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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 05 * SICK DAYS
32/119

* Apprehension

 「よ」電話越しに、アドニスが切りだした。「なにしてんの?」

 リーズの高校進学発言から三日後、月曜日の朝の九時すぎ。彼からさっそく、電話がかかってきた。

 私はベッドの上、うつ伏せになっている。「──今、起きた」

 「え、うそ。悪い」

 眠い。「なんか用?」

 「いや、べつに」彼は軽い口調で答えた。「なんか一週間連絡禁止命令出されてたから、だったら月曜の朝っぱらから連絡してやろうと思ってただけ。で、実行しただけ」

 「そうですか。切っていいですか」

 彼が笑う。「ちょっと待て。ルキには電話したくせに、それはないだろ」

 「高校のこと訊きたかっただけ。特に深い意味はない」

 「オレに訊けばいいのに」

 「ちゃんと答えてくれるかわかんないじゃん」

 「失礼だな。そのくらいは答えるよ。で、それでもまだ遊ぶ気になんないわけ?」

 「キアから聞いてないの?」目を閉じたまま、仰向けになった。「私は相当頭の悪い状態から、五教科の合計を二百五十に持っていけるくらいまで勉強しなきゃいけないの。わざわざセンター街に行ってまで遊んでられない」

 とは言ったものの、そのうち一度は行く。ゼスト・エヴァンスに。

 「勉強なんか絶対しねーだろ。んじゃ確実に暇だって日、ない?」

 なんて失礼な。「ない」即答した。「女友達と遊んで、男友達とも遊んで、後輩とも遊んで、先輩とも遊ぶから」

 「先輩って、ニコラとリーズが入ってんじゃねえの?」

 「入ってるけど、そこに別の先輩も入ってる」

 「ああ、彼氏も入ってんのか」彼は皮肉を返した。

 だが気にしない。「そう。今年の夏休みは私、忙しいのよ。花火だの買い物だのテレビゲームだのって、予定がいっぱい詰まってる」そうでもない。

 「うそ、ゲームすんの?」

 会話のチョイスを間違った私。「する。あんまり得意じゃないけどね。先輩の家でしょっちゅう対戦してんの。カーレースとか格闘モノはぜんぜんダメなのに、嫌がらせで中古のそんなのばっかり買われたから、どうにかしたい」

 アドニスは笑った。

 「負けず嫌いか。オレは格闘ゲームは得意だけど、カーレースは苦手。ルキは逆。RPGとかは? しねえ?」

 ロールプレイングゲーム。「しない。対戦できないじゃん」

 ふと、リーズとニコラはどこまで話しているのだろうと気になった。こういう状況は、こういうことにもなってしまうらしい。

 「そこまでハマッてるわけじゃないけどね。うちにはゲーム機ないし」と、私はつけたした。

 「へー。ひとりっ子?」

 「うん。けど弟みたいなのはいる。クソ生意気でアホみたいに口悪くて、でもカワイイの」

 「なんだそれ。オレも弟と妹がいる。小学六年と四年。弟はクソ生意気だけど、でも両方カワイイ。からかうのがおもしろい」

 「いいね、兄弟いるの」私には、いない。「っていうか、おなかすいてきた。なんか食べてくる。大人数でうるさいのはあんまり得意じゃないから、遊ぶならニコラたちと遊んで」

 「少人数でもいいじゃん。なんならルキと三人でもいい」

 「身の危険を感じるからやめておく」

 「いやいや」と彼。「言ったじゃん、普通に友達でいいって。まあ、彼氏がいいならってのはあるけど。エルミの話だと、ベラはしょっちゅう男友達とつるんでるらしいから、そこは大丈夫なんだろ?」

 エルミの嫌味の影響力はすごい。「うん。男ばっかり。学校でも常に男友達といる。──あ。エルミと連絡とってんのか知らないけど、会ったとしても、花火するってのは言わないで。別グループでの話だから」そうでもない。

 「え、なにそれ。イジメ?」

 「誘う子はもう決めてあんの。人数的に定員オーバー。夏休み前からの、ある友達のための計画。言ったら絶対来たいって言うから」

 「ふーん? まあいいけど──あ。じゃあ、黙ってる代わりに条件。夏休みのあいだに、オレとルキと、あとは誰か誘うか誘わないかで、一回は遊ぶ。しかも花火する。それ約束するなら、黙っててやる」

 なんだこいつ。「あのね。私はその花火の予定、具体的な日付はまだ決めてないの。なんなら今日でもかまわない。あんたが喋る前に実行することが可能。それに日付も時間も場所も、私が言わなきゃあいつにはわからない。口止めしたのは、もしあんたが言ったら、別の気弱な友達が問い詰められるからってだけなのよ。それを避けたいだけ。わかる?」

 「なんだよ、頭悪くねえじゃん」彼は言った。「軽いノリで条件呑むとこだろ、それは」

 「ごめんね。そういう嫌味とか計算は、私にはほとんど通用しない」

 相手が頭のいい奴だとわかっているから、なおさら気は抜けない。などと言ってしまうと、アゼルの頭が悪いということになる気がする。だけどアゼルは実は、頭がいいんじゃないかと思っている。

 アドニスはまた笑った。

 「嫌味じゃないけど。まあいいや。今日は負け認めて、おとなしく引き下がる。またメールか電話する」

 もういいよ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 その日の午後一時すぎ──家に来たアニタに、先週金曜のリーズやルキアノス、今朝のアドニスの話をした。彼女は天を仰いで笑った。

 「笑いすぎだし」と、私。

 「ごめん、だって──」

 アイボリーラグの上、赤いビーズクッションに仰向けに寝転んだ彼女は、こらえようとしたものの、さらに笑った。

 彼女には、先週ナンパで知り合った彼らの話をひととおりした。“キアが私を選んだらしい”というのも話した。これはアゼルにも話してあることだ。リーズとニコラは当然、マスティとブルにも話していないけれど。

 それにしても笑いすぎだ。「だからさ。どうなの? こういうの。出るつもりなかったんだけど、あまりにうるさくて、思わずとっちゃったのよ。んで声聞いて、あれ? と思って──アドニスでした、みたいな」

 「んー。その前に、リーズはどうなの? さっき言ってた、高校の話。ルキアノスにしたの?」

 「まだしてないと思う」と答え、こちらもビーズクッションに背をあずけて寝転んだ。「昨日、どうやって切りだせばいいかって訊かれたから、いちばん自然なのは時期を見計らって、“やっぱり受験しないかも”みたいに、さりげなく言うことじゃないかって答えた。それしか浮かばない。ノリとか勢いで行く行かないを決めてるなんてのは、思われたくないでしょ。嘘だとも思われたくないはずだし、なにより、よく思われたくてってのは、知られたくないはずだから。かなり自然に言わなきゃダメだと思うって」

 「だよね」と答えると、彼女は手を後頭部とビーズクッションのあいだにはさみ、脚を組んだ。「アゼルの言うとおり、やっぱ嫉妬はおかしいよ。でも好きな相手がベラに好意的だったら、やっぱちょっとイヤかな。もちろんベラにその気がないってのはわかってる。でもたぶん──ほとんどの女は、勝ち目がないって思うんじゃない? ナンネとかジョンアもそうだし、エルミは勘違い女だからともかく、リーズやニコラも──顔がどうこうってのもあるかもしんないけど、ぜんぶひっくるめて、自分が劣ってるって思ってる。あんたがどれだけ自分を嫌ってるか、理解してないんだろうし」

 自分のことがキライだという話は、リーズたちには言ったことがない気がする。

 彼女は続けた。「逆恨みする可能性はある。惚れてるって知ってて連絡とったり、誘われてたりするから。遊ぶ遊ばないの問題じゃない。あんたから連絡してるかどうかでもない。むこうから連絡がきて、楽しげに電話で話してて、しかもやたら遊びに誘われてるって事実に。しかもこの状況。友達としてでも、二人から言われてるわけだから。ヘタしたら──」

 最後まで言わずに彼女が言葉を切ったので、こちらは続きを考えた。

 「──エデたちの時みたいな状況がまた、か」

 彼女は肩をすくませた。

 「そ」寝転んだまま身体ごとこちらを向く。「確かに嫉妬は変なんだけど、惚れてるからって理由で、そのヒトたちと連絡をとるのに文句を言うのもおかしいんだけど。惚れてると、そうなる」

 恋の病って、恐ろしい。

 アニタはさらに続けた。「初対面でも、あんたさえ普通にしてれば、ものすごく興味そそられるかヒくかのどっちかなんだよ。初対面でほとんど笑わなくたって、興味を持つヒトは興味を持つ。その二人みたいに。あんたが自分でわかってるように、やっぱ変わってるから。他の女と違うから。でもそれは、悪い意味じゃない。いろんな、いい意味で。一度興味持っちゃったら、友達としてでも恋愛対象としてでも、惹かれると思うよ。そうなると一緒に遊んだリーズたちより、もしかしたら、あんたのほうが印象が強く残っちゃう。短い時間だったからこそ、よけいに。その短い時間てのも、逆恨みの原因のひとつになるかも」

 ずいぶん小難しい話に思えるのだが。「じゃあ、どうしろっての? やっぱり、ナンパしてきた男と引き合わせるとか、よけいなこと、しないほうがいいの?」

 彼女は眉を寄せた。「もうしちゃったじゃん。ただ──」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 一度言葉を切ったものの、アニタはまた口を開いた。

 「こんな言いかたもどうかと思うけど、正解だとは限らないけど、たぶん餌的なところもあると思う──あんたは目立つ。身長あるし髪があるし、服がわりと派手。っていうかオシャレ。男が自分の顔レベルをわかってれば、あんたに声かけるのはたいてい、それなりに顔のいい奴だけ。でもあんたがナンパ嫌いで、他の男に興味がないってのもわかってる。それを考えれば、やっぱ餌的な部分はあるかも」

 ──餌。

 「そういや、そうだ」私は手で額を覆った。「終業式の日、言ってた。“ベラがいないと、あんまりナンパされないけど”って。つまり餌扱いしながら、私をナンパしてきた男に惚れて、そのうえこれから私があいつらと遊んだりしたら、逆恨みする可能性があるってこと?」

 彼女はまたも肩をすくませる。

 「たぶんだけどね」

 頭の中でなにかが気になった。「ちょっと待って。その、アドニスとルキアノスに会った日──引き合わせた時、リーズが、“ベラはナンパがキライだけど、でもつきあってくれるの”って、キアに言った」額に添えた手はそのまま、彼女へと視線をうつす。「これに、意味はあると思う?」

 アニタは悩ましげな表情をした。

 「うーん──“自分たちはナンパ待ちしてた”って、言ってるようにも聞こえる。“ベラをナンパするイコール私たちをナンパするってこと”、みたいな。けど、“ベラは自分が美人だって知ってるから、つきあってくれるんだ”って、言ってるようにも思える」

 つまり自意識過剰と。「それであれだよね。まえにアゼルに言われたんだけど──私は顔でヒトを見ないから、自分の顔がいいとか思ってなくて、鼻にかけてないって。だから女の敵が増えるって。“自分の顔がいいなんて思ってない”とか言ったら、嫌味だとか受け取るんだよね」

 「そうだよ」アニタはあっさり肯定した。「そうなる。それが女だよ。いちいち優劣を決めちゃうのが女。利用できるところは利用して、自分が負けたら勝手に敵扱いして、嫌味ぶつけてくる。ベラは可愛いってのもあるけど、美人の部類に入る。ヒトにも好みってのがあるけど、ベラはたぶん、誰から見ても美人だよ。ママやタニア姉も言ってる。ゲルトたちも、アゼルたちも言ってるじゃん。しかもスタイルがよくて、希少な色の瞳と髪を持ってる。だからよけい、ベラが自分の味方にならないってわかると、敵扱いする。そのうえ性格がそんなだから、よけいだよ」

 彼女の話を、額に手をあてたまま、目を閉じて聞いていた。褒められているのに、イライラしてきた。

 「アゼルの言うとおりだ。私は、なにやっても面倒なことになる。どんだけ面倒なの? 今さら性格なおすなんて無理だし、そもそも瞳の色とか髪とか顔とか言われたら、私にはどうしようもない。ほとんど見た目だけで、敵か味方か決められてるようなもんじゃん」

 「だから、それが女です」アニタが言う。「でもアゼルがいいって言ってんなら、そのとおりにすればいいじゃん。気分しだいでメールして、電話して遊んで、それでリーズたちと喧嘩になったとしたら、それはやっぱり、男のほうが大事ってことでしょ。いい加減あんたのこと利用して、男を奪られそうだから怒るとかなら、そんなの友達じゃないじゃん」

 これも、私の考えと同じ。

 「そうね。そうする」私は答えた。「いちいち悩むの、ほんとイヤだし。悩まないっていいかげん決めてきたのに、また悩んだし。なんか普段からやたら持ち上げられてるから、リーズたちが自分に自信持ってないってのも、わかっちゃうのよ。単に興味がなくて押しつけただけなのに、なぜか感謝されるし。惚れたとか言いだすし。高校話の流れで、リーズは脈なしだとか言うし──まだこれからどうなるかはわかんないけど。なんかあんだけ愚痴られたり、すごく惚れてるみたいなとこ見せられたら、気にかけなきゃいけないのかと思うじゃん。したくなくてもよ。ケイのことがあってから、よけいに──」

 一度言葉を切り、私は溜め息をついた。

 「ナンネにも、恋愛じゃないけどジョンアにも、よけいなことしないほうがいいってのはわかってんだけど。なんかしてあげたいわけじゃない。どうでもいい。でも思いつくことがある。思わずそれを言っちゃうし、やっちゃう。よけいなことだったって気づくのは、いつもあとになってから。どうしていいのかわかんなくなる」

 「それは、根がやさしいからでしょ」

 彼女の言葉に、思わず鼻で笑った。

 「そんなんじゃないわよ。イライラすんのよ。くだらないことで愚痴ってばっかり。ヒトに言えばどうにかなると思ってる。だったらどうにかしてやるわよって思っちゃう。最初から相談てカタチで話されるならかまわない。答えられる範囲で答えるから。でもあいつら、愚痴じゃん。ただの愚痴。あえて協力してとは言わない。こっちの意思に任せるみたいな。同情してくれるなら、みたいな。マジでくだらない」

 アニタも苦笑った。

 「ああ、それはわかる。知るかよって感じだよね。夏休みに会えないとか、誰に惚れただとか、なにが羨ましいだとか──黙ってようかと思ったけど、やっぱ言う」

 再び彼女の視線を受け止めた。「なに?」

 「夏休み前の告白。アウニが、ヤーゴを好きだとか言いだした」

 アウニ・ミッコネン。私がチャーミアンをD組の教室で泣かせた時、奴にあやまって終わりにしろと言った女。

 ヤーゴ・アレヒ。トルベンのアホと一緒に、私にネタをよこせと言ってきたアホ男。エロを絡ませろとか言ってきたアホ男。

 「は? マジで?」

 「マジで。知るかって感じじゃん。夏休み前にそんなこと言われても、知らないよって。まあたぶん、去年の打ち上げみたいなことするつもりなら、ヤーゴも自分も呼べってことなんだろうけど」

 アウニもヤーゴも、花見には来ていたけれど。エデたちがトルベンやヤーゴとよくつるむようになったせいで、少々近づきづらくなったということか。くだらない。

 私はさらに、イライラしてきた。「どうしてほしいとかがあるなら、はっきり言えばいいよね。好きになったとか報告されても、ああそうですか、よかったね、としか言えないし」

 「だよね」アニタも同意する。「でも言われたからには、けっきょく、どうにかしなきゃいけないのかな、とか思うし。世話焼いたら、むこうは頼んでないのにーとか、超嬉しそうに言ってくる。しかも調子に乗って、あれこれ遠まわしに言ってくる。面倒すぎ」

 これが女の生態というやつか。「ムカつくから、カラオケ行こうか」

 彼女は笑顔で飛び起きた。

 「行こ。ムカつくからフリータイム。時間いっぱい歌ってやる」

 こちらも身体を起こす。

 「とりあえずリーズたちはもう少し様子見る。メールとか電話とかは、気の向きに任せる」

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