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青空

空 空は覚えていますか?


あたしと一緒に過ごした日々を


あたしは空しか思い出せないくらいに記憶に刻まれてるよ


ピンクは空を好きな気持ち

紫は空と喧嘩したこと

緑は空の優しさ

オレンジは空のあたたかさ

青は空の不思議なところ

どんな色でも空が出てくるよ


あたしは毎日空を見上げてる

空に1番近づけると思えるから


空がいてくれてよかった

空に出会えて、空に恋できて

本当によかったよ


空 今でもあたしは空を描いてるよ


ー空 あたしと出会ってくれてありがとうー





ガチャ


「うおっ びびった!

人いたんだ。ごめんね、邪魔だった?」

毎日空を描いているあたしの特等席、屋上に珍しく人が入ってきた。

「別に。あたしの屋上じゃないし。でもなんで鍵持ってんの。」

屋上はいつも鍵がかかってたはずだ。

あたしは、天文部の先輩から受け継いだ鍵があるけど…

「これ?

俺屋上好きなんだ。

だから職員室からぬすんできちゃった。

君、会うの初めてだよね?

俺は生野空。屋上仲間としてよろしくっ」


「そ、ら…?

あ、あたしは…小春。

酒井小春、です。」

いつもなら初対面の人と話せないはずなのに、なぜかこの人になら大丈夫って思えた。

「小春…うーん…

よしっハルちゃんだね!!

何描いてたの??」

そう言って生野くんは、あたしの手からスケッチブックをひょいと奪った。

「空じゃん!!

ハルちゃん空好きなの!?」

目を輝かせてる生野くん。

「うん。空描いていると落ち着くの。

頭がからっぽになってスッキリするから…」

「そっかあ!!

空いいよね!俺も屋上来んの空目的なんだ。でも今日は曇り空だね。神様も辛いのかもね。」

空模様を神様の気持ちにたとえるなんて不思議。

「ハルちゃんが描いてるの空ばっかりだね。人とか描かないの?」

一瞬、今までの穏やかさがうそのような、胸が苦しくなるような感覚に襲われた。

まさか…あれ?

あれが来ると立ってるのでさえ辛くなる。

「人、嫌いなの…じゃあ、あたし授業あるから!」

そう言って屋上を飛びだした。

階段の角に駆け寄ってポケットから五角形のケースを取り出して、中の粒を口に押し込んだ。

ハァ…ハァっ

最近はおこらなかったのに…

また発作がおこってしまった。


「なんであんたなんか産んじゃったの…!?」

お母さんの最後の言葉。


2年前にお兄ちゃんが事故で命を落とした。

その日からだ。家族が壊れていったのは。

お父さんは出て行き、お母さんは家事に仕事にと忙しく、心の病におかされた。


家でお酒で潰れてるお母さんに毛布をかけた瞬間、そう言われた。寝言だったのかもしれない。

でも確実にそう言ってたんだ。なんで産んだんだろうって。


その瞬間、あたしの中で何かが崩れ落ちた気がした。

お母さんのことは信じてたのに。

あたしはいらない子だったの?


お母さんが首を釣っていたのは、次の日の朝だった。


それからひとの顔を見るだけでも、発作に襲われていた。

やっと治ってきたと思ってたのにっ…


「ハルちゃん!」

次の日、廊下を歩いてると生野くんに呼び止められた。

「スケッチブック、昨日忘れてったよ?」

あ…急いでたから、カバンに入れ忘れたんだ。

こんな大切なものなのに。

「ありがとう…大切なものなの」

「うん。よかった。昨日怒らせちゃったから、口聞いてもらえないかと思った。」

違う、怒ってない。

そう言いたいのに言葉が出てこない。

きっと発作のことばれて、嫌われるのが怖いから。

「今日の昼、一緒に弁当食べない?」

「え、でも…生野くんの友達…」

生野くん、いつも友達といるから、あたしなんかと一緒に食べてたら、友達に嫌われちゃう…

「大丈夫、大丈夫!あいつらのことは気にすんなよ。別に昼くらい大丈夫だって。」

太陽みたいな笑顔で笑ってくれる生野くん。

「うん、一緒に食べたい、です。」

「まじ!?なら、昼休み屋上集合な!あ、これ俺のメアドと電話。いつでも暇人してるから!んじゃ!」

生野くんは、あたしに連絡先を書いた紙を渡して走って行ってしまった。


「こーはるっ?あんた今、空くんといなかった?」

教室に戻ると、中学からの唯一の友達の実音ちゃんが駆け寄ってきた。

唯一心を許せる相手でもある。

「昨日、屋上で仲良くなったんだ。でも実音ちゃん、なんで空くんのこと知ってるの?」

あたしなんて、昨日が見るのも初めてだったくらいなのに。

「なんでって言われても、空くんといえば1年生のスター的存在だよ!?女子にもモテるし、男子からも人気だし!」

そうなんだ。ぜんぜん知らなかった。

そんな人気者なのに、なんであたしなんかによくしてくれるの?

お昼食べるのだって、迷惑じゃないのかな。

「こはる、空くんと仲良くなれるといいね。いい人っぽいから、こはるもきっと信じれるよ」

実音ちゃんが、優しく言ってくれる。

「実音ちゃん、お昼一緒に食べようって言われた…行ってもいいのかな?」

「あったりまえでしょ!誘われたのに、行かない方が迷惑だよ!」

実音ちゃんが背中を押してくれる。

そっか、そうだよね。

もし今日行って、迷惑そうだったらやめよう。

今日だけ、夢を見させてください。



次の授業で先生の目を盗んで、生野くんにメールをうってみた。

[酒井 小春です

お昼誘ってくれてありがとう]


送信ボタンを押す手が震えた。

深呼吸をして、勢いでボタンを押した。


ブブブブー

数分後、マナーモードにしていた携帯が震えた。

受信者 生野くん

返信早い…


[おー、ハルちゃん!!

こっちこそOKしてくれてありがとな

楽しみにしてる!]


そんな普通のメールなのに、微笑んでしまう。

生野くんは、あたしの過去を知っても離れていかないのかな。

信じてもいいの?


「ハルちゃん!ごめんね、遅れて。購買混んでて。」

昼休み、5分ほど遅れて空くんがやってきた。

「大丈夫だよ。待つの、嫌いじゃないから。」

「空、見てたの?今日は快晴だねー。神様もご機嫌だ。あ、見て!飛行機雲!飛行機雲が消える前に3回願い事を唱えるのを、1週間に6回できたら願いが叶うんだって。」

「そうなんだ…」

願い事…今のあたしなら何を願うんだろう。

家族が戻ってくること?

人を信じれるようになること?

それとも、生野くんに近づけること?


「ハルちゃん、こっちおいでよ。」

策にもたれかかってパンを開けてる生野くんの近くに腰を下ろす。

「生野くん 毎日パンなの?」

「うん、そうだよ。うち、母子家庭だから、母さんにあんま苦労かけたくないんだ。ハルちゃんは弁当?お母さんが作ってくれんの?」

笑顔で弁当を覗き込んでくる生野くんの質問に戸惑った。

本当のことはまだ言えない。怖い。

でも嘘はつきたくないよ。

「あたしのとこも、親いないんだ…だから自分でつくってるの。」

「そっか。なんかごめんな?」

気つかわせちゃったかな。

こういうときどう言えばいいのかわからなくて、黙ってしまう。

「…ハルちゃん、俺のこと空って呼んでよ。生野くんじゃ寂しいし。」

沈黙を破るように、生野くんが口を開いた。

「あ、えっと…男の子を呼び捨てにしたことないので…」

「なら、俺が初めてだね!!呼んでみて!」

なんだろう。この気持ち。

ほんわかあったかくて、安心感に包まれてるような感じで。初めての感覚。

「そ…そ、そら…?くん」

名前を呼んだだけて動悸がする。

発作とは違う苦しさ。

「くん、いらねーって!くん付けするやつなんて俺の周り誰もいねーよ?」

「頑張って…みます。」

あたしの様子に空が笑う。

「ハルちゃんかわいい///やば。」

「えっ!?そ、そんな…」

自分でも顔が赤くなっていくのがわかる。

空と出会ってから、初めてのことばかり。

空といると、なにもかも忘れられるような気がした。



予鈴が鳴り、あたしたちはそれぞれの教室に戻る準備をして、屋上を出ようとした。

「ハル!!」

振り返ると、笑顔で手を降ってる空。

「ハルちゃんじゃなくて、ハルって呼びたい、な?あとこれからもお昼一緒に食べてもいい?」

こんな幸せな時間が続いてもいいの?

今日だけのつもりだったのに。

空なら信じても大丈夫。なんとなくそう思える。

「うん…あたしも空がいいなら食べたい、です。」

「俺は喜んで!だよ!んじゃ、また明日な?」

その笑顔を見て、この気持ちの正体に気づいてしまった。

空が好き。

こんな気持ち知らない。

どうすればいいんだろう。


近づきたいのに近づけなくて、

触れたいのに触れられなくて。


これがあたしの初恋の始まりでした。


ー空のような優しくて大きくて大切な思いで


<夕焼け空>に続くー





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