○ Invitation
八月九日、木曜日。午後六時前。
花火を買った私とアニタ、ナンネ、ジョンアはひとまず、祖母の家の私の自室に集まった。
「なんて言って誘えばいいんだっけ?」携帯電話を両手に握ったナンネが不安げな様子で訊いた。
アニタが応じる。「さっき言ったじゃん。あたしはペトラとカルメーラに電話。ベラはゲルトとイヴァンに電話。ベラが花火に誘ってるってのだけ言えば、わかるから。今ベラはゲルトたちに電話してて、あたしはペトラたちに電話してるって。七時にキャッスル・パーク横のコンビニに集合。ベラがアイス奢るから──とまでは」私に言う。「言わなくていいか」
「ちょっと変だよ。会話的には」訂正してナンネに伝える。「コンビニに集合、まででいい。っていうか電話したら、ダヴィはイヴァンに電話して、あいつの家に行くはず。とりあえず今日花火決行だってのを言えば、わかる。ちゃんと言ってあるから、あいつらは毎日身構えてるはず」
アニタが笑う。「超ヒドイよね。とりあえず花火買って、いつくるかわかんない呼び出しを待ってるんだから」
「ゲルトにはミッド・オーガスト前に、しかも六時頃電話するって言ってあるから、だいじょうぶよ。話は伝わってるはず。あまりにも不自然だったら、ジョンアに代わってもらえばいい。っていうか」ジョンアに言い添える。「見てられなかったら、電話取り上げていいから、代わって」
彼女は苦笑って了承した。「代わりたくないから、がんばれ」
ナンネは身構えた。「わかった」
「よし、行こ」
立ち上がり、私はデスクに、アニタは階段へと向かった。
チェアに腰かけ、私はゲルトに電話をかける。
「暑いんだけど」と、これが彼の第一声。
「アイス奢る。あとジュース。だから今日、七時にキャッスル・パークに集合。花火は買った。もうイヴァンのところに行く準備、してあんでしょ?」
「してる。全員してる。お前の唐突の呼び出しに備えて八月の一日から」
「じゃあ大丈夫だよね。さっさと夕飯食べて、七時。遅くても七時半までに。それ以上遅れたら、えらいことになるわよ」
彼が笑う。「花火攻撃だよな、絶対。で、誰にまわせばいいわけ? 全員?」
「んーん。セテだけでいい。イヴァンたちにはこっちから電話する」
「了解。じゃな」
「うん、あとでね」
電話を切り、今度はイヴァンに電話した。おそらく男たちは全員、だいじょうぶなはずだ。問題はペトラとカルメーラだ。
イヴァンが電話に出た。「はいよ」
「久しぶりな気がする。元気?」
「んー。それなりに」
「それなりに元気あるなら、平気だよね。夕飯食べたらみんなが来るよ。んで、七時にキャッスル・パークに集合。早く夕食済ませて、みんなをハグで迎えてあげて」
「ヤだよ。変だろ。さっさと荷物上げて家出なきゃいけない時に、なんでハグで迎えなきゃいけないんだ。アホか」
「ひどいな。まあ、暑いからしたくはないだろうけど。じゃあ、ニュースペーパーで剣作って迎えるのはどうよ。ひとり一発ずつお見舞いすんの」
「あ、それならいい。足ひっかけるとかな──って、さすがにそれは折れるか」
私は笑った。「折れる。絶対折れる。とりあえず、カルに電話してくれる? ゲルトたちには」言いながら、ナンネのほうを見やった。ちょうど電話を終えたのか、ラグの上、ジョンアと手を取り合って喜んでいる。成功したらしい。「もう連絡済みだから」
「わかった──あ。ダヴィに聞いた。カルロのこと、お前に相談したって。今日花火終わったら、あいつに訊いてみる」
「うん。妙に突っ込んで訊かなきゃ、大丈夫だと思う。なんか修学旅行の夜みたいだけど。そんでたぶん、ダヴィからオマケ話が聞けると思う」
「は? なに?」
「ダメ。言わない。これはダヴィしだいだから──って、ゲルトもセテも知ってることだけど。あいつが言わなさそうだったら、訊けばいいよ」
「ふーん? わかった。んじゃ、あとでな」
「うん。あとで」
電話を切ると、こちらへ来るアニタが声をかけてきた。
「ちょっと問題発生」
「なに? ペトラたち、無理だって?」
「や、違う。ペトラは即オッケー。んで、カルメーラがさ。アウニと一緒にいるらしいんだ。今日アウニ、カルメーラの家に泊まるんだって。んで、アウニも来たいって言ってる」
「いいんじゃないの? べつに」
彼女は顔をしかめた。「それが、ヤーゴも呼んでくれとか言っておりまして」
「は? マジで?」
「マジで」彼女は肩をすくませた。「でもアウニが、自分が呼んでほしいって言ったの、ヤーゴに知られたくないとか言ってる。内緒にしてくれるなら、トルベンには知られてもいいけどって」
笑える。「おもしろい。あいつ、喧嘩売ってんじゃないの? ヤーゴとか言いながら、私に喧嘩売ってんじゃないの?」
「わかんない。どうしよう。どうすりゃいいの、これ」
しかたない。「あんたが電話する? トルベンに」
「そんなの即拒否に──」勢いよく答えたものの、最後はおとなしく締めた。「決まってんじゃん」
「番号教えて」
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トルベンは、二回目の呼び出し音が鳴り終わる前に電話に出た。
「誰?」
「ものすごく不快なお誘いです」と、私。
沈黙約四秒。
「──なんで、お前が」あからさまに、不機嫌そうな声。「俺の番号、知ってんだよ」
「すごいね。声だけでわかっちゃうんだ」
「切る。電話が壊れる」
「あんたの電話が壊れようと、私はなんにも困らない。むしろ一生音信普通になれ」
「あ?」不機嫌な声が返ってきた。「お前がなれよ。なに? 勝手に電話してきといて、なにわけのわかんねえことばっかほざいてんだ」
「ほざいてるのはお前だよ。とりあえず話を聞け。今日の夜、七時頃から、ゲルトたちと花火する。キャッスル・パークで。そんでね、女子のひとりが、ヤーゴを呼んでほしいって言ってんの」
「は? 知るか。勝手に呼べ」
「じゃなくて」ああ、面倒だ。「私たちだけだと、なんでそこにヤーゴを呼ぶんだって話になるじゃん。あからさまに不自然じゃん。でもあんたがいれば、不自然じゃなくなるじゃん」
「いや、不自然だろ。お前のいるところに俺が行くみたいになるのが、この上なく不自然だろ」
素晴らしい正論だった。「でもヤーゴは、そこは不自然に思わないかもしれない。A組にネタよこせってあんたが言ってきた時、そこにヤーゴがいたんだもん。あんたが連れてきたんじゃない」
彼はまたほんの数秒、黙りこくった。
「──なに。今度は脅し?」
私もアニタも、おせっかいにも程があるというか、なんというか。「脅していいなら脅すわよ。A組の担任に私がネタ提供したって言えば、反対するかもしれない。けっきょくまた振り出しに戻って、A組は地味なゲーム屋をやることになるかもしれない。あんたのこの一件のせいで」
またも沈黙を作ると、彼は溜め息でそれを破った。
「連れてきゃいいんだろ」投げやりだ。「なに? 七時?」
勝った。「七時にキャッスル・パーク横のコンビニに集合する。でも急な話だから、七時半とかでもかまわない。コンビニでアイスとジュース買ったら、キャッスル・パークのベンチのとこに行くけど。大丈夫、ダヴィもいる。花火は買ってこなくてもかまわない。こっちで用意してるから」
「あいつら、飯は?」
「食べて行く」
「あっそ。んじゃヤーゴに電話して、飯食ったら行く」
「うん、じゃね」
「ん」
電話を切ると、にやつくアニタに迷惑女への報告を促した。




