表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 18 * FEATHER DAYS
103/119

* Broken Promise

 ふと目を覚ました。

 薄暗い室内──なにかと思えば、ナイトテーブルに置いている携帯電話が鳴っている。目をこすりながらそれを手に取ると、画面を確認した。

 ブルからだ。

 そこで、気づいた。

 アゼルがいない。

 瞬時に身体を起こし、部屋を見渡した。ナイトテーブルにあったはずのアゼルの携帯電話が、鍵がない。自分が眠っていた場所の隣は、シーツが冷たい。温度がない。

 携帯電話はまだ鳴っている。

 デスクの上には小さな紙が置かれていた。そんなものを置いた覚えはないのに。

 鳴り続ける携帯電話を持ったまま、ゆっくりとベッドから降りた。

 デスクの前に立ち、ペンと一緒に置かれた紙を見る。

 “鍵はポストに入れとく”

 それだけ。

 寝起きだからか、頭が働かなかった。なにも考えられなかった。

 呆然とメモを見つめながら、意識したわけではないと思うけれど、気づいたら電話に出ていた。

 「あ、ベラ?」ブルの声だ。「起きた?」

 この質問は、どういう意味だろう。

 よくわからないまま、「起こしたのはそっち」と答えた。

 「そうだけど──って、そうじゃなくて。頭働いてるかって訊いてんだよ」

 私はデスクに置かれたメモをまだ見つめていて、左手指は紙に触れていた。

 「わかんない」

 私は携帯電話を、サイレントモードにしていたはずだ。

 「ああ──」彼は一度言葉を切ると、静かに切りだした。「──落ち着いて、聞けよ」

 私は、答えなかった。

 「──アゼルが、捕まった」

 電話越し、ブルが言った。

 “アゼルが捕まった”

 ブルは確かに、そう言った。

 私は、動けなかった。なにも言えなかった。

 彼は続けた。

 「さっき、アゼルのじいさんから電話があった。原因は喧嘩だけど、詳しいことはよくわかんねえ。教えてもらえんかった。取り調べがひととおり終わって、今留置所に入ってるって。今わかんのは、相手が何人かいて、アゼルはひとりだったってこと。あいつもちょっとやられてて、状況は正当防衛だけど、それ以上に相手のほうが傷受けてるらしい。気絶してたり骨やられたりで、病院で手当て受けてるって。夜中の三時頃、オル・キャスを見回ってたポリ公が喧嘩してるとこ見つけて、応援呼んで全員捕まえたらしい。じいさんいわく、相手のほうにもわりと非はあるし、おおごとにする気もあいつを少年院送りにするつもりもないけど、更生施設には入れるって言ってる。──それが、わりと長い期間」

 私の頭の中に入ってきた言葉。

 “喧嘩”

 “アゼル”

 “捕まえた”

 “更生施設”

 “長い”

 それだけ。

 考えたくても考えることができていないのか、それとも、脳が考えることを拒んでいるのか、もしくは、考えていることに気づきたくないのか、自分が今どんな状態なのか、さっぱりわからない。

 「ベラ? 聞いてんのか?」

 自分がなにを感じればいいのか、なにを思えばいいのか、さっぱりわからない。

 「──ここに、居たの」私はつぶやくように言った。「あいつ──ここに、泊まってた」

 つまりアゼルは、ここから喧嘩しに行ったってこと。

 少し間を置いて、「聞いた」と、彼は答えた。「お前が悪いんじゃねえよ」

 その言葉に、私は思わず笑った。

 「私が悪いんじゃない? あたりまえじゃない。出て行ったことにすら気づかなかったんだから」

 ああ、そうか。

 “あれ”は、“行く前”だったんだ。

 「──夜中に、起きたの」

 考えなくても、これだけはわかる。

 「たぶんあいつ、起きてて──」

 あいつは、電話で呼び出されて行ったんだ。

 「よくわかんないけど、ベッドに戻ってきて──」

 寝てるとこ、電話で呼び出されて、行ったんだ。

 「でも私、寝ぼけてて──」

 私は気づかなかったけど、それだけは、確実だ。

 「したことだけ、覚えてる」

 なにか、言われた気がする。

 「わけがわかんないまま、終わって──」

 アゼルは私に、なにかを言った。

 「──寝ろって言われて、寝たの。すぐに。笑えるくらい眠くて、疲れてて──」

 あいつは、なにかを言った。

 「──時間は確かめてないけど、たぶん、そのあとなんだと思う」

 “俺のもん”

 「──デスクの上に、メモがある。“鍵はポストに入れとく”って、それだけ」

 “お前は俺のもん”

 そうだ、そう言った。

 アゼルは、確かにそう言った。

 “お前は俺のもん”

 ────笑える。

 「──ねえ、ブル」

 「──ん」

 「去年、じゃない──、一昨年──あいつと別れたあと、やりなおす時──約束、したの」

  “約束しても、信じないってことだよな”

 「“喧嘩しない”って、約束した」

  “今守る気で約束してくれるなら、私はその気持ちを、信じる”

 「“施設に戻るようなことはしない”って、約束したの」

  “んじゃ、キスしたら約束する”

 「──慰めじゃなくて、本音を教えて」

  “約束したらキスする”

 「あいつ──守る気で行ったのかな」

  “ふざけんな”

 「最初は、喧嘩なんてする気なかったのかな」

  “ふざけてない”

 「それとも──喧嘩はしても、捕まる気は、なかったのかな」

  “こっちもふざけてない” 

 「──最初から、喧嘩する気で行ったのかな」

  “約束する?”

 「捕まるのわかってて、施設に戻ることわかってて──約束、破る気で──喧嘩しに、行ったのかな」

  “約束する”

 「──慰めなんか要らないから、どう思うか、本音教えて」

 数秒、沈黙があった。

 そして溜め息をつき、ブルは答えた。

 「──喧嘩する気で、捕まるのわかってて、行ったんだと思う」

 私はまた、笑った。

 だって。「私も、そう思う」

 あれだけ、なにも信じようとしない私を、嫌がってたのに。

 「──どのくらい入るかは、わかんないの?」

 ああ、でも、“信じろとは言わねえ”って、言われていたっけ。あとからだけど。

 「──たぶん──半年以上」

 半年以上。

 ブルはまた少し沈黙を作り、つけたした。

 「アゼルは、一年くらい入る覚悟はしてるって」

 ──覚、悟。

 笑える。

 ──私に殺される覚悟も、できてるのかな。

 「正確に、どれくらい入るかが決まったら、それだけ教えて」

 私は、“地獄を見せて”なんて、言った覚えは、ない。

 「眠いから、寝る」

 「おい──」

 私は、電話を切った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ