唄う水魚の噴水
戦い場面……難しかった!
臨場感がなかなか出ませんでした。下手なので期待しないでやってください。
「『唄う水魚の噴水』……それが私の相手?」
迎に尋ねる。
夜の美術館、その敷地内にそれはあった。
「既に数人の調査員が食われている。」
簡潔な言葉はその危険度を表した。
ハシバミも随分と手の込んだ悪戯をしている。初任務で死んだら、組織入りも何もないじゃない、と彼女は思った。
“組織”―――それは“怪異”による事件を秘密裏に処理する組織だ。力はある。
やり方も相当汚い。“怪異”と“怪異”をぶつかり合わせて、生き残った方の身を生かしていくやり方だ。両方が死んでくれればそれはそれで好都合、ということだろう。
少なくとも、鬼灯に関してはそこら辺に余裕が見られる。
人の身体に寄生しているのだから、処理は容易と判断しているのだろう。
人の身ならば“怪異”といえど、喰らい合って強くなったところで手に負えなくなるものではない。
「ああ、あれが―――」
鬼灯の身体、正確には大河珠洲の体を穿つ、水球弾。
不意打ちも不意打ち、見えたと認識する間もなく攻撃してきた“怪異”に迎はその人外の身体能力で回避していた。
尋常じゃないスピードのそれは鬼灯の身体を、至極容易に致命傷へと至らしめた、と思われた。しかし、
「あまり攻撃性はないと思ったけど、」
攻撃なんてまるでなかったかのように、こちらを向いて優美に微笑んでみせる鬼灯。
「私の思い違いだったかしら?」
不本意ながら見蕩れた。
「それともすごく怒ってるようだから……何かしたの、あなたたち?」
『灰色の歌を歌わせるな』
厳句が思考に流れた。
渦から導かされたこの怪異への対策―それが土壇場になって出てきた。
憎しみを封入された人工の怪異。それが『唄う水魚の噴水』
「さあな。」
仲間となった怪異に乾いた答えを返し浮び始めた水球を打ち落とす。攻撃がまともに当たるのは迎の持つ武器が普通のものではないからだ。封印呪のかけられた銃。
それを新しく装填し、構える。物陰に隠れたままスコープを覗く。
「だが、怪異はあるだけで害だ。」
断言する瞳の先に見えるのは大きく口を開き、その美貌を自ら貶めている彫刻。
今度は口から砲弾でも出すつもりか。
「あなたねえ、―――」
私の前で言う?と言いかけてやめた。その 瞳と表情に口をつぐむしかなかった。
一先ず言及を避け、目の前の怪異に集中する。
(あれが唄う姿勢なのかしら?)
凶暴に微笑んで見せる姿に歌姫の姿はない、と呆れたように思う。
攻撃に移される前に、と走り出す。疾走は人の身体に許される範囲内だ。
下げ持つ剣が重いと感じるのはこれから命を奪うため、ではない。
精神的なものでなく、肉体的な事実。攻撃が掠るだけでもそれは脅威となる。
成長しきってもいない、未完成な少女の身体なのだ、これは。
至近に入って、振りかぶる。
(今更攻撃しても、もう遅い。)
唄では影響がすぐに出ない。けれど、と考えた。
(水球ならば防げる。)
鬼灯に触れる直前にそれは歪み、干渉され、喰われ、消える。
怯んだ水魚に躊躇いもなく、異界の剣その力を振るう。
もう鬼灯は木が本体であった時とは違う。年月をかけた知識を行使できる。
待つだけの存在ではなくなった。他の怪異についても幾つか知っている。
何より、人の中に入り込むことにより怪異が追加され、防護壁となり攻撃をくらうことがない。
怪異を怪異で食らう。侵食することにまで肥大化した怪異の力。
その手に握った一振りの剣。
切り裂く。食らう。呼吸するように吸収する。
異界の力が剣を通し、鬼灯にまで流れ込んでくる。主従は鬼灯のほうが上だからだ。
鬼灯の根源へと駆け巡る想いへと滲み込む、異界。―――灰色の歌の正体を識る。
「帰るぞ。」
「ええ。」
迎に照応する。
立ち去る前に背後をチラと振り返ったのは感傷に過ぎない。
そして口ずさむ、恋歌。感傷に過ぎなかった。




