〇 Girls Jealousy
放課後、生徒指導室で主事との話を終えたあと、ニコラと待ち合わせてマブに行った。結果を伝えるためだ。
マスティとブル、アゼルは三人ともリビングにいて、ニコラは苦笑いながらケイの話をした。リーズとのやりとりも。マスティとブルは大笑いし、アゼルも笑った。
「で、リーズはふてくされて今日、来なかったわけか」向かいでマスティが言った。
赤いソファの私の左隣、ニコラはつんとした。「知らね。昼休憩から話してないもん」
ブルはぽかんとした。「は? なに、喧嘩?」
「んー」彼女がこちらに訊く。「言っていい?」
なにをだろう。「どうぞ」
私が答えると、彼女は視線を落として話しはじめた。
「なんかさ、ケイに悪口? 言われた時──いや、あれはなんつーか、言葉にショック受けたんじゃなくて、態度に衝撃? 受けたんだけどね。一年が三年に対して、しかも初対面であんな態度、あるんだなーとか思って、とりあえず二人で唖然としてて。んで、ベラが来たじゃん。うちらはそのやりとり話して、ベラがケイ呼んで、女には言葉選べ、みたいなに言ってくれたでしょ。あたしはそれでいいっつーか、言ってくれただけでよかったんだけど。リーズはなんか──わりと、不満だったっぽくて」
マスティが口をはさむ。「それはなに? 啖呵切る勢いで怒ることを期待してたってことか?」
彼女は誰とも視線を合わせずに苦笑った。
「たぶん、そう。アニタとエデたちの件とか、ジョンアたちのことだって一応、知ってるわけじゃん。ハヌルに蹴り入れたとか、どれくらいの勢いかはわかんないけど──花見の時とか、エルミにだってブルのこと、きっぱり言ったわけでしょ。そういうのを聞いてたこともあって、リーズがどのくらいのことを想像してたのかはわかんないけど──なんか、物足りなかったっぽくて。一年経っても、やっぱそれほどの友達にはなれてないんだなーとか言うから、さすがにこっちもムカついて、キレちゃって。ベラは職員室に行ったし、球技大会にブルたち呼ぶこと話すんだろうなってのはわかってたから、リーズと別れたあとベラにメール入れて、一緒にマブに行こって誘って。リーズにも、ベラと一緒にマブに行くってメールだけして。んでもう、そのまま」
マスティは呆れていた。「つまり、ただのヤキモチ?」
うつむいたまま、ニコラがつぶやくように答える。「たぶん」
ブルは身を乗り出した。「いや、言ったよな。ベラはメガネゴリラに蹴りを入れはしたけど、ジョンアにも湿布持ってったりしたけど、アゼルに対してジョンアをボコッたことそのものは怒らなかったし、それを止めなかったオレらのもことも怒ったりしなかったって。謝れとも言わなかったって。自業自得だからって、ジョンアを特別なだめたりもしなかったし、むしろアホだのバカだの言ったって」
彼女も反論する。「だから、あたしはわかってるって。けど、リーズはそう思ってない。たぶん自分がそういう立場になると思ってなかったから。あいつ、ホントにベラのこと好きで、けど自分がアニタほどの友達になれてないってのを実感して、たぶん──」勢いが落ちる。「嫉妬、したんだと思う」
嫉妬。
キッチン側ソファで寝転んでいるアゼルが苦笑う。「お前、女にまで惚れられてどうすんだよ」
そんなことを言われても。
「──あとね」視線を落としたまま、ニコラは静かに言葉を継いだ。「あんたら三人がさ、ベラに会ってから、喧嘩しなくなったじゃん。アゼルだけじゃなくて──ブルもマスティも、ベラがいると楽しそうで、たいていいつも、すごい笑ってるじゃん。アニタたちだって、ベラがいたら楽しそうで。先月の卒業式のこととかも、なんかいろいろ──ベラがいて、うちらの周りもちょっとずつ、変わってさ。ベラはなんにも変わってないのに、言っちゃえば基本は冷めてるままなのに、周りが勝手に変わってくでしょ。周りだけじゃなくて、ベラが関知してない学校の奴らもだけど──そういうとこにも、嫉妬してんだ、うちら。嫉妬って、それは悪い意味じゃなくて、羨ましくて憧れてって意味だけど」
数秒、リビングは沈黙に包まれた。
「──喧嘩は、あれだぞ」ブルが言う。「アゼルがしなくなったから、こっちもしなくなっただけのような──?」マスティに答えを求めた。
「そりゃ──な。いや、どうだろ。いや、わかんねえ」
アゼルは身体を起こし、あぐらをかいてソファにもたれた。
「つまり、ベラが居て楽しい反面、わりとうざったらしいと」
ニコラは困惑の表情で否定した。「そういうんじゃないって。一緒にいて、尊敬みたいな、羨ましいって気持ちが、どんどん大きくなってく。リーズはそれが、あたしより強いんだと思う。インミの件は、うちらはなんも思わなかった。三人の意見を優先するとこだって思った。それは本音。
けど──サビナたちに呆れたこともあって、ベラが正しいってすぐにわかったこともあって、うちらとベラのあいだでなんかあった時、たぶん間違ってんのはあたしたちで、三人は絶対ベラの味方するんだろうなってことも、リーズが言ってた。うちらが三人を友達としてだいじに思ってたとしても、三人にとっては、うちら以上にベラのほうがだいじなんだろうなって意味だったんだと思う──まえからたぶん、そういう嫉妬はあった。でも、それはそれでよかった。けっきょくうちらだって楽しいし、モメなきゃいいって思ってたから。
けどたぶん、ケイのことがあって、なんかいろいろ、ぐちゃぐちゃになっちゃってるんだと思う。リーズがそうやって不満に感じることですら、三人はくだらないって言うじゃん。ベラだってきっと、くだらないと思ってる。あいつ自身もくだらないってわかってる。だからよけい、なんかいろいろ、考えてんだと思う」
私はなにも言えなかった。どう返せばいいのかがまったくわからない。
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マスティは天井を見上げてソファにもたれた。
「あー。本気でくだらね。そん時になんなきゃ、どっちの味方につくかとかわかんねえのに」
ブルが苦笑う。「っていうか、味方とか言われても」
「っつーか、アゼルがどんだけのもんかは知らねえけど、ベラからすれば、俺らだってお前らとレベル、変わんねえぞ。まず俺らがベラに助け求めたり、味方になってくれなんてことを言うことはないだろうけど。仮にあったとしても、俺らの自業自得だと思ったら、こいつはハッキリそう言う。女相手じゃあんま、ハッキリ言わないらしいけど」
ごめんなさい。
アゼルは鼻で笑った。
「俺にだって自業自得だって言うっつの」
ごめんなさい。
「だいいち、どっちがだいじだとか、んなこと考えたことねえよ」ブルが言った。「今こいつらが言ったように、ベラはたいていのことに動じないし同情もしない、わりと非情で冷酷でってのはわかってるわけだから。こいつに対してそういうことを考えるだけ無駄なんだよ」
ごめんなさい。
「それに」マスティがつけたす。「ベラは味方なんか必要としない奴だぞ。ひとりでメガネゴリラ潰して、ひとりでエデたち干して、ひとりで元二年や元三年の女を相手にする奴だぞ。そりゃエデたちの時は俺らも行ったけど、あれだって出て行く必要はなかった。お前らがモメたらとかはわかんねえけど、それ以外じゃ俺らだってベラだって、事によっちゃアニタの時みたいに、お前らの敵潰しに行くだろ」
「それもベラの場合、オレらが止めるのも聞かずにな」と、ブル。
「ひとりで二十人くらいの束にだって乗り込んで行きそうだから怖いよな」
「どうやんのかは知んねえけど、普通に制圧してそう」
マスティは天を仰いで笑った。
「倒れたボスを踏みつけてすました顔してたりな」
そんな彼らをよそに、アゼルは吐息をついてこちらを見た。
「そろそろ喋れよ」
そろそろ、と、言われても。「──なんて言えばいいのか、わかんない」
「ベラは悪くない」ニコラは気遣うように私に言った。「それはリーズもわかってる。そういうことを考えるのが間違ってるってのも、あいつはわかってる。たぶんだけど、ああいう性格のケイが、ベラになついて言うこと聞くってとこにも、嫉妬したんだよ。それ以上に、あたしが怒っちゃったから、ベラの味方しちゃったから、そこにいちばん怒ってるっていうか、むくれてんだと思う」
「めんどくさいな、女は」アゼルがつぶやいた。「ベラが男といるほうがラクだって言う理由が改めてわかった」
今ここでそれを言うか。そのとおりだけど。
ニコラは苦笑う。「それはね、うちらもわかる。男関係だけじゃなくて、女は友情にもうるさいじゃん。グループで活動する習性みたいなのがあって、それで昔、うちらもイヤな思いしたことあるし。ベラが男友達とつるむのがラクだって思うのもわかるよ。三人はともかく、うちらの学年──年頃? は、そういうのできないっぽいから、しないけど。そこも羨ましいんだよね。同期のゲルトたちと普通に遊んでるし、あの子たちも周りの目なんか気にしないで、ベラと二人とか三人とかでだってつるんでんじゃん。ベラは深く考えてないんだろうけど、ホントにベラが自分で言ってるみたいに、したいことしてるだけなんだろうけど、それで周りがついてくるじゃん。うちらが憧れるモノがいっぱいありすぎて──なんだと思う」
憧れとか言われても。
マスティは苦笑った。
「憧れるのもどうかと思うけどな。っつーか、お前らだってやりたいようにやりゃいいじゃん。どうせ高校行く気ないんだし、内申も気にしなくていいし、俺らは学校には行かねーけど、どうせ基本暇だから、なんかあったら行けるし。ってかもう三年なんだから、それほど怖いもんもねえだろ。学年巻き込んでなんかしたけりゃ、ないアタマひねって、なんかやってみりゃいい。ベラだって半分は脅し的なもん、入ってんだぞ。まえ言ってたみたいに、出来ると思ってなくてやらないんなら、出来るっつーか、やってやるってくらいの気持ちでやりゃいい。羨ましいだのなんだの言ってるだけじゃなくて、そんくらいやれよ」
ニコラは顔をしかめた。「そりゃそうなんだけど──」
彼女がそれ以上言おうとしなかったので、アゼルが口を開いた。
「っつーか球技大会の件、主事に言ったんか」
今それか。「言った」
「で?」
「条件はあるけど、それを守るなら参加してもかまわないって。もちろん三人だけ」
「条件てなに」
私は説明した。生徒指導主事もしくは他の数人の教師を交え、一試合にひとり、五分間のみの、一年だけでなく二年と三年もを対象とした助っ人としての出場であること。ドッジボールに新たに十秒ルールが追加されたこと。生徒からの希望があれば、サッカーにも五分間の助っ人出場が許されること。
どうでもいい気はするけれど、優勝クラスへのケーキとジュースがなくても文句を言わないこと、当日はシンプルな無地のTシャツとジャージを着てくること──等。
説明を終えると、マスティとブルは笑いながらハイタッチをし、アゼルは「さすが」と言った。
私は続けた。「五分間ていうのは短いけど、三人味方にはなれないけど、たぶんほぼぜんぶの試合に出られる。教諭たちが、ボール渡せばこいつらががんばってくれるはずだ、とか言ってくれるから。一年や二年の体育を担当する教諭も、体育の授業でそうやって話してくれるって。三年もそうなんだけど」一度言葉を切り、ニコラへと視線をうつした。「当日躊躇する三年がいたら、誰でもいいから選べって促してくれる? 二年は一応、アニタやゲルトたちがそれ、するんだけど。三年にはさすがに言えないだろうから」
「それは、かまわないけど──」彼女はわけがわからないといった表情をしている。「っていうか、え、条件て、やっぱベラなの? それとも、主事が決めた?」
「五分とかの条件は提案した」五分ルールや十秒ルールは、ケイが助っ人を頼みに来た時に思いついた。「そこに主事が校長や教諭たちの意見を交えつつ、プラスアルファで決めてくれた。なんか校長もわりと、やさしいらしくて。軽く挑発したから、主事がそれに乗ってくれたの」
「これだよ!」マスティとブルに向かって彼女が言う。「なにこれ。さすがにあの主事にこんなこと、言えないって!」
マスティは呆れ顔を返した。「だから、憧れだのなんだの言うなら、やれっつってんじゃん」
アゼルがつけたす。「ボダルトはあの学校に長く居んだよ。それなりにワルを見てる。俺ら以上のもな。ちょっとやそっとじゃ動じねえ。俺らが知ってる中で、あいつが本気で頭抱えたのはベラだけだ。呆れの意味だけど。それに比べりゃお前らの言動くらい、あいつにとっちゃカワイイもんだろ」
ブルは苦笑った。「フォローになってねえよ」
アゼルが顔をしかめて彼に言う。「ついでに俺が本気で頭抱えたのもこいつだけだ」
マスティが身を乗り出す。「心配するな。俺もだ」
というか、学校側が私の意見を聞いたのは、球技大会そのものが私から、というのがあるからだと思います。
「とりあえず」ブルがニコラに言う。「リーズにはお前が話せ。オレらが言ってもいいけど、とりあえずお前が話さねえと」
「わかってる」そう答え。彼女は私にあやまった。「ごめんね。なんか、どうせだから言っちゃえと思って。でも、どうしてほしいとかじゃない。ベラは間違ってないし、そのままでいい。んで、今度リーズに会ったら、普通にしてほしい。あたしもリーズにそうしろって言うから。ここまで話したってのは言うかわかんないけど、どっちにしても、普通にしてくれていいから」
私はいつも、なにかを壊している気がする。
「ん、わかった」
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夜、また、アゼルとふたりきり。暗い部屋の中、彼の腕に頭を乗せ、ふたりして仰向けになった。アゼルが口を開く。
「なんかな」
「なんかね」と、私。
「どうよ、ああいうの」
「よくわかんない」
「アニタはなんも言わねえの? ニコラとか俺らとつるんだりすることだけじゃなくて、ゲルトのこととか」
「言われたことないな。アニタは私がいなくても友達が多いし、小学校前からのつきあいだけど、ゲルトと仲よくなってからも、ゲルトとセテがいて、そこにアニタもいたし。気づいたらダヴィデたちも一緒にいたみたいな」
「奴らもついにファーストネーム呼びに昇格したか」
「ケイに紹介してね、なんかややこしそうだったから、もうそっちで呼んじゃえと思って」ナンネを含む女たちからの詮索がうざかったことは、言うまでもない。
「他の町だと、わりとファーストネームで呼ぶっぽいぞ。ウェ・キャスはアレだから、ただの同期レベルだとラストネームってのが主流だけど」
「へー」過去の東西対立の名残は、今もいろんなところに残っている。「なんていうか、自分がいちばん自分の性格をどうなんだって思ってて、めちゃくちゃ言われることに怒ったりもしないくらい、そういう扱いが定着してるのに、憧れだのなんだの言われると、本気でどうしていいのかわかんない」
「タイプが違うだけで、あいつらもジョンアたちみたいだよな。盾とまでいかねえけど、なんつーか、けっきょく憧れとかって意味では一緒な気が」
「みたいね」よくわからない。「普通なら、怒るとこかな。友達が友達に悪口言われたら」
「さあ。けどお前は警告してたわけだろ?」
「うん」
「微妙なとこだな。わかんねえ。お前からすりゃ、めちゃくちゃ仲がいいってわけじゃなくても、ケイのほうが長いつきあいだし、しかも年下。弟みたいに思ってる。お前の話じゃ、なぜか思ってた以上にお前になついてる。どっち取れとか言われたら、微妙だろ」
誰かが想ってくれてるだけの気持ちを、私は返せていない。
「この性格の欠陥部分、どうやったらなおるんだろ」
「いや、欠陥っつーか、“無”だからな、お前は」
思わず納得しそうになり、私は彼のほうを向いた。
「“無”ってなに? 赤い?」
アゼルもこちらを向く。
「赤以外になにがある」
「実はいろんな色が混ざってるとか」
「いや、濃さは色々あるかもしんねえけど、赤に変わりない。他の色は無理」
「でもさ、瞳はヴァイオレットなわけで」
彼が私の頬に触れる。
「いいよな、希少レベルがふたつもあって」
「通り魔の瞳と髪なのに?」
「確定かよ」
私は笑った。
「知らないけど、あんたが言ったんじゃん。っていうか、こんな髪と瞳を持って通り魔やってても、すぐ捕まるよね」
「それは言えてる。バレバレだよな。夜で眼はバレないとしても、髪はわりとバレる気がする」
「剃ってたのかな」
「ハゲかよ。よけいバレるわ」
「スキンヘッドでヴァイオレットの瞳で睨みつけてナイフ片手にグサグサと──」
「お前が言ったらシャレになんねえ。けどスキン言うな。笑えるから」
「そういえばケイがね、自分の知ってる中で私がいちばん顔いいって言ってた。お前がモテないわけないだろって」
「それは同感。よくわかってるな」
「でもね、タイプじゃないって言われた」
「ブス専?」
「さあ。っていうかタイプってなに? 美人てなに? 可愛いってなに? かっこいいってなに? 意味がわからない」
今度は顔をしかめる。「お前、本気でそれ言ってんの?」
「なにが」
「本気で顔がいいとか悪いとか、わかんないわけ?」
「わかんない。メガネゴリラがどうしようもないほどアレだってのはわかるけど、他は特に意識したことないもん。顔がどうとか言っても意味ないじゃん。整形でもしない限り、ヒトの顔なんか変えられないんだから」
アゼルは呆れ顔だ。「顔がいいのにそれを鼻にかけてなくて、好きなもん選んでなんでも着こなして、普通なら高飛車になるだろうにぜんぜんで、周りの目気にしないで好き勝手やって、なのに周りが興味引かれることばっか。そりゃ女の敵も増えるわ」
「褒めてるのかけなしてるのかよくわかんないんだけど」
「褒めてねえよ。呆れてんだよ」
「ごめんなさい」
彼は目を閉じた。「世界中の女に同情する」
「同情の前に懺悔したほうがいいんじゃないの?」
「懺悔するのはお前だアホ」
なぜだ。「ごめんなさい」
「とりあえずベッドに土下座しろ。突っ込んでやるから」
私は笑った。
「なんでベッドに土下座しなきゃいけないの!?」
アゼルも笑う。
「やばい、自分で言っといて引いた、今」
笑いが止まらない。「引くっていうか、なに!? ほんとやめて、想像したら──」
「アホ、想像すんな。どんなだ」
「ベッドに土下座って、床で──」
彼もやはり笑う。
「違うって。ベッドの上で土下座しろって意味だよ」
「でも土下座だよね? やだよ、絶対やだ」
「けどそういうのはあるぞ。座位の別バージョンみたいな」
「知らないし!」笑いながら声をあげた。「もうやだ。しばらくベッド見るたびに思い出しそう」
「ツボに入ったらしつこいからな、お前」苦笑って言う。「んじゃ今日こそリビングに行くか? それかクローゼットの中とか」
笑いがとまった。「なに変態めいたこと言ってんの」
「玄関とかバスルームとか」
「やめて、そういうのはやだ。ベッド以外はやだ」
「今度ホテル行くか」
「いいわよ、修学旅行で行くから」
「ちょっと違う」
「お金がもったいない」
「んじゃまた学校に──」
「絶対イヤ」




