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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 01 * NEW DAYS
3/119

* About Us

 私を見るなり、マスティは唖然とした。

 「お前、どうしたんだその前髪。どこに落としてきた」

 「落としてないし。切っただけだし」と、私。

 アニタやゲルトたちと昼食を食べたあと、彼らと別れ、私とアニタはアニタの母親に連れられて、予定どおり美容院に行った。

 そして私は、いつも長いままにしていた前髪を、目の上あたりで切った。

 そのあと夕方四時すぎ、オールド・キャッスルにある小さな平屋、たまり場になっているマブに来た。

 マスティは小さなキッチンにいた。二ドア冷蔵庫からビールを取り出しているところだ。缶ビール二本を腕に抱え、さらに一本を取り出す。

 「今さら中一らしくなってどうすんだよ」

 「なにそれ。もう二年よ」

 「お前も飲む? ビール」

 「飲まない」

 「あっそ」

 マスティ・モラン──彼は春休み前に中学を卒業したばかりの十五歳。髪は明るめのゴールドブラウンで、瞳は透き通るようなブルーをしている。性格は私やアゼル──私がつきあっている十五歳の男に引けをとらないくらい、悪い。そして軽い。この平屋はもともと彼の祖父が住んでいた家で、今はアゼルが住んでいる。

 彼に続いてリビングへ向かった。といっても、玄関の右手にある小さなキッチンとリビングとを間仕切る壁はあるものの、ドアはない。それほど広くないそのリビングには、キッチン側と窓側に沿ってL字になるよう大きなコーナーソファが設置されている。そして窓と対面になるよう赤い二人掛けソファが置かれ、ソファたちの中心にはテーブルがある。キッチンと反対側の壁には、TVボードにテレビやコンポ、その他諸々が置かれている。

 二人掛けのソファに座っているブルはマスティからビールを受け取った。マスティと同じ十五歳の彼は、私の前髪に笑いはしたものの似合うと褒めてくれた。アゼルはコーナーソファのコーナー部分にいる。マスティからビールを受け取ると、彼らと揃ってプルトップを開け、ビールを飲んだ。マスティは窓側のソファに、私はキッチン側に腰をおろす。

 「アゼルのロリ度にさらに拍車がかかった気がする」ブルが言った。「よかったな、一年の時にこれじゃなくて」

 ブル・クロップはダークブロンドの髪を短めにカットしている。ダークブルーの瞳には目力があり、不良のくせに、実はわりとやさしいらしい。だがひょうきんで口がうまいということもあり、先月までは巧みに二人の女を言いくるめ、二股をかけてた。

 「ロリじゃねえし。こいつの顔はロリってわけじゃねえよ。前髪のせいでこうなっただけ」と、アゼル。

 彼、アゼル・ルシファーとは、去年の七月から、一度別れていた約一ヶ月を除き、つきあっている。瞳の色はグレーで、今は黒い髪を、私と同じマダーレッドに染めている。一般女子からすると相当顔がいいらしく、背も高く、どうやら人気があるらしい。けれど最低最悪のタラシで、私にベタ惚れなくせにムカつくとかなんとかで、平気で浮気をする。今まで二回、それがあった。約一ヶ月別れていたのは、最初の浮気が原因でもある。

 それでも彼は私と知り合って、敵が私ひとりになったとかで、それなりにまるくなったようで、それほど問題を起こすことはなくなった。でもその願望はまだ残っているらしく、とりあえず、ヒトを殴るのが趣味らしい。私と同じで家族を原因とする闇があり、これまで三度、更生施設に入っていた。性格も口も悪いけれど、私には負けると彼は言う。

 マスティがつぶやく。「前髪があるのとないのとで、こんなに変わるもんなんだな。見慣れてたらなんも思わねえけど、長かった前髪がいきなり短くなったら、かなり印象が変わる」

 私はといえば、今年二月のバレンタインに彼らが女共からもらったチョコレート菓子を食べている。三人分が大量すぎて、まだ残っているのだ。

 「たかが前髪くらいで大げさなのよ。一瞬ボブにまでしようかと思ったけど、髪で遊べなくなるからやめた」

 「見てみたい気はする」ブルが私に言った。「けど確かに遊べなくなるな。お前わりと、髪型変えるし」

 「いっそのことヅラにしてみるとか?」

 アゼルが口をはさむ。「ハゲにしたらさすがにキレるからな」

 「女にハゲ言うな。誰がするかアホ」

 マスティは笑った。「で、クラスはどうだったよ?」

 私は彼らがわかる範囲でクラス分けのことを話した。アニタのこと、ゲルトたちのこと、ハヌルのこと。

 ブルの元二股相手、エルミはC組で、去年ハヌルのせいでアゼルに暴行を受けたジョンアと、その光景をエルミと一緒に目撃していたナンネもC組だった。

 今年二月のバレンタインに私がキレて啖呵を切った相手、サビナとエデとカーリナは揃ってB組。サビナは私のひとつ上の先輩、リーズのイトコで、エデは私にアゼルを取られたと思いこんでいるリーダー気取りの女。カーリナは、アニタによけいなことをして私を怒らせたせいで、つきあっていたマーニと別れるはめになった女だ。

 アゼルたちは今日、知り合いの整備士のところに仕事に行っていた。車やバイクの修理、整備をする個人経営の店らしい。朝九時から昼休憩一時間をはさんだ午後三時までという半端時間で、色々と教えてもらってはいるものの、週何日だとか、決まったペースで仕事をするわけではない。時々だ。ほとんどはここ、マブでゴロゴロしている。

 今年に入ってから、私はビールを飲むことを覚えた。いまだにおいしいとは思わないし、彼らにつきあって飲むことはあっても、自ら欲しいとは思わない。

 そして春休みのあいだに、煙草を吸うことも覚えた。こちらも時々だ。おいしいともまずいとも思わないけれど、ここでしか吸わないし、吸う時はたいてい二口か三口ですぐに消すか誰かにあげるかで、持ち歩くようなことはしていない。それでもここに来るようになって一年、私はすっかり不良らしくなったらしい。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 夜、マスティとブルとアゼルと四人で夕食を食べに行ったあと、マスティとブルは帰り、私はアゼルとふたりでマブに戻った。いつものように左奥の部屋のベッドの上に横になる。アゼルは私のほうを向き、腕枕をしてくれた。

 「お前はやっぱ最強」目を閉じたままアゼルが言った。

 こちらも目を閉じている。「なんで?」

 「メガネゴリラはともかく、同じクラスになりたいって奴らを引き連れて同じクラスになったわけだろ」メガネゴリラとはハヌルのことだ。

 「主事に渡したリストが効いてるのかどうかはわからないけど、たまたまじゃないの? まあ平均点を上げるために、カーツとタスカがちょこっと勉強をがんばったっていう噂だけど」

 「どいつもこいつもお前にベタ惚れだな」

 「あんたとか?」

 「黙ればいいと思う」

 私は笑った。「何度も言ってるけど、そういうんじゃない。一緒に遊ぶのは楽しいって言ってくれるけど。奴らがさほど周りの目を気にしないでいてくれるから、私は一緒にいられる」

 「お前アレだよな。その気になったら、マスティとかでも普通にキスしそうだよな」

 「あんたと一緒にしないでくれる?」

 「いや、必要だと思ったらするだろ。たとえばマスティがすげえ面倒な女につきまとわれてたりしたら、それをどうにかするために、とか」

 「あいつは私に助けを求めるほどアホじゃないわよ」

 「んじゃ逆にする。俺がすげえ面倒な女に引っかかってるから、マスティに助けを求める。あいつはお前を口説く。お前の反応は?」

 状況がかなり変わっているような気がする。「興味ない。っていうか、別れたいなら別れればいいじゃない」

 「へえ」

 「あ、今のはあれよ。どうでもいいって意味じゃなくて、別れられるものなら別れてみろっていうね」

 「うざいよお前」

 「フレンチなんてキスのうちに入らない」

 「いや、それでも無理」アゼルはキスがキライだ。

 私は彼に訊いた。「すごく今さらだけど、なんでキスがキライなの?」

 「魂抜かれるような気がするから」

 予想もしなかった答えに、思わず笑った。

 「抜かれるわけないじゃない。なに言ってんの」

 「いや、半分冗談だけど。なんかイヤ」

 半分本気なのか。「じゃあ、あんたを助けるためにとかじゃなくて、マスティが本気で私を口説いたらどうすんの? 私がマスティを本気で好きになったら?」

 「お前を殺す。あいつのために」

 「素敵」彼の腰に手をまわし、胸に頬を寄せた。「でも殺すなら、私があんたのことを好きでいるうちに殺して。他の男を好きになってる時に死にたくないし、殺されたくないから」

 「んじゃ今殺す。別の意味で」

 アゼルは右手で私の頬に触れ、顔を上げるよう促した。そして、キスをした。

 こうやってキスをしていると、キスがキライだというのが嘘に思える。他の人間とどう違うのかは知るはずもないが、彼はキスが上手で、私はそのキスが、彼とするキスが大好きだ。


 私たちには、約束がある。

 ひとつは、アゼルが二度と更生施設に戻るようなこと──つまりはヒトを殴ったりしないということ。

 そしてもうひとつ、“死ぬ時は一緒”という約束。

 最悪の大喧嘩で別れてから三十年経っていようと、その時お互いに他の誰かと結婚していたとしても、どちらかが死んだとわかったら、すぐに自分も死ぬ。そして一緒のお墓に入る。墓を掘り起こしてもらってでも、ひとつの棺に一緒に入る。

 “死ぬまで一緒”ではなく、“死ぬ時は一緒”という約束だ。

 彼は、いつでも私を殺せる。

 なんなら私が望む時、望む場所で、私が望んだとおりの方法で、私を殺すことができる。

 そして私はきっとその時、怯えて逃げまわったりしない。

 アゼルが自分だけの判断で私を殺すとすれば、絶対にベッドの上でだろうと思った。そこなら私が抗わないと、彼自身も知っているからだ。

 そして彼はきっと、知っている。

 その気になれば、ベッドの上でなくても、どこでだって、私が彼を殺せるということを。

 そして私は、知っている。

 彼がそんな私を、どうしようもないほど愛しているということを。

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