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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 04 * MARCH DAYS
21/119

〇 Boisterous

 翌日金曜は、寝不足が溜まっていたのか──気づけば朝の九時三十分を過ぎていた。“声をかけたけど、ぐっすり眠っているようだったので起こさずに仕事に行きます”と書き置きを残していた祖母は、とっくに仕事に行っていた。サボりや遅刻を黙認というのは、甘いにも程があると思うのだが。

 携帯電話にはアニタやゲルトたちからのメールや不在着信がいくつか残っていた。マナーモードにしていたから気づかなかったのだ。

 用意されていた朝食を食べながらレポートの最終チェックをし、シャワーを浴びて準備をしたあと、学校のランチの時間に合わせて家を出た。

 昼休憩時間に入ると、カーツァーに頼んで隣の空き教室にチャーミアンひとりを呼んでもらい、私は一足先に空き教室へと入った。

 数枚のレポート用紙を入れたクリアファイルを脇に置き、灰色の教師用デスクに腰かけて待っていると、数分で奴は来た。

 前方戸口から教室に入ってきた彼女がうしろ手でドアを閉めつつ、警戒した表情を見せる。

 「なに?」

 私はいじめっ子か。「A組の文化祭のネタを私が作るって話、聞いた?」

 「ああ──」気まずそうな様子でこちらに来る。「私が教室にいる時にそんな話になったし、昨日もトルベンが言ってたから、知ってる」

 「そ」チェアを示した。「とりあえず座って」そのままクリアファイルを指差す。「見て」

 彼女はためらいがちにチェアを見やり、黙って座った。クリアファイルからレポート用紙を出して無言で読む。

 「──七不思議?」

 「あったでしょ、小学校の時。中学じゃどうか知らないけど、ありがちな幽霊に設定をつけ足したの。中学生にあるまじき、もあるけどね。教師と生徒とか、わりと無理やりだけど。A組がやるのは、どうして幽霊が幽霊になったかっていうショートストーリー。しかもビデオカメラじゃない。デジタルカメラで写真を何枚も撮って、それに設定を踏まえたうえで、A組が考えたシチュエーションとセリフを組み合わせて動画にするの。そっちの担任に頼めば、なんとかなるはず」

 「おもしろそう」めくったレポート用紙を読みながら言う。「セリフは画像みたいにするってこと?」

 「そう。単純に言えば、写真、セリフ、写真、セリフ──って感じ。写真は白黒かセピアのほうが、それっぽくなると思う。荒めに加工すれば、もっと雰囲気が出るはず。セリフは黒背景に白文字かな。でもところどころを赤にしたり、なんなら幽霊の強い気持ちが入るところでは、ノートに手書きしてっていうのもアリだと思う」

 「うんうん」口元をゆるめたまま、また視線をレポートに落とす。「でも、“噂からはじめる”って?」

 「最初はタイトル──なんでもいいけど、とりあえずタイトルからはじまるでしょ。で、七不思議の噂を何人かの女子がやってる状態。女子三人か四人の会話を思い浮かべて。ひとりが七不思議の噂話を仕入れた。誰かにそれを話したい。会話はどうはじまる?」

 彼女はレポートを見つめたまま、少し悩んでから口を開いた。

 「──“ねえ、七不思議の噂って知ってる?”、みたいな──?」

 私はうなずいた。「そう、そういうこと。多少の知ってる、知らないはあるだろうけど、当然相手はどんな噂かを訊くよね。そこから本編がはじまる。順番は特に考えてないから、そっちで決めてくれてかまわない。本編に入ってからの会話も同じ感じ。ドラマや映画みたいな、動く被写体を対象とした動画じゃないから、表情の演技が重要になる。顔の上半分は隠したり、あとから編集でぼかしたり消したりしてもかまわないけどね。

 ちょっと小難しい設定も盛り込んであるから、セリフはもちろん、アングルや背景も大事になると思う。たとえば教師と生徒の恋愛なら、教師がどれだけ巧みな言葉を使って生徒をたぶらかしてたか、とか。長すぎるのもうざいけど、A組がどこまでマメに考えて、どこを抜粋して、どう作り込むかによって、出来は違ってくる。一応こっちの幽霊に関連はさせてあるけど、幽霊がどんな格好でどういう出現の仕方をするかってのは具体的に決めてないから、そっちの思うとおりにやって。こっちはこっちでやるから」

 説明を理解し、レポートに目を通し終わったチャーミアンは眉を寄せた。

 「でも、なんで私に?」

 「嫌がらせ」

 悪びれることなくあっさりそう答えると、彼女の表情は一瞬にして呆気にとられたものになった。

 「だから、私は頼られるのがキライなのよ」視線をそらした。「ヒトの面倒を見るのはイヤ。周りにヒトが集まるのがイヤ。それにこれをA組に持っていって、全員の前で説明するなんてことをしても、方向性が定まらない可能性があるじゃない。少人数じゃなきゃダメなのよ、こういうのは。でも少人数ですら、あれこれ一気に訊かれるのも、面倒だからキライ。だったらひとりがいい。で」再びチャーミアンの視線を受け止める。「あんた」

 彼女は呆然としていた表情を、少しずつ元に戻した。レポートを静かにデスクに置いて両手を脚の上に引っ込めつつ、視線を落としてチェアに背をあずける。

 「──ほんとに、わかんない。こういうの、考えられるのに、なんでリーダーになりたがらないのか──みんな普通、頼られたり注目されたら、嬉しいのに。スケッチブックの時だって、そうだったでしょ。アニタたちに引っ張らせて、ベラはただ見てるだけ、みたいな──もっと書き込めばいいのに、それすらほとんどしてなかったじゃない。その気になれば、ちゃんと話そうと思えば、誰とだって仲よくなれるはずなのに、絶対にそうしない」眉を寄せてこちらを見る。「もったいないと思わないの?」

 意味がわからなかった。

 「いや、なにが? っていうか、なんでそんなに目立たなきゃならないの? 多勢をまとめる責任引っかぶって、なにがおもしろいの? 大勢を自分の席の周りに集めて、なにが楽しいの? うるさいだけじゃん。そりゃ私の今の席も、わりとうるさいけど。それ以上の、クラスの中心にとかいうのがキライなのよ。私は隅で全体を眺めるのが好きなだけ。うじうじ悩んでる奴を見るのがキライだし、面倒なことがキライだし、いちいちヒトを頼る奴もキライ。頼られるなんて冗談じゃない。感謝なんかもされたくない。

 だからそのレポートは、あんただけが持っててもかまわない。作りかたを頭の中に入れておいて、設定だけみんなに見せて、あとの細かいとこはあんたが決めればいい。今さらなにがどっちの考えかなんて、誰も気にしないわよ。演出に関しては細かく決めてないから、あとはあんたのイメージ。クォリティはA組しだいなんだから、どうなろうと責任をとるつもりはないし、ぜんぶあんたに丸投げする。

 そっちの担任には、A組とD組の共同だけどまったく別のホラー演出だってことでとおして。私のだなんてことは言わなくていい、潰される可能性があるから。ひとつのネタを別演出で表現して勝負するってこと。私はそれほど自分のクラスに関わる気はないし、どっちが勝ってもどうでもいい。以上」

 言い切ると、チャーミアンは苦そうにも徐々に口元をゆるめ、笑った。

 「わかった。がんばる」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 チャーミアンと別れ、前方戸口からD組の教室に戻ると、なぜか私の席があるあたりに、やたらとクラスメイトが集まっていた。男子も女子も関係なく、三分の二はいるんじゃないかと思うような数だ。一部の奴らはアニタやカーツやゲルトの机の上に両手をついたり膝をついたり、彼らの背後で背伸びしたりして、中心にあるなにかを必死に覗き込もうとしている。

 廊下側の壁にもたれるカーツが私に気づいた。「あ、やばい。ベラが戻ってきた」

 彼の声で全員の視線が一気にこちらに集まる。人だかりの中にあるらしい中心部分が小声でざわつき、なにやら物音がした。

 直感が走る。固まったクラスメイトのほうを向いて腕を組み、私は口を開いた。

 「全員その状態でいて。で、私のカバンを漁った奴は自分だって正直に言え」

 苦笑いの声が漏れる。中心部分は小声で言い合いをはじめた。

 はいはい。「アニタとカルロのアホ」

 ほぼ全員が笑った。人だかりが崩れていき、にやける口元を堅く結んだアニタが顔を出す。

 「オレはなんもしてねえよ」なぜか私の席に座っているカルロが言い訳した。「ただカバンの中にファイルが入ってんのが見えたって言っただけだし」

 タスカが口をはさむ。「まあいいかとも言ったよな。絶対文化祭のだ、これは見るべきだってうるさかったのはアニタだけど」

 「ゴメンナサイ」アニタは口元をゆるめたまま。「ゴメンナサイ」繰り返した。

 ロボットか。「やるなら他の席でやってくれる?」自分の席へと歩きながら言った。「私の席周辺ではやめてください」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「そういやお前、そろそろアゼルとつきあって一年になるんじゃね?」

 雨季が終わり、七月十日、夏本番。昼休憩の時間、ゲルトが言った。カーツァーとタスカも一緒にいるけれど、アニタとガルセスとマーニはD組の教室の窓際前方の席で相変わらず、クラスメイトたちと文化祭のホラーハウスの話をしている。ほとんど毎日、飽きることなく。

 「そういやそうね」私は答えた。「正確な日付は覚えてないけど、確か終業式の一週間前くらいだったはず」

 「長いよな、一年て」カーツァーが言う。「周りは誰かとつきあってもすぐ別れてんのに」

 「去年はアレが学校にいたおかげで、あっというまだったしね」秋に一度別れているから、正確にはどうなのだろうという話。「今はこのグループのおかげで、毎日あっというまだけど」

 「毎日毎日うるさいもんな」と、ゲルト。

 「ね。しかも私、うるさいのに囲まれてるからね、左と前と右に」

 「そんなん俺も一緒だし。左と右とうしろにうるさいのがいる。あと右ななめうしろにも」

 私か。

 「え、オレもなの?」タスカが口をはさんだ。「オレの場合は、右と両ななめ前が特にうるさいんだけど」

 カーツが笑う。「んなこと言ったら、こっちだって左と左ななめうしろとうしろがうるさいし」

 「ついでに言えば」タスカがゲルトに向かってつけたす。「お前とベラが喋ってる時もすごいうるさい」

 「それはこいつがうるさいからだろ」

 「それを言ったら」カーツが口をはさむ。「最近はベラとカルロもうるさい。授業中にうしろでごちゃごちゃごちゃごちゃとなんか言ってる。なにかと思えば、歴史の教科書とかに真剣に落書きしてんの。おっさんをおばさんにしたりしてる」

 私は笑った。

 「そう。やってんの。しかもカルの教科書にばっかりだよね。さっきの四時限目の小テスト、“この人物の名前を答えなさい”って問題があったじゃん。カルが、教科書の顔が変形しすぎてたから誰かわかんねえとか小声で言って。すごく文句言われた。テスト中なのに」

 カーツが苦笑う。「こっちはその会話がおもしろすぎたおかげで、テストに集中できなかったっていうな」

 「マジか」とゲルト。「なんかごちゃごちゃ言ってたと思ったらそれかよ。でもそれいいよな、それ。誰かの教科書にやっときゃいいんだ。大事そうな言葉をマジックで塗り潰すとか」

 私はけらけらと笑いながら同意した。ハヌルの教科書とかハヌルの教科書とかハヌルの教科書とか。

 「イジメか」

 口元をゆるめてタスカに答える。「大丈夫よ。優秀なヒトはね、ブラックボードの文字をノートに丸写しして勉強するから」

 「アホ」カーツが割って入る。「ホントに優秀な奴はノートなんかいらないの。教科書にちょっと線引いて言葉足して終わりなの」

 え。

 ゲルトが笑う。「無理無理。そんなんしようとしたら、教科書全文丸暗記するハメになる」

 私も続いた。「しかもあれだよ、どこが大事なとこだかわかんなくなって、そのうち文章がごちゃごちゃになって、ぜんぜん関係ないとこにぜんぜん関係ないこと覚えることになる。しまいに私、理科のテストに憲法の名前とか書くようになるわよ」

 彼らは笑った。

 「いやいや、なんのためのライン引きだよ」と、カーツ。

 「それはだから、あれだよね」ゲルトに言う。「ライン引いてるうちにぜんぶ大事に思えてきて、ほぼ線だらけになってるよね、絶対」

 彼も笑ってうなずく。「なってるなってる。教科書のページ、ほぼ文字の黒と赤ラインだよな。優先度分けしようとしてライン引きのカラー変えたら、もう虹だよな。どれが大事だかわかんねえっていう」

 「そう!」また笑いに天を仰ぎ、視線をカーツァーへと戻した。「そんである日、重大なことに気づくのよ。勉強なんかしても意味はない。数式なんか大人になったら使わないし、歴史なんて掘り返しても意味がない。光合成なんて学んだところで、花なんかに心動かされないわよって」

 「小学校の時、どんだけその愚痴繰り返してきたんだって話だよな」ゲルトが言う。「ほぼ毎年言ってた。休憩時間にテス勉しながら、そのうちイライラしてやめんの。それでも俺は平均くらいはとってたけど」

 うなずいたものの、私はカーツァーに訊いた。「なんでなの? ほとんど同じように勉強してきたのに、同じように授業中にふざけて、同じようにテス勉して放り投げてきたのに、なぜか音楽以外、ゲルトのほうがいつも点が上なのよ。なんで?」

 「そりゃアタマの出来だろ。お前は雑念が多すぎ。集中力がなさすぎ。勉強になると特にだ」

 「さらりと言うな」

 タスカが苦笑う。「けど体育はベラのほうが成績、よかったんじゃね? 真面目にやれば」

 ゲルトは反論した。「真面目にやったら変わんねえよ。それだってアホらしいから、めったに真面目にやらない。でもたまにこいつ、体力テストで勝負持ちかけてきてたんだよ。勝ったほうがジュースとかアイス奢るとかで。んで、こっちがわざと負けたら慰めにくる。マジありえねえ」

 カーツァーは笑っている。「卑怯すぎる。どんなだ」

 「卑怯ってのは違うでしょ。正々堂々とですね」と、私。

 「秋になったら、今度はバスケでもやるか」ゲルトが提案した。「ドッジボールは置いといて」

 タスカも賛成する。「いいな。オレもダヴィデも元ミニバス部、バスケは得意だし」

 「で、あれだよね」私は身を乗り出した。「つくのはバスケットボールじゃなくて生首だよね」

 数秒呆気にとられたものの、彼らは笑った。

 「お前最低」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「そういや、リーズがオトコと別れたらしい」右隣でアゼルが言った。「昨日言ってた」

 放課後、マブのエアコンの効いたリビングのソファの上。コーナー部分に重ねて置いたクッションにもたれ、ふたりで脚を立てて座っている。私は彼の肩に、彼は私の頭に頭をあずけ、ふたりして目を閉じて。

 「へー」知らなかった。「夏休み前なのに」ニコラも球技大会のあとあたり、別れたらしいのに。

 「またナンパで遊ぶか」

 「ああ、そうね。私もちょっとくらい、別の男を見たほうがいいかもしれないし」

 「俺も他の女探したほうがいいかもだし」

 「どれくらい続くかな」

 「一回ヤッたら終わりだな。物足りなくて」

 「私も?」

 「あたりまえだろ」

 まあ、そうか。「でも何度かすれば大丈夫かもしれない」

 「お前は未知数すぎて何度かじゃわかんねえよ。日によって違うんだから」

 どんなだ。「いつも満足してる」

 「そりゃ一年かけて、ほとんどを知り尽くしたわけだから。こっちも満足はしてるけど、でももっとしてやりたくなる。マジでめんどくさい」

 意味がわからない。「それはなに? けっきょく満足してないってこと?」

 「違う。もっとなんかあるんじゃないかと思う。すげえ深い穴掘ってやろうとして、土を掘るだろ。どっかでデカい岩にぶつかる。普通はそこで満足。けどお前とだと、疲れきってるのに、その岩すら壊してさらに深く掘ってやりたくなる」

 思わず笑った。なんとなくわかる。

 「すごい時はほんとにすごいもんね。連続で何回もとか、誰でもできるわけじゃないんでしょ?」

 「らしいな」と、アゼルは苦笑うように答えた。「俺だって、そこまで性欲旺盛ってわけじゃなかったぞ。多くても一日一回か二回を数日連続でヤる程度。めんどくさいし長居したくもないから、そんなマメにしねえけど。なのにお前はなんか、普段の状態ってのを崩したくなる。ヤる時がいちばん崩れるだろ。怒りなんか程遠くなる。それを見るのも楽しい」

 なんというか、支配されている。「あんたはいつでもドSだよね」

 「だからベッドの上でしか勝てないっつってんの」

 「勝ち負けにこだわるのはやめなさいよ、くだらない」

 「喧嘩しなくなったんだから、それくらいさせろ。もうどんくらいヒト殴ってないの? マジありえねえ」

 現実に起きている。「ストレス溜まる?」

 「いや、特に。昔モメた奴にもたまに出くわすけど、どうでもいいし。お前がいなきゃもうセンター街にも行かねえから、そんなに。ムカつくのはお前だけ。最近はそれも言うほどないけど。平和すぎて平和ボケしそう」

 笑える。「その平和を分けてほしい。こっちは毎日うるさい。まだ夏休みにも入ってないのに、文化祭がどうこう言ってるし。そうじゃなくても周りはうるさいし」

 「お前が口止めするからまだ言ってないけど、言ったら絶対、いつでも行くって言いだすよな。マスティもブルも」

 「言うと思う。来るなら勝手に来いって話だけど。でも三人とも、ホラーハウスでびびッたりはしないでしょ」

 「それはないな。むしろ裏方を覗く可能性があるから、行かないほうがいい気がする。けどA組のはちょっと気になる」

 「出来がクソだったら泣きそう」

 「そしたら壊してやる」

 「私が怒られる気がするからやめて。でもそうだな、終わったらコピーもらってこようか。記念に」

 「そうしろ。お前の幽霊も見たいけどな。どうせやらないよな」

 「やらない。たぶんさ、シャレじゃなくなると思うのよ。その気になれば、幽霊なんて余裕でやれる気がする」

 アゼルは笑った。

 「だよな。ホラーハウスなんてのじゃなくて、本物の夜中の教室が似合う。返り血もナイフも当然似合う」

 「でしょ。普段白い服なんてそんな着ないけど、幽霊としてはたぶん、シャレにならないと思う。しかも裸足でね。そんななのに、ホラーハウスごときで私が出るべきじゃないじゃない」

 「何様だ」

 「幽霊様?」

 また彼が笑う。「衣装できたら持ってくるか。幽霊様に天国見せてやる」

 「どんな格好しても、とりあえずしたがるよね」

 「そりゃお前がやたらと脚見せるからだろ」

 「脚なんてそこらじゅう歩いてるじゃない」

 「変な表現やめろアホ」

 「ごめんなさい」脚がいっぱい。「ジーンズ履いててもするじゃない」

 「まあようするになんでもいいけど、とりあえずどんな感じかなと」

 「脱いだら同じなのにね」

 「お前、どんどんエロくなってくからな」

 「いや、なってないなってない」

 「どいつもこいつもよく我慢できるなと」

 「あんたの脳内がどうかしてるんだっつの」

 「夏は気をつけろよ、勘違いしたアホが大量に増えるから」

 「Tシャツとジャージ姿の女に欲情する男とかね」

 「そういや、お前ってヤりたくならねえの? 普段」

 「一緒にいない時ってこと?」

 「まあ、そう」

 「ならないな。考えもしない。一緒にいても、そういう雰囲気? にならないと、考えないし。スイッチがあるのよ、きっと」

 「ああ。んじゃやっぱあれだな、お前の場合は口説きは無駄。強行手段に出たほうがさっさと落とせる」

 「それ落とすんじゃないよね。単にしたいだけだよね。半分レイプだよね」

 「スイッチさえ入れれば誰でもヤれると」

 「そんなバカな」

 「っつーかあいつら遅い。どこまでビール買いに行ってんだ。もしかしなくてもヤれるんじゃねえの、これ」

 私がここに来た時、マスティとブルはビールを買いに行くところだった。彼らはすぐに帰ってくると言ってマブを出た。

 「どっかで素敵な脚を見てよだれ垂らしてるのかもね」と、私。

 「浮気しまくりの猿だからな」

 あんたもね。「世の中アホばっかりでイヤになるよね」

 「だよな」

 身体を起こし、アゼルは私の耳にキスをした。立てた脚を伸ばすよう促して私の両脇に手をつき、首筋にキスをする。

 目を合わせると、彼は微笑んでいた。

 「とりあえずいろんなスイッチ探す」

 そう言って、唇にキスをした。右手で首に触れ、ゆっくりと撫でるように下へと向かいながら、深いキスを何度も、何度も。

 アゼルのキスはいつも、一定のところで私をその気にさせる。彼はキスだけで、私をその気にさせてしまえるのだ。

 もっと引き寄せたくて、キスをしながら左手で彼の首筋に触れた。

 玄関のベルが鳴った。それも連打で。

 口元を引きつらせたアゼルが言う。「どんな嫌がらせだこれ」

 私は思わず苦笑った。

 「どうやら私のスイッチは、自動でオフにもなるらしいわ」

 「本気か」

 再び玄関のベルが連打される中、答えるより先に、彼にキスをした。深いキス──そして唇を離し、再び視線を合わせて微笑んだ。

 「おあずけ」

 アゼルは呆れ顔。「どいつもこいつもふざけんな」

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