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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 05 * SICK DAYS
27/119

* Grand Flacks

 なんだかめんどうなことになったなと思いつつ、ナンネに電話した。まだオールド・キャッスルにいるというから、一緒に行くことにした。なぜ気が変わったのか訊かれたから、“クレープが食べたくなって”と答えた。いつもどおり、ふたつは食べてやる。

 エルミは意気込んでいるらしく、膝上丈のマドラスチェックワンピースを着ていた。カラーはブルーベースで。だけどナンネはTシャツに七部丈ジーンズ、ジョンアはおとなしくTシャツにジャージだ。

 ちなみに私は黒いタンクトップの上に、ノースリーブスタイルでショートパンツのカーキ色サロペットを合わせている。あと、黒色のシャープクロス編みブーツサンダル。髪はうしろでまるめて、借りてきたマスティの黒いキャップをかぶった。私は部屋着としてや眠る時ならともかく、外を歩くのにスカートだけというのはキライだ。落ち着かない。

 リーズとニコラは当然のようにグランド・フラックス・エリアにいるらしい。十代を対象としたエリアだ。私はさっそく、バス・ステーションの向かいのデザートショップでバナナチョコ・生クリーム・クレープにカラースプレーをかけたものを買った。

 「っていうか、ナンパってなに話すの?」

 グランド・フラックスのボードウォーク──私が食べ終わったクレープのゴミをトラッシュ・ボックスに捨てたところでエルミが訊いた。

 私の右側には川が流れている。川の向こうはやっぱりボードウォークになっていて、パーキングとオフィス・タウンがある。柵のそばには三人掛けベンチが等間隔で設置され、ナンパ目的なのかそうではないのか、男女かまわずほとんど埋まっていた。

 エルミの左側は、座れるようにもなったゆるい数段の階段になっていて、それをあがると屋根つきテーブルベンチがやはり等間隔でいくつかあり、腰の高さほどの赤レンガ花壇をはさんだその後方には、グランド・フラックスの本通りからも入れる店たちがいくつか並んでいる。

 今日が終業式というのは、ベネフィット・アイランド・シティのほとんどの学校で同じらしく、たくさんの学生たちがボードウォークを歩いていた。歩いていれば声はかけられにくい。座ってるとすぐに来る──気がする。

 エルミが続けて訊く。「漫画と一緒? 年の会話からはじまって、みたいな」

 「そうね。“なにしてんの?”からはじまって、年訊いて、どこの学校? みたいな」

 「じゃあ漫画のとおりに答えればいいんだ」

 先にその漫画がどんな答えを書いているのか教えてくれ。「あんたはリーズたちと一緒にナンパされるんでしょ。二人に任せればいい。会話は振ってくれるはず」

 「え、ベラはナンパされないの?」

 「めんどくさいからイヤ。私はクレープを食べに来たのよ。向こうにもひとつスウィーツショップがあるから、そこでストロベリー・生チョコクリーム・クレープを食べる」

 「ねえ、ホントになんで来たの!?」

 私がいちばん訊きたい。「だからクレープを食べに」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 リーズとニコラは東側のボードウォークにいた。まだナンパはされてないらしく、屋根つきのテーブルベンチのひとつを陣取ってファッション雑誌を読みつつ、話をしていた。クレープだのアイスクリームだのを買った私たちが彼女たちのところに着いた時、二メートルほど間隔を空けたところにある隣のテーブルベンチがちょうど空き、そこを陣取った。エルミはニコラの隣に座り、こちらは私がひとりで、左向かいにナンネ、右向かいにジョンアが座るカタチで。

 ちなみにナンネたち、夏休みの花火計画のことは、エルミには話していない。言えば絶対来たいと言うからだ。

 クレープを食べながら、私は声を落としてナンネに言った。

 「花火、十一時くらいまでは大丈夫かもっつってた」

 彼女は瞬時に笑顔で身を乗り出した。「マジで」

 こちらの話はエルミたちには聞こえないし、むこうの話も聞こえない。「うん。こっちが電話入れたら、イヴァンの家に泊まりに行くって」

 「え、全員?」

 「そう。イヴァンの部屋の床で雑魚寝状態。すごいことになるらしいよ」

 彼女が笑う。「すごそう。そんでうるさそう」

 「だよね」ジョンアが応じた。「男の子が普段どんな話するのかって、ぜんぜんわかんないけど」

 「ゲームじゃないの?」

 「カーツァーもするかな」

 ジョンアはナンネに気遣ってか、ダヴィデのことをファーストネームでは呼ばない。というか、ほとんどの男子のことを名前で呼ばない。私がなにをするわけでもないとわかっているし、気弱だから。

 「さあ──」ナンネがこちらに訊く。「すんの?」

 「さあ。それなりにするんじゃない? ゲルトとセテとイヴァンはするから」

 言ったところで脇に置いたバッグの中で携帯電話が鳴り、取り出して画面を見た。アニタだ。

 「ごめん、電話」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 携帯電話とクレープを持って立ち上がり、階段のほうへと歩きながら電話に出た。

 「はいはい」

 「邪魔してたらごめん」アニタが言った。「だいじょーぶ?」

 「うん、平気」残り半分になったクレープを食べながら答える。「どした」

 「今制服のアレ、学校に出してきた。車で帰宅中。来週の水曜に受け取れるって」

 「んじゃそれ、今度見せて」

 「うん。や、その今度だよ。制服のことで頭がいっぱいで、宿題どうすんだって話、ぜんぜんしてなかったなと思って」

 そういえばそうだ。「月曜と火曜、暇?」私はステップに腰をおろした。

 「平気」と彼女が答える。「泊まり? そっち?」

 クレープを持ったままの右手指でキャップのブリムをつまみ、かぶりなおした。「月曜と火曜、こっちに泊まりで、水曜と木曜にそっちってのは?」そしてまたクレープを食べる。

 「オッケー。あ、もう制服、ナンネたちに見せた?」

 「うん。やっぱジョンアはためらいがちだった。けどとりあえず渡した。んで今、リーズとニコラとエルミも一緒に、五人でセンター街に来てる」

 「は? なんで?」

 「なんかナンパされにだって。リーズとニコラがナンパされに行くって言ったら、エルミがついて行くとか言いだして。ナンネとジョンアは渋々。ブルとマスティが、ナンネたちはちょっと心配だろって言うから」

 「へー。で、どうなの? 成果は」

 私は後方を見やり、また電話に注意を戻した。

 「まだぜんぜんだね。着いたばっかだけど、もう帰りたい。暑いし」

 「夏だもの。でもどうせあれだよね、中学三年の子なんかだと、そのうちすぐ受験でどうこう言いだすんだよ」

 「だよね。高校生ならそれ、ないかもしれないけど。あと高校行かないヒト」リーズとニコラみたいに。

 「見た目じゃわかんないからな。ま、なんかよさそうなのいたら、たまにはトモダチしてみればいいじゃん」

 「トモダチして、なに? あんたがオトコと別れたら、それを紹介しろとでも言うの?」

 彼女は笑った。

 「そうだね、それもいい。まあがんばって。もうすぐ家に着くから、もう切る。家に帰ったら部屋──っていうか家、超掃除しなきゃなんないの。それが制服の条件」

 アニタの母親は交換条件が得意だ。アニタのわがままが出ると、いつもなにかを条件にする。

 「ごめんね、なんか」

 「んーん。条件ていうか、ママが無理やりこじつけたんだよ。あとあたしもホラーハウスの件で色々、部屋散らかしてるから」

 やる気満々か。「そ。んじゃがんばって。こっちも適当にがんばる」

 「うん、じゃね」

 「ん」

 電話を切り、ポケットに入れた。クレープをビニール袋から出して立てた脚で支え、ブラウンのクレープ包装紙を切り取り線に沿って破く。この店のクレープ包装紙には、切り取り線が二本入っている。クレープは好きだけれど、残り少なくなるとこうしなければいけないのが面倒だ。もちろんそれを無視し、手で引っ張り出すこともあるものの、ボリューム満点のクレープでそれに失敗すると、手がすごいことになってしまう。

 破き終わり、クレープが入っていたビニール袋に切り取った包装紙を入れた。

 右隣に誰かがしゃがんだ。

 「なにしてんの?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 声の主は、知らない男だった。

 アッシュブラウンの、ケイほどではないけれどさらさらの髪。サイドは耳が半分ほど隠れる程度の長さで、グリーンの瞳を持ち肌は白い。女みたいだ、というのが第一印象だ。左耳にひとつ、ボタンのような黒いピアスをしている。そして制服と思われる、薄いブルーのショートスリーブシャツ姿。胸ポケットに校章はあるものの、どこのものかはわからない。だけどおそらく高校生だ。

 「見てわからないの? クレープを食べやすくしてんのよ」と、私は答えた。まさかこのタイミングでナンパしてくるとは。いや、とりあえず電話が終わるのを待ったのかもしれない。

 続いて後方から来た男が彼の前にしゃがんだ。くすんだゴールドの髪を短めにカットしている。瞳はブラウンらしい。ピアスの男と同じ格好をしている。そしてにやついてる。

 「さっきバス・ステーションで君のこと、見た」

 「へえ」かまわずクレープを食べた。「で、なんか用?」

 「冷たいな」ピアスの男が答える。「いや、さっきもクレープ食べてたのに、なんでまた食べてんだろうと思って」

 「なにがダメなの。クレープを食べに来たのよ。あとでソフトクリームも食べる」

 「よく食うな」と、短髪男。「ひとり?」

 「クレープ買うところを見てたんなら、知ってるよね。友達が一緒」

 「うん、悪い、知ってる。高校生だよな」

 刺されたいのかお前。「中学生」

 彼らは目を丸くし、声を揃えた。「え、うそ」

 ピアスの男はステップに腰をおろした。「何年?」

 答える前に質問を返した。「そっちは?」

 「俺ら高校一年」彼は胸ポケットの校章を示した。「イースト・キャッスル高校」

 アゼルたちと同じ年だ。クレープを食べ終わった。「私は二年。っていうか、これはなに? ナンパなの?」包み紙を入れたビニール袋の口を縛り、サロペットのポケットに入れた。

 「んー、いや、普段は俺、ナンパなんかしないんだけど。あ」短髪の男を示す。「こいつはともかく。で、また見かけて、君がひとりになってたから──なんとなく」

 「“普段はナンパしないんだけど”って、ナンパ男はよく言うよね。でもあんまりね、誰かれかまわずナンパしないほうがいいわよ。ナンパ待ちしてない女にとっては、本気でうざいだけだから」

 きょとんとする彼の隣、短髪の男は天を仰いで笑った。

 「言われてやんの」口元をゆるめて私を見る。「許してやって。マジで普段、ナンパなんかしないんだよ、こいつ。女とつきあっても、わりと長く続くほうだし。けど受験が原因でオンナと別れてさ、わりとモテるのにオンナつくろうとしないから、ナンパに連れ出してやったの。オレもオンナいないし。で、こいつが選んだのが」私を指差す。「君」

 私はまたピアスの男に質問した。「ロリコンなの?」

 短髪男はげらげらと笑ったものの、彼は慌てて否定した。

 「いやいやいや。なんで? 高校生だと思ったし、中学二年ならふたつしか変わらないじゃん。ロリじゃないだろ」

 それはどうだろう。「あなたが中学三年生だった時、私は中学一年だった。あなたが中学二年の時、私は小学校六年だった。どう? なんかちょっと、まずい気がしない?」

 彼らは顔を見合わせた。

 「──確かに」ピアスの彼がつぶやく。「なんか、ちょっと」

 「でしょ」と、口元をゆるめて言ってやった。アゼルに報告しなければ。「まあ、中学二年と高校一年ならそうでもないけど」というかそもそも、私とアゼルは中学一年生と中学三年生だった。それどころか“なりたて”だった。

 「だよな」と言うと、短髪の男は両手を脚について身体をこちらに傾けた。「オトコいんの?」

 見える範囲にいるはずなのに、誰も来ないのはなぜだろう。「好きな人がいる」

 「へー。誰?」

 この質問はなんなのだろう。「言ってもわかんないでしょ。でもね、すごく変な男。喧嘩がすごく強い。短気で自己中で浮気魔。女癖が悪い。煙草もビールもやる。すごく意地が悪い」

 短髪の彼が苦笑う。「すげえな。告白は?」

 なんの話だろう。「つきあってもフラれるの。私のことなんか眼中にないのよ。遊ばれては捨てられて、遊ばれては捨てられる」なにを言っているのかわからなくなってきた。

 ピアスの男が口をはさむ。「それでも、好きなわけ?」

 私は彼に微笑みを返した。「好き。すごく好き。なんなら今日、私のこの格好が気に入らないからって一緒にいることを拒否したうえに、誰か別の男見つけてこいとか言うような奴だけど」少々事実が捻じ曲がっております。「でもすごく好き」

 彼らは再び顔を見合わせた。またこちらに視線を戻す。

 「なんか──」短髪の男がつぶやく。「自分が好きって言われたんじゃないのに、すげえドキドキしてきた」

 「いやいや、なに言ってんの」

 「ちょ、もう一回言って」両手を脚についたまま、短髪の彼はさらに背筋を伸ばした。「今度はオレの眼見て」

 なんの話だよ。と思いつつ、キャップを取って彼の前に膝をつき、脚に両手をついて、彼の眼をまっすぐに見た。

 ──アゼル。「好き」もう、言えない言葉。「ムカつくけど、すごく好き」

 彼はゆっくりと開いた口をぱくぱくさせた。「ちょ」真剣な表情になる。「ハグしていい?」

 「は? ふざけんな」キャップをかぶりなおし、私はまた元の位置に戻った。「友達じゃないヒトとハグはできません」

 「だよな」天を仰ぎながら残念がるように言い、ピアスの彼に向かって眉を寄せる。「この娘とつきあえたら、すげえ幸せなんじゃね? こんな感じで言われたい。この顔と声に言われたい」

 ピアスの彼は苦笑った。「だな」微笑んで私に言う。「じゃあトモダチ、できる? ハグ目的じゃなくて」

 「っていうか、言ったよね。私はナンパされに来たんじゃないって」

 「わかってるって」短髪の男が言った。「好きな男がいるってのはわかったから、口説こうとも思わねえよ。たまにメールして電話して、時間があったら遊んだり、とか。同級生にだっているだろ? そういう友達でいい」

 「友達紹介するから許して」

 「どんだけガード固いんだよ? いや、友達と話すのもいいけど──んじゃ、アドレスと番号交換、とりあえずしよ。んでこっちが連絡しても、面倒だったら返さなくていいし、出なくてもいい。気が向いたらでいい。これでどうよ」

 鼻で笑ってやった。

 「それであれだよね。メモリーにの女の名前が増えることに満足するっていう」

 彼が笑う。「いや、まあそれもあるけど。それくらいいいじゃん」

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