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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 02 * SHADOW DAYS
12/119

〇 Rooters Message

 五月になり、私とアニタはセーターを脱いでベストに戻した。

 十日の土曜日は、私の誕生日だった。十四歳になったのだ。

 祖母がホールケーキを作ってくれたから、あれからすっかり元通りになったリーズとニコラと一緒にマブに行き、みんなでケーキを食べた。アゼルたちががっつくものだから、誰の誕生日なのかわからなかった。

 そしてふと思いついた私は夜、閉店間際の薬局に行き、ピアッサーを買った。するとなぜか、アゼルもマスティもブルも、すでに両耳にひとつずつを開けていたリーズと二コラも便乗した。

 私は左にふたつ、右にひとつ、耳にピアス用の穴を開けた。使いまわしはダメだということもあって、マブのリビングテーブルの上はピアッサーだらけになった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 球技大会前日の木曜日。

 私は朝から文房具屋に行き、油性のカラーペンセットふたつと大量のカラー画用紙を買って教室へと向かった。

 HR前後にゲルトたちを放置し、アニタとふたりで画用紙と窓の大きさを考慮しつつ、言葉を考えながらああでもこうでもないと言っていると、クラスメイトの女子たちになにをするつもりなのかと訊かれ、“文化祭風にグラウンドから見えるよう、大きな文字で男子たちに応援メッセージを書く”と答えた。彼女たちはすぐに便乗した。

 次の休憩時間には、話を聞きつけた他のクラスの女子たちが、自分たちもやりたいと言ってきた。こっちは余るかわからないから、文房具屋に画用紙を買いに行けと言った。彼女たちは走った。二年での連鎖は続き、けっきょく二年全クラスでやることになった。

 そんな光景をいくつか携帯電話のカメラで撮り、リーズとニコラに送ると、三時限目の休憩時間、クラスは違うけど、自分たちもそれぞれにクラスメイトを誘ってやってみるとメールが届いた。はっきりと誘うことはできなかった。誘えば彼女たちは乗るだろうし、なりたいらしい立場になることができる。だけど誘えば、同情したみたいにもなる。そういうのはイヤだった。

 昼休憩時間、油性ペンまでは買ってこなかったらしい他のクラスの女子たちは、D組男子のほとんどを追い出した。ペンを取り合いつつも作業に取りかかる。突然スカートのポケットの中の携帯電話が鳴った。ケイからだ。

 教室はうるさいからと、私は廊下に出て電話に応じた。廊下には教室を追い出されたD組男子生徒数人や、応援メッセージ製作に関わっていない一部の女子たちがいる。

 「お前のクラスが窓に画用紙貼りつけてるのって、球技大会の応援メッセージみたいなやつ?」

 電話越しにケイが訊いた。休憩時間になると、彼女たちは画用紙を窓に並べ、出来やバランスなどを確認している。

 「うん、そう」と、私。

 「ふーん。ちょい待ち」

 「はい」

 しばらくなにを言ってるのかわからない話し声がしたあと、ケイがまた電話口に戻った。

 「あのさ、なんか一年の女共があれ、やりたいって言ってんだ。けど一年はそっちの校舎じゃないじゃん。これってどうにかなるもんなの? っていうか、先公の許可とってんの?」

 「許可なんかとるわけないじゃん」私はさらりと答えた。「二年も三年も勝手にやってる。けどやりたいなら、一階の保健室とかの窓借りられるよう言ってみる? 全クラスいるなら──D組とE組? 二クラスは被服室で、場所がかぶることになるけど、それでもいいなら。気まずいなら一緒に行って、私が頼むけど」

 「マジで? ちょい待って」

 「ん」

 ケイの学年は、けっこう女子と話すのか。それともケイの顔がいいらしいからか。モテると言っていたし。あまり知らないけれど、私のような変な奴はもちろん、エデたちのように威張る子も見たことがないような。興味がないし関わりもほとんどないから、本当に知らないが。

 またケイが電話口に戻った。「行くって。どうすりゃいい?」

 「じゃあ各クラスから代表、二人か三人連れてきて。で、正門側じゃなくて裏門側の二階ホールにいて、すぐ行くから」

 「わかった」

 校長に会ったら会った時。無視しよう。というか普通に挨拶しよう。悪びれることなく挨拶しよう。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 数分後、第一校舎の裏門側二階ホールで、ケイと二人の男の子を含む一年生と合流した。マルユトとサイニもいて、知らない女の子たちを連れ、十数人でぞろぞろと階段をおりていく。

 「ベラとモンタルドがそこまで仲いいとは思わなかった」右隣を歩くサイニが言った。モンタルドはケイのことだ。「なんか中学入ってから、たまに一緒にいるとこ見たり聞いたりはしてたけど」

 「小学校と違って会う確率が高いよね。おかげでうるさくてうるさくて」と、私。

 「うるさいのはお前だアホ」後方でケイが言った。「お前とお前の周りだ」

 「はいはい」

 「二年と三年は許可とらなくても大丈夫なの?」マルユトが訊いた。

 「大丈夫よ。教室で勝手にやるだけだし、実際に貼るのは放課後だから」私を知るこの学校の教師ならもう、その程度では驚かないだろう。「一年は放課後か明日の朝、貼ればいいよ。ちゃんと先生の許可とれば大丈夫。私はともかく、可愛い新入生に頼まれて断れる先生なんて、いるわけないじゃない」

 彼女たちの頭を撫でながらそう言うと、彼女たちは笑った。

 職員室のドアを開け、気まずそうな一年女子を引き連れて先頭を歩いた。

 相変わらず片す気がないのか片づかないものなのか、ごちゃごちゃとした職員室の中央通路を、あたりを見まわしながら歩く。教師達の、何事だといった視線が一気にこちらに集まったけれど、そこは気にしない。

 中央隅にある休憩コーナーからボダルト生徒指導主事が現れた。

 「なんだ、今度は何事だ」

 「一年に第二校舎一階の窓を貸してください」私は言った。「明日の球技大会用に、グラウンドから見えるよう、二年女子と三年女子が男子に向けて応援メッセージを書いてます」

 喋っていると、去年に引き続き、今年も私たちの学年の主任になったおばさ──カンニネン教諭もこちらに来た。けれど無視して続けた。

 「何枚かの画用紙使って、一枚一枚に大きな文字を書いて文を作って、文化祭ふうに。それを一年もやりたいそうで。一階の保健室と被服室を含む全教室、今日の放課後か明日の朝からでいいので、窓にそれを貼らせてください」

 「ああ、それなら見たし、話も聞いてる」主事が答え、傍らに立った学年主任に言う。「先生方に訊いてくるんで、ちょっとここ、お願いしてもいいですか」

 「はい、わかりました」

 学年主任が微笑んで言うと、主事は方向を変えて歩きだした。

 よし。「あと先生」学年主任に言う。「画用紙は私が買ってくるので、カラーの油性マジックを数セット、借りたいんですけど。二年のぶんは四クラスが乱用してるんで、インクがなくなる可能性があるんですよ」

 「それじゃあ備品を使わせてもらいましょうか」彼女は笑顔で応じた。頼られることが嬉しいのだ。だが厚化粧は、その肌に刻まれた細かなシワまでは隠してくれない。「あなたにこんなにたくさんの後輩がいるなんて思わなかったわ」

 どういう意味ですか? 「知ってるのは三人だけですけどね。それほど後輩に慕われるようなタイプでもないので」

 「グラール」前方から主事が私に声をかけた。「とりあえず一年、ソファに座らせて待たせろ。邪魔になる」

 「はーい」

 うしろに並んでいた幼顔の一年女子のほうに向きなおり、中央南側の隅にあるソファコーナーを指差した。

 「A組から順番に、並んで座って。これは貴重な体験よ。普通の生徒は座れないからね。普段うるさい先生たちがどんなソファでくつろいでるか、体験するといいわ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 苦笑いをこらえる学年主任をよそに、一年生は口元をゆるめて顔を見合わせ、休憩コーナーのソファにA組から順に腰をおろした。主任はマジックを取りに行き、ケイと二人の男の子はソファのうしろにある戸棚にもたれた。私はケイの隣に立つ。ケイは一年C組で、マルユト、サイニと同じクラスなのだと言う。

 「先生以外に、卒業生三人の助っ人がいるって話なんですけど──」一年B組女子のひとりが切りだした。「知ってますか?」

 「知ってるわよ」私は腕を組んで答えた。「そのうち二人とは一緒にドッジをしたことがある。強いよ」

 「先生たちとどっちが強いと思う?」サイニが訊いた。

 「そりゃ、若さと身体能力では卒業生なんじゃない?」

 「怖いヒトじゃないの?」マルユトは少し不安げな様子だ。

 「だいじょうぶ」彼女に答えた。「確かに男で、みんなに比べれば背は高いし、今年十六歳だけど。高校も行ってないような暇人だけど。でもほら、一年の場合は、二年や三年のクラスと試合することがあるわけでしょ。たぶん一年は気まずいと思うのね。そこはもちろん、遠慮なくやってくれてかまわないんだけど。卒業生はたった五分間だけど、そのヒトにボールをまわして、強そうな二年や三年をできるだけ倒してもらえばいい。なんか言われたりされたら私に言って、私がそいつを蹴飛ばすから」

 彼女たちの口元がゆるむのを見ながら、私は続けた。

 「あと、一年は二年や三年からも助っ人を頼めるわけだから、そのヒトたちにできるだけがんばってもらえばいいよ。もちろん、誰にも気遣わなくていい。無理してボールまわさなくてもいいし、思いっきり当てればいい。これは学年関係なしのゲームだから。むしろ二年や三年を全員蹴散らしてやる、くらいの勢いでやるのよ」

 再び顔を見合わせた彼女たちは控えめに、くすくすと笑った。

 「ベラ、うちのクラスの助っ人、やってくれるんだよね」サイニが言った。

 「うん。あともうひとり、すごく強い子。しかもこのあいだトーナメント表見せてもらったけど、うちのクラスはAブロックで、一年C組はBブロックなのよ」本来なら当日発表されるものを、一足先に主事に見せてもらった。「本気で決勝でぶち当たる可能性があるわけで」

 「マジで?」ケイが口をはさむ。「んじゃオレらんとこ勝ち上がっても、絶対負けるじゃん」

 「まあ、なんとかなるんじゃないの」

 生徒指導主事と学年主任が戻ってきた。

 「許可もらったぞ」主事が一年女子に言う。「一年、カンニネン教諭の指示に従って、各教室の先生に挨拶してこい。画用紙を貼るのは今日のLHRが終わったあとの放課後。ドアが閉まってる場合は、先生が来るまで教室の前で待て。回収は明日の球技大会が終わってから。ちゃんと先生方にお礼を言うように」

 私は少々呆れた。「先生、もうちょっとやさしい言いかたしてくださいよ、一年女子なんだから」そう言って彼女たちに目を向けた。「そういうことらしいから、挨拶に行って。貼るのはクラスの女子たくさんでもかまわないけど、先に自分たちの教室で試してから、あらかじめ位置をちゃんと確かめておいてね。あと備品を壊さないよう気をつけて。明日の回収は少人数で迅速に。画用紙は私が用意してすぐに届けます。はい行ってらっしゃい」

 そう言うと、彼女たちは笑いながら席を立った。

 「ミズ・グラール。油性マジック、とりあえず三セット」学年主任が声を抑えて言った。「終わったら返しにくるよう、彼女たちに伝えてください」

 十二色入り油性マジックのセットをみっつ受け取った。「はい先生」自分で言って渡しなさいよ。

 笑顔で彼女たちのほうに向きなおった主任は、「じゃあ行きましょうか」と言い、一年女子を連れて歩きだした。

 なんと滑稽な。「んじゃ、私は画用紙を買ってきます。文房具屋で」

 「今日やたらと文房具屋に行く生徒が多いと思ったら、やっぱりお前だったんだな」

 主事が苦笑って言った。学校は休憩時間、文房具屋に行くことのみを許可している。もちろんお菓子を買うと怒られる。

 「そうですね。でも誘ったわけじゃないです。私はクラスメイトと二人でやるつもりだった。でもクラス規模になり、学年規模になり、噂が噂を呼び、ですよ。去年言ったでしょ、うちの学年は口が軽いのが多い。便乗する奴も多い。三年も、近頃は団結を目指してる。いいことじゃないですか」

 彼は笑った。「制服はどうかと思うがな。買いに行くならさっさと行け。時間がなくなるぞ」

 「はいはーい」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 油性マジックをケイの男友達二人に任せ、私はケイと二人で文房具屋にカラー画用紙を買いに行った。一年のあいだでは、生徒指導主事はいちばん怖そうな教諭だという話になっていたらしい。ちなみに次がバレー部の顧問で、三番目が二年A組の担任、ババコワ教諭らしい。

 今日は画用紙がよく売れるわ、なんていう、おそらく六十代くらいだろう女店主のつぶやきに、私は思わずあやまった。画用紙を数枚、おまけしてもらった。

 学校、第一校舎の二階にあがり、教師達に挨拶に行っていた一年女子たちと合流すると、私はアニタに電話した。“順番は気にしないから、どんな感じで作ってるかわかるよう、廊下側の窓から画用紙をいくつか見せて”、と。

 一年C組の教室に入り、第二校舎の廊下からアニタたちが窓に示してくれたそれを、サンプルとして一年に見せた。位置がバラバラすぎて文章としては成り立っていなかったけれど、どんな感じで作ればいいかはわかってくれたらしい。時間が足りなければ待ってもらえるよう先生に頼んでみればいいと言い残し、私は一年フロアをあとにした。

 第二校舎に着くと、二年D組の隣にある空き教室の前で、私が無理やりプレゼントしたオリジナル制服を着たナンネとジョンアに会った。中央階段ホールの窓際、ベンチに座ったり壁にもたれたりしてゲルトたちが五人並んで話をしていて、そこにいるカーツァーの姿をさりげなく見ながら話していたのだ。

 話なんかできないと言い張るから、カーツァーに板状のチューイングガムをもらい、ついでにタスカとマーニにもガムを一枚ずつもらって、一枚をジョンアにあげ、カーツァーにもらったミントガム二枚をナンネにあげた。もったいなくて食べられないと言っていた。彼女はカーツァーを好きでいる限り、男女かまわず話すというのは本気で無理らしい。病的なほど乙女だ。

 放課後、二年女子は各教室の窓ガラスに貼った画用紙を確認するため、揃ってグラウンドに出た。総勢三十人以上だ。三年の教室にも、カラフルな文字の書かれたカラフルな画用紙がどんどん貼られていった。窓を開けたリーズとニコラにスペルが間違ってないかと声をかけられ、私とアニタは頭の上に伸ばした腕で輪を作ってだいじょうぶだと応えた。

 まもなく、三年女子も数十人で画用紙の確認へとグラウンドにやってきた。そこでアニタが気づいた。去年アニタをヒト気のない場所に呼び出し、男と別れさせようとした三人組がいたのだ。だけどとりあえず無視することにした。アニタはもうその男とは別れているし、戻る気もない。というかアニタは今、別の男──春休みのナンパ師とつきあっている。彼女たちはもう、過去の人間だ。

 一階の窓にも、一年が用意した画用紙が貼られていった。マルユトやサイニたちが振る手に応えた。小学校のように、グラウンドと校舎のあいだに木やネットがなくてよかった。おかげでぜんぶ、ちゃんと見えた。

 アニタに手をつながれたまま、私たちは窓ガラスに貼られた応援メッセージをしばらく眺めた。確認のためにグラウンドに出てきた一年の女子たちとほぼ同時に、サッカー用の白線を引くために教師陣数人も来て、応援メッセージのその出来を褒めていた。

 明日はいよいよ、球技大会だ。

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