じように、ジュースはテーブルの上に集めておく。同じくらいの量になったら、テーブルの上をぐちゃぐちゃにして、どっちのだかわからない状態にする。途中でどうにかアウニを引き離すから、あんたはテーブルにジュースを取りに行って、どっちのかわかんないってカルメーラに言って。困って真剣に見極めようとしたら、カルメーラは不正解」
カルロが口をはさむ。「こないだのお前とイヴァンじゃねえか」
「友達なら気にしないでしょ。好きならむしろ喜ぶ。あからさまに喜ばなくても、照れはすると思う。でも協力してるだけなら、戸惑うか拒否する可能性が高い」
「で、ヤーゴは二人の女と間接できると」
「え、そんなおいしい思いしていいの?」
「回し飲みなら普通にするだろ」セテはヤーゴに言った。「ベラなんてオレらのジュース、飲みまくりだぞ」
「あんたたちだって飲むじゃん」
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コンビニでそれぞれに花火とジュースとお菓子、私はついでにまたもインスタントカメラを買うと、揃ってキャッスル・パークへと向かった。荷物はテーブルに集めた。ヤーゴはできるだけ、カルメーラを先に行動させている。同じジュースを買うのも、ジュースをテーブルに置くのもそうだった。
そしてやはり、噴火花火からはじめまった。ねずみ花火や線香花火でも遊んだけれど、私はそれに騒ぐこともなく、ひたすら写真を撮っていた。私が写らないというのが気に入らないらしいアニタやペトラ、ジョンアには時々、カメラを奪われていたけれど。
ちなみに、前回のカメラはまだ現像に出していない。使いきってはいるけれど、二本あるほうがほんの少し、料金が安くなる。というかリーズたちの件があってそれどころではなく、そのうち、また買って一緒に出せばいいかと思うようになったというのも本音なのだが。
そして前回の残りを合わせた手持ち花火にうつろうかという時、ポケットの中で携帯電話が鳴った。ニコラからだ。私はまたカメラをアニタに渡してテーブルに向かい、電話に応じた。
「あ、ベラ? ごめん、花火してんだよね」
「うん、平気。どした?」
私はベンチにあがり、さりげなく荷物とジュースをごちゃごちゃにしはじめた。みんな、時々だがそれぞれに飲みにきている。今のところ、カルメーラとヤーゴのジュースがどっちだかわからない、という状況にはなっていない。
「さっきさ、アドニスからメール来て」と、ニコラが言う。「めずらしすぎて興奮してたら、ベラとリーズとルキのことだったんだけど」
「うん」
「言い忘れてたんだけど──」遠慮がちに言葉を継ぐ。「リーズがルキのことを“キア”って呼ぶようになったの、気づいてる?」
「うん。そっちが四人で遊んだ時からだよね」
「そう。高校話のあと、自分も呼びたいとか言いだして。おいおいとは思ったけど、ベラは気にしないだろうし、いいんじゃないかって答えたのね。んで誘われた時、メールで自分もキアって呼んでいいかって訊いたらしいんだ。で、呼ぶようになったんだけど」
「うん」
気にしない。いつのまにか止まっていた、テーブルを引っ掻き回す作業を再開した。探し物をしているように。
ニコラが続ける。「ベラのほうがさ、キアじゃなくてルキって呼ぶようになったじゃん。あれ、やっぱリーズに気を遣ってなの?」
「や、気を遣うって言い方は変。リーズがメールでキア呼びになってて、ルキは誰もキア呼びしないって言ってたし、特別呼びしたいんだろうなと思って。だったら私がルキって呼べば、リーズだけがキア呼びしてることになるじゃん」
「ああ──」納得したらしく、彼女はまた説明に戻った。「アドニスからメールが来たって言ったじゃん。なんか、このあいだカラオケ行った時、ベラがルキのことをキアって呼んでなかった気がするんだけどって言われて。あたしもそれで、はじめて気づいて。リーズがキア呼びしてることは知ってたらしくて、それとなんか関係あんのって訊かれたのね。ベラに訊けばって言ったら、今日は花火するって言ってたらしいからって。じゃあルキに訊けばって言ったんだけど、知らないって言われたって。勘づかれそうなんだけど、これ、リーズに言ったほうがいいのかな。あいつたぶん、ベラがルキ呼びになったのにも気づいてないんだけど」
そんなことを訊かれても。「気にするほどのことじゃないと思うけど、言ったらリーズが気まずい気がする」引っ掻き回す作業を終了した。「言わなくていいんじゃない? アドニスには、私が気まぐれだからって言っておけばいいと思う。また話すことがあったら、ところどころでキア呼びしておく」なんなら“ノア”呼びもしておく。
「ああ、うん。わかった──なんか、こういうの、疲れるよね。ごめん」
「だから、いいって。なにが正解かはわかんないけど、できるだけのことはする。それでどうなるかまではわかんないけど」
ニコラは苦笑った。「うん、わかってる。アドニスには言っとく。ごめんね邪魔して」
「んーん。じゃね」
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電話を切った私は、真剣に考えた。どうやってアウニを引き離せばいいのだろう。
女だけをコンビニにでも行かせる、という手もあるけれど、それだとカルメーラも一緒に、ということになる。それではダメだ。それに、今から実験をはじめるとヤーゴに言わなければならない。どうやって?
──男。誰だ。それができるのは、誰だ。ダヴィデ──いちばん話すのは──トルベンしかいなくない? ダメダメ。絶対ダメ。拒否されるに決まっている。ああ、なにを考えているのかわからなくなってきた。
先にペトラを呼び出して──そのあと──カルメーラを──?
目の前にある、ペトラが買ったアセロラジュースの蓋を開けた。そして、腕を伸ばしてさりげなく──テーブルの傍らに──落とした。
テーブル脇、ベンチのない部分。アセロラジュースは、鈍い音を立てて地面に落ちた。
笑いそうになり、こらえようとしたものの、我慢できず、声を押し殺して笑った。
なにをしてるんだ私。ちょっと待て。食べ物──ではない。飲み物。無駄にするなよ、私。
自分のバッグから財布を出しながら、ペトラに電話した。
彼女はすぐに電話に出た。「なに──って、なに笑ってんの」
私は声を押し殺したまま、肩を震わせて笑っている。
「ごめん──ちょっと──」笑いが止まらない。「ジュース──」だめだ。
「ちゃんと喋れ」
ごめんなさい。「ちょっとこっち来て。ひとりで」
パープルカラーの浴衣を着た彼女はすぐに来た。
「なに? なんで笑ってんの」
しっかりしろ、私。「あんたのジュース落とした。っていうか、こぼした。地面に落ちた」
「は?」
また笑いが。「だからね、弁償するから、アウニ連れてコンビニに行ってきて」財布から出した千フラム札を二枚、百フラムコインと五十フラムコインを一枚ずつ差し出した。「ついでにレジのソフトクリーム買ってきて。チョコレート。今からカルメーラをこっちに呼ぶから、カルメーラ以外なら、何人か連れてってもかまわない。その二千フラムで、みんなにもアイス奢っていいから。注文とってつきあってもらうのがいいかな。とりあえずアウニだけは連れてって」
お金を受け取った彼女は、あからさまに呆れた顔をした。
「またなんか企んでんの?」
私は笑いをこらえている。「だから、ヤーゴの実験よ。私がアウニを連れてくって、なんか変だから。帰りにでもまた説明する」
ペトラは肩をすくませた。
「わかった」
「ああ、ちょっと待って」
彼女を引きとめ、携帯電話の発信履歴からトルベンの番号を探して電話した。
彼もすぐ電話に出た。「なんだよ」
もしかしたら電話番号、登録してくれている。「今からペトラがアウニを連れてコンビニに行く。私はカルメーラをこっちに呼ぶ。ちょっとだけ時間置いて、すぐヤーゴをこっちによこして。ジュースで確かめる」
「だからなんで──」
「ヤーゴの番号知らないの」彼の言葉を遮った。ちなみに私、アウニの番号もチャーミアンの番号も知らない。興味がない。「隣に誰がいるかわかんないんだもん。恨むならヤーゴを恨め。じゃね」
電話を切ると、ペトラが苦笑った。
「めちゃくちゃだな。カルメーラに、あんたが呼んでるって言ってからコンビニ行こうか」
「うん、そうして」




