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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 05 * SICK DAYS
28/119

* Maiden Mode

 面倒だと思いつつも溜め息をつき、私は右ポケットから携帯電話を取り出して短髪の彼に渡した。

 「自分でして。面倒だから」

 「おそろしく適当だな」

 呆れ顔でそう言いながらも携帯電話を受け取ると、彼は自分の携帯電話をズボンのポケットから出した。ピアスの彼に、手動でお前のもしておこうかと訊ねた。

 ピアスの彼がこちらに訊く。「いいの?」

 私は顔をしかめた。「ひとりも二人も変わらないと思う」

 苦笑ったものの、彼は携帯電話を操作する短髪男に自分のぶんの登録を促し、こちらに名前を訊いた。

 私は当然「ベラ」と答える。

 「いい名前」そう言うと、彼は微笑んで自己紹介した。「俺はルキアノス。こっちは」隣にいる短髪の男を示す。「アドニス。地元はケイネル・エイジ」

 ケイネル・エイジ──ナショナル・ハイウェイ沿いにある広い町だ。センター街からも近く、車なら五分程度で着く。

 ルキアノスとアドニス。「ルキでいい?」

 「いいよ。みんなそう呼ぶ」

 「じゃあキア?」

 彼は笑った。「それはないな。なんでもいい」

 「おし、できた」短髪の彼──アドニスが携帯電話をこちらに返した。「グループ分けとかもしてないんだな。女の子にしてはめずらしい」

 「そう? 面倒だからしない。なんの意味があるのかわからない。電話とかメールとかするのなんて、決まったヒトだけだし。ほとんどは履歴に残ってるし。電話帳を開くってこともほとんどしない」

 「へー」アドニスはまだ携帯電話を操作しはじめた。「ルキ。ベラの番号とアドレス、メールで送る」

 それは愛称なのだが。「鳴らせばよかったのに」

 「いや、電話はともかく、さすがにメールはどうかと思って」

 「べつにいいのに。まあいいか。とりあえず、友達のとこ戻っていい?」

 「オレらも行こうか」アドニスが言った。「トモダチ記念に挨拶くらい」

 「お好きにどうぞ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ケイネル・エイジのナンパ師、ルキアノスとアドニスを連れてテーブルに戻る。私はウェスト・キャッスルの人間だと彼らに話した。ナンネとジョンアも含め、彼女たちは目を丸くしてこちらを見ていた。特にリーズとニコラとエルミは、石になったように固まっている。私たちはリーズたちのテーブルの傍らに立った。

 「なんかナンパされたから連れてきた」と言って、私はルキアノスとアドニスを三人に紹介した。「ケイネル・エイジの子だって」

 「どーも」アドニスが微笑んで言った。「君らも中学二年?」

 はっとして我に返ったリーズは口元をゆるめると、彼の質問には「ううん」と答え、自分とニコラが三年であること、エルミが二年であることを話した。

 エルミが満面の笑みを見せる。「どうもー」

 二十オクターブくらい高い声だった。オクターブの意味は知らないけれど。というか、“どうも”しか言えないのかお前。

 「あ、んじゃウェ・キャスの先輩後輩なのか」アドニスが言う。彼はナンパに慣れているらしい。「君らもベラと一緒? ナンパ待ちじゃない感じ?」

 三人は顔を見合わせて苦笑った。

 ニコラが応じる。「さっきナンパされた。中学三年らしくて、でもなんていうか、すごいがっかりな感じのヒトに」

 「マジか。オレらはベラに、ナンパ待ちしてないからすげえうざいみたいなこと、言われたんだけど」

 彼女たちは笑った。

 「ベラはナンパがキライなの」リーズが答えた。「でもつきあってもらってる」

 「へえ」アドニスは緊張などしないらしい。「んじゃ三人とも、オトコいないの?」

 「いない」

 三人は声を揃えて答え、顔を見合わせて苦笑った。アドニスと一緒にルキアノスも笑う。

 「すごい息ぴったりの即答だな」と、ルキアノス。

 私はさっそく、一生呼ぶことがないだろうと思っていたおかしな愛称でルキアノスに訊いた。「キア、もうひとり呼べないの? そしたらここ、三対三になる」

 「え、ベラは?」

 「だからね、私はナンパがキライなの。知らないヒトと話すのもそんなに得意じゃないのよ」

 アドニスが割り込む。「めちゃくちゃ話したじゃねえか。なんだったんだ、さっきの」

 だからそれは、ナンパされるというリーズたちの目的があって。「気にしないで。気まぐれなの」

 「んで、ベラはどうすんの?」ルキアノスが訊いた。「もう帰んの?」

 「うん、帰る」ナンネとジョンアを連れて。

 「そっか。まあ、呼ぶのはいいけど──」彼女たちへと視線をうつす。「呼ぶ? そっちがいいならだけど」

 とたん、リーズは笑顔になった。「ほんと? 呼んで、そっちがいいなら」

 「んじゃ誰かに電話する」

 アドニスは携帯電話を取り出し、操作しながらうしろに向きなおって歩き出した。

 ルキアノスが再び私に言う。「一応訊くけど、メールとか電話、いつでも平気?」

 一切しなくていいです。「とりあえず、今週末と来週は予定が詰まってるからダメ。泊まりに行ったり泊まりに来られたりするから。あとは適当。都合が悪い時は電話に出ないし、面倒だったらメールも返さない。誰に対しても、ほんとに適当だから」

 「それでいいよ。あんま期待しないことにしとく」

 「そうして」リーズたちへと視線をうつした。「っていうか、よかった? なんなら今からでも追い返すけど」

 「ええ」ルキアノスが反応した。「ちょっと待て、なんでだ」

 「いや、遊びたくなんかないかなと」

 「本人の前で言う!?」

 「ごめんね。私、こういう性格なもので」

 彼女たちは苦笑った。

 リーズはずっと笑顔だ。「ぜんぜん平気」

 なんだろう。三人ともずっと、ニコニコしている。乙女モード?

 ニコラもルキアノスに質問する。「え、高校生だよね。何歳?」

 「イースト・キャッスル高校の一年」

 「そっか。ケイネル・エイジってここから近いよね。いいな」

 その言葉に、彼は否定的な答えを返した。「近いのも問題なんだよ。ゲーセンとかカラオケとか、金使う遊びが増えるから」

 「ああ、それは困る」とリーズ。「でもうちらのとこ、カラオケはあっても設備悪いし、ゲームセンターはないし、たいてい話してテレビゲームにとかになる」

 「中学はそんなもんだよな。でも高校生になったら、もっと金使うよ。ダチが増えて、でも地元がバラバラだから、センター街で遊ぶことになる」

 彼女たちは高校に行く気、ないですよ。

 「っていうか、ねえ」私は口をはさんだ。「なんで高校、ミュニシパルじゃないの?」

 彼が訊き返す。「え、そっち狙い? 制服ないじゃん。毎日私服じゃん」

 「それがいいんじゃない。制服に縛られる毎日なんてゴメンだもの」

 「めんどうな気が──」

 アドニスが戻ってきた。「よし、電話した。インゴがすぐ来るって」ルキアノスに言っている。「場所説明するのに手間取った」

 彼は肩をすくませた。

 「お前、場所の説明ホント下手だもん。なんか細かいことを複雑にごちゃごちゃと。方向音痴だし」

 「は? いやいや」リーズたちへと視線をうつす。「ひとり来る。ノリいい奴呼んだ」

 ルキアノスが訂正する。「ノリがいいっていうか、うるさいだけだから」

 「んじゃ、私は帰る」リーズたちに言った。「楽しんで」

 ニコニコリーズが答える。「うん。あとでメールか電話、するね」

 なんだろう。乙女モードというのか? 「うん」この三人だけなら、さすがにおかしなことにはならないはずだ。エルミはともかくだが。

 「またな、ベラ」アドニスが言った。「そのうちメールか電話する」

 “また”があるかどうかはわからない。たぶんない。「気が向いたら出てあげる。じゃーね」

 手を振って彼らに応え、ナンネとジョンアの席に戻った。置きっぱなしだったバッグを手に取り、彼女たちに言う。

 「帰ろっか」

 二人はほっとした様子で安堵の笑みを見せた。

 「うん」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 持ち帰り用にクレープをみっつと、自分のぶんのソフトクリームを買い、ナンネとジョンアにもソフトクリームを奢って三人で食べながら、バス・ステーションへと戻った。

 彼女たちの話によると、リーズたち三人をナンパしたのは三人組で、一人があからさまに太っていたらしい。彼らが来たのは、ちょうど私がアドニスとルキアノスに声をかけられた直後くらいで、ハンサムでも遊び人という感じもなく、どちらかというと、カノジョ欲しさにはじめてナンパしてみた感じだという。リーズたちはそれを、“待ち合わせしてるから”と追い払った。

 それに比べ、私が連れてきた二人は──アゼルはともかく、見ようによってはマスティとブルに負けないくらい、ハンサムなのではないかという。リーズたちの様子を見ていれば一目瞭然で、彼女たちは確実に一目惚れか、それに近いものを感じているはずだと。だけどナンネはダヴィデ一筋だと言い張った。よくわからない。

 バスでウェスト・キャッスルへと帰ると、彼女たちと別れた私はひとりマブに行き、そのことをアゼルたちに説明した。マスティとブルは“ハズレ”話がとりあえずおもしろかったらしく、クレープを食べながら笑っていた。二人組のほうも、報告が楽しみだと。

 アゼルはやっぱり、私が制服姿でないことがいちばん気に入らないらしい。私が“つきあってる男”のことを“好きな男”として悪口を並べたこと、アドニスに“好き”だと言ったことなど、どうでもよさそうだった。

 彼らの話によると、イースト・キャッスル高校は、ベネフィット・アイランドでは五本の指に入るくらいレベルの高い学校で、ワルなんていないだろうということだった。

 リーズたちが戻ってくるのを待つことになり、遅くなると祖母にメールを送った。先週発売されたばかりらしいゾンビゲームの続編を四人で必死になってプレーし、途中夕飯を食べに行って、戻るとまたゲームをはじめた。ゾンビゲームは前作よりもキャラが増えたり装備が増えたり、ステージが増えたり条件を細かく設定できたりしたのだけれど──そのぶん操作が少し難しくなっていた。だけど私は覚えが早く、圧勝だった。

 リーズとニコラは夜の九時前にマブに来た。なんでもカラオケに行って夕食を食べ、そのあとまた話をしていたらしい。ナンネとジョンアの言ったとおり、アドニスもルキアノスもハンサムの部類に入るのだとか。ただルキアノスは、ハンサムというよりは美形という表現のほうが合っているという。

 そしてリーズは、ルキアノスに一目惚れした。ニコラはアドニスに、一目惚れとまではいかないものの、惹かれるものがあったらしい。

 三人目のインゴは、顔だけでいえば普通だという。ただ相当おもしろく、エルミと気が合ったらしかった。エルミもまんざらでもなさそうだと。

 それを訊いたブルは悪戯ににやついて、もしあいつがインゴとつきあいはじめた頃に、こっちからヨリ戻したいとか言ったらどうなるかな、などと言いだした。嫉妬などではない。単におもしろがっているだけなのだ。

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