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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 03 * FIGHTING DAYS
16/119

* Declaration Of War

 「ほんっとごめん!」

 アニタとガルセス、タスカに事情を説明されて空き教室に来たカルメーラは、顔の前で両手を合わせ、強く目を閉じてあやまった。

 華奢な身体に肩下まである明るいココアブロンドの細いストレートヘアは、たいていいつもポニーテールにしている。打ち上げにも花見にも来た。特に好きな男はいないけれど、男子とあまり話せなくなっていた女子のうちのひとりだ。

 ちなみに私もそれなりに話すし、夏休みなら一度か二度は一緒に遊ぶ相手であるものの、アニタやペトラだけではなく、エデたちとも仲がいい。だけどペトラや他の一部の女生徒と同じで、エデたちの微妙な嫌味やわがままを黙認しているタイプだ。

 「一時限目の休憩時間、D組に遊びにきてて、ホラーハウスの話が聞こえてて──」合わせた手を胸元まで下げながら、カルメーラは申し訳なさそうな表情で続けた。「二時限目の休憩時間にチャーミアンと話してて、ベラやアニタたちが、文化祭でホラーハウスしたいって話してたって、言っちゃったのね。したらチャーミアンが、自分も今年はホラーハウスしたいと思ってた、いろいろ考えてたけど、もしかしたらネタかぶってるかも、どんな内容で話してたかわかる? って訊くから、ベラが言ってたこと、覚えてる限りそのまま、喋っちゃって──。

 むこうはそれ聞いて、ほとんど一緒だ! とか言ってて──さすがにあれ? って思ったけど、まさかパクろうとしてないよね? なんて言えるわけないし──早めに手打たないと、A組が真似したみたいになるよね、とか言ってて──そのあとすぐ、あの娘がA組でその話をはじめたってのはわかったんだけど、なんか、どうしていいかよくわかんなくて──」話すテンポを落としつつ、言葉を濁して言い終えた。

 長すぎる説明に、私は深すぎる溜め息をついた。パクりだという証拠はない。だけど──。

 「パクりだよね、絶対」しかめっつらのアニタが言った。「放置は無理。ベラが行かないならあたしが行く」

 私は正直、どうでもいい。「わかったから、ちょっと待って」どうやら本気で考えなければならないらしい。

 証拠はないけれど、あいつのずる賢さを考えれば、おそらく間違いない。しかもこの状況──相当計算されている。むやみに突っ込んでいいわけがない。

 いろいろな状況と結果が、奴の細かく巧妙すぎる計算が、ものすごい速度で頭の中を横切った。

 うーん、まあいいか。とりあえず、アニタにやらせるとして。奴ひとりに怒鳴り散らすのは得策じゃない。そうなると負ける可能性がある。そうじゃなくて、全体に広める。宣戦布告。

 「教室に乗り込め」私はアニタに言った。「でもあいつと話すようなことはしなくていい。無言で乗り込んで、派手にブラックボードに書くの。“パクり女へ。宣戦布告。十月の文化祭、二年D組はホラーハウスを実行する。こっちに勝てる自信があるなら、そのままリーダー気取りでやればいい。けっきょくそっちが恥かくだけだから、やめるなら今のうちだけどね”──みたいな感じで。あいつの実名は出しちゃだめ。けど、私からってのは書いて。ただし書くのは名前じゃなくてイニシャル。しかもIじゃなくてB。これは絶対。間違うな」

 アニタは強気な笑みを見せた。「よし、行ってくる」

 「ちょっと待て」マーニが口をはさむ。「それ、オレが一緒になって書くのはアリ? いや、本文はアニタが書くだろうから、なに書くかはわかんないけど、とりあえず派手に」

 私は肩をすくませた。

 「かまわないわよ──あ、じゃあ、追伸にこう書いて。“二度とあんたに金を貸す気はない”って」これで一部の女子はわかるはずだけれど。

 きょとんとしたものの、彼はすぐ思い出して笑った。

 「あれ、あいつなのか。よし、オレはそれ書いてやる」

 「オレらも行く」ガルセスも口元をゆるめている。「遊んでくる」

 どんどんおおごとになっている気がする。が、それもしかたない。

 私は、まだこちらの顔色を伺う様子のカルメーラへと視線を向けた。

 「あんたは気にしなくていい。私たちに訊かれたことも、ここで話したことも、適当にごまかして。あとであいつに訊かれても、喋ってないって言い張って。A組だけだろうとそれだけ触れまわってれば、そのうちわかることだから。それから」続けてトルベンにも忠告する。「あんたも喋ったって言わないで。このあとA組でなにが起きようと、黙って見てて。これは私たちとあのアホ女の問題だから。あと」さらにカーツァーにも言う。「ダヴィ。携帯電話で動画撮ってくれる? 戸口からでかまわないから。A組の連中の反応が見たい。けどずっとそれだけだと不自然だから、あくまでブラックボードに書くアニタたちを撮るよう意識して。それがあれば、アニタたちもみんなの反応を気にせずブラックボードに書ける。この中じゃ、あんたがいちばんそれをうまくやれる」

 彼は微笑んだ。「了解」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 カーツァーはA組での一部始終を、しっかりと動画に収めた。

 アニタを先頭に、マーニ、ガルセス、タスカ、ゲルトと続いて二年A組の教室に乗り込むと、アニタは教卓を囲って話をしていたA組女子に声をかけて下がらせた。

 A組生徒が呆気にとられる中、“パクり女へ”、“宣戦布告”というタイトルをガルセス、タスカ、ゲルトがブラックボード上部に、何度かなぞるように数色重ねて大きく書き、アニタは私が言った言葉をほとんどそのまま、白と赤のチョークを使って黙々と書き、その右側でマーニが私からの追伸を、黄色のチョークを使って書いた。タイトルを書き終わったゲルトたちはそのあいだ、文の周りを赤や青、黄色といったカラーチョークでおもしろおかしく、派手に囲い飾っていた。

 カメラが時々映し出すA組の生徒たちの反応はというと、アニタたちがブラックボードに落書きしているあいだはそこに視線が向けられていたものの、教室後方の席で女子数人と話していたチャーミアンの表情が徐々に青ざめていくのが、遠目からでもわかった。

 作業を終えたアニタたちは楽しそうにハイタッチし、A組の生徒に笑顔で手を振って教室をあとにした。

 それでもカーツァーは少しのあいだ撮影を続けていて、最後に“フロム・B”と書かれたブラックボードを写し、そのあと呆気にとられるA組生徒を画面に映し出して、ざわつくA組生徒たちの視線がチャーミアンへと集まる瞬間も捉えていた。

 ベルが鳴ったこともあり、そこで動画は終わった。

 五時限目の授業のあとの休憩時間、たった数分のそんな映像を、マーニはカーツァーの携帯電話で、私はアニタの携帯電話で、タスカは自分の、ゲルトはガルセスの携帯電話で同時に流し観ながら、みんなでひどく笑った。

 何度めかの再生中、カーツァーの携帯電話に届いたトルベンからのメールで、チャーミアンがD組の案を盗んだことにA組の連中が徐々に気づき、かなりしらけた状態になったことがわかった。何人かの女子に訊かれ、チャーミアンは盗んでないと必死に弁解したものの、ひとりの男子が“盗んだんだろ”と聞こえるように言ったところで、しまいに泣きだしたという。それでも“盗んでない”という意見は意地でも変えず、だけど六時限目を担当する教師に泣いているところを見られ、体調が悪いと勘違いされたのか、早退したらしい。

 そんな実況と報告メールを見ながら、苦笑う私とカーツァー以外は爆笑した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 

 LHRを終え、放課後。

  「っつーかベラとトルベンの仲の悪さ、相当だよな」マーニが言った。「なにあれ」

 カーツァーが説明する。「普段はお互い、目も合わせないんだけどな。なぜかやたらと嫌い合ってる」

 「オレら小学校の時、わりと言われてたぞ、なんであんな女とダチやってられるんだって」ガルセスが言う。「ゲルトは特に言われてたよな」

 「耳にタコができるくらい言われた」

 「あんだけ言い合ったの、はじめてなんじゃね?」タスカが私に訊いた。

 「っていうか、喋ったのがいつ振りかっていう話だよね。ぜんぜん記憶にないのよ。普段はお互いに存在無視してるから」

 アニタが首をかしげる。

 「なんか仲悪いよね。トルベン、あたしには普通なんだけど。っていうか、わりとみんなに普通なんだけど。あんだけ口悪いと思わなかったし。ちょっとびびったし。でもベラはずっと前から嫌ってるよね。なんで?」

 なぜかと言われて考えたが、さっぱりわからない。「さあ」

 彼らは声を揃えた。「は?」

 マーニが訊く。「え、意味もなく嫌ってるわけ? まさかオル・キャスとかニュー・キャスとかいう理由じゃないよな」

 「それはない」と彼に答えた。トルベンはオールド・キャッスルの人間だ。「でもなんか、昔から気に入らないのよ」

 「お前、マジで覚えてないの?」ゲルトが私に言った。「いつからあんなふうになったか」

 「え、覚えてない。なんかあったっけ」

 「知ってんの?」マーニがゲルトに訊いた。

 「あ、そっか」アニタが言う。「五年の時じゃないなら、ゲルトは知ってるか」

 「そりゃな」と答えてこちらに言う。「ヒントは三年」

 はて。

 「三年はオレも一緒だったけど、覚えてない」と、タスカ。

 私も覚えていない。小学校三年といえば、あの地獄の日々だ。他のことなどどうでもよかった。

 アニタは突然ひらめいた。「あ。四年の時さ、違うクラスだったけど、掃除サボッて廊下走りまわってたトルベンたちにホウキ引っかけて転ばせたこと、あったよね」

 はて。「誰かを転ばせたのは覚えてるけど、あいついたっけ」

 「そういや」カーツァーも言う。「五年の時、お前があいつの足ひっかけて、うしろにいた何人かもまとめてドミノ倒しにしたこと、あっただろ。あいつらが誰かの体操着袋かなんかを奪って、教室走りまわってた時。イジメっぽいことした時」

 「そこにもあいついたの?」私は訊き返した。誰かをドミノ倒しにしたということは覚えているけれど。

 タスカもうなずいた。「ああ、あったあった。あと、女子の誰かが誰かを好きだって噂が流れて、あいつらが女のほうをからかってた時。ベラが自分の体操着袋かなんかを、あいつに投げつけたんだ。しかも思いっきり。ふいうちだったからキレイにヒットして、あいつもキレてそれ投げ返して、またベラが返して──けど途中で担任が来て、ちょうど投げてたのがあいつだったから、あいつひとりが担任に怒られたんだよ」

 ほとんど覚えていない。投げたことは覚えているけど、投げ合ったのか。怒られたのか。というか、それもあいつだったのか。

 マーニが笑う。「ワルだな、あいつ」

 「そりゃ恨みも買うわな」と、ガルセス。「オレらは二年の時、掃除サボッてて、ベラにブラックボード・イレーザーで服汚されたことはあったけど」

 え。

 ゲルトが笑う。「そうそう。俺ら色の濃い服着てて、それ落とすために何人かですげえ背中はたきあってて、しまいに背中赤くなったっていうな」

 「ごめんなさい」やったのは覚えているものの、誰が相手だったかなど覚えていない。

 苦笑うアニタがゲルトに訊く。「けど、今言ったのがきっかけじゃないってこと?」

 「少なくとも最初じゃないはず。けど、これは言わないほうがいいかも。ベラには言ってもいいけど、あんまおおっぴらにしていいもんでもないような」

 「なにその意味深発言」ガルセスはタスカに訊いた。「覚えてねえの?」

 「ぜんぜん」と、彼は肩をすくませた。「三年だったら、まだそんなに話してなかった気がする。ゲルトと話すようになったのは一学期だけど、ベラとまともに話すようになったのはたぶん、二学期後半か三学期頃だったんだよ。ベラが昼休憩、教室でゲルトと話して過ごすようになった頃。いや、その前から仲はよかったけど、昼休憩はこいつ、クラスの女とよく外で遊んでて。けどいきなりそれをやめたんだ。なんでかはわかんないけど」

 それは、あれだ。最初のエデ事件だ。面倒になって抜けたのだ。

 「つまり」マーニが口をはさむ。「トルベンはほとんどの悪事の中心にいて、ベラは事あるごとに仕返しして、トルベンがベラを恨むというか嫌うのは当然だけど、当のベラはそんなのを覚えてなくて、なんで奴を嫌ってるのかがわかんないと」

 「そういうことだな」と、カーツァー。

 笑える。「ぜんぜんわかんない。おもしろいね」

 「じゃあさ」アニタが言う。「ゲルトは、その三年の時のきっかけっぽいことが、ベラがトルベンを嫌う理由だと思う?」

 彼は肩をすくませた。

 「だと思ってたけど、覚えてないならどうなんだろうな。結果的に言えば、あいつがそうやってベラの気に障るようなことをしまくってたから、キライってだけかもしれないし。とりあえず最初が三年の時のそれだってことは、ほぼ確実」

 はて。なんだ。めずらしく気になる。「今日夜電話していい?」彼に訊いた。「十時くらい」

 「好きにしろ」

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