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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 19 * VANITY DAYS
107/119

* Looks Like Different

 翌日、始業式の日。

 ──なのだが。

 私は朝起きられず、祖母も無理に起こそうとしなかったりで、けっきょく、式はサボることにした。式が終わるだろう時間に合わせ、学校へと向かった。

 感覚としては、周りのすべてが変わってしまったようだった。なんというか、周りにある景色の色がすべて、一段階色褪せて見える感じだ。自分と周り──あたりまえにあったものの周りに、以前よりももっと深くて大きな溝ができている感じがした。

 それは、祖母の家の中だけのことではなかった。

 何度もアゼルと一緒に歩いた道だからか、学校とアゼルはもう、とっくに関係がなくなっているのに、場所は関係ないというかのように、どこを歩いても彼の気配を感じた。意図せずそんなふうに感じてしまうものだから、少々戸惑いながらも、本気で嫌気がさしていた。“元の景色”を取り戻すにはどうすればいいのか、それがまったくわからない。

 ただ私は、アゼルが消えたという事実を、どこかでまだ、実感しきれてないような気もする。

 一時限目のベルが鳴り終わる頃にと思ったのだが、始業式はすでに終わっていたらしい。約二週間ぶりの二年D組の教室に入ると、私の席に座ったアニタは案の定、ものすごく心配そうな表情を向けてくれた。

 「今日はさすがに学校休むかと思ったわ」ダヴィデが言った。

 アニタが席を立つと、私は自分の机にカバンをかけて椅子に腰をおろした。

 「さすがにってなに。私は基本的に来るでしょ?」そうでもない。「寝坊したのはあれよ、昨日の夜、遅くまで部屋に散らばった天使の羽をかき集めてたからなのよ」半分事実。

 「は? 天使?」

 「もしかしてクッションの?」ゲルトが訊いた。「ナイフ刺すだけじゃなくて、破いたわけ?」

 「そう。すごく楽しかった」そうでもない。「ベッドにあったクッションをむっつとも、ぜんぶ破いたの。ストレス発散に」というか、殺意。「ベッドの上でやったもんだから、ベッドの上が羽だらけになって。そのまま寝ようかと思ったけど、わりとくすぐったいことに気づいてね。しょうがないからベッドの上だけでもどうにかしようかと思って。でも捨てるのもったいないから、ちゃんと瓶に集めてね」

 セテが口をはさむ。「集めてどうすんだ。またクッション作り直すわけ?」

 「それでもいいと思ってたけど、クッションは新しいのを買ってきてくれるらしいから、ただ集めて終わりかも。帰ったらまた天使の羽地獄」

 「天使の羽なら地獄とは言わないんじゃね」と、イヴァンが言う。「あ、でも床に散らばってんなら地獄か。かき集め地獄」

 「そういうこと」

 ベルが鳴った。一時限目終了のベルだ。

 アニタは私の隣にしゃがんだ。かなり心配しているらしい面持ちで、私の表情を覗きこむように訊いた。

 「平気?」

 空気読め。「平気だよ」と答え、「ゲルトが昨日、いい加減いじめてくれたから」とつけくわえた。

 「人聞きの悪いこと言うなこら」

 「だってほんとだし。学校休んで普通の女に成り下がったらがっかりするとか、なんとかかんとか」

 「うわ」ダヴィデは彼に冗談と軽蔑を交ぜた視線を向けた。「そんなこと言ったの? 傷心の女に向かって?」

 「言ったのよ」と、念押ししてみる。「ひどいよね。マジで容赦ないんだもん。あげく高校、私とおんなじとこ行くのイヤだとか言うのよ。もう傷ついて傷ついて」

 セテもにやつき顔で言う。「うわー。最低」

 ゲルトはうんざりそうに天を仰いだ。

 「なんとでも言え。間違ったことはしてねえ」

 なにも間違っていない。「おかげで助かった。自分でぶちまけた天使の羽に逆ギレしつつ、集めてたら、ものすごく笑えてきたもん。ぜんぶ集めたら、またぶちまけるかもしれない」

 「だったらもう掃除機で吸っちまえ」

 「それはイヤ。ひとりの時間が増えるんだから、天使の羽を集めてぶちまけて集めてっていう、そういう時間を作るのよ」

 「それしたらアホだぞ。さすがにアホだぞ」

 「わかった。じゃあ一回集めたら、あんたの家に持っていく。あんたの部屋でぶちまけてやる」

 ゲルトはぎょっとした。「やめて。マジでやめて。それしたらマジでキレる」

 「それやるならオレもやる」セテが便乗する。「で、また集めて集めて、今度はカルの家に行く」

 今度はカルロがぎょっとした。「なんでオレ!?」

 「いや、お前の妹、喜ぶかもなと」

 「あ、それは言えてる」と、シスコン。「楽しそう」

 「妹で言ったら」イヴァンがダヴィデに言う。「お前の妹も喜ぶんじゃね」

 彼の反応はシスコンのカルロとは違っていた。「いやいやいや。ぜーったいイヤ!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 二時限目で私はいつもどおり、席替えを提案した。

 セテのおかげで、私たちはまた窓際の後方席をとった。私の右隣にゲルトが、前の席にセテがいて、彼の隣にイヴァン、その前の席にカルロ、その左隣にダヴィデとなった。アニタはとうとう、離れたところで他の女子とグループを組んだ。

 ゆうべ、羽を集めているあいだ、少しだがケイと電話で話した。アゼルが更生施設行きになったことを伝えたのだ。彼はがっかりしていて、ざまあみろとは言わなかったものの、アゼルのおかげで、マルコが少年院に入った時、自分がどんな気持ちだったかを私に解らせることができたから、ある意味感謝だなと言っていた。マルコが少年院に入った時、ケイが欲しかったのは気を遣わずに話してくれる相手だった。私にもそれが必要なのだとわかっていたから、彼は気を遣ったりしなかった。

 ちなみに彼、年末にまた、マルコに会いに行っていた。ケイの説得でマルコも少し、両親と話をして、マルコも以前よりは態度を改めていたらしく、このままいけば、こちらが夏休みを迎えた頃には出院できるらしい。

 もうひとついえば、去年の終業式の日のパーティーで、ケイは三年の女とメールをはじめた。そして昨日、その女と遊んだらしい。どちらかといえば地味で、完全な好みというわけではないけど悪くもなく、ふたつも年上のくせに抜けたところがあって、私とは違う意味で変な女だという。そしておそらくだが、、わりと気に入られているとか。ただむこうも男とつきあった経験がないらしいから、もしそうなったとしても、一年のあいだに“それ”を済ませるのは無理そうだとも言っている。

 気を遣わないのがいいとはいえ、話を下ネタに持っていくのは、さすがにどうなのだと言いたかった。

 私はといえば今日はまた、アドニスとルキアノスと三人で、ランチの約束がある。アゼルのことを話したわけではないけれど、去年末から約束していたことだ。昨日ゲルトと電話しているあいだに、ルキから確認のメールが入っていた。彼らはこっちに来る気でいたけれど、帰りにゼスト・エヴァンスにでも寄ろうかと思い、私がセンター街に行くことにした。

 ひとりでいることも、そう悪くはない。というか、できれば誰にも知られずにいるほうがラクだったろうとは思う。だけどゲルトは気づく。アニタはアゼルの名前を持ちだす。けっきょく、知られることになる。

 卒業までにどれくらいの人間にアゼルの話を知られることになるのだろうと考えると、ぞっとした。私は隠すのが上手いというわけではない。どうしても不機嫌さが表に出てしまう人間だ。いつキレて周りをめちゃくちゃにするかわからない。

 ブルたちからは、連絡がない。ゲルトにああは言われたものの、どういう態度をとっていいのか、おそらくまだよくわからないのだろう。なぜって、私の気持ちを考えてということも含めれば、彼らのほうがきっと、動揺は大きいだろうから。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 放課後、ケイが教室に来た。彼は戸口からの第一声で私の名前を、それも大声で呼び、こちらに近づきながら第二声、「ジュースを奢れ」と言った。

 顔を見に来ただけなのだろうなと思いつつも私は了承して、彼と一緒に教室を出た。

 「また背伸びた?」同期の目も気にせず廊下を歩きながら、私はケイに訊いた。

 「伸びたっぽい。最近夜中、身体がめっちゃ痛いんだよ」

 「マルコは身長、いくらくらいだっけ」

 「兄貴も伸びてる。今百八十五? くらいとか言ってたかな」

 「でかいな。ってことは、あんたもそのくらいまで伸びる可能性はあるわけだ」

 彼はにやついた。「だから言ったじゃん、お前の身長なんかすぐ追い越すって」

 「マルコは十九だよ? あんたはまだ十三歳だよ? あと六年もあるよ?」

 彼ははっとした。しかしすぐ持ちなおす。「いや、もしかしたらオレの成長は急速かもじゃん」

 私は笑って、彼の肩を組んだ。

 「じゃあ賭けようか。私が卒業するまでに、あんたの身長が百六十に達してるかどうか」

 「せめて百五十にしろ」

 「ずいぶん弱気だな」

 彼も私の腰に左手をまわした。

 「で、勝ったらなにくれんの?」

 「焼肉食べ放題」

 「マジで!?」

 「なんでもいいよ。で、百五十なの? 弱気なの?」

 「絶対百五十」

 笑える。「よし、じゃあ百五十ね」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 正門へと歩いていると、体育館のそば、三年と思われる、ウェーブのかかったブロンドヘアの女がケイに声をかけた。

 ケイは彼女にあやまった。「悪い。昨日、寝落ちした」

 「いいよ。また暇になったらメールして」

 彼女と一緒にいる二人の女は、肩を組んで腰に手をまわしてという私たちを、どうも気にしているらしい。

 「うん。じゃーな」

 ケイがそう言って手を振ると、彼女も彼に手を振り返した。頬がほんのりと赤く染まっていて、嬉しそうにしている気がする。

 再び正門へと歩きながら、私はケイに訊いた。「あれがメールの相手?」

 「うん。よくメールくる。ニュー・キャスに住んでて、昨日ハーバーで待ち合わせた」

 「初デートだ」

 彼は顔をしかめた。「つきあってねえよ? それに二人で会ったからデートだって言うんなら、オレの初デートの相手はお前じゃん」

 「なにをデートって言うんだろうね。私は普通のデート、したことないからな。バスに乗ってどこかにってのも、ひとつはマーケットに買い物に行っただけだし」正確にはドラッグストア、避妊具を買いにだが。「もうひとつはちょっと長旅だったけど、ブルとマスティがスクーターの免許とるの、観察しに行っただけだし」

 「ああ。アゼルは映画観てとか、ないよな」

 「ないな。私もしないし、興味ないし。なにか食べに行くことはあったけど、それなら友達とだってするし」

 「なんでもいいんじゃね。むしろ映画なんか観に行かなくてよかったじゃん。もしやりなおさないとして、映画なんか観たら、それ観るたびにアゼルを思い出すことになる」

 これは正論だ。「誘えばよかったのに、彼女」

 「え、やだよそんなの──」

 「ケイ!」

 うしろから声をかけられ、私たちはお互いに腕をほどいて振り返った。さっきの三年の彼女だ。

 「今日、予定ある?」彼女がケイに訊いた。

 「今日? ベラにジュース奢ってもらったら、そのうち家に帰るけど」

 「じゃあ今日、遊べる? 何時になってもいいから」

 「べつにいいけど」

 彼女は笑顔になった。「ほんと? じゃあ帰ったらメールして」

 「わかった」

 再度手を振り、彼女は友達のところに戻っていった。

 こちらは再び歩き出す。

 「モテてんね」と、ケイに言ってみた。

 「そーか? よくわかんね」

 「残念なお知らせがあります」言いながら、私はカバンから財布を取り出した。

 「なに」

 「私、友達とランチの約束あるのよね。だからそんなに長居はできないので」財布の中にあった二千フラムを彼に差し出した「ジュースでもランチでも奢るから、一緒に帰ってみれば」

 「は?」

 「男なんだから挑戦しなさい。約束破るとか裏切るとか、喧嘩して警察に捕まってみるとか更生施設に入ってみるとか少年院に入ってみるとか以外の挑戦」

 彼はしかめっつらで数秒二千フラムを見つめると、それを受け取った。

 「オレはわかるけど、むこうに奢る義理なくね」

 「ないね」と、私。財布をバッグに戻し、彼の髪を撫でた。「そんなのはどうでもいいの。あんたが彼女を好きになろうと、弄ぼうと、どうでもいい。一年のあいだに卒業してやるって言ったあんたに投資するだけ。でも主導権は渡さないほうがいい。女にコントロールされる男になっちゃだめ。相手が三年だろうと、主導権は握りなよ。投資はするけど、貢ぐ男にもなっちゃだめ。避妊しないのもだめ。そこはちゃんとして」

 めずらしく、ケイは真剣な表情をした。「──お前、だいじょうぶか?」

 私は微笑みを返す。「だいじょうぶ。私は強い。友達と約束があるのはホントなの。だからもう行く。また明日ね」

 探るような眼で私を見たあと、彼は肩をすくませた。

 「わかった。じゃな」

 「ん」

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