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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 21 * REVENGE DAYS
115/119

* Light And Shadow - When A Heart Moves Again -

 木曜日、夜十時すぎ。

 私はベッドの上、クッションにもたれ、ナイトテーブルの横に移動させたチェストの上のコンポで音楽を再生して、歌を聴いていた。携帯電話にアニタから着信が入ったので、リモコンでそれを停めると、静かになった、ナイトスタンドの灯かりふたつだけを灯した部屋で、彼女からの電話に応じた。

 アニタの第一声は、「ひとつ教えてほしいんだけど」、だった。

 なんだか聞き覚えのある言葉だなと思いつつ、なんだと訊き返した。

 「アドニスとルキの高校って、どこだった?」電話越しに彼女は訊いた。心なしか不機嫌そうだ。

 「イースト・キャッスル高校だけど」

 私が答えると、彼女は鼻で笑った。

 「やっぱり」

 怒っている気がする。「なに?」

 「おもしろいことがわかった。超笑える」笑っているようには思えないのだが。

 「だから、なに」

 「あんたさ、ネストールに、あの二人がイースト・キャッスル高校に行ってるって、言ったの?」

 質問の意味がわからず、すぐには答えられなかった。だが少し記憶を辿ると、そんなことを言った覚えがあった。確か修学旅行のあと、一年C組に行った帰りに第三校舎でアニタを見かけて、三階であの男に会った時。ブレインだのなんだのという話で、“イースト・キャッスル高校に通う頭のいい友達がいる”と言った気がする。

 彼女は私を急かした。「どうなの?」

 なぜその話とアニタの不機嫌さが関係あるのか、さっぱりわからない。

 「名前なんて言ってるはずがないけど、イースト・キャッスル高校に通ってる友達がいるとは言った」

 私の答えに、アニタは「笑える」と、笑わずに言葉を返した。「いつのまに二人っきりでそんなこと話してたのか訊きたいところだけど、そこはとりあえずいい。それ話したの、いつ?」

 なにが言いたいのだろう。「修学旅行のあと」

 「へえ」質問したわりには、どうでもよさそうな返しだ。「ネストールが進路変えたって話、知ってた?」

 「は? 知るわけないじゃ──」私は言葉を切った。思い当たることがあった。「──クリスマスパーティーの相談しに職員室に行った時、教頭がそんなこと、言ってた気がする」

 彼女は笑って、「じゃあ確実だ」と言った。

 意味がわからない。「なんなの?」

 「おもしろい報告、たくさんあるよ」アニタは投げやりな様子で言った。「まずひとつめ。ネストールが眼鏡をはずしたのは、あからさまな“ブレイン”のイメージから脱却するため」

 「へえ」

 「ふたつめ。ネストールは最初、ノース・キャッスル高校を志望してた。だけど去年の十一月、急に進路を変えた。ランクが少し上がるイースト・キャッスル高校に。受験したのもそこ。滑り止めはなし」

 インゴが通っている高校から、アドニスたちと同じ高校に進路を変えた。

 「へえ」

 「みっつめ」と、彼女がさらに続ける。「ネストールには好きな女がいる。生徒会の副会長だった元彼女と別れたのは、その女を好きになったから」

 なにが言いたいのだろう、と、考えた。もしかすると、彼女に対して気持ちがないということなのか。彼女は失恋して不機嫌になっているのか。

 「よっつめ」アニタはこの言葉を強調した。「ネストールの好きな女は、ネストールのことをものすごく嫌ってる」

 私はぽかんとした。

 彼女はこちらの言葉を待たない。「あたしに話しかけてくるようになったのは、その女のことが気になってしょうがなかったから。その女のことを知りたくて、その女と仲のいいあたしに話しかけるようになった。だけど現状はたいして変わらなかった。嫌われてるんだって自覚は、彼自身にもあった。その女は彼のこと、無視し続けてたから。眼鏡をはずしても、それは変わらなかった。

 文化祭のまえ、スピーチのネタのヒントが欲しくて、彼はボダルト主事をとおしてその女を呼び出した。その女は怒りながらもヒントをくれた。っていうか、けっきょくそのまんま使うことになっちゃったらしいけど。おかげでさらに嫌われることになったらしいけど。それをどうにかしたくて、さらにあたしに話しかけるようになった」

 アニタは喋る勢いを落とさない。私に考える暇を与えないようにしているのか、感情の赴くままに任せてるのかは、わからない。

 だけど私の中にははっきりと、いやな感覚が広がっていく。

 「十一月」彼女が言葉を継ぐ。「その女の、顔も名前も知らない男友達に対抗して、進路をイースト・キャッスル高校に変えた。レベルが高くなるのは承知。でも彼はその女に執着するあまり、わけがわからなくなってた。つきあってる男がいるのは知ってる。その男は自分とは真逆のタイプ。完全には無理でも、ああいう不良に少しでも近づけば、せめて普通に話してもらえるかと思った。けどそんな道を歩いたことのない自分には、それすら無理そうで。

 十二月、職員室でパーティーの話を立ち聞き。思わず手伝いたいって申し出た。自己中で性悪で破天荒で、常識ってものが通用しない、魅力たっぷりのその美人に、少しでも近づきたかったから」

 彼女の言葉に、何度も何度も、胸が締めつけられる思いがした。

 納得などしたくはない。だがわかる。アニタが言っているのは、私のことだ。

 やっと、彼女の勢いが落ちる。

 「──バカだよね、あたし。なんにも気づかなくて、自分からあんたの話題、持ちだしてた」おそらく、泣きだした。「小学校の時のこととか、同期の連中しか知らないこととか──受験のお守りにってストラップを渡した時も、あんたに教えてもらった店だって言った」アニタは、泣いている。「バレンタインのカップケーキとクッキーも──あんたの家で、一緒に作ったんだって──」

 私のせいで、アニタが傷ついている。

 「──ねえ、ベラ」震える声で、私の名前を呼んだ。「──あたし、いつまで、あんたの“影”でいればいいの──?」

 ナイフで心臓を、一突きにされたような感覚だった。瞬きもできなくなった。

 こちらの答えを待たず、泣きじゃくるアニタはそのまま、電話を切った。

 私の中で、なにかが切れた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 右手に持ったままの携帯電話で、私はブルに電話をした。

 彼は二コール目の呼び出し音が鳴り終わる前に電話に出た。「ベラ? どした」

 「拡声器って、学校にあったよね」

 「は? 拡声器?」

 「球技大会とか修学旅行で、教師が使ってたやつ。あれ、学校のどこに置いてるかわかる?」

 「ああ──確か外の体育倉庫にあったと思うぞ。いくつかカゴに入れて、棚に置いてるはず。あれは基本、外で使うもんだし」

 「わかった。ありがと」

 「待てよ。なにする気だ」 

 「なんでもないよ。ちょっと気になっただけ。今、家でしょ?」

 「そうだけど。さっきマスティの家から帰ってきたとこ。明日仕事だし」

 「そ。アゼルのぶんもがんばって。じゃあね、おやすみ」

 「おい──」

 電話を切るとすぐ、アドニスに電話した。彼はいつもの軽いノリで電話に応じてくれた。

 「うぃー」

 「今からアニタの電話番号、メールで送る」

 「は?」

 「アニタに電話して、話聞いてあげて」

 「なに。なにがあった」

 「私からは言えない」こんな残酷なこと、言えない。「長話になって、電話料金がやたらかかるようなら、それは今度払うから」

 「は? え? なに? どういうこと?」

 「やることがあるの。説明してる暇はない。もしかしたらすぐには電話に出ないかもしれないけど、出るまでかけ続けて。一応アドレスもつけるから、メールして、電話に出るよう説得して。そんで話、聞いてあげて」

 「──それは、いいけど──なに? なんでオレ?」

 「あんたが適役なの。同類とかじゃないけど、あんたしかいない。あんたなら話、聞いてあげられる。お願い。私じゃだめなの」

 「ええと──」口ごもる。「なに? もしかして信用されてんの?」

 私の口元は、頼りなくもゆるんだ。

 「友達として、信用してるよ。気遣わなくていいから、泣いてても躊躇しなくていいから、アニタにぜんぶ吐き出させて。私にそれを報告するようなことはしなくていいから、あいつの愚痴、ぜんぶ聞いてあげて。あんたならできる。信じてる」これは、本心だ。

 「おお? なんかよくわかんねえけど、できるのか知らねえけど、愚痴吐かせりゃいいんだな? 泣いても無視でいいんだな?」

 「いい」ためらうことなく答えた。「むしろ思いっきり泣かせてやって。すぐには話さないかもだし、もしかしたらほんとに時間かかるかもしれないけど、それでも問い詰めて、吐き出させて」

 「よし、わかった。んじゃ送れ。メール入れてから電話する」

 「うん、お願い」

 電話を切ると、アニタの携帯電話の電話番号とメールアドレス、ついでに“もし携帯電話の電源が落ちてたら、私づてに緊急の用があって電話したって言って、アニタを電話口に出してもらって”と書き添え、彼女の自宅の電話番号も一緒に、アドニスへとメールを送った。

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