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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 06 * PLANNING DAYS
38/119

○ Flutter

 翌日、夜九時すぎ。

 オレンジ色の照明をひとつだけつけた屋根裏の自室。ラグの上に寝転んで音楽を聴いているところにカルロからメールが届き、返事をすると電話がかかってきた。プレーヤーの音楽を停め、ヘッドフォンをはずして応じた。

 「なんですか」

 「喋っちまったよ」カルロはうわついた素振りで切りだした。「どうしよ」

 「なにを?」

 さらりとすっとぼけた。なんのことかはわかっている。夕方ダヴィデの携帯電話から、イヴァン、セテ、ゲルトの名前を載せた報告メールが入っていた。カルロに家のことを聞いた、と。

 「いやいや。お前が訊いてもいいっつったって聞いてるから」と、カルロ。

 「イヤならはぐらかせばよかったじゃん」

 「べつにヤじゃねえよ。なんかずっと、あいつらなんも訊いてこないし、自分から話すのも変だし、みたいな感じだったんだけど。昨日そろそろ寝るかってなって、訊かれた。妙に気遣われたらイヤだなと思ってたけど、そうでもなかった」

 「変に気遣われても困るってのは言ったからね。気まずくなったら別の話題にすり替えろって」

 「気まずくってほどもならなかったわ。わりとあっさり終わらせてくれた。お前の話になって、誰がヤーゴを好きかって話になった。んで寝た」

 どうやらダヴィデは本当に、私の話もしたらしい。

 質問を返した。「誰がヤーゴを好きかってのはわかったの?」

 「いや、はっきりとは。でもオレらの答えは全員一致で、カルメーラかアウニだよなって」

 ヘタな協力は災いを招きます。

 彼が続ける。「今日の昼間な、イヴァンの家にヤーゴとトルベンが来て、会議したんだけど。やっぱりそこまでしかわかんねえから、とりあえず次の花火でカルメーラの様子見て、二学期でアウニに仕掛けるって。なにをか知らないけど。お前から訊き出したいけど、どうせ訊いても教えてくれねえだろうしっつってた。でもどっちかっつったら、ヤーゴはアウニのほうがいいらしい」

 どちらでもいいとは思うのだが、あえてカルメーラにいってほしい気もした。

 「もしかしたら勘違いかもしれないわよ。二人とも違うかもしれない」

 自信あり気に彼は言う。「いや、あの中なら絶対あの二人だって。お前の悪口並べてる時、一応って感じで庇ってたもん。なんか、ヤンヌ──カーリナたち見てるみたいだった。女って怖いとか思って」

 「仕掛けられた悪口だってのを知らないのよ。どっちかといえば、こっちのほうが怖いでしょ。その二人の両方か、どっちかがヤーゴを好きなんだとして、仕掛けたのに気づいたら、たぶんすごく怒る」

 厳密に言うと、カルメーラは怒らない可能性のほうが高いが、アウニは逆ギレする。これ絶対。

 「そりゃ怒るだろうけど──喧嘩になったとしても、お前はダメージなさそう。お前は噂を聞いてっつったけど、頼まれたんじゃないかって話になってる。トルベンは単に脅されたっつってるわけだけど。お前にそんなの頼むのも、あの二人くらいじゃないかって。アニタはオトコいるし、ペトラもそんな小さいことを頼んだりしないだろうし? あと最初、身長ので、お前がアウニとヤーゴを背比べさせただろ、それもあるじゃん。でも話しかけてくるのはカルメーラだし? みたいな」

 ゲルトの言ったとおり、かなりの憶測が行き交っている。

 「ま、好きに言ってればいいよ。私はどっちかっていうと、ヤーゴが見当違いの的を狙って恥かけばいいと思ってる」

 カルロは笑った。

 「それがあるから、かなり真剣ぽいぞ。勘違いしたら恥かくのは自分だって言ったんだろ? 話しかけられたりメールきたりってのだって、単に協力してるだけかもしんねーから、あんま調子に乗れないって。オレらもあれこれ言うもんだから、アタマ爆発しそうなくらい悩んでうなってた」

 「そうそう、そうやって悩めばいい。そんでいろんな女に手出していって、白い目で見られればいい」

 「性格悪すぎ。さすがにそれしたらアホだろ。ついでに言えば、選択肢に入れる前からベラにフラれてるよなって、ダヴィが冷静につぶやいたもんだから。ヤーゴ、変にショック受けてた。好きになっても告白もしてないのにフラれた、みたいな」

 「あいつだって私を選択肢に入れてないわよ。話の内容がもう、これから好きになろうとしてるみたいな感じじゃないもん」

 「どっちもどっちか」彼は納得した。「あ。ぜんぜん話変わるけど、昨日お前がくれた線香花火、今日飯食ったあと、妹に見せてやった。すげえ喜んでた」

 昨日鬼ごっこをしている時、まだ手をつけていなかった線香花火、十本入りの袋をひとつ、彼に渡した。妹へのおみやげだと言って、内密に。

 「びびってなかった?」私は彼に訊いた。

 「いや、最初は近づこうとしなかったけど、だんだん近づいてきて、最終的に自分で持った。一緒にだけどな。はじめて名前まともに呼ばれて、キュン死するかと思った」

 「なにそれ。ときめいたってこと?」

 「そう」彼が真剣に答える。「もう一生オンナいらねえとか、一瞬マジで思ったもん」

 「うん、たぶんそれはないよね」

 「ないな」あっさり肯定した。「けど中学行ってるうちは、もういいかなと思って。去年つきあってた前の学校の奴も、会いたいとかやりなおしたいとか言ってきてるけど、もうどうでもいい。とりあえず今は、こっちの生活楽しむ。家のこともあいつらに話したから、わりとすっきりしたし。ダヴィたちがそのうち家に連れてけっていうから、そのうち呼ぶ。そんで夏休み中に、あいつら全員の家に行く予定。昨日までダヴィの家しか行ったことなかったんだけどな」

 あっさりしている。男は単純で羨ましい。そしてこいつもダヴィデと同じくシスコンらしい。

 「そ」と、私。「じゃあ誰かがあんたのことを好きだとか言って、協力してとか頼まれたとしても、私はなにもしなくていいよね。心のコイビトがいるからって、拒否していいよね」

 「え」

 「そういうことで。私はこれから寝る準備をします」

 「え、ちょっと待て」

 「大丈夫よ、そんな女は今のところいないから」

 「いやいや。もしいたら、それは──」

 「カーリナとつきあってたあんたに手出そうとする女なんて、もう同期にはいないわよ。残念でした」

 「は? マジで?」

 おそらく、だが。「あいつらに睨まれるのがオチだもん。いないいない。大丈夫よ、誰かとつきあわなくなって、私たちといればじゅうぶん楽しいから」

 「なんだそれ? いや、そうだけど──まあいいや。んじゃな」

 「ん」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 シャワーを浴びて戻ると、リーズからメールが届いていた。

  《今帰ってきた。超楽しかった! 罪悪感が半端なくて、勇気出して言いました。高校行かないかも、それよりバイトしてお金貯めたいって。ちょっと違う気がするけど、そこは許して。キアもアドニスも、べつにいいんじゃないかって。やさしーよね、泣きそうになった。んでまたカラオケ行って、煙草も普通に吸った。アドニスが吸ってて、吸いたきゃ吸っていいって言われて、ニコラが遠慮なく吸ったから。キアも吸ったことはあるけど、今は吸わないんだって。学校で吸いたくなるとまずいから。うちらなんか、サボッて外に吸いに行くのにね。違いが恐ろしい。でも二人はそんなの気にしてなくて、やさしーし楽しい。ニコラも本気モードに入ったっぽいよ、アドニスに。ベラがすごく歌がうまいって言ったらね、今度ベラも誘ってみてって言われた。一応、ベラはカラオケがキライだって言ったんだけど。どうする?》

 ──リーズ。呼びかたが、“ルキ”から“キア”になっている。おもしろすぎる。なにこれ。

 私は、カラオケがキライだ。このあいだアニタと行って、五時間近くうたいっぱなしだったけれど。どうする? と言われても、どうもしない。

 一応、返事をすることにした。

 《おかえり。言えてよかった。頭いいわりには話わかるよね。けど補導されないように気をつけて。カラオケはキライ。このあいだアニタと行ってきたばっかりだし、よく知らないヒトの前でうたうのは抵抗があるから遠慮する。煙草、実はバレてたんじゃないの? 近くに行ったら、ニオイがわかるよね。吸ってたら気づかないけど、自分が吸ってないとわりとわかるじゃん》

 送信した。実際のところ、抵抗などない。かまわずうたう。

 再びビーズクッションの上に寝転んで目を閉じた。

 なんなのだろう。気を遣われているような、さりげなく来るなと言われてるような。よくわからない。

 呼びかたは──どうしたのだろう。“私もキアって呼んでいい?”、とでも訊いたのか。もしくは勝手に呼ぶようになったか。私が“ノア”と呼びはじめたら、彼女もルキアノスをそう呼ぶのか。それこそ誰も呼ばないと思うが。

 もしかすると、私の真似をしたのではなく、特別呼びを阻止したのかもしれない。というか、特別になりたかったのかもしれない。それなら私が、アドニスやその他大勢が呼ぶように、“ルキ”と呼べばいいのか。

 というかみんな、よくここまで暴走できるな。ナンネはアプローチこそしないものの、ある意味暴走しているし、エデとカーリナも暴走したし、アウニも周りを巻き込んで暴走しかけている。単なる私への嫌がらせのような気もするけれど。

 リーズから返事が届いた。

  《話、わかるよね。惚れる一方なんですけど、どうしよ。ニオイ、わかったのかな。けどそんなに近づいてないよ? ニコラとふたりで固まってんのが多い。アホなことばっかしてるけどアピッてはないから、むこうもたぶん、好きだってのに気づいてない。確かに補導されたら迷惑かかるし、やめたほうがいいよね。気をつける。反応見たかったってのがあって吸ったけど、吸わなくても平気なんだ、マジで。未知の世界だよ。頭いいヒトっていうか、聖人みたいなヒト? 好きになったの、はじめてだし。なにをどうしていいかわかんないっていう。あ、ミッド・オーガストの十四日、サビナが家に来る。逃げようとしたけど無理っぽい。今年二月のバレンタインの時から、あんままともに話してないんだけどね。超めんどくさい》

 リーズのキャラが、どんどんおかしくなっている気がした。ただの乙女になっている。

 聖人──チャーミアン? 違う違う。あれはニセモノだ。ルキアノスが本物だとは限らないけれど。

 リーズ、本当にベタ惚れだ。感心するほどだ。確かに彼女は誰かに惚れた時、少々乙女になることはあった。去年がそうだった。だが今回のこれは、度を超えている。キャラが変わりすぎている。不良ですらなくなっている。完全な乙女だ。

 十四日、サビナがリーズの家に来る。イトコだから。逃げられない。私にはどうでもいいのだが。

 どうしよう。返事は必要ですか? これ。

 《時々、手だけでもわかるよ。肩組まれたり腕相撲してるとわかるもん。逃げないで、サビナとちゃんと戦って! そういえば、サビナと二人でセンター街歩いたりしないの? サビナがナンパされたらどうなるのかって、ちょっと興味あるんだけど。とりあえず、私はその日、家から逃げておこうかな。さすがに会ったら気まずいし》

 送信した。腕相撲はブルにもマスティにもアゼルにも、あっさり負ける。手加減されて負ける。当然の話。

 十四日──火曜日。この日にセンター街に行くというのはアリなのか。でも彼女がマブに来ないということは、アゼルたちが彼女を観察できないということだ。却下。

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