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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 05 * SICK DAYS
31/119

* Suggestion

 私は質問を返した。「じゃあ、酒飲んだり煙草吸ったり喧嘩したりってのも、いるの?」

 「そりゃいるよ」ルキアノスはためらうことなく答えた。「同期には喧嘩する奴、そんなにいないけど。喧嘩で問題起こす先輩は何人もいた。アドニスもたまに酒飲むし、中毒ってほどじゃないけど煙草もやるよ。俺も煙草吸ったことあるし、酒も飲んだことある。女の子は知らないけど、男は中学の時にそういうの、一度は経験するもんなんじゃない? それを続けるかどうかってだけで」

 すごく話のわかるヒトだ。と素直に思った。「他の女は知らないけど、私は両方した。ハマッてはないけど、飲めって言われたら飲むし、時々吸う。でもこのあいだはじめて、本気で煙草が欲しいって思った」

 「なんで? イライラした?」

 「そう。家にいたから、けっきょく吸いはしなかったんだけど。受験勉強とかしはじめたら、もっとイライラしそう。ヘビースモーカーになったらどうしよう」とか言ってみた。

 ルキアノスがまた笑う。

 「アドニスがそうだったな。こっちが真剣に勉強してんのに、あいつは根が勉強嫌いだから、イライラして煙草吸いはじめる。俺は煙たくて勉強に集中できないっていう」

 思わず苦笑った。隣で煙草を吸われることは平気らしい。「でも両方受かってんだもん。すごいよね。けど、女に煙草吸われるとイヤだとかいうヒト、いるでしょ」漫画知識。「やっぱダメなの?」勘違いされたらどうしよう。

 「んー、どうだろ。日常的にヘビースモーカーってのはイヤだけど、たまに吸う程度ならいいんじゃない? 外にいる時に一緒に補導されるのは困るけど」

 半端な答えだ。「そう。なんか変な話になってごめん。私は酒も煙草も、オトコに覚えさせられたから。そいつの友達も一緒につるんでるんだけど、三人ともそんな感じだから、普通のヒトの感覚がよくわかんなくて」とか言っておく。

 「ああ──え、エルミが、ベラの彼氏は俺らと同い年だって言ってたけど。同期の男友達は? やっぱそんなの?」

 どこまで喋ったんだあの首長族。「同期の男友達は不良じゃない。でも私がなにしても、なにも言わないの。キホン、私がなにしても驚かないのよ。私を生まれた時からの不良だと思ってるらしいから」

 彼はまた笑った。「なるほどね。──なんかエルミが、ベラは男友達が多いって言ってた。いつも男とつるんでるって」

 「そう。ホントに仲のいい女友達はひとりだけ。あとは適当。小学校の時から仲のいい同期の男友達が、五人いる」なぜかカルロもカウントしたらしい私。「その子たちとは今、クラスも一緒だから、全員じゃなくても、常に何人かでいる。で、放課後はつきあってる男とその友達の四人でいることが多い。女友達とも話はするんだけど、つるむのは男のほうが多いかも。だから男好きってよく言われる」

 「男好きなの?」

 「さあ。その言葉の意味がよくわからないから。でも男といるほうがラクだってのはある。気を遣われるのがイヤなの。遠慮されるのもイヤだし、頼られるのもイヤ。気を遣わずに好き勝手させてくれるのが、男に多い。だから男といるの」

 「ああ──なんか、変わってるな。頼られるのがイヤとか、はじめて聞いた」

 「変わってるってのは、よく言われる。異端児なの。暴力が好きなわけじゃないけど、喧嘩が好き。復讐が得意。短気ですぐ怒る。でも無関心。他人に興味がない。面倒なことがキライ。頭が悪くて性悪で口も悪くて、かなり自己中。だから敵が多い」

 彼は苦笑う。「無関心てのは、このあいだ会った時、なんとなくわかった。変わった娘だなってのは思ったよ。他の娘と違うなと──興味があるかはわかんないけど、ひとつ教えといてあげようか」

 「なに?」

 「さっき言った、高校の五教科の合計点の話──あれね、高校入ってから聞いたんだけど、実際は言われる点数から、五十くらいマイナスできるらしいんだ。言われるのは、あくまでそれくらいの気持ちでいけっていう目標点。っていうか、合格がほぼ確実になる点数。君の言うミュニシパルだと、中学が提示する点数で言えば、二百五十。でも実際は、二百あれば入れるって噂」

 二百。「平均が四十ってこと?」

 「まあ、そういうことになる。それで余裕ってわけじゃないけどね。受験して面接がとおった中で、点数が上の人間から選ばれるってのは、当然の話だし。インディ・ブルーなら百あればって言われてたり、シーニック・インレットだと、百八十じゃなくて百三十から百五十くらいだったり──ずっと南にある、ベネフィット・アイランドでいちばん頭のいい公立、サウス・ノック高校は、絶対四百点必要だって話と、二十か三十くらいはマイナスしてもいいって話がある。俺が行ってるイースト・キャッスル高校も、実は三百あれば入れるって話」

 再び衝撃が舞い降りた。だがそれは嬉しい衝撃だった。

 「なんか、行けそうな気がしてきた」平均が四十と五十では、私にとっては差が大きい。

 「あんま言っちゃダメだよ。それに目標は、二百五十にしといたほうがいい。二百目指して落ちたら、俺の責任みたいになる」

 逆恨みの可能性はある。「どうにかやってみる。まだ一年半あるし。ちょっと気になっただけなの。ごめんね、長々と。不良というより不良品なりに、受験はがんばる」

 「不良品とか言うな。うん、がんばれ。なんならその時がきたら、勉強教える」

 数分話しただけの人間に、なにをほざいているのだろう。「そうね。どうしてもヤバそうだったら、お願いするかも」社交辞令を返した。「でも私もひとつ、教えといてあげる。一学期の期末テスト、私、理科が十八点、数学が二十八点だったから」

 「え」

 絶句した彼の姿を想像し、笑った。

 「その程度なの。かなり苦労する気がする」

 「いや、今からならどうにかなるはず──いや、わかんないけど」

 「まあ、落ちたら落ちた時よ。その時考える」

 「うん。──あ、来週になったら、アドニスがメールか電話、するかも。ベラが今週はダメだって言ってたってのは伝えたから、してないと思うけど」

 「そ。ま、出るかはわかんないけどね」

 「それはわかってる。あんましつこく誘われるようだったら言って。あいつから電話取りあげるから」

 笑えるがそれをすると、私があんたに電話することになる。「わかった。そうする」たぶんしない。「ありがと、じゃね」

 「うん、また」

 “また”はきっと、ない。「バイ」

 電話を切った。長すぎる。だけど必要な話は聞いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 私は身体を起こした。少し開いたドアに向かって言う。

 「座り聞きしてるのは誰ですか。マスティとリーズとニコラあたりですか」

 マスティが笑いながらドアを開けた。大当たりだ。リーズとニコラはなぜか正座で、三人が並んで座っている。

 「長えよ」彼が言った。「で、どんな感じ?」

 「高校行ってない友達もいるから、気にしてないっぽい。行ってない子は、毎日羨ましいくらい遊んでるって。自分は親がうるさいからってだけとかとも言ってた。すでにインディ・ブルーを辞めた子もいるし、でもそれはさすがにもったいないから、だったら行かないほうがマシだって。煙草も酒も、キアは試したことあるって」

 リーズは変なところに反応した。こちらに質問を返す。「キア? ルキ?」

 「うん。ナンパされた時、“ルキ”でいいかって訊いたら、みんなそう呼ぶって言うから。じゃあ“キア”って言った。アドニスは酒も煙草もたまにするみたい。特に受験の時はイライラしてて、キアの前で煙草吸ってたって。日常的なヘビースモーカーはイヤだけど、たまにならいいんじゃないかって。中学で一度はそういうの、経験するだろうしって言ってる。勉強ができるわりに、そういう偏見はないみたい。どのくらい勉強ができればいいのかって話で、やっぱり高校行かなくてもいいかなって言っても、特に反応はなかった。べつにいいんじゃないのって。外歩いてて一緒に補導されるのは困るけど、そうじゃないなら、吸っても飲んでもかまわないみたい」

 「よく自然にそんだけ聞きだしたな」マスティは感心していた。リーズに言う。「正直に言えよ。すぐにとは言わねえけど、くだらねー見栄張ったって仕方ないだろ。このまま酒も煙草もやめるんなら、それはそれでいいかもしんねえけど。高校行くとか行かないとかじゃ、話の規模が違う。もう一回ちゃんと考えろ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「どんどんあいつらのアホさ加減が明るみになってきたよな」と、アゼルはふいにつぶやいた。

 あのあと、リーズはひとり帰っていった。家でひとり反省して、ちゃんと考えてみる、と。ニコラは私たちと遊び、二十二時を過ぎた頃、マスティとブルと一緒に帰っていった。

 私はアゼルのあとにシャワーを浴び、エアコンをつけて明かりを消した奥の部屋。ベッドの上にふたりして、向き合うように横になった。今日は泊まる。

 「夏のせいじゃないの? サマー・ハイテンション」

 こちらの言葉に彼が笑う。

 「俺らとは違うフラフラだよな。なんであんなにフラフラできんのかわかんねえ」

 「フラフラしてるっていうか、まっすぐなのよ。確かに端から見れば、フラフラしてるだけだけど。好きって気持ちに忠実。周りが見えなくなる。よそ見しまくってあんたを怒らせる私とは真逆ってこと」

 「ああ、なるほど。そう言われたら納得できる」

 納得されてしまった。「たった一週間で、なんでそんなに夢中になれるのかはよくわかんないけどね」

 「一週間後のお前って、どんな感じだったっけ」

 つきあって一週間後。「すぐお互いに宿題と補習漬けになって、約一週間ぶりに会ったってのしか覚えてない」

 「だよな──あ。けど、お前はヤるのに慣れるの、早かった気がする」

 なにを言いだすのだろう、この男。「早かったっていうか、最初の日とかそのあとの放課後、がんばったからじゃないの? しかも一日一回じゃなくて、短い時間で二回とか。ありえない痛みに耐えながら」

 アゼルはまた笑った。

 「確かに。半分しか入ってない状態だろうと、ぜんぶ突っ込む時でも、痛いの我慢してんのがおもしろくておもしろくて」

 ムカつく。「ドS」

 「お前がはじめてイッた日は覚えてる」

 「なに言ってんの」

 「いや、日付じゃなくて。センター街行って、花火した日。朝っぱらからお前がここに来て、昼寝する前にヤッた日。はじめて座ってヤッた時」

 ──その日の夜、はじめて、アゼルに“好き”って、ちゃんと言った。アゼルからも、ちゃんと聞いた。

 「あん時アホなこと言わなきゃ、こんなことにはなってなかったかもしんねえのに」

 「意味わかんない」

 「認めなきゃって意味」

 ──彼も、覚えている。私が覚えていることも、わかっている。

 「認めても認めなくても、けっきょく──」

 私は言葉を切った。言うわけにいかない言葉だ。

 アゼルが右手で私の頬に触れ、私たちは目を合わせた。

 「言っても言わなくても、同じのような気がしてる。時と場合によるけど、今みたいな時は特に。けど絶対言わねえ。言うとしたら、死ぬ時に言ってやる。お前がいるかどうかは知らねえけど、いなかったら、お前が来た時、棺ん中で言ってやる」

 ──これは、暗示に似ていて、復讐にも近い。

 「それからは、何度だって言っていいよね」

 私がそう言うと、彼は微笑んだ。

 「そういうこと。言わねえぶん、カラダに教えてやる」

 キスをした。深くて深い、愛のあるキス。

 何度も何度も、繰り返したキス。

 何千回繰り返しても、飽き足りないキス。


 “俺はもう、お前に好きだって言うつもりはない。だからお前も、もう言わなくていい”

 忘れもしない、去年のクリスマス、アゼルが私に言った言葉。

 “約束”ではないけれど、私たちは、そういう取り決めをした。

 お互いに一度、それを破ったけれど──けっきょくまた、言わなくなった。言いたくても、言わなくなった。

 “好き”という言葉は、私たちにとっては重い。

 “好き”という、たったひとつの言葉が、私たちにとっては重すぎる。そこに懸ける“期待”が、大きすぎる。


 “愛してる”

 三月、アゼルが二度目の浮気を口にした時、私は彼に言った。それももしかしたら、復讐のひとつだったかもしれない。

 アゼルは私を愛していて、だけど自分がいい意味で変わったことを、きっと、恐れてもいる。

 私を手放したくないのが本音で、だけど心のどこかで、本気で別れたがってもいる。

 それは、私も同じだ。

 これ以上一緒にいると、とんでもないことになる気がしている。だけどもう、手遅れだということも知っている。


 気持ちを口にすることは、私たちにとって、深みにはまっていくということ。

 そこに懸ける、大きすぎる“期待”を、さらに大きくすることになる。そういう意味では、私にとって復讐のひとつだった。

 別れないし、泣きわめきもしない。“それでも愛してる”と言って、それに期待させることが、ひとつの復讐だった。


 そして気持ちを口にしないということは、自分への暗示だ。いつのまにか、目に見えないところで、どんどん相手に溺れていく自分への、“これ以上はまずい”という暗示。

 だけどそれは同時に、相手への復讐でもある。言ってほしくても、言ってあげない。

 “これ以上来るな”という警告。

 “これ以上進みたくない”という本音。


 アゼルの言うとおり、けっきょく、言っても言わなくても、同じだった。

 お互いの愛を確かめる術はもう、ベッドの上にしか残されていない。

 私たちはそこでいつも、全力で愛を交わしている。

 全力でお互いを感じ、全力で愛を伝え合っている。



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