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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 02 * SHADOW DAYS
13/119

〇 The Ball Game Day

 金曜、球技大会の日。

 学校に行く前にマブに寄った。アゼルたちが球技大会に参加することを話すと、祖母がわざわざ彼らのぶんの朝食と昼食を作ってくれたのだ。それを届けるために。

 彼らは三人揃ってマブで寝ていた。私はキッチンでインスタントコーヒーを作って彼らを起こし、朝食と昼食の説明をしつつ、煙草禁止、昼食時二年フロアへの乱入禁止、助っ人で入るとしても、生徒によけいなことは一切しないことと釘を刺してからマブを出た。

 そして、学校。生徒たちは体操着登校なものの、朝は通常どおりHRが行われる。遊び半分本気半分のノリが伝わったのか、生徒たちは皆、程よい戦闘態勢に入っているようだった。

 八時半すぎ、入学式の時のように後方窓を開放し、すでにバレーボール用のポールとネットを設置した体育館。整列せずランダムに集合した生徒たちの前で、気軽な開会式が始まった。

 以前はこの学校にも、体育祭があった。けれど数年前に大きな暴動があり、体育祭そのものがなくなった。この球技大会は、数年ぶりの新しい試みだと校長は話した。

 生徒会との会議の時、この開会式のことも議題になった。どうすれば学年関係なく、実力勝負というカタチで臨んでもらえるかだ。

 私は教師ではなく、生徒側がそれを話すべきだと提案した。つまりは生徒会長。生徒の代表として、三年の代表として、自分たちは手を抜かないこと、それに対し、二年はもちろん一年も、本気で勝ち上がる気で来てほしいと公言する。話として持ちあげるのが無理なら、生徒側の宣誓として先生すればいいと言った。そこに教師が、“宣誓したからには本気でやってください”と答える。真面目な生徒会長はどうにか角の立たなさそうな文章を作りあげ、それを生徒宣誓として読んだ。根っから戦闘タイプではないのだけれど。

 教師たちの提案であるステージ上でのアゼルたちの紹介は、リーズとニコラに頼んだ。体操着姿だから大丈夫だと彼女たちを説得して。マスティとブルは乗り気だったものの、アゼルはどうでもよさそうだった。眠いらしい。その一方で、三年を中心とした女たちのざわつきを含む歓声はすごかった。私は同期の奴らに呼んだのかと訊かれ、一切知りませんでとおした。

 開会式のあと、バレーボール一試合目を控えた女子たちと指揮をとる教師達、サポート係の何人かの生徒、応援する生徒たち以外は、体育館を出ることになった。Aブロックの応援はステージ上で、Bブロックの応援は開放された窓付近でするのだ。そうでもしないと、体育館は本当に狭いから。

 ちなみに女子は面倒だろうからと、体育館シューズで校内を歩くことが許可されている。ただしグラウンドへ行くには、いつもどおり自分のスニーカーを履かなければいけないが。

 生徒たちが続々と体育館の外に向かう中、人波に揉まれるのがイヤで、私はアニタと壁側に立って話をしていた。

 そこに突然、背後からやってきたマスティが私の肩に右腕をまわした。にやつきながらアニタに訊く。

 「アニタ、お前もケイってガキにへこまされたって?」

 彼女はしかめっつらを返した。「へこまされたんじゃない。ムカついたの。でも下級生相手に怒るのもアレだから、なんとか爆発する前に逃げた」

 彼は笑った。「オトナだな。俺らが会ったらやばいと思う?」

 悩ましげな表情で彼女がこちらに言う。「あのままのテンションでいけば、まずいよね」

 私は腕を組んだまま、「まずいと思う」と答えた。マスティに言う。「だからあんまり来てほしくなかったのに」

 「よく言うよ。条件つきだろうと参加認めさせたくせに」彼は私越しに流れる人ゴミを見やった。「どっかにいねえの? そのガキ」

 アニタも私も、体育館を出る生徒たちの群れの中にケイの姿を捜した。

 「あ、今いた気がする」アニタが言った。「見えなくなった。チビだから」

 どこだ。一年生、二年生、三年生、しかも男女、みんないるのだ。わからない。

 「あ、いた」

 後方で声がし、私たちは三人同時にそちらを見た。ステージ側からブルが歩いてくる。

 「お、アニタ見っけ。久々だな」

 「ひさしぶり」彼女もブルに答えた。「まさか三人が来るとは思わなかった」

 「そりゃもう、どっかの誰かさんが優秀だからな」彼は笑いながら私の傍らに立った。「朝飯うまかった。昼飯は職員室に置いてきた。ちゃんと“食ったら全校舎の窓ガラス破壊する”って書いて」

 おいおい。「お願いだから、今日はやめて。球技大会をぶち壊すようなことはやめて」

 「今日じゃなきゃいいのかよ」

 「いい。明日の土曜にやればいいと思う。月曜にみんなが学校に来たら、あらびっくり、みたいな」

 マスティが笑う。「お前とアゼルがいちばん楽しんでやりそうだよな」

 「確かに」絶対楽しいと思う。「なんなら全校生徒でやればいいよね。ひとり一枚ずつ?」

 「あたしはやんないよ?」アニタが口をはさんだ。「クラッシャーじゃないし」

 「お前もちょっとは壊す快感覚えたほうがいいぞ、人生楽しくなるから」

 そう言ったマスティの背中に蹴りが入り、私たちは揃ってバランスを崩しかけた。彼を蹴ったのはアゼルだ。

 「肩組むのはいいけど、学校ではやめろ。ベラがお前に乗り換えたみたいになってるから。俺がお前にベラを奪られたみたいになってるから」

 彼の隣にはリーズとニコラがいて、彼女たちは笑っていた。

 顔をしかめたマスティがアニタに言う。「今俺に蹴りを入れた奴が本物のクラッシャーだ。人生楽しそうだろ」

 アゼル以外はみんな笑い、マスティはやっと私の肩から腕をおろした。

 第一試合に出場する三年A組のリーズと応援するそれをニコラを残し、体育館の外に出た。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 第一校舎正面玄関のポーチで友達と話すケイを見つけた。同時に、彼もこちらに気づいた。私はひとり彼に近づいた。

 「思いっきりやんなよ。二年にも三年にも遠慮しなくていいから」

 「オレは遠慮なんかしねえ。けどサッカー、いきなり三年となんだよ。さすがに無理かも」

 こればかりはどうしようもない。「ま、やれるだけやればいいんじゃないの。考えかたを変えなさいよ。勝つことだけを考えるんじゃなくて、とりあえず一点でも多く点を取ることにする。勝てなくてもいいじゃん。同じ負けでも、相手に苦戦させればいい。それに負けたらそのぶん、ドッジで返せばいいのよ」

 彼は笑った。「だよな、そうする。一年の男共にはできるだけ、本気でやれって言ってある。クラスの奴は特に」私の後方を見やり、またこちらに視線を戻した。「さっき卒業生の助っ人が紹介されたけど、もしかして、あの髪の赤っぽいのがお前のオトコ?」

 よくわかったな。「そう。会う?」

 「どっちでも。あ、でも、助っ人頼むとしたら誰がいいのかは知りたい」

 私は体育館の壁にもたれて話をしていたアゼルを呼んだ。

 こちらに来た彼は、右隣に立って私の肩を組んだ。

 「お前か、ケイっての」

 ケイは呆気にとられている。「なにこの男前。こんなのはじめて見た。しかも背もデカイし」

 オトコマエってなに。

 アゼルが口元をゆるめる。「ベラにとっては、顔なんか関係ないらしいぞ。自分の顔がいいことにも気づいてないし、俺の顔がいいことにも気づいてない。鈍いから」

 「こいつ、昔から鈍い」ケイが彼に言う。「変なんだ。オレがグラビアとか女優の誰かのこと、可愛いとかブスだとか言っても、ぜんぜんわかんないとか言う。歌は好きだから、歌手の顔のこと言ってみるけど、重要なのは音と声だけで、顔はどうでもいいとか言う。今も昔もぜんぜん変わんねえ」

 アゼルは笑って同意した。「な、変だよな。グラビアならあっちにいる二人が詳しい。相当な面食いだけど」

 「マジで?」ケイは笑顔になった。「んじゃ、サッカー強いのは誰?」

 「ほとんど変わんねえけど、バランスで言えばいちばんはマスティ。髪が明るくて長いほう。もうひとりはブル。足が速い。テクがあるのは俺。けどドッジ以外はやる気がないからダメ」

 彼が笑う。「わかった。状況しだいだけど、選べそうだったら順番に頼む」

 「そうしろ」

 アゼルたちが生徒指導主事に呼ばれ、試合に出るならそれを見るとかで、ケイも友達を連れてグラウンドへと向かった。マスティとブルと三人で話をしていたアニタはこちらに来た。

 彼女が顔をしかめて訊く。「なついたの?」

 「なついたっぽいね、よくわかんないけど」と、私。

 なんだったのだろう。悪口どころか、態度の悪さなど微塵も出なかった。びびったというわけでもなさそうだし。

 「もしかして、男には平気なのかな」アニタが言った。「そういや、ゲルトたちにも普通だったし」

 「よくわかんないね、男は」両手指を組み合わせて思いきり腕を空に向かって伸ばし、私は背伸びをした。「とりあえず、体育館見に行こうか」

 ゲルトたちのがんばりなのか、グラウンドでの男子サッカー、二年D組は準決勝まで進んだ。だけど決勝でニコラのクラスである三年C組に敗れ、準優勝になった。

 体育館での私たちバレー女子はというと、私たち二年D組は三回戦でリーズが所属する三年A組に敗退、だけど彼女たちも決勝で三年E組に敗れ、準優勝だった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 昼休憩が終わり、ドッジボール。

 私とタスカは、自分たちのクラスの試合と一年C組の試合に、おもしろいくらい立て続けに出場した。休憩出来たのは自分たちの一試合めが終わったあとのみで、そこからは五試合連続だった。

 といってもケイたちも意外に強く、ある程度は彼らに任せ、人数が減ってきたところで私たちが手を出すことにして、できるだけ体力消耗を防いだ。勝ち上がっていくにつれ、私とタスカは疲れきっているはずなのに、なぜかやたらと笑っていた。楽しすぎてハイになっていたのだ。

 けっきょく思ったとおり、決勝で私たちの二年D組とケイたちの一年C組がぶちあたることになった。最後だからとコートを全面にし、ステージから、サイドから、後方からと他の生徒たちが見守る中、私たちはコートの中央で対峙した。一年C組がステージ側、二年D組が正門側だ。

 「二年か三年に助っ人頼んだとしても、絶対勝てねえじゃん、こんなの」

 目の前に立ったケイが顔をしかめて私に言った。今この瞬間、体育館は妙に静まり返っている。どうせ私たちが勝つと、ほとんど全員が思っている。

 「焦んな」腕を組んだまま彼に言い、左隣でボールとマイクを持って立つ、審判役の生徒指導主事へと視線をうつした。「主事、さらなる特殊ルールを発動してください。彼らのほう、二年か三年の助っ人じゃなくて、卒業生を入れてください。しかも二人を最初から」

 「二人を最初からって」主事が言う。「五分じゃなくてか?」

 「そうです」私は微笑んで答えた。「最初から最後まででいい。実力は私たちとほとんど変わらないとは思いますが、私は負ける気がしない。こっちに助っ人はいりません。でも一年のほうには、五分間だけモランを助っ人に呼んでいい。彼ひとりが一年と二年ていうハンデのぶん。それでイーヴンになるかと」

 彼は肩をすくませた。ケイに訊く。

 「最初から最後までクロップとルシファーを入れて、五分間だけモランを助っ人に入れていいってことらしい。それでいいか?」

 眉を寄せたケイが私に言う。「知らねえぞ」

 私は口元をゆるめた。「ナメんな」

 「よし」主事はマイクを使い、自分の正面でコートの外にいるアゼルとブルを呼んだ。「クロップとルシファー。一年C組の助っ人に入れ。最初から最後までだ。モランは途中、一年C組だけが五分間の助っ人として呼ぶ。それまで待機」

 四方から歓声が溢れ、三人はリーズとニコラと一緒に顔を見合わせて笑った。

  一年C組のコートに入ったアゼルとブルは、ケイの男友達数人とハイタッチをした。

 そんな光景をよそに、私は主事に向かって手を出した。

 「主事、ちょっとマイク貸してください」

 「あ?」

 「いいから」

 渋々差し出されたマイクを受け取って、私はうしろに向きなおった。

 タスカは数歩先に立っていた。さらに一歩下がってアニタやゲルトたち、クラスメイトがいる。向かって右側と正面のコート外には、見慣れた顔ぶれの同級生たち。ほとんどが口元をゆるめ、今度はなにをやらかすのだろうといった好奇の眼をこちらに向けている。

 左手に持った黒いマイクのスイッチを入れ、私は口を開いた。

 「二年全員に半強制します。来週から同級生をできるだけ、ファーストネームで呼んでください。女子の半分がわかってると思うけど、私や私の友達が理想とするのは、小学校低学年の時のように、変に気遣うことなく、検討違いな冷やかしをすることもなく、男子と女子が気軽に話せる学年です。ニュー・キャッスルだのオールド・キャッスルだのっていう偏見はキライです。仲がいいとか悪いとか、真面目とか不良だとかもそうです。そういううざったらしい偏見を捨てて、男女関係なく、できるだけファーストネームで呼び合うことを意識してください。ムカつく奴に名前を呼ばれても、いちいち過剰反応しないでください。そういう話を聞いたら、私が本気でキレます。なにするかわかりませんよ」

 苦笑いが溢れる中、ゲルトたちと一緒に笑ったアニタは、タスカを追い越してこちらに来た。私の隣に立って手からマイクを奪うと、笑顔であとを引き継いだ。

 「ちなみに呼ぶのは今日からでもかまわない。今からでもかまわない。なんなら二年の他のクラス、うちらを応援してくれるんなら、どさくさに紛れてファーストネームか愛称で応援して。だいじょーぶ、ベラのことを愛称で呼んだって、ベラは怒ったりしないから。むしろファーストネームで呼ぶってのを実行しなかった時のほうが怖いからね」

 その言葉で、体育館にどっと笑いが起きた。こういうセンスは彼女のほうがある。

 「お前ら──」

 「三年も!」主事の呆れた声を、マスティと一緒にいるリーズとニコラの声が遮った。二人が揃って大声で言ったのだ。「三年も、来週からファーストネーム!」

 また笑いが起きる。笑ったアニタはステージのほうに向きなおり、再びマイクを使って話しはじめた。

 「三年もだそうです。キライな人間を好きになれとは言いませんが、変な偏見は捨てて、ファーストネームで呼び合ってください。実行されなかった時の恐怖がどこから来るのかはわかりませんけど、そんな恐怖が三年にあるのかは知りませんけど、とりあえずそうしてください。なんなら」言葉を切り、ケイたちへと視線をうつす。「一年も、そうしてくださいな。もうこの学校の生徒から、ラストネームをなくすくらいの勢いで」

 四方から笑いが起こる中、彼女は笑顔でこちらに言う。

 「ジャンケンはあたしがする。絶対勝つ!」

 「任せる」そこはマイクで喋るな。

 アニタはマイクを呆れ顔の主事に返し、私は笑うタスカと向き合った。

 「ドッジであんたがいるとね、ホントに負ける気がしないのよ。ごめんね、勝手して」

 紺色ジャージのポケットに両手をつっこんだまま、彼は微笑んだ。「ヨユーだろ。オレも今、ぜんぜん負ける気がしねえ」

 そう答えてくれた彼とハイタッチをすると、ゲルトとカーツァーへと視線をうつした。

 「ここだけは本気出してくれなきゃ困る。絶対負けたくない」

 今、アゼルになにを怒っているわけでもない。むしろ楽しいくらいだ。来てくれてよかったとさえ思っている。それでもこの球技大会は、いろんな意味で、私にとっては大きい気がする。終われば何事もなかったかのように、また日常生活に戻るのだろうけれど、それでも。

 ファーストネームで呼び合うという提案はある意味、ゲルト以外のことも名前で呼びはじめたことに対して妙に反応した奴らへの小さな怒りであり、呼びたいけど気まずいと愚痴るナンネのような女たちへの怒りでもあった。過去に存在したらしいウェスト・キャッスル東西対立と、その名残りへの怒りでもある。

 そして考えないようにとは思っていたけれど、やっぱりダメだった。リーズやニコラの私に対する憧れに似た嫉妬も、実は好きではなかった。彼女たちは今、変わろうとしてるけれど──私は、そういうくだらない愚痴や嫉妬が、本気で好きではないのだ。

 それになにより、ルールを無理に変え、イーヴン状態で本気を出すことで、ケイにあやまりたかった。

 「わかってるよ」腕を組んだカーツが答えた。「しょうがないから本気でやってやる」

 ゲルトも言う。「なんならお前、引っ込んでてもいいぞ。疲れてるっぽいし」

 「ナメんな。アドレナリン最高潮だし」

 「勝った!」アニタが笑顔でこちらに来る。「こっちから!」

 主事が投げてよこしたボールを受け取ると、私はそれをアニタに渡した。

 「一発目からかましてやれ」

 彼女も強気に微笑む。「任せろ」

 ドッジボールの決勝は、最高に盛り上がっていた。二年のほとんどは私たちのクラスのメンバーを、ファーストネームで応援した。一年は当然ケイのクラスを、三年のほとんどはおそらく──男子が私たちを、女子はアゼルたちを応援していた。

 学級委員を含む五人は最初から外野で、なぜか内野にいたハヌルはやっぱりすぐにやられたものの、双方のメンバーが続々とコートの外に出たものの──私たちのグループは本気で強かった。私たちは小学校の時、そのメンバーで飽きるほどドッジボールをしていた。お互いの癖や得意不得意はわかっている。味方としてなら、それをカバーすることだってできた。

 そしてドッジボールにおいて、なぜタスカがいると負ける気がしないかって、もちろん単純に強いというのもあるのだけれど、私たちは戦法がよく似ていて、速球派であり、強い敵を最後に残すタイプだった。動体視力の問題なのか、ボス猿がどこにいるかを瞬時に把握でき、相手からのボールを受け取ればすぐ返すものの、敵が多いうちは、ボス猿はできるだけ狙わない。その相手を最後に倒すというのが、私たちのいちばんの楽しみだった。

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