* Mine
祖母の家。
話をして、抱き合って、ふざけて──私たちが眠ったのは朝方だった。ふたりとも携帯電話の電源を落としていて、それは起きてからも続いた。完全に引きこもっていた。
午後四時すぎ、試しに電源を入れてみると、どちらの携帯電話にも、ブルからメールが届いていた。アゼルには、邪魔はしないから、マブにいないならせめてそう言えと。飯が無駄になるからと。私のほうには、けっきょくソフトクリームはどうなったんだと。私は店が閉まっていたことと、今日も祖母の帰りが遅くなること、昨日と同じで夜の九時頃帰ってくれるなら、夕食を食べにきてもいいと返事を送った。
笑えることに、彼はマスティとリーズとニコラを連れて、ほんとに来た。前日と同じような夕食会兼飲み会が、またはじまった。しかもマスティ、ゲーム機を持ってきた。リビングでバカ騒ぎになった。
そして夜の九時すぎ、彼らは帰っていった。アゼルに関しては、祖母が帰ってくるまでいることにした。今夜も帰ってこないけど、と思いながら。
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普段は私しか使わない、一階のバスルームで一緒にシャワーを浴びたあと、ナイトスタンドの灯かりだけを灯し、ふたりしてラグの上、ひとつのビーズクッションを枕にして仰向けに寝転んだ。
「私はね、二十五歳で死ぬのが理想」
「異論はないな」アゼルが答える。「なんで二十五なのか知らねえけど」
「キリがいいから」
「三十になるまでには死にたいよな」
「そう。二十代のうちに死にたい」
「なに考えて七十年も生きてんのか教えてほしい」
「仕事が充実してたら、もっと長生きしようとか思うのかも。っていうか、どっかの誰かさんがめちゃくちゃすぎて、安心できないとか」
彼は笑って納得した。「なるほどな」
「もし別れてて、あんたが他の女としてる最中に私が死んだって知らせが入ったら、どうすんの?」
「どうするってなにが」
「最後までするの?」
「さあ。なんならお前の死体とヤるけど」
「すごいこと言うな」
「お前なら死体になってても、普通に濡れてる気がする」
「ねえ、私、さすがにそこまで異常じゃないと思う」
「お前は? どうすんの? 逆だったら」
「とりあえず最後までするかな」
「すんのかよ」と、アゼル。「ま、どうせ誰と何回ヤッても不満だらけだろうけどな」
“アゼルの方法”が、身体中に染みついている。
「慣れたら平気よ」と、言ってみた。
「んじゃ慣れるために、今日はやめとくか」
「そんなことできるの?」
「生活戻さなきゃなんねえし。わりと眠いし」
「じゃあしないで寝る」
「お前に嫌がらせして寝る」
「話が違う気がするんですけど」
アゼルはすっとぼけた。「ヤらねえってつもりでやめとくかとは言ったけど、嫌がらせまでしねえとは言ってねえよ」
「やだよ、そんなのやだ」
「お前はしないで寝るっつったから、嫌がらせだけして終了」
「やだって言ってんのに!」
「さてと」こちらを向くと、彼は悪戯に微笑んだ。「どこまで耐えられるか見物だな」
まただ。
私は叫んだ。「悪魔!」
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深夜。
ベッドで眠っていると、ふと目を覚ました。
うっすらと目を開けたけど、なにも見えなかった。
真っ暗な部屋。再び目を閉じる。
私は寝ぼけていた。
足音がし、ベッドに誰かが腰かけた。
誰かの手が、自分の右頬に触れる。
私はその手に触れた。
「起こしたか」アゼルの声だ。
私は寝ぼけていた。
「んーん」
彼はベッドに横になった。
「寝ろ」
私は、寝ぼけていた。
「んー?」
アゼルは静かに笑った。
笑って、私の頬を撫で、キスをした。
頬にではない。額にでもない。唇にだ。
「寝かせてやる」と、彼はつぶやいた。
次の瞬間、寝起きには激しすぎるキスと愛撫が私を襲った。
私は抵抗しなかった。眠くて眠くて、身体がすっかり疲れている状態で、頭がほとんど眠っている状態で、それでもひとつにつながって、彼にされるがまま、全身で、彼のすべてを感じた。
「お前は俺のもん」
私の耳元で、アゼルがそう囁いた。
私たちは、同時に果てた。
だけど私は、やっぱり寝ぼけていたのだろう。避妊具をつけていなかったことに、この時、はじめて気づいた。
私の中は、アゼルで溢れていた。
だけど、それを気にする余裕はなかった。
再びの快感と眠気と疲れに襲われた私がベッドに倒れこむと、アゼルはまた、私の頬を撫でた。
「寝ろ」
そう言われて、私はすぐに眠った。
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夢をみた。
真っ暗な場所に、いくつかの赤い光があった。
その中心に、誰かが居た。
アゼルがひとりで、立っていた。




