○ Plan To Next Stage
私は、あまり恋愛の話をしない。
自分の恋愛については当然、無駄に話したりはしないし、他人の色恋についても、わざわざ訊いたりしない。興味がない。それは、リーズもニコラも知っている。だから、それなりに悩んでいる時でなければ言ってこない。
今の段階で、リーズが答えを求めて私に話すことといえば、高校の話を持ちだされたらどうしようということだけ。どんな話をしているか、進展具合はどうかなど私は訊かないし、私がいると、アゼルたちもそういう方向には話題を振らない。私がルキアノスたちからメールや電話をもらっているということも、リーズやニコラはおそらく知らないか、それほど気にしていないかだ。誘えないとか誘われないとかいう愚痴を言っても、私が特に反応しないことも知っている。私が返す言葉をわかっているのだ。
ブルたちの話によると、リーズとニコラは自分たちの宿題を適当に消化しつつ、ルキアノスやアドニスとはメールしたりしなかったりで、やっぱり誘ったりも誘われたりもしていないという。午前中にメールするとたいてい、ルキアノスからは“勉強してる”という答えが、アドニスからは“寝てた”という答えが返ってくるらしいのだ。
けれども私と結びつけて考えたりはしていないようだとマスティも言うから、私が誘われているというのはやはり、知らないのかもしれない。
キャッスル・パークのグラウンドエリア端にある三人掛けベンチの上であぐらをかき、私はアゼルに電話した。
「なに」と、アゼル。
電話をかけると、いつもこのはじまりのような気がする。
「リーズとニコラ、いる?」
「いや。飯前に帰った」
安堵した。「ちょっと前、また電話があった。リーズが惚れてるほうから」
「へー。なんて?」
「明日か明後日、リーズたちを誘って遊ぼうかってのを、もうひとりのほうと話してたんだけど。誘ったら来るかって」
「リーズよりお前が先か。これやっぱあいつ、望みないんじゃねえの?」
「さあ。もうひとりのほうからは、友達としてだってはっきり言われてる。んでアニタいわく、私の性格にヒかない奴は、友達としてでも恋愛対象としてでも興味持つんじゃないかって。最初にトモダチできるかってのを、リーズが惚れてるほうから言われたわけだから、恋愛対象だとは限らない。私はさ、やたら勝手にキスするっていう口説きしか知らないわけよ。どういうのを口説かれてるって解釈するものなのか、ぜんぜんわかんないの」
電話越しにアゼルが笑う。
「お前は鈍いうえに自惚れもないからな。普通の女は、その状態ならもう、絶対自分にベタ惚れだと思い込んでる。で? やっぱ断ったわけ?」
ベタ惚れとまで思い込むのか。「断った。とりあえず先に、リーズたちと遊んでほしい。それでリーズやニコラがうまくいくならそれでいいじゃん。それでもまだこっちを誘ってくるようなら、一度は会おうかと思ってる。そのうちゼスト・エヴァンスに行くつもりだから、その時にでも」
ゼスト・エヴァンスは、リーズとニコラに紹介されたCDショップだ。だけど私が行くと、店長のサイラスと長話をすることになり、彼女たちが一緒に行くと二人に迷惑がかかることが判明している。だから最初の一度以外、一緒に行っていない。といっても私も、まだ三度しか行ったことがないけれど。
「会ったら、それはあいつらに言えよ」アゼルが言った。「隠し事してたみたいになったら、完全に睨まれる。それじゃ分が悪い」
「うん、わかってる。だからさ、いちばんいいのは、前日か当日かに、“ファイブ・クラウドにあるCDショップに行く”って相手に言うことだと思う。待ち合わせするわけじゃない。約束するわけでもない。行くって言って、あとは向こうが勝手に来てくれたらベストだよね。そこからリーズとニコラを呼ぶかどうかは、むこうしだいだけど。その時たまにメールしてたってのを言えば、二人の反応が見えると思う」
アゼルはまた笑った。
「策士だな。けどお前的には、できればその男共とニコラとリーズと五人で、なんて状態は避けたいよな。気遣わなきゃいけなくなる」
「そう。絶対そうなる。人数合わないからもうひとり、なんてことになったら、さらに面倒になる。知らない奴をまたイチから相手にしなきゃいけないわけだから、それは避けたい。だからって事後報告になると、なんで呼んでくれないの? ってなる。どっちにしても私が面倒だよね」
「だな。んじゃそれ、あいつらがマブにいる時にすりゃいい。そんでむこうが来たら、電話かメールしてみりゃいいんじゃね。お前は観察できねえけど、俺らが観察できる。俺らをとるか好きな男をとるかの選択肢もできあがる。そこは確実にそっちの男をとるだろうけど」
間違いない。
「──いいのかな、こんなことして」私は溜め息混じりに切りだした。「もちろん、むこうから連絡があるかどうかはわからない。でもあったとしたら、試すようなことになる。そういうの、あんま好きじゃないんだけど」
「けどどっかでやっとかねえと、お前、なんもできなくなるぞ。気遣わなきゃいけないのかどうかってのを知りたいわけだろ? あいつらがどこまで嫉妬すんのかってのも。それわかっとかねえと、お前目当てのナンパがまたあったとして、それをまたあいつらが気に入ったりしたら、けっきょく似たような状況になる。中坊をナンパする奴より、高校生をナンパする奴のほうが多い。これからたぶん、もっと増える。どっかで知っとかねえと、あいつらと一緒にセンター街歩くことすらできなくなる」
私は今度こそ、深すぎる溜め息をついた。
「だよね──あからさまにむこうが誘おうかっていうんじゃない限り、メールにしようか。なぜか会った、クレープ食べながら話す、みたいな現状報告。特に不満がなくて、ただ来たいって言うなら、もうそれでいい。私はあんたの呼び出しで帰るか、そうじゃなきゃ、気遣い地獄の可能性もあるけど──ぐだぐだ文句垂れ流されるよりは、なにがどうなのかって、結果がわかるほうがいいし」
「そのくらいのほうがいいか。その気遣い地獄に投獄したままでもいいけどな。どうしても無理そうだったらメールでもしろ。したら助けてやる」
性格が捻じ曲がっているアゼルは、こういうのはおもしろがる。もちろんマスティもブルもだ。この状況で彼女たちが嫉妬するのはおかしいと、そう思っているからかもしれないが。
「うん。投獄したままはやめて。っていうか私、たぶん無口だけどね。いても空気を悪くするだけよ」
「だろうな」アゼルはあっさりと同意した。「そんで微妙な空気になったとしても、やっぱお前が睨まれる。女って本気でめんどくさい」
泣きそうだ。「それ以上言わないで。ただでさえ面倒なことに対してアタマ使ってるのに、さらに悩みが増える」
「はいはい。っつーかお前、花火してんじゃなかったっけ。終わったのか」
「ううん、まだやってる。でもこっちはこっちで女の嫉妬がはじまってるっぽいから、私は避難中なの。今ね、嫉妬されてる男のほうが、ゲルトたちと一緒になって私の悪口を女共に言ってるはず、女共の機嫌をなおすために」
「なんだそれ。そいつ、そんなにモテるわけ?」
「や、いるとしてもひとりだろうけど」あえてボカした。「その男が私にわけのわからない相談を持ちかけてきて、二人で話してたのね。そしたらそのあいだに、不自然にも女全員がコンビニに行っちゃったのよ。そいつが私を好きだって勘違いしてんの」
「好きじゃねえとは限らねえだろ」
私は笑った。
「ないない。好きな女にする相談内容じゃないもん。むしろ今から好きな女を捜すというか、つくるというか、自分を好きな女を捜すって感じ」
「へえ──ああ。悪口に対して喜んだら、その女がその男を好きってことになんのか」
「そう。やってらんないよね、まったく」
「けどお前は気にしないわけだろ。っつーかお前が悪口言えとか言ったわけだろ。どこまで変人になる気だよ」
「行けるところまで行く」そろそろいいかと思い、立ち上がった。「くだらないことを愚痴って周りを巻き込む奴はキライ」
向きなおるとちょうど、アニタがこちらに歩いてきていた。
「巻き込まれたアニタ嬢が迎えに来てるから、もう切る」と、彼に言った。
「ん。あ、今日の格好、どんなだ」
「白のキャミソールの上に黒の大きめタンクトップ。裂きっぱなしショートジーンズに厚底サンダル。バッグの中にはサングラス」
「可哀想に」アゼルが言う。「あいつら全員、一生ヤれねえ女のエロい姿を見せつけられてるわけだな」
「いや、エロくないし。キャミソールとかワンピースの女は他にもいるし。みんなショートじゃなくて、七分丈かロングジーンズだけど」
ベンチの脇に立ったアニタが口元をゆるめる。私は、“ちょっと待って”と身振りで示した。ちなみに、アニタはキャミソールとタンクトップを重ね着し、七分丈ジーンズとサンダルを履いている。
「脚出してんのはお前だけだろ」とアゼルが言う。「まあいいや。じゃな」
私だけ。「はい」
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「あれ、作戦ですか? 超悪口言ってましたけど」
携帯電話をポケットに戻した私に、口元をゆるめるアニタが訊いた。
「そ、作戦。どうよ? 成果は」
「ナンネとジョンアは苦笑ってた。ペトラはめちゃくちゃ笑ってた。ところどころで便乗して。あたしもそっち側、なんとなくわかったから。アウニとカルメーラは、あれ、ヘタしたらバレるよね。ペトラやあたしとはちょっと違うかな。否定して庇いつつ、顔見合わせて苦笑ったりしてたから」
ばれればいいと思う。「ヤーゴは好きって感情がわかんなくて、ナンネとジョンアはナシだと思うものの、他はキライじゃないらしい。つまりあんた含め、好きになる可能性がある。脈ありだって思ったらちょっとちょっかい出してみて、そのまま恋に発展するかも、みたいな状態。それを探るための作戦。誰が自分を好きかっての、わかったかどうかは知らないけどね」
納得したものの、彼女は呆れた。
「ってゆーか、あんた犠牲になりすぎだから。そりゃゲルトたちからは、常日頃から言われてる言葉だけど。そこにトルベンとヤーゴが加わったから、わりとすごいことになってたよ」
それはそれでおもしろそうだ。「面倒ね、女って。ウサ晴らしに鬼ごっこでもしようか。遊具エリアで」
アニタは賛成した。「いいね。どうせこの状況、ペトラがわかってたとしても、アウニとカルメーラは勘違いしたまま、変にあんたに同情することになるだろうし。セテがヤーゴに“ベラのこと好きなの?”って訊くのからはじまったんだ。ゲルトが、“あんな変人とつきあえるのなんてアゼルくらいだ”、とか言って、そこからどんどん。普通の女には耐えられない状態。アウニやカルメーラはたぶん、ゲルトたちがそんなことを日常的にベラに言ってるっての、あんま知らないはずだから。変に同情する可能性はあるでしょ」
私の悪口になると、彼らの連携は拍手レベルの完璧なものになるらしい。
「同情はいらないから嫉妬をやめてくれって感じだけどね。空気リセットするためにも鬼ごっこだ。また花火するんだから、残りはそん時にやっちゃえばいいし」
「だね」
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「ホントに送らなくていいわけ?」
ダヴィデが私に訊き返した。彼の後方にはゲルトたちが揃っている。
「だから、いいって」私は答えた。こちらにはナンネとジョンアがいる。「ナンネ送って、ジョンア送ったら、私はアゼルとでも電話しながら帰るから。平気」
「けどお前、トルベンたちも先帰らせたのに」
現在、夜の十時半すぎ。トルベンとヤーゴにアニタたちを送るよう言い、先に帰らせた。アニタとペトラ、カルメーラの家はけっこう近い。
私たちはすでにキャッスル・パークを出て、十字路にいる。オールド・キャッスルのほうを向くと、左側に飲食店、右にスケートボード・パークがある。ここまで来なくてもいいのに、彼らは出てきてくれた。だけどさすがにこれ以上送ってもらっても、ナンネとジョンアが気まずくなるだけだ。まともに話もできないのに。それに、彼らがイヴァンの家に戻るのが遅くなる。
「平気だって。全員送ってイヴァンの家に戻ったら、それこそ遅くなるじゃん。効率が悪い」
私がそう言うと、ダヴィデは肩をすくませた。
「んじゃ、ひとり帰るたびにメールしろ。誰にでもいいから」
「わかった。じゃね」
ナンネは心配されたというだけで、じゅうぶんすぎるほど幸せらしかった。疲れや眠気がぶっ飛ぶほどに喜んでいた。しかも夏休み中の花火に次がある。キャラ的には甚平だけれど、浴衣も着たいとか。ジョンアは甚平しか持っていないから、それにすると。
私はナンネのうしろに乗せてもらい、彼女の家まで行った。報告メールは私の携帯電話から、当然ナンネがメールを打ち、ダヴィデ宛に送った。興奮しすぎのナンネがうるさかったのか、気づいてポーチに出てきた彼女の母親に丁重に挨拶して彼女の家をあとに、今度はジョンアの自転車のうしろに乗せてもらって彼女の家まで行った。
ジョンアはなぜか、私に自転車を運転させ自分が荷台に乗るというのを嫌がる。そんなわけはないのに、自分のほうが体重が重いからと言って。彼女の帰宅報告メールはゲルトに送った。
ジョンアと別れると、ヴァーデュア・パークを歩きながらアゼルに電話した。現状を報告すると、マブにいたブルが煙草を買いに行くついでに──ついでと言うには、かなり無理があるが──迎えにきてそのまま送ってくれると言うから、それに甘えた。
ちなみに、鬼ごっこをしているうちに、リーズからメールが入っていた。明日ニコラと一緒に、ルキとアドニスと四人で遊んでくるという報告だった。私はそのことをブルに伝えた。彼も試すことは賛成だという。リーズは特に、今回の恋愛ではいつも以上におかしくなっているから、それをどうにかしてやりたいと。
アゼルに会うことなく家に送ってもらい、手間賃として煙草代をブルに渡して、帰宅報告メールをイヴァンに送った。みんながいるのは彼の家だから、なんとなく。
起きて待っていてくれた祖母と少し話をし、シャワーを浴びて部屋に戻ると、私は死んだように眠った。




