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RED - DISK02  作者: awa
CHAPTER 03 * FIGHTING DAYS
18/119

* Gong

 翌日金曜日。

 トルベンがカーツァーに送ってきたメールによると、チャーミアンはA組の教室に現れず、そのまま授業がはじまった。A組ではもう、盗み確定だとなっているらしい。しかも宣戦布告の首謀者は、やっぱり私なんじゃないかと。

 朝や二時限目あとの休憩時間は、主にアニタやタスカがA組生徒に呼び出され、事情を訊かれた。だけど彼女たちは、どこから話が漏れたのかも、自分たちがどんな内容を話していたのかも、一切喋らなかった。そのうちわかるはずだ、と。だけどそんなことがどうでもいいくらい、私は眠かった。

 チャーミアンの盗作話は他クラスにも広がりはじめていた。チャーミアンがD組の文化祭の計画を横取りしようとしたらしいと、A組の一部が漏らしたのだ。私もジョンアとナンネを引き連れたエルミや、同クラス、他クラスの数名に話を訊かれた。たいしたことじゃないから気にするなと答えた。

 四時限目の授業の途中、チャーミアンが現れたらしい。情報によると、なんでも朝から母親の具合が悪く、代わりに家事を済ませていたと、クラスメイトの前で教師に説明したという。それならしかたがないなと教師を味方につけ、周囲の目をごまかした。だけどクラスの半分以上が、内心ではそれを信じていないだろうという話だった。信じているのは普段、チャーミアンにやさしくされている地味真面目グループだけではないかと。

 彼女の計算高さやずる賢さは、近くにいる人間ほど知っている。仲のいいペトラやカルメーラ、そしておそらくエデたちもだ。当然、カマトトぶっているのも世渡りの上手さも認識済み。内心嫌気がさしてるのに、それでも一緒にいる。それが、女という生き物の不思議なところだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 昼休憩に入って話をしていると、前の席で喋っていたアニタが突然、教室後方戸口を見たままかたまった。チャーミアンがD組の教室にやって来たのだ。

 「ベラ、ほんとに私、真似なんかしてないよ」

 両側に奴を信じているらしい二人の女を連れ、私の後方に立ったチャーミアンが弁解がましく切りだした。

 私はわざわざ椅子を動かして奴らのほうを向いて座り、腕と脚をそれぞれに組むと、改めてチャーミアンの視線を受け止めた。

 「なんで私に言うわけ? 私は昨日、A組の教室には行ってないはずだけど。書いたのは私の周りにいる五人。中心になったのはアニタ。私のイニシャルはBじゃなくてIもしくはG。なんで私が犯人扱いされるのかがわからない。っていうか、このグループの中にイニシャルBはいないのよ、チャーミアン」

 左右と背後から屁理屈に対する失笑が漏れた。

 向かって左手にある教室後方ドアから、A組の生徒数人が顔を出す。野次馬に来たらしい。D組のクラスメイトも、半数以上が教室内にいる。状況がわかっていない連中も含め、全員が雑談をやめた。

 教室内が静まり返る中、彼女が眉を寄せて身構える。

 「じゃあ、ベラは関わってないの?」

 「関わってるってなに? なにに関して? ブラックボードのこと? なんで私が関わってるって思うわけ? 愛称の頭文字がBだから? それともネタが私からだって知ってるから? っていうか、そもそもなんで自分が標的だと思うわけ? ブラックボードにあんたの名前があった? なかったよね。追伸のこと? 私はあんた以外にだって金を貸したこと、あるわよ。みんな額は小さいし、返済に一週間かかった誰かさんと違って、遅くても三日以内には返ってきたけどね」

 周囲がまた笑いをこらえるのがわかった。チャーミアンは頬を赤くし、眉を寄せて唇を堅くむすんだ。

 かまわず続ける。「黒幕が私だって思うのはかまわないけど、アニタがリーダーで首謀者だとは思わないの? この件でいちばん怒ったのはアニタよ。私はどうでもよかった。もちろん、どうなろうと最終的にうちの計画が潰れるよう計算されてるのも、ちゃんとわかってたけど」

 彼女は少し大きな声で反論した。「だからそんなこと、してな――」

 「ああそう」

 必死らしいチャーミアンの言葉を遮った。その言葉は、私にとってゴングだ。

 「私たちにバレたとしても、パクッてないで押しとおす。A組で話した内容には自分のネタも混ぜてるから、下手に騒げばこっちが悪者。他の連中にはどこまでがこっちのネタかわかんないし、自分のネタだって言いとおせば、こっちのことだってパクり扱いできるもんね。

 しかもこんなふうに話が広まる可能性も考えてた。D組がホラーハウスを強行するとしても、ネタが広まれば、少なくとも二年は怖さ半減──客は減る。だって中身の見えてるホラーハウスほど、つまらないものはないから。しかもA組全体に話を広めたから、さすがの私も泣き寝入りする可能性だってある。相手が誰だろうと聖人のように振る舞って、普段から味方を多く作ってるあんたと、ロクにヒトと絡もうとしない私。こっちがあんたを一方的に責めたとして、周りがどっちの味方につくかは一目瞭然。計算外だったのは、あんなふうにクラス全員の前で、しかも遠まわしにパクりだって公表されたこと?」

 チャーミアンが下げた拳を力いっぱい握るのがわかった。表情にははっきりと、困惑と恥が浮かんでいる。私は間髪入れずにさらに続けた。

 「それでもまあ、あんたはへこたれないよね。こうやってクラスに乗り込んできて、堂々とこっちの勘違いだって言いきる。この件を知ってても知らなくても、よっぽど自信があるんだろうなと周りは思う。こっちはしょせん七人の雑談でしかないし、ネタの答え合わせをするわけにもいかない。周りはどっちが正しいのかわかんない。

 しかも私が啖呵切るような真似すれば、あんたは即泣いて被害者面、やっぱり私が悪者で、あんたは周りからの同情も買える。ひとりで来ればさらに効果的だったのにそうしなかったのは、場所を移動した時の啖呵に対する保険? 最低限の目撃者は必要だもんね。しかも自分からついてきてって言ったんじゃないかな。D組に真似じゃないってはっきり言ってくる、みたいな感じで、勇気と自信のあるところを見せて、ついていくって言わせた?」

 口元をゆるめてそう言うと、彼女の両側に立つ二人は戸惑いの表情で彼女の顔を見、心なしか半歩下がった。

 私はずっとチャーミアンから視線をそらさず、冷静に、だけどはっきりした声で話を続けてる。周りにいる全員に聞かせるためだ。

 「ずいぶん計算盛り込んでるけど、残念ながら私はそれほど、この件に入れ込んでないの。ネタは考えろって言われたから考えただけ。面倒だからやりたいとも思ってないし、そっちがパクろうとどうでもよかった。放置でいいと思ってたのよ。で、さっきの答えだけど」

 身体を前に傾けると、今にも泣き出しそうなチャーミアンに向かって微笑んだ。

 「A組でホラーハウスの話が広まってるって知って、真っ先に乗り込もうとしたのはアニタ。だからブラックボードに書けって言っちゃった。文章もほぼ私のだよね。お察しのとおり、黒幕は私。関わってるどころじゃないわよ。それなりに計算高い奴が犯人だろうとは思ったけど、はっきりとはわかんなかったから、私なりに計算したの。最初に目をつけたのがあんた。で、女と金ってキーワードを入れてみた。あと、首謀者のイニシャルはB。わかってると思うけど、愛称のBね。そうすれば、誰のネタかってわかってるあんたは必ず、私のところに来る。ま、そんなことしなくても、撮影してもらった動画に映ってたA組のみんなの視線が、犯人はあんただって教えてくれたけど」

 眉を寄せ唇を堅くむすんだままのチャーミアンはとうとう、両目に涙を浮かべた。

 だけど私は気にしない。再び椅子に背をあずける。

 「じゃあそもそも、どこから極秘のはずのA組のホラーハウスの話が漏れたかって? 私、地獄耳なんだよね。D組の教室にいても、自分に敵意のある奴の声は聞こえるのよ。たとえそれが、遠く離れたA組からの声だったとしても」

 そう言うと、また周囲が小さくふきだし、その笑いをこらえた。

 「まあ半分冗談だけど」と言い添える。いや、ぜんぶ冗談だけど。

 視線をそらすわけにいかないから確認できないものの、後方にもサイドにも、野次馬が増えている気がした。それでもかまわず、私は続ける。

 「私に友達が少なくてもね、この六人にはちゃんと、友達がいるの。おそらくネタ元だろう私にはなんの義理もないけど、むしろさっさとくたばれくらいに思ってるけど、それ以上に友達思いな友達が」

 周囲からくすくすと小さな笑いが溢れる。

 しかし気にせず、チャーミアンに向かってまたも微笑んだ。

 「あんたにとっての計算外は、ブラックボードのことだけじゃなかったね。パクられようと話が広まろうと、この件に関して、私が微塵も気にしてなかったこと。せっかく乗り込んできたのに、怒鳴り散らしてもらえなかったこと。それどころか、自分が選んだ昼下がりのD組の教室っていうこの場所で、完璧だったはずの計算式を暴露されたこと。よく見なよ。あんたが今視線を合わせてるのは誰?」

 私は口元をゆるめたまま再び身体を前に傾け、右頬に静かな涙を流すチャーミアンの目をまっすぐに見上げた。

 「あんたが敵に選んだのは私。ネタをパクられたくらいじゃ怒らない私。ホラーハウスができなくなっても、なにも思わない私。それでもやりたいって言われれば、それ以上の演出を考えだす私。好きで悪役を選んで復讐を考える私。泣き落としを受け入れない私。頭は悪いものの、喧嘩になれば、腹黒さと冷酷さと計算高さと頭の回転が半端じゃなくなる私。性悪で同情心のカケラもなくて、周囲の目を気にしない私。こういうことに関しては、やりすぎだと思ってても止めないでいてくれる、やさしい友達をもった私」

 なにも言えずにいるチャーミアンから視線はそらさず、微笑んだまま、また椅子に背をあずけた。

 「さて、どうしようか。あんたがいくら真似じゃないって言い張っても、こっちも意見を変える気はないわよ。あんたがしようとしたことと同じ。私も堂々と言いきれるのよ。たとえ味方がいなくてもね。だって私、間違ってないもん。被害者面する気もないわよ。だって怒っても哀しんでもないし。売られた喧嘩に冷静に対処してるだけだし」表情から笑みを消す。「最初に仕掛けたのはあんた。悪意のないA組のみんなを巻き込んだのもあんた。私を敵に選んだのもあんた。せっかく昨日、行かないでやったのに。名前もはっきりと書かないでやったのに。ちょっとした親切心ですら、無駄にしてくれたよね。まあいいけど」締めにと思い、再び表情に少々の微笑みを戻した。「とりあえず、怒りの首謀者はアニタだから、あとはアニタに任せようか。これ以上はあんたが耐えられないだろうし?」

 周囲からはまたも小さな失笑が漏れた。

 集中することをやめたせいか、視界の端にある戸口付近に、A組を中心とした生徒が多く集まってるのがわかる。数人は声には出さないものの、苦笑っているらしい。だけど私はまだ、チャーミアンから視線をそらさない。

 すぐうしろでアニタが静かに席を立ち、冷静な口調で切りだした。

 「これ以上は続けても、意味ないよね。もうA組の子、ほとんど集まってるよ。他のクラスの子もいる。もう認めろともあやまれとも言わないけど、この空気でどっちが正しいかって、わかんないほうがバカだよね。ネタを言いふらすつもりなのかどうか知らないけど、それをしたって、十月の文化祭、D組はホラーハウスをやる。A組がするとかしないとか、どうでもいい。内容が知られてようと、そんなの関係ない。っていうか今から言いふらすにしても、この話だって、今ここにいない子たちにも広まるよ。それでも言いふらしたら、あんたは完全に悪者になるけど。それでもいいなら言いふらせばいいけど。でもそんなの関係なく、あたしはD組のみんなを説得して、ホラーハウスをやる。ベラがやだっつっても、なにがなんでもやる」

 いやいや、どんだけやりたいんだ。ハッタリに気づいてよ。いやよ、考えるなんてめんどくさい。

 アニタが話を終え、教室は重い沈黙に包まれた。今この場にいる全員の視線はおそらく、ほぼチャーミアンに集まっている。

 眉を寄せたまま、唇を堅くむすんだままの彼女は、溢れる涙を拭くこともせず、ただ呆然と立ち尽くしてアニタを見ていた。

 そんな中、廊下側の戸口からそのやりとりを観察していたA組女子のアウニが、いくらかの沈黙を破って口を開いた。

 「もういいじゃん。チャーミアン、あやまって終わりにしようよ。じゃないと、ほんとに悪者になるよ? 友達なくすよ? 今ならまだ間に合うから」

 それでまた、おそらく全員がチャーミアンを見た。

 彼女は鼻をすすってうつむき、両手で涙を拭いた。顔半分を覆い隠すようにしながらつぶやく。

 「──ごめん──なさ──」

 はい、勝った。

 アニタは小さく吐息をつき、息を深く吸い込んだ。

 「はい、もう終了! この話終了! 解散! みんな散れ!」

 彼女のその声で、戸口に集まっていた奴らはざわつきながら解散し、教室内にも徐々に声が戻った。A組や他の女子数人に促され、チャーミアンは泣きながらD組の教室をあとにした。

 けっきょく自業自得なものの、あまりに悲惨すぎる結果に、ほんの少しながらも、本物の同情を手に入れたのだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 私も吐息をついて椅子を元に戻し、前を向くことにした。そこで教室内外の状況を目の当たりにし、自分の目を疑った。D組やA組だけでなく、B組やC組からもヒトが集まっていたのだ。しかも数枚ある廊下側の腰窓が数枚開いていて、そこからも野次馬が見ていたらしい。といっても察したのか、廊下の野次馬は腰窓を閉めたし、他クラスの野次馬は教室を出たけれど。

 そしてアニタは椅子に座ってそのまま、私の机に両腕を寝かし、顔を伏せた。

 「どした」

 私が言うと、彼女は低い声でうなった。

 ガルセスが苦笑う。「さすがに同情したか」

 「それはない!」アニタは瞬時に身体を起こしながら答えた。「けど──」困惑の表情でこちらを見る。「あたしが昨日、あのまま乗り込んでたら、確実に負けてたよね。あいつが小賢しい奴だってのは、計算高い奴だってのは、ちゃんとわかってた。でも、ホラーハウス計画を潰すつもりなんだ、くらいにしか考えてなかった。問い詰めて認めさせればいいと思ってた。けど、ベラの話聞いてたら、そんな簡単じゃなかった気がして──」

 肩をすくませ、私は椅子に背をあずけた。

 「まあ、たぶん負けてたわよ。高確率でむこうが泣いて、あんたが悪者扱いされて終わり。こっちに乗り込んできたあいつが、あんたひとりを相手に選んだとしてもたぶん、負けてた。やばいと思った時に私が口出せば逆転の可能性も残ってるけど、そしたらあんたの立場が微妙になる。イニシャルBはそのための保険でもあった。私の名前をはっきり書かないことで、私が行かないことで、昨日の悪役をあんたたちにした。でも女に絞って金のことを書いたうえで、イニシャルを私の愛称のBにしておけば、むこうが乗り込んでくるとすれば、私を相手にするでしょ。それなら勝てるじゃない」

 ゲルトが笑ってアニタに言う。「止めた俺らに感謝しろよ」

 「わかってたの!?」

 彼はあっさりと答えた。「まさか」

 「っていうかたぶん、誰もわかってないだろ」カーツァーが言った。「先に情報が回ってきた俺ですら、そこまで想像してなかったぞ。ベラが昨日言ってたみたいに、こっちが出来なくなるんだろうな、程度」

 「っていうか」マーニがこちらに訊く。「お前はわかったわけ? 昨日のあの短い時間で、さっき言ったこと、むこうの計算だけじゃなくて、潰しかたも含めて、あんだけ?」

 「や、ぜんぶとは言わない。半分くらいかな。あとは喋ってたら勝手に出てきた。潰しかたはまあ、あの方法なら確実だとは思ってたけど。だって誰も止めないし。むこうも喋らないし。なんか私ひとり喋ってるし。喋らせる気もなかったけど。あんたたち含め、周りはたまに、空気も読まずに笑ったりしてるし。まあそれはどうでもいいけど。ほんとに怒ってなかったから、冷静に喋れたし。っていうか、特に意識しなくても出てくるんだよね、なんか」

 カーツァーがすかさず補足する。「変人だからな」

 「うっさいな」

 「んじゃ、なんでお前らはアニタを止めたの?」マーニはゲルトに質問した。

 「深い意味はねえよ」彼が答える。「けど乗り込んでいいところだったら、ベラはそのまま行けって言うだろ。それ確かめてからじゃなくても遅くはない。数秒数分の違いだから」

 ガルセスがあとを引きとった。「ベラが怒ってなかったからとかじゃねえよ。オレらもちょっとムカついたし。けどむこうが計算高い曲者だってのは、こいつらから聞いてたし。アニタが乗り込むって言えば、ベラはアニタが負けない方法を考える。計算高さと腹黒さじゃ、ベラも引けをとらないから」

 おいおい。

 「っていうか、完全に勝ってるよな」タスカが苦笑って私に言った。「キレてないはずなのに、あの軽い口調が逆に怖かった。空気読まずに笑うしって、笑わせるようなこと言ったのお前だし。あんな状況なのに。しかもあの方法。完璧すぎ」

 だって空気がシリアスすぎて。「喧嘩するならとりあえず、勝つのよ」

 アニタはうつむいて深い溜め息をつき、両手で髪をかきあげた。

 「──まえに、ベラに、時々危なっかしいって、もっと相手見て喧嘩売れって言ったけど、あたしもそうだ。喧嘩売ったり買ったりするからには、絶対負けちゃダメなのに、考えなさすぎで、負けるとこだった」両手を脚の上におろすと、眉を寄せて涙目でこちらを見た。「なんで止めなかったの? 一歩間違えば負けてたのに。ベラは怒ってなかったのに」

 私は肩をすくませた。

 「怒りたい時は、怒ればいい。それでもし私たちが負けたって、誰もあんたのこと、責めたりしないわよ。それに、ゲルトだってセテだってイヴァンだって、なにも私の性格だけをわかってるわけじゃない。あんたの性格だってわかってる。時々私以上に短気で考えなしで負けず嫌いだってことも、ちゃんとわかってる。だから一度は止めたのよ。自分たちをじゃない、あんたを負けさせたくないから。私ならそれができると思って。まあ買い被りすぎというか、悪役をくれたというか、けっきょく責任をぜんぶ、私に浴びせてくれたわけだけど。失敗したらどうすんだって感じだけど。あんたは間違ってないんだもん。怒るのを止める必要はないじゃない。勝てる喧嘩なら買えばいいでしょ」

 アニタは涙を浮かべたまま苦笑った。そのまま机に両肘をつき、額を手で覆って下を向いた。

 口元をゆるめ、ゲルトが彼女に言う。「お前は幸せモンだな」

 ガルセスも笑う。「最高で最強最悪の悪役が味方にいるわけだしな」

 「その捻じ曲がった性格の悪役のせいで、俺らみたいな捻じ曲がった性格の男たちとつるむようになっちまったんだけど」と、タスカ。

 カーツァーも笑った。「その悪役の性悪度が完璧すぎて、お前のアホっぽさとか短気さなんかは、ずいぶん可愛く見えるし」

 マーニははっとした。

 「考えたらあれだな。ベラと一緒にいて、っていうかこいつらと一緒にいて、よく性格、捻じ曲がらずに済んでるよな。オレなんか、もうすでに捻じ曲がってるからアレだけど」

 みんな笑い、ひとり苦笑ったアニタは、感極まった声で答えた。

 「みんなが捻じ曲がってるから、捻じ曲がらずに済んでんの。っていうかベラといたら、わざわざ捻じ曲がらなくても楽しいし。捻じ曲がったみんなといるのも、楽しいし」鼻をすすって続ける。「強制しないし、そのまんまでいさせてくれるから、楽しい」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 アニタとカーツァーの情報網によると、チャーミアンは、五時限目の授業が始まる前に早退した。A組の連中は、彼女が話したネタのことを忘れることにしたらしい。この一件が他の目撃していない連中にも広まりつつある中、言いふらせば、特定される可能性は低いにしても、自分たちも悪者だ。というか、チャーミアンへのはったりが効いたのか、私ならホントに特定するんじゃないかという気がしている奴もいるとかいないとか。

 そしてチャーミアンの計算高さを気に入らないと思っていた連中は内心、ざまあみろと喜んでいた。なぜわかるかって、私やアニタを見る時、妙ににやけるのだ。表情にはっきりと出ている。だけど自分たちはそこまで性悪だと思われたくないからか、そんな話を持ち出すようなことはしない。それが性悪度を上げていることにすら気づいていないのだ。

 ジョンアを含め、完全にチャーミアンのことを信じていたらしい地味真面目グループは、ひどくがっかりしているようだった。可愛くて男子とも話せる人気者で、エデたちとも仲がいいのにやさしくて、それこそ聖人のようだったのに、計算式を暴露した私やアニタにあやまったということは、すべてかはわからないにしても、あながち間違ってないということで──ただ利用されていたというか、内心小馬鹿にされていたのかと思うと、どう接していいのかわからないらしい。

 またエデたちの時のように、しばらくは気まずい雰囲気が出来上がる可能性がある。奴の最大の間違いは、ひとりで私を敵にまわしたことだ。エデたちは三人一緒だったから、まだマシだった。同じクラスだし、固まっていることができたから。

 だけどチャーミアンは、本来なら味方が多いだろうはずなのに、A組全員を浮き足立たせて落胆させ、計算高さを暴露されたうえにひとりだから、かまってくれる人間はほとんど、同情心からということになる。計算高さが仇になった。あからさまなイジメは受けないだろうにしても、あまりに悲惨で惨めすぎる。唯一の救いはこの日が金曜で、二日は休みがあるということだろう。

 ちなみに、どうしてトルベンがネタ元である私の存在に気づいたのかといえば、ひとつは、チャーミアンの計算高さに気づいている数少ない男子のひとりだからだ。エデたちはよくカーツァーたちについてまわっていたものの、チャーミアンは男子の中なら、よくトルベンたちと話していた。同じ腹黒同士、見ていればわかる。

 そしてこれは勘でしかないけれど、私のことを嫌っているからこそ、気づくこともある。一年の時に私がやってきたことも知っているし、それなりにカーツァーたちの話にも出てくるのか、気配を感じたのかもしれない。

 カーツァーに知らせたあと、さすがに私と話をすることは拒否したけれど、カーツァーが説得したのだという。話と言ってもけっきょく、まともな会話は唯一、カルメーラのことを訊いた時だけだったが。

 夜、そのカルメーラからメールが届いた。途中から教室での一件を見ていて、自分のことを持ち出さずにいてくれてありがとうと。恩着せがましくなるのはイヤだったので、とりあえず、返事をするのはやめた。

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