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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 06 * PLANNING DAYS
35/119

○ Wandering Mind

 恋する女というのは不思議だ。

 小学校で散々私服姿を見ているはずなのに──中学が制服で私服を見る機会がぐっと減ったせいか、私服姿にもいちいち騒ぐ。ナンネがダヴィデを好きだということはアウニも知っているから、ふたりして妙に興奮していた。中学に入ってからは普段、特に仲がいいというわけでもないのだが。

 ペトラが私にだけ奢ってくれると言うので、私はゲルトたちにアイスクリームとジュースを奢り、アニタはナンネとジョンアに奢って、ヤーゴとトルベンには、アウニとカルメーラに奢るよう言った。ちなみに、ナンネはあとでダヴィデのぶんを私に払うと宣言している。恋する女にとっては、奢ったり奢られたりというのですら貴重らしい。その行動が奢ったことになるのかは、かなり微妙なところだけれど。私はついでに、インスタントカメラを買った。

 コンビニを出て自転車に乗り、ヒト気のないキャッスル・パークへと移動する。

 私たちが用意した花火、ゲルトたちが用意した花火、ペトラたちが買った花火、そしてヤーゴたちが買った花火を足すと、相当な量になった。ゲルトたちは噴火花火を多めに買っていた。ヤーゴたちが買ったのもそれが多い。私もそちら側だ。プラスねずみ花火や蛇花火。だけどアニタたちは手持ち女子がメイン。ここでも男女の差が出てるのかと思うと、妙に切なくなった。

 イヴァンが持ってきてくれたシルバーのブリキバケツに、キャッスル・パーク備えつけのウォッシュスタンドで水を入れ──自転車を適当な位置に停めて、公園の奥にあるテーブルベンチのひとつに荷物を置いた。

 アイスを食べながら、私とアニタでグループをみっつに分けた。ひとつめ──アウニとカルメーラ、ヤーゴとトルベン。ふたつめ──アニタとジョンアとナンネ、ダヴィデとイヴァン。みっつめ──私とペトラ、ゲルトとセテとカルロ。

 そして噴火花火とねずみ花火、蛇花火を、誰が買ってきたものかは関係なく、種類だけを分け、順番に取っていった。あまったものは無視。同時に火をつけ、どのグループがいちばん長く火花を散らせるか、どれだけ高く火花を上げられるかというゲームだ。ところどころにある恋愛感情と嫌悪感情からくるチーム分けのためのゲームでしかないが。

 “勝負”という言葉になると、しかもそれが遊びだと、なぜか男は乗り気になる。そんな彼らを見ていると、女はすごく楽しくなってくるらしい。だけど私はそんなことにはかまわず、とにかく写真を撮っていた。

 カルメーラとトルベンの協力なのか、ヤーゴとアウニは楽しそうにし──わかっているのかわかっていないのか、ダヴィデもイヴァンも誰とでも話してくれるから、アニタの上手な立ちまわりもあり、ナンネとジョンアも、彼らと話しをしていた。こちらは問題ない。ペトラとゲルト、セテは普通に話せる。ペトラとカルロはあまり、話したことはないらしいけれど。

 噴火花火を終え、ねずみ花火や蛇花火で散々騒いだあと、やっと手持ち花火をはじめた。当然ひとりひとつじゃなく、数個持ったりもするのだが。

 「っていうか、花火は浴衣でするもんじゃねえの?」

 すでにグループではなく、でたらめな円を描くよう腰をおろして手持ち花火をしている時、花火を持つヤーゴが言った。

 「男の浴衣姿なんて見ても嬉しくもなんともない」と、私は言ってみた。

 「オレらじゃねえよ! 女は浴衣だろ」

 花火片手にアニタが笑う。

 「急だったからね。うちらはともかく、ペトラとカルメーラとアウニは、今日いきなり誘ったんだ。浴衣なんて着てる暇ないじゃん」

 「予定立ててだったら、浴衣着たかったよね」カルメーラがアウニに言った。

 彼女は口元をゆるめる。「うん、着たかった」

 「急って、全員急な招集?」トルベンが訊き返した。ダヴィデにも訊く。「お前らも?」

 「急といえば急」彼が答える。「夏休み前にベラが、八月のどっかで花火に誘うからっつってて。けど日付は決まってなかった。俺らは全員、いつ鳴るかわかんない呼び出しに備えて、花火とイヴァンの家に泊まりに行く準備してて。んで今日の夕方、突然呼び出しが」

 トルベンは呆れた視線をこちらに向けた。なにか言いたいのだろうけれど、他の女子がいる。だから言えない。

 私は気にしない。「わかった。んじゃ八月──確か三十日が最後だったはずだから、その前日の二十九日、また花火しようか。今度は女子浴衣。同じ時間、このメンバーで」

 「あ、そうしよ」ヤーゴがトルベンに言う。「オレらは甚平でいいじゃん」

 彼は顔をしかめた。「マジかよ」

 「けど」とペトラが口をはさむ。「うちらはニュー・キャッスルだからいいけど、あんたらどうすんの? 浴衣だったら自転車乗れないじゃん。歩きになるよ」

 ゲルトたち五人と、アニタ、ペトラ、カルメーラは、ニュー・キャッスルに住んでいる。ナンネとジョンア、アウニ、そしてヤーゴとトルベンは、オールド・キャッスルだ。あと、私も。

 「そこは適当にする。私は浴衣じゃなくてもいいし」

 ヤーゴが笑う。「ベラは浴衣着たままチャリ運転しそうだけど。「浴衣なんて女らしいもん、絶対着てらんねえだろ」

 一同、笑った。

 「そうね。私もどっちかっていうと、甚平派だわ」

 イヴァンが私に訊く。「持ってんの? 甚平」

 「持ってない。あ、浴衣をミニにしようか。膝上で切るの。それなら自転車乗れる」

 「甚平買ったほうが早くね?」ゲルトが言う。「もったいねーよ」

 「いや」ヤーゴが割り込んだ。「ミニ浴衣ってのも、アリかもしんねえ。どんなのか知らないけど」

 「え、どっち?」カルメーラが彼に訊いた。「どっちがいいの?」

 悩ましげなヤーゴをよそに、ダヴィデがつぶやく。

 「浴衣は浴衣でいいような」

 カルロもつぶやく。「でもミニもいいような」

 「そもそもベラには、浴衣のリボンってのがもう、似合わないような」セテは失礼なことをほざいた。

 ミスター・ゲルト・ハーネイは無関心。「どうでもいいような?」

 「好きなもん着てくりゃいいんじゃね」と、トルベン。

 「よし」ヤーゴは決断した。「浴衣とミニ浴衣と甚平、適当に割り振れ。んで、途中でそれを交換して着替え──」

 トルベンが彼の頭をはたいて彼を止めた。また笑いが溢れた。

 「まあ、それは女子だけで今度、相談しよっか」アニタが結論を出した。「んじゃ八月二十九日、みんな浴衣か甚平ね」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 再び花火をはじめると、ポケットの中で携帯電話が鳴った。ルキアノスだ。

 アドニスもそうなのだけれど、彼らは時々メールを送ってくる。私は気分しだいでそれに返事をする。あからさまに遊びには誘われていない。くだらない話を少しする程度だ。気まぐれなので、飽きたらすぐ返事を返さなくなることもある。

 電話してくると言って立ち上がり、私は電話に応じた。

 「ごめん、今平気?」

 どこまでを平気と言うのだろう。「うん、それなりに。どうかした?」

 カメラをアニタに渡した。荷物を置いているテーブルベンチに向かう。

 「や、明日か明後日、リーズたち誘ってみるかって、アドニスと言ってんだけど。誘ったら来るのかなと思って」

 私は手前にあるベンチに腰かけた。なんて面倒なことを言いだすのだろう、と思いながら。

 「ごめん、友達と約束がある」あっさりと嘘をついた。「気にせず──」

 バッグだのジュースだのが散乱するテーブル。自分のジュースがわからない。イヴァンと同じ、ホワイトブルーというスポーツドリンクを買ったのだ。どちらも半分ほど飲んでいる。

 私のジュース、どっち?

 「ちょっと待って」と、私はルキに言った。「ごめん、ほんとちょっと待って」

 「うん」

 私は振り返り、彼の名前を大声で呼んだ。「イヴァン! ジュース、どっちかわかんない! どっちでもいい?」

 彼も大声で答えた。「いい!」

 右にあるスポーツドリンクの蓋を開けながら、電話に注意を戻す。

 「ごめん、お待たせ」ジュースを飲んだ。

 「いや」ルキが答える。「もしかして、今遊んでる?」

 「うん。同期の奴ら十四人でね、花火してんの」

 「十四人? すごいな」

 「でしょ。最初は十一人の予定だったんだけど、三人増えて。しかもすごくキライな男がいる」

 「へー。でも遊んでる」

 皮肉に聞こえます。「これはしかたなくよ。女子ひとりを誘ったら、もうひとり女子がいて。そいつが男をひとり呼んでほしいって。でもグループ的に変な感じになるから、もうひとり呼んだの。それがキライな奴」

 「ふーん? 実はやさしい?」

 笑える。「そんなんじゃない。言ったでしょ、喧嘩が好きなの。そいつは二重人格で、私の前ではすごく口悪いんだけど、他の女子にはそうでもない。むしろイイ奴みたいね。性悪なところをみんなに見られたくないから、私がなに言っても我慢すんの。それを見てるのが──」

 うしろから頭をはたかれた。トルベンだ。

 「お前、マジでうざい」

 「うるさいよ。暴力反対。電話中。邪魔すんなアホ」

 彼は私の右隣でペットボトルのジュース数本を集めはじめた。視線は合わせない。

 「あいつらの前でよけいなこと言うなよ」

 「だから話しかけてもないじゃん。うるさいな」

 「なんか言ったら、すぐヤーゴ連れて帰るからな」と、ジュースを袋に入れながら言う。

 「勝手にして。恨まれるのはあんたよ」

 「一生そこで電話してろ」

 そう言うと、彼は袋を持ってみんなのほうへと向かった。

 こちらは再び電話に注意を戻す。

 「ごめん。聞こえた? 今の」

 ルキアノスが苦笑う。「聞こえた。ほんとに仲悪そう」

 「そう。実際はね、今日会ってからは、話しかけてもない。私も喧嘩すんなって釘さされてるから、話しかけたりしなかった。でも目が合うとね、お互いになんか言いたくなるの。喧嘩売りたくなる」

 「どんな? 男と女でそんな仲悪いのって、なかなかない気がする」

 「あいつだけよ。ちょっと前、かなり久々にまともに顔合わせて、即喧嘩腰。話したのが二年ぶりくらいなのに」

 「え、同じ中学だよな」

 「うん。ずっと、お互いに存在無視してた。けど、ちょっとモメ事みたいなのがあって。それで」

 「へえ。喧嘩?」

 「喧嘩といえば喧嘩。すごくくだらない喧嘩」

 「勝った?」

 「当然。圧勝よ。さらに面倒なことになったけど、喧嘩そのものはまるく収まった」まるくかどうかはよくわからないか。「みんな平和に暮らしてるのに、私だけがなぜか厄介事に巻き込まれるの」あんたのことも含めてね。

 彼が苦笑う。「楽しそうな気もするけどな──あ、ごめん。遊んでるんなら邪魔しすぎだな」

 「うん。気にせず遊んで。なんなら、エルミたちも誘って」

 「ん、わかった」

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