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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 19 * VANITY DAYS
108/119

* Carve The Heart

 家に帰って早々にシャワーを浴びると、ルキアノスに電話した。もうすぐ家を出るけれど、寄りたいところがあるから一時を過ぎるかもと伝えた。彼は了承してくれた。

 センター街へと向かうバスの中、ヘッドフォンで歌を聴きながら、外の景色を見るともなしに見ていた。

 アゼルと一緒に行った店だとか、通った道だとか、それなりに見慣れていて、むしろアゼルとの記憶など数えるほどでしかないのに、彼の気配はどこにだってあった。このバスだってそうだ。よく覚えていないけれど、一緒に乗ったバスかもしれない。

 そうやって二年足らずのあいだに、あいつは私の人生に、これでもかというほど足跡を残している。

 愛に飢えた私に愛を与えて、そして裏切った。

 なにを考えてるのかよくわからないことのほうが、多かった気がする。今でもわからない。こうなると、すべてが疑わしいものになる。なにが本物だったのか、本気でわからない。

 私は愛を欲しがっていたけれど、あいつも同じだと思っていたけれど、あいつはそんなもの、必要なかったのかもしれない。

 ただヒトを傷つけることを愉しむだけの人間。施設に入ったら、そのうちまた、職員の女と寝るのだろう。また退所時期が延長されて、それを軽い調子でヒトに話して、また他の女に目をつけて、同じように愛したフリをして、傷つけて、裏切って、最後には消えるのだろう。

 あいつはそういう人間だ。“そういう人間でいたい人間”だ。

 ずっと繰り返し再生している、“Can't Be Tamed”という曲が、目を閉じるとやっと、頭に入ってきた。



  崖から落ちる一歩手前  そこが私の居場所

  追い詰められても捕まらない  飛び降りる覚悟はある


  鋼よりも頑丈な私っていう鎧と  短い棘、それが私の武器

  触れるものすべてを傷つける  それが私の本性


  媚びたりしないの どうせ理解されないから

  求めたりしないの 価値のない偽物ならいらないから

  なにが真実でそれがどこにあるか そんなの誰も知らない

  ねえ私を転がせると思う?


  私を飼いならすなんてできない


  現実を曖昧にして置き去りにするくらいなら

  いっそのことすべて塗り替えてしまえばいい

  でも私の心には手を出せない

  だってこれは私だけのものだから


  あなたにダイヤモンド以上の価値があったとしても

  私の輝きには勝てない

  真剣を手にしたところで

  私を傷つけたりはできないの


  自由を願う前から私は自由  空の果てに絶望を見たわ

  どこにだって行ける終わりの象徴  ねえ私を転がせると思う?


  私を飼いならすなんてできない


  怖いなら  今すぐゲームから降りてよね

  生半可なキモチじゃ たった一度のキスじゃ

  私にはぜんぜん足りないんだから

  逃げ出すなら  今のうち


  自由を願う前から私は自由  空の果てに絶望を見たわ

  どこにだって行ける終わりの象徴  ねえ私を転がせると思う?


  私を飼いならすなんてできない

  欺くなんて無理

  変えるなんて無理よ

  私はそんなに簡単じゃない

  私を飼いならすなんてできない

  欺くなんて無理

  変えるなんて無理よ

  私はそんなに簡単じゃない

  そんなんじゃないから


 選曲を間違ったかな、と思う。メロディは、好きともキライとも言えない。詞はかまわないのだが、そんな気分にならない。なれない。

 どうしよう。ブルに頼んでこれ、アゼルに送ってもらえないかな。無理か。音楽など持ち込めるはずがない。それなら手紙はどうだろう。

 ああ、そうだ。手紙でキレさせれば、施設で暴れて、また退所時期が延びて、一生会わずに済むかもしれない。なにこれ。すごい名案。

 ──ダメだ。バカになっている。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 バスを降りると、ウェスト・アーケードにあるカーヴ・ザ・ソウルに入った。店には二組の客がいる。かまわずヘッドフォンを首にかけ、カウンターへと向かった。

 サングラスをしているのに、カウンター奥でチェアに腰かけた店長のカレルヴォは、すぐに私だとわかったらしい。

 「なんだ、男連れてきたんじゃないのか」

 笑える。「連れてくるわけがない」と、サングラスをはずしながら答えた。「指輪に刻印てできる?」

 「今度は指輪か。当然できる」

 「何文字くらい?」

 「モノによる。が、詰めればだいたい二十五文字くらいだ」

 「たぶん余裕」

 彼は紙とペンをこちらに差し出した。

 「入れる文字を書け。で、指輪を選べ」

 私は思いつく言葉を並べ書いた。

 それを覗き込んだカレルヴォはぎょっとした。「ちょっと待て、ちょっと待て」

 手を止めて視線をあげる。「なに」

 「“Loss”? “Treachery”? お前、なんか間違ってないか?」

 “喪失”と“裏切り”。「“Love”と“Loss”を間違えるほどバカじゃない。まだ続きがあるの」そう言うと、私はまた言葉を書き足した。“Lies”、“Hatred”。「よし」

 満足げにペンを置いた私に、彼は呆れた表情を向けた。

 「もしかしなくても、別れたのか?」

 私の口元がゆるむ。「別れた。っていうか、フラれたとかじゃないのよ。気持ち的にはたぶん、消えてはない──」と、自分で言いながら驚いた。だが気にせず続けた。「と、思うんだけど。どっかのバカ共と喧嘩してね、警察に捕まって、更生施設に入ったの。しかも一年ていう期限つき」

 「マジか」

 「マジよ。あ、これ」私は自分の首にある、南京錠を差した。「が、原因じゃないの。これは怒られたけど、大丈夫だった」苦笑気味に淡々と話す。「うまくいってたと思ってたんだけどね。けっきょく喧嘩しに行ったの。で、私の前から消えた。待つつもりはないし、もし戻ってきても、やりなおすつもりはない。ものすごく恨んでる。だからその気持ちを指輪にね、彫ってもらいたいの」

 「けどお前、だったらなんで南京錠、はずさないんだ」

 「これはそういうのじゃないから。永遠を誓ったとか、そういうのじゃない。これは、好きだとかキライだとか、そういうのが関係ないモノ。これははずしちゃダメなの」いろんな意味で。

 彼は小首をかしげたものの、肩をすくませて立ち上がった。

 「指輪、選ぶぞ」

 さすが大人だ、と思った。「うん」

 指輪は、シンプルなシルバーリングを選んだ。つけるのは当然、左手の薬指だ。そこでもやっぱり、カレルヴォは呆れていた。外側か内側か側面、どこに文字を彫るかと訊かれ、おもしろいから側面にした。なにがおもしろいのかはよくわからないが。これはすべて大文字で頼んだ。

 夕方取りにくると言い、私は店を出た。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 待ち合わせは、グランド・フラックスにあるファミリーレストランだった。彼らは店の前で待っていてくれて、いろんな意味でテンションが上がっていた私は、アドニスにハグをした。彼は躊躇することなく応えた。ルキアノスにもしたものの、なにかあったのかと勘ぐられた。「話は中で」と言い、三人で店に入った。

 窓際に席をとり、店員にランチを注文すると、私は大雑把かつシンプルに、「オトコが喧嘩で更生施設にぶち込まれて別れた」と説明した。

 彼らは目を丸くし、顔を見合わせた。普通の反応だった。アドニスが期間を訊いてきたから、予定では一年だと答えた。続いて待つのかと訊かれたので、待つわけがないと答えた。その南京錠はなんだとも訊かれたから、気にするなと言っておいた。

 「そういやちゃんと訊いたことないけど、いつからつきあってたわけ?」アドニスが私に訊いた。

 「中学一年の七月」

 「長!」

 そう、長い。「一回別れたこともあったけどね、一ヶ月くらい。それからはずっとつきあってた」浮気はあったが。「なんの前触れもなかった。突然消えたの」

 「で、お前はキレにキレてると」

 「そりゃね。でも友達と話してて、どうせだからこの一年、受験に集中しようかと思って」

 「他の男とつきあう気はねえの?」

 「ないな。もう男なんていらない。一生ひとりでいい。もともと苦手なの、大切なものをつくるっていうのが。ロクなことにならないってわかってたのに、気持ちを押しとおした結果がこれ。もう一生、恋愛なんてできないと思う」

 彼は肩をすくませた。

 「そう言う女、たまにいるけどな。何ヶ月かしたら誰かとつきあってたりするぞ」

 できるヒトは、できるのだ。「私は無理よ。軽い気持ちでってのが無理なの。最初は確かに、よくわかんない始まりだったけど。もう今は無理。誰かとつきあっても、比べることになっちゃうと思う。それじゃダメだし」

 「まあ──」

 「そんなことより」身を乗り出し、私はルキアノスに向かって切りだした。「勉強、教えてほしいの。とか言いながら、今日はなにも持ってきてないけど。っていうか、二年のあいだはべつにいいんだけど。私はなにがなんでも、ミュニシパルに行く。中卒で荒れた人生を送るつもりはない。大学までは考えてないけど、高校は行きたい」

 手に頬を乗せてずっと気遣わしげな表情を浮かべて彼は、やっと微笑んだ。

 「いいよ。なんならこの三学期の期末からでも」

 自分で言っておきながら、勉強はしたくない。「受験だけで──」

 アドニスは呆れた。「やる気ねえのかよ」

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