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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 04 * MARCH DAYS
22/119

〇 One Way Traffic

 終業式を三日後に控えた火曜日。

 放課後、ナンネとジョンアが教室に来た。マブに行かない日は時々、一緒に帰る。私はゲルトたちを追い払い、カーツァーの席にナンネを、アニタの席にジョンアを座らせた。片想いナンネはこれだけでも嬉しいらしいのだ。話をしているうち、教室内からは残っていたクラスメイトが消えた。

 「夏休みなんかキライ」ナンネがつぶやいた。「一ヶ月以上会えない」

 「登校日、ないもんね」と、ジョンア。

 彼女は溜め息をついた。

 「なんか、D組っていちいちクラス離れすぎだよね。こっちがC組だから、むこうがA組とかB組とかなら、見かける回数も多くなるかもしれないのに。いないんだもん」

 私たち、普段は教室で話をしている。廊下側の席についたとしても、ダヴィデは腰窓を開けない。

 「っていうかさ、変に意識するから喋れなくなるんじゃないの?」私はナンネに言った。「どっかのアホ女みたいに、誰にでも媚売る感じで話しかければいいじゃん。や、媚売れとは言わないけど」

 「エルミでしょ」彼女はどうでもよさそうに答える。「なんかあいつ、あたしのこと考えて一緒にいる時、時々ダヴィデに話しかけてくれるんだけど。会話続いてないんだよね。むこうもなんで? って感じだし。でもあいつはヘラヘラ笑ってるっていう」

 笑える。「ガムちょうだいって言えばいい」

 彼女は首を横に振った。

 「食べ物はダメだって。もったいないもん」

 重症か。「じゃあもう夏休み、ニュー・キャッスルに乗り込むしかないね」

 「なにしに!? あんなとこまではさすがに、用ないじゃん」

 「エルミの家があるじゃん。あ、でも近くはないか」

 彼女は落胆的な様子でうなずいた。

 私は具体的には、彼の家を知らないけれど。「北西のほうなんだっけ」確かイヴァンも近くだったはずだ。

 「そう。しかも川に近い奥のほう」ジョンアが答えた。「エルミはキャッスル・ストリートに近いアパートメントだから、近くはない」

 ニュー・キャッスル地区を東西南北に分ければ、アニタは南西の住宅地に住んでいる。キャッスル・マウンテンのふもとに近く、回りこめばすぐ、私の住んでいたコンドミニアムがあった。ブロックは違うものの、ゲルトとガルセスの家はニュー・キャッスルの中心付近。エルミの住むマンションは東の方角にあり、ハヌルは南の方角──アニタの家とは小学校をはさんだ反対側に家がある。

 というか、こんなに悩んでいて飽きないというのがすごい。「じゃあもう、キャッスル・パークで遊んでればいいんじゃないの? 運がよければ会えるかもしれない。隣のコンビニとか」

 ナンネは苦笑った。「まあ、そうだけど。そこにエルミがいたら、声くらいはかけてくれるんだろうけど。特に話すことないし」

 ジョンアが私に訊ねる。「ベラは小学校の時、カーツァーたちと遊んだことある? 夏休みとか」

 「んーん、特にないと思う。放課後遊んでたことはあったけど、わざわざ休みの日に電話して誘ってってのはないな。ゲルトとセテは遊んだことあるけど。つっても夏休みだとさすがに暑いから、ほぼアイス食って話すだけだけどね。ゲルトと一緒にセテの家に行ったり、その逆はしたことある。数えるほどだけど」

 ナンネは愕然としていた。「どうやったらそんなことできるわけ? マジで意味わかんない」

 と、言われても。「アニタが他の子と遊んでる時、暇だなと思ってゲルトに電話して、二人でセテの家に押しかけたのよ」家にいたくなかったから。「んで、次はゲルトの家だなって」

 「ナンネは意識しすぎ」ジョンアが彼女に言う。「友達状態にもなれてないんだもん」

 だよね。

 「んなこと言ったって、もともと仲良くないし」ナンネは弁解するように続けた。「男子と話せるタイプじゃないもん。あんただって話さないじゃん」

 確かに。

 「そうだけど」ジョンアが答える。「私は話したいと思わないだけだもん。でも話すとしても、ナンネみたいに意識しすぎたりはしないよ」

 だよね。

 「それは好きじゃないからでしょ」ナンネはどんどん喧嘩腰になっていく。「あたしだって他の男子は、意識してるわけじゃない。話すことがないだけ」

 それはわかる。

 「だから話したいなら、なんでも喋ればいいじゃん」ジョンアも責めるような口調になっている。「テストの点とか、テレビの話とか、とりあえず話しかけてみればいいじゃん」

 うんうん。

 ナンネが言い返す。「テストの点はむこうがいいに決まってるし、こっちは言えるような点数じゃない。テレビだって、なに観るかわかんないもん」

 私は点が悪くても見せるけどね。数学の二十八点とか平気で。ものすごくバカ扱いされるけどね。でもカルロは同レベルなのよ。

 「だからそれを訊けばいいじゃん」ジョンアはわりと本気らしい。「昨日テレビなに観たかとか、訊けばいいじゃん」

 「だから、話しかけても会話が続かないって言ってんの!」ナンネも本気だ。「だいいち、仲良くなりたいとか贅沢なこと、思ってるわけじゃないもん。会えればいいの。姿見てるだけでいいの。声聞ければいいの!」

 本気か。

 「そんなの──」ジョンアは勢いと同時に肩を落とした。「小学校の時となんも変わらないじゃん。せっかくベラが去年、打ち上げとか、今年も花見とか、ファーストネームで呼ぶとか──やってくれてんのに──なにも変わんないじゃん」

 ですね。

 ナンネも勢いを落としたものの、顔をしかめた。

 「少なくともファーストネームで呼ぶようにはなったもん」

 またジョンアが言い返す。「会話しないんだから、呼んでるわけじゃないじゃん。言ってるだけじゃん」

 だよね。

 「だからそれは──」ナンネは言葉を濁した。

 この議論、一生終わらなさそうだ。

 私は苦笑った。「まあ、すればいいとは思うけど」ジョンアに言う。「できないっていうなら、しかたないんじゃないの? ナンネの場合、片想い暦が長いわけだし。考えたら小学校三年だか四年だかの時に好きになって、今までずっと、今の状態なわけでしょ。今さら変われってのも、無理なのかも」

 「そう」ナンネはうなずいた。「そりゃもっと話せるようになれば、とは思うけど──なんか、キホン見てるだけってのに慣れてるから、これ以上どうにかなるとも思ってない。それ以上どうにかなりたいとも思ってない」

 諦めだらけだな。と思いつつも、私は彼女に向かって切りだした。

 「会えるだけでいいなら、八月のどこかで、花火に誘おっか」

 彼女は目を丸くした。「え」

 「アニタやゲルトたちも入れて。そうだな──ペトラとカルメーラも呼ぶかな。仲いいとまではいかなくても話せるでしょ、カルメーラは特に」カルメーラは、女子となら誰とでも話す。

 「それは、平気、だけど──」と、ナンネの言葉はほとんど棒読みだった。

 私は真剣な表情で、彼女の目をまっすぐに見た。「ただし条件がある」

 彼女が身構える。「はい」

 微笑んだ。「ペトラとカルメーラはアニタに誘ってもらう。ゲルトとイヴァンは私が誘って、ゲルトからセテに、イヴァンから──来るのか知らないけど、カルロを誘ってもらう。で、ダヴィはあんたが誘うの」

 「ええ!?」

 そこまで過剰反応しなくてもと思い、思わず笑った。

 「だからさ、とりあえずどこかで、私たち三人とアニタとで遊ぶでしょ。そこから私たち三人がみんなに電話するの」ジョンアは携帯電話を持っていないから。「ダヴィにはさ、私とアニタが花火に誘ってるけど、私は今ゲルトとイヴァンに、アニタがペトラとカルメーラに電話してるからって言えばいい。ナンネが番号知ってるの、あの中じゃダヴィだけだし。効率よく誘おうと思えば、それがいちばんなので」ほんとに効率いいのはメール一斉送信ですけどね。「しかも夜七時くらいがいいよね。夕飯食べたらどこかに集合ってことにして。そしたら、あの中の誰かが誰かと遊んでる確率もぐっと減る。もしかしたら二時間くらいしか無理だけど、二人がいいなら、場所をニュー・キャッスルにしておけばいいじゃん。そしたら夜十時くらいまでは大丈夫かも」

 「ええ──」

 「ほら、こうやって言ってくれてるんだから」戸惑い気味の彼女をジョンアが奮い立たせる。「そのくらいしようよ。会えるし声聞けし話せるよ。会ってから話せるかはわかんないけど、そこはがんばりしだいだけど、会えるじゃん」

 ナンネは戸惑っている。「実際会って、ぜんぜん話せなくてもいい?」

 私は肩をすくませた。

 「いいわよ。電話で誘うのだけは絶対だけど」

 そう答えると、彼女は背筋を伸ばし、真剣な表情で覚悟を見せた。

 「わかった。がんばる」

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