○ Fireworks Night
ニュー・キャッスル地区にあるキャッスル・パーク──ここは東西に縦長になった公園だ。オールド・キャッスルにあるバーデュア・パークほどではないものの、それなりに広さがある。周りはアイアンの柵と等間隔に並べた木で囲まれ、しかもご親切に、芝生が広がる遊具コーナー、白いコンクリートのベンチコーナー、そしてまた芝生の広がるグラウンドと、みっつのエリアに区切られている。区切られてといっても、柵があるわけではないが。ニュー・キャッスル地区は問題が起きにくいという認識が強いからか、周りが住宅街だからか、中高生が遅くまで遊んでいても、補導される可能性は低い。
私たちが待ち合わせをしたのは、その東側にあるコンビニエンスストアだ。クリームイエローとブラウンの建物に赤文字という、いかにもニュー・キャッスルらしい外観で、よせばいいのに、コンビニのくせに妙に大きい。“コンビニエンスストア”などと書いていなければ、服や靴を売ってるのではないかと思う。駐車場も無駄に広い。あからさまな生ものを取り扱っていないだけで、きっともう、マーケットにでもなったつもりなのだろう。
祖母が作ってくれた夕食を急いで食べた私たちは、いちばんにコンビニに着いた。店の外にある三人掛けのベンチをひとつ陣取って、そこに彼女たちが座り、私はアニタの脇で、壁に背をあずけて立った。まだ外は薄明るい。
間もなく、ゲルトとセテ、ダヴィデ、イヴァン、カルロが、自転車に二人乗りしたりひとり乗りだったりで、揃って到着した。
キャッスル・パークに入るには、主に東側に面した通りにある出入り口を使う。このコンビニは、折れたその通りの角にあるのだが、夏休み前に聞いた話によると、イヴァンの家は裏からその道りに出てこられない、ぎりぎりの位置にあるという。隣の家の敷地を抜けられればいいのだけれど、わりと小うるさい隣人らしく、それができないのだとか。目と鼻の先という距離にもかかわらず、けっきょく彼らは自転車で、ブロックをまわりこんでここに来た。
「助けて」自転車を停めた彼らに近づきながら私は言った。「トルベンが来る」
ダヴィデが笑う。「電話あった。なぜかお前から電話かかってきて、脅されたって。しょうがないからヤーゴと一緒に行くって」
来るのか。よかった。よかった? よくねえよ。「誰か捨ててきて。あいつをシフティース・リバーにポイッと──」
「できるか」ゲルトがつっこむ。「なに? どういう風の吹き回し?」
私は鼻で笑った。
「知らないわよ。くだらない噂を聞いて、私の中の悪魔が囁いて、あいつらを呼べ、あいつらを呼べって──」
彼らは笑った。
「頼むから、喧嘩すんなよ」ダヴィが言う。「お前ら喧嘩はじめたら、本気で殴り合いしそうだからイヤ」
同感だ。「電話でもヤバかったわよ。話進まないんだもん。それをこう、必死に抑えてですね」
「なにをそんなに──」
「ベラ!」
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私たちは一斉に声のしたほうへと振り返った。自転車を押してくるペトラとカルメーラ、そしてその隣をアウニが歩いて来る。
喧嘩売ってくれてありがとう、などと思いながらも、私は彼女たちに近づいた。
「急にごめん。平気だった?」
「平気」ペトラは自転車を、アニタやナンネ、ゲルトたちの自転車の傍に停めた。「ママに言ったら金くれたから、ここで花火買う」
「いいのに」
「あんた出してばっかりだもん」彼女は自転車のバスケットからバッグを取り、口元をゆるめた。「それにさ、ベラが呼んでるっつったら、多めにくれた。ジュースでもアイスでも奢ってやれって。制服とか一年の時のあれこれ、話してるから。超おもしろがってんの。久々に会いたいから今度家に連れてこいって」
「んじゃそのうち行く」
「うん。そんで金ピンチになったら、あんたの名前出すから。またくれるかも」
思わず笑った。「それすごいな。私の名前出すだけで、あんたがリッチになるわけだ」
「そう。すごいよね。やりすぎるとまずいかもだけど」
「そこはやっぱり、計算をですね」
「それ!」彼女はけらけらと笑った。「がんばる。マジがんばる」
「ペトラ!」
私の後方から、アニタが笑顔で駆け寄ってきた。両手を思いきり広げて。
「ああ、うるさいのが来た」
などと言いながらも彼女はアニタのほうに向かってハグに応えた。
「そっちは?」私はカルメーラに訊いた。「大丈夫?」
「うん、平気」停めた自転車の脇に立つ彼女が答える。「こっちもベラとアニタとペトラがいるって言っといたから。遅くても、十一時までには帰ってこいって言われたけど」
「うん。それくらいには帰る」小声でアウニに言う。「誰が呼びたがってるかってってのは、言ってない。けど、そっちはそっちで話してよ、普通に。私がトルベンと仲よくないの、知ってるでしょ」
というか私、アウニともそれほど仲良くない。時々なら話はするし、小学校の時、アニタやペトラ、カルメーラと遊ぶのに一度か二度、ついてきたことはあったものの、その程度だ。会えば必ず挨拶をしてというわけでもない。こんな相談をされるような仲ではないのだ。
悪気があるのかないのか、アウニは一応と言った感じの苦笑をこちらに返した。
「うん、ごめん。わかってんだけど、さすがに誘うってのは無理だったから。もしベラがヤーゴとトルベンを誘うの、いいって言っても、トルベンがなんて言うかわかんないじゃん。たぶん拒否されるし。だったら、ベラに説得してもらうほうが早いかなと」
「あやまるならトルベンにあやまって。あやまったら、あんたからだってのがバレるけど」
「ええ──」
「あ、いた」
彼女たちの後方で声がした。自転車を押してくるヤーゴだ。隣に歩くトルベンもいる。
「ほら、迎えに行け」と、私はアウニを促した。
「え」きょとんとした。「え」彼らを見る。「え」そしてカルメーラを。
ロボットか。
ゲルトたちに近づきながら、ヤーゴは私に気づいた。
「うそ、マジでベラがいるし。お前、なにが起きた。夏バテか? 気でも狂ったか?」彼も、私とトルベンが険悪な仲だということはちゃんと知っている。なので普段はまともに話さない。
「気が狂ってなきゃ、こんなことはしない。夏の暑さのせいよ。あんたの身長が思ったより伸びないのも、夏の暑さのせいよ」
私がそう言うと、ヤーゴは空笑った。
「笑えるけど黙れ。身長のこと言うな。トルベンとイヴァン除けば、さほど変わらねえんだからな」
正確な身長は知らないけれど、彼は私よりもほんの背が少し低い。ちなみにゲルトとセテと私の身長はそれほど変わらず、だけど私よりも少しゲルトのほうが、それよりもほんの少しセテのほうが背が高い。ダヴィデとカルロも、それよりは少し高い。イヴァンはもっと高い。
「なんなら髪もうちょっと伸ばして立てればいいよ。そしたら三センチは高く見えるから」と、私。
「んな卑怯なことするか! 伸びてるかもしんねえだろ」
そう言って自転車をトルベンに押しつけると、ヤーゴは私の横に立ち、背が高いのはどちらかとゲルトたちに訊いた。
数歩先でアニタとペトラは苦笑っている。おもしろがるセテがこちらに来た。
「両方うしろ向け。背中合わせろ」
あーあ。と思いつつ、従った。アニタとペトラは笑いをこらえてるらしい。
「──あれ」セテが言う。「ベラのほうが、かなり高い。五──七センチくらい?」
「うそ!?」ヤーゴは焦った様子でこちらを向いた。「え、なんで?」
五センチの厚底サンダルを履いているからです。私は彼に微笑んだ。
「チビはちょっと待て」
「は? チビって──」
むっとする彼を無視し、アウニに向かって手招きした。
「アウニ、こっち来てみ」
彼女が複雑そうな表情でこちらに来る。私に腹を立てている反面、顔に出すとバレるからと、こらえてるのだろう。
私はかまわず、彼女とヤーゴの背中を合わせた。
「──あ、よかったね、チビじゃないよ。アウニのほうが三センチくらい低い」
「あ、よかった──って」安心したのもつかの間、ヤーゴが顔をしかめる。「これ、なに? 慰め?」
私はショートジーンズのポケットから携帯電話を取り出した。
「女はちっちゃいほうが可愛いでしょ」
「そりゃそうだ」
「ちょっと待って、そのまま」カメラ機能を作動させ、フラッシュをセットしながら数歩うしろに下がる。「こっち向け。三センチの証明、撮っておく」
「なんだそれ」
「アウニ! 写真撮る時は笑顔!」彼女の前方でアニタが言った。
「ヤーゴ! VサインだVサイン!」セテが促す。「アウニも!」
こちらに向けて腕を伸ばし、笑いながらヤーゴは左手で、口元をゆるめるアウニは右手でVサインを作った。
私はそれを携帯電話のカメラで撮った。瞬間、フラッシュが辺りを光らせた。
これでアウニに文句は言わせない。「っていうか、遊びすぎ」アウニのメールアドレスは知らないから、カルメーラ宛に写真を送信する。「とりあえずアイスとジュース買って、行こ」




