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鬼灯の実  作者: ロースト
12/20

何かが芽生えた 前編

シリアスで戦闘場面で前後編です。

「『加護の腕輪』は飛ばして『干渉の耳飾』なの?」

「ああ、腕輪の方には別件が混じってる。最後にする。物を揃えてからの方がいいだろう。」

 ふぅん?

 まあ、いいか。私には拒否の権限もない。順番が変わる程度なのでそれほど気にすることもない。ただし別件とは何ぞや、と野次馬根性のようなものが芽生える。それに首を傾げたが、それは予感だったのかもしれない。不吉な、狂ったような赤に染まることへの不安。

 ――今日は鎌のように鋭い、下弦の月が出る。



「『干渉の耳飾』回収、と。簡単だったわね?いつもいつもこうだと簡単でいいのだけれど。」

「油断するな。今回は引き取りだけだったが、それ自体の能力値は高い。」

 迎の言うことは間違いない。干渉の耳飾はその名の通り“干渉”の異界力を持つ。意志を持たない異界であるが故に使用者の意志により能力が具現する。装飾者の思うように他人の思考を捻じ曲げ、また望まずとも使用者に他の者の悪意を突きつける。良い意味・悪い意味の両方でその場に干渉する存在。人々との関係性に影響を与え、感情を揺さぶる能力。

「異界はそれだけで自立的存在。だから、人が関わらなければ何も問題は起こらない。互いに領土を弁えて、それぞれの距離を保てば、私たちは隣人として互いを受け入れられるのに」

 ――拒絶。そして過剰な受容。

 異界を排除すべき対象として行動を取るものが居れば、逆にその能力を利用しようと接近を図るものが居る。この耳飾もそうだ、使用者が善人だったから良かった。しかし、それも長期使用と続ければどうなったことか。精神を狂わせ人格を歪ますこともありえた未来だ。

 鬼灯は自らの耳へと取り付けられた小さな存在に触れる。異界と異界との接触で空間が揺らぐようにして僅かに鈴のような高い音が鳴ったが、その能力が発現されるでもない。

 この耳飾――干渉の力を利用しようとすれば、その威力は馬鹿にならない。干渉し、人の意志を捻じ曲げ、洗脳することさえ、出来たかもしれない。そんな恐ろしいものが人の世に持ち込まれ、通用されてゆく。それは混沌とし、独裁を作り上げ、世界の構築を変えてしまう力だ。

 ……他の異界にしても同じ。人の手に渡ることはそれだけ人の世に影響を与える。しかし、それが使用されることなく、そこにあるだけでは問題がない。不干渉を決めてしまえばいいものを、人は呼び起こす。そして災禍を自ら起こす。人の手によって創られる異界が、人という存在の恐ろしさを物語る。その異界が偽物でない、同等の力を持つ異界としてあるだけに。


「来るぞ」

 説明もないまま待機して、しかしその言葉の直後に風が吹く。どっと流れる空気に髪が煽られ、それを片手で抑える鬼灯。そして彼女とは対照的にまっすぐ前を見据える迎。それが待っていたものだった。

 鋭く、けれど小ぶりな刃物の筋を空気に描く風は鎌鼬のそれを似ていた。渦の中心に、影が浮かぶ。


「――夏梅」


 後から合流すると聞かされていた夏梅は今まで接触することなく、ここまで着た。次に向かう先以外は全て回収を終えているのだ、今更になって、と思う。けれど逆に考えればこの最後の段階となって彼は合流してきた。それはこの加護の腕輪への警戒だろうか。

 鬼灯は人間のように気を緩める、ということも警戒するということもない。全てが全て、いつも通りに気配を整えている。何かを気にするわけでもまく、本能からその存在を直感するからだ。だから、気分が安らぐということもないし、気を引き締めるということもない。あるというのならば、考え直す、認識し直すということだけだ。認識は油断に繋がるとはいえ、態々事前に息を呑む、覚悟などということは一切ないのだ。恐怖がないから、とも言えよう。

 ――けれどこの時、鬼灯が感じたのは不安。そして予感だ。恐怖の前兆。

 掌に掻いた汗を拭うことなく、手に持った鬼斬を握り締めた。自らの内から発せられる警告はヴェルゼに会った日から続いていた。心に立つ波は最高潮に達していた。


「案内は僕が頼まれてる。3人だけで行うよ。」

 夏梅が促すのに、言葉をかけた。尤もそれは確認のようなものだった。

「『加護の腕輪』でしょ?害意があるような名前じゃないわね。」

 『加護』という名前からは悪意は見えない。それどころか、使用者を守る意志を感じ取れる。

「加護という名称は的を射ている。が、その使用者が悪だ。悪人が守護を使えばそれも悪になる。」

 異界の能力を自らの利益に還元しようとする者が使用者。異界には主が相応しいかどうかを判断するものがないからこそ、誰でも使用が出来るからこそ、その能力は悪に染まりやすい。悪を守ることでさえ、異界は厭わない。

「名のある盗賊――その当主が持ってる。実力もかなりのものだけど、彼等は一般人。手加減、忘れないで」

「……彼らは悪党なのでしょ?」

 悪党ならば傷つけていい、というほど傲慢でも人間の世界に加担してもいないが、自業自得だろう。異界の力をこっちに持ち込んで影響を及ぼしているのだ、再び繰り返さないとも限らない。手加減などしてはこちらの達成度が高く、安全性も低まる。実力が拮抗するのならば、それは生存を分けることになるだろう、指示だ。

「それでも人間だ。僕らが敵対するのは異界。人間を殺せば、それは法の下に罪を背負わされる。立証できないとしても、罪は罪に変わらないからね、命は購わされる」


「――皮肉ね」

 人を守る組織が、人と戦う。守る為の道具を使って悪事をする人と戦う。


「作戦、なんてものはないよ。けれど、ソレはリーダーが持ってるんだ。そいつをおびき出さないと、どうにもならない」

 森の中、自然に出来た広場に居を構えた標的を見据えて夏梅は言った。遠めにも一際豪奢なテントが目に入り、けれどその横に隠れるようにしてある小さな一人用のそれに目を向けた。幾つも張られたテントの外、見張りなのか武器を携え立っている者、各自に自由な時間を過ごす者が広場にいる。見えているだけで二十人は下らない。――彼等は立った三人、そんな場所へ足を伸ばした。



   ***


「お兄さんたち、こんにちは」

 出迎えに来た男たちをにっこり笑って鬼灯は待った。

 夏梅の集めたところによると、盗賊は金以外の物には興味がないらしい。女子供も極悪非道に殺す代わりに、酒にも女にも手をださない。純粋に金を奪うことに興味があり、金儲けが目的。けれど殺すこと、虐殺はよくやる手段。

「お嬢ちゃん、こんな時間にこんなところうろついてどうしたよ」

「そんな子供も引き連れちゃってさ。俺たちが誰だか知らないのかい」

 からかうような問いかけには厳しさが含まれていた。笑いあう彼らの瞳は鋭く、冷たい。残虐性を湛えながらも理性的なそれは、命令か何かで抑え篭められたものだろう。獲物を見る凶暴なその視線は変わらずそこにある。

「知ってるわよ。盗賊、なんですってね」

 がらっと雰囲気が変わる。殺気立つ男たちに、隣の夏梅が身体を固くするのがわかった。警戒、というよりも感情を押さえ込むようなその雰囲気は人形のような無機質を漂わせる。只管に固く、無感情という一点に集中している。

けれど鬼灯は変わらず軽い笑顔を浮かばせて対応した。

「話があるの。お頭さんに会わせてもらえると、嬉しいのだけれど」


 夏梅と鬼灯が出て、迎は待機。先ほど言ったように作戦なんてものはなかった。ただ、女子供の虐殺が好きということで、その対象者である二人が出ただけのことである。迎が出ても一発で戦闘になることがわかっていたからだ。少なくとも、楽しみながら殺したい側である彼等は穏便に捕まえ、甚振ろうとするだろう。

「何の用だ、それが言えなきゃどうにもならねぇな」

 隠すこともない殺気は『お頭』という単語により一層激しいものと成果てている。けれど、怯むことはない。人外であり感情を持たない鬼灯は言うまでもなく、人の身でありながら人外を相手に第一線で戦ってきた夏梅も同じく。逆に、盗賊の方が二人に不気味なものを感じ始めるほどに、彼等は堂々としていた。


「言えるわよ。――教えてもらいたいことがあるの。ううん、持っているなら渡してもらいたい、かしら」

 交渉を導き出させる言葉に盗賊は一瞬呆気に取られ、馬鹿馬鹿しい、とばかりに殺気を霧消した。何の冗談か、と二人に笑いを向ける。か弱い、高校生ほどの少女とそれよりもまだ幼い少年に何が出来るというのか。

「それは何のことだ?首、だなんて言わねぇよな」

 笑いの賭け事のように飛び出した言葉は冗談にしても過ぎた言葉だったと気づいたのは少女がそれに表情を変えることもなく、素直に言葉を返したからだ。

「違うの。勿論お金なんて言わないわ。逆に、それを渡してさえくれれば出来る限りのものは用意できる。お金なら国家予算ぐらいまでは譲歩できるわ。地位も用意できるし、戸籍も、市民権も」

 何を言っているのだろう、と首を傾げ顔を見合わせるものが多数。盗賊はこの少女の迫力に、ペースに巻き込まれ始めていることに気づかないでいた。変わらない微笑は表情をうまく隠し、いやそれが常備のものであると認知させ、恐ろしいほどに平静な少女に対しての違和感が次第に大きくさせる。この少女は最初から最後まで本気でものを言っているのだ。頭でも狂ったか、と思うがその瞳には狂気も何も映っていない。――偽りのない言葉だ。

「盗賊に物をねだるなんざ、えらく肝の据わった嬢ちゃんだな」

 冷や汗を浮かべながら、盗賊は言った。けれど、その本心は自分のほうこそ肝が据わっていないかのごとく、後退りする。精神的に追い込まれていた。見えない恐怖に犯されていた。あの瞳と瞳を合わせるだけで鋭いナイフでも首に向けられている気分になる。


「――あんたにそれだけ価値のあるものなんだ、相当なものだろう?やると思うのか?」


 凛とした声はその場にやけに響いた。“ヤイールさんだ”“副長だ”などの声が続く。威厳があり、それなりの格を見せ付ける、威圧。それに盗賊はさわめき、その前を空ける。一直線に、鬼灯へと向かう、その道に男は立っていた。

 知的な風貌は同じ衣服を身に纏っていて尚、盗賊の野粗からは一種、異様。参謀と思われる、鋭い観察の瞳が鬼灯へと向けられていた。そして同様に、鬼灯もまた、彼を観察しながら交渉を続ける。

「私の価値と世間の価値が同じだとは思わないわ。あなたたちにとっての価値も、一緒だと思わない」


「けれど、私にとっては何を変えても大事なもの。形見、とでも言えばいいかしら」

 ああそうだな、俺たちにとってはちっぽけな価値だろう。形見、なんてものは大抵くだらない、思い出か何かにしがみ付いたただ古いだけの長物。意味のないガラクタだ。だが

「価値なんてそれ一つありゃあいいもんさ」

 そう、その一つの価値だけで十分。そいつにとって大事なら、それを質にすることもできる。そいつにとって本当に大事ならば、下手なことはしない。物が取られている以上、できない、と言うべきか。――そこまで考え、ヤイールは笑う。

皮肉に嘲りを乗せた表情。それは最初盗賊らが浮かべていた下品でどうしようもない欲望に満ちたものでも、ただ一人の少女に不気味なものを感じ冷や汗を背後で笑った貼り付けた笑みとも違う、暗い満ち足りた欲望の笑顔。理性の仮面をつけた、猛禽類のソレ。


「それほどに大事なら、文字通り何に変えても取り戻してもらおうじゃねえの」

 ヤイールは紡ぐ。

「代償は――いや、その前にその子供は何だ」


 視線が移動する。

 先ほどまでは全く気にも留めなかった、いや気づいていなかったその影。いつの間に、と思う。気のせいだったはずの不気味な不安が一気に這い上がる。

「彼は受取人よ。私がどうなるかわからない。だから、彼に預ける」

「逃がすとでも?」

 二人ともを殺してしまえばその物を失うこともなく、殺人が楽しめる。その方が楽だ。この女がどうやってここまで来たのか知らないが、この場所を漏らされることもなく、何かしらの噂を立てられることもない。

「自衛はできる。それに、二人とも殺すつもりなら、最初から問答無用じゃない?それこそ、交渉を持ち出した時点で。あなたたちは馬鹿じゃない、そう評価してるのよ」

 少女の――女の口調は丁寧な口ぶりではない。言葉だけを聞いていればこちらを挑発する目的のように思える。だが憤りを感じない。何故だ。

 見下すような、遥か高みからの高圧的な物言いのはずなのにそれを感じさせない。それが当然であるように思える。自信に溢れ、不安など欠片もない。あくまで対等。

「その子供が俺たちに危害を与える可能性は?」

 盗賊と知っていて赴いている以上、自衛が出来るというのならばそれなりの手誰。子供とは言えども油断が出来ない。尤も、年端も行かないガキ一人に殺されてやるほど俺らは甘くない。逃がす可能性は万一にあったとしても、だ。

 この霧深い森の中ではいくらこちらの手数が多いといえども、捜索するのには手間も時間もかかる。相手が一少数とはいうのは逆に見つけづらくなる。こちらの被害も考えねばならない、ということか。

「ないわ。彼は私に何の感情も持たない。私がどんな眼に遭おうとも、使命を果たすだけ」

 少女の微笑みは他者を魅了させるものへと変わっていた。余裕のものであって、それは少女の運命に対する心構えを見つけ出せた。

 少女は――代償に自身の身を要求されることも、命も選定の材料となっていることに気づいているのだろうか。賢いその頭脳はその後の運命が嘆き苦しむと見据えているのだろうか。

 まさか年頃の少女が盗賊相手に交渉を持ち出してただで済むとは考えていないだろう。それほどの頭の回らない者ではない。逆に命を取られることも考慮に入れて、だからこそ自分以外の者を連れて来たのだろう。それが子供だとして、その長所は小さく素早い。油断を誘うなど思いがけない発想を持つ。けれど、それだけでは圧倒的な優位性は変わらない。

 ――ならばこの余裕はどこから来るというのか。

 ヤイールは自身の内に本能的な恐怖とともに好奇心のような熱いものが灯るのを感じた。



「――聞こう、ソレは何だ」


 息を呑むのは主に盗賊の側だった。ヤイールが交渉に応じるとは思わなかったのか。

 鬼灯は余裕のまま、唇に浮かべた微笑を深くしただけだった。

「腕輪よ。ブレスレット」

 満面の笑み。それが深い森の中、感情を持たないはずの彼女に浮かべられた。

「『加護の腕輪』――あなたたちのボスが持っているはずの、その品」

 鬼灯はヤイールの背後に現れた大男を見据えて、言った。

「嬢ちゃん、肝っ玉が据わってるな」

 野太い声の大柄な男。その顔には大きな傷跡が真一文字に走り、肉体は鍛え抜かれて服を窮屈そうにしている。きちんとした製法でなく、破かれたような後の残る肩口から晒された腕にも刀傷と思しき傷跡が幾重にも並んで太くごつごつとしたそれを飾り立てる。誇りを持つ歴戦の戦士のようにさえ見えるが、それは間違いだ。彼は悪党であり、その心根は知らずとも、その行動は悪に染まっている。ヤイールが現れたときと同じく誰かが“長”と呼んだ。

男の視線は広場全体に向かい、盗賊らはざわめきを一気に静め、その場を離れた。

 それぞれに持ち場があったのだろう。外的に対する警戒は十分にしておく、という厳粛なルールはこの盗賊らにも適応されるのだろう。理知的な風貌のヤイールはともかく、この男――見た目以上に頭が良く回る。

「はじめまして、お頭さん」

「おう、ハジメマシテだな。だが、もう二度と会うことはない。初めても何もないんだよ。盗賊をなめちゃいかん」

 男は気のいい返事をして、脅しのような言葉を吐く。その腕にはしっかりと目的の物があった。太い腕には似合わない、繊細な装飾の金鎖による女物の腕輪。紅色の宝石が装飾として付されていて煌々と自らを主張していた。

「約束事を破るとは思わないのか?命があっての品だろうに。命を刈り取ってから、奪い返せば済む話じゃ」

 豪快な笑みを見えつつも冷えた瞳をして男は言った。けれど、それ以上に冷えた声音で鬼灯は返す。

「――さっきも同じ話をしたわ。私を殺すなんて、そんな隙があれば逃げ切っている」


「……そうじゃな、まずは代償をもらうか」

 その価値を知っていると見える。盗賊ならば利用せずにはいられないだろう。いや、誰だって利用するはずだ。着けておくだけで自らの身を守る盾となるアクセサリーなど喉から手が出るほどの品物。それを望むならば代償は大きい。代償が何か、と明確にせずとも暗に言われていた。逆に言葉にしないからこそ、何が望まれているかが分かるというものだ。

「駄目よ。この子が帰るまでは、駄目。譲歩しても同時だわ」

 相手方は夏梅のことまで範囲に入れて考えている。当たり前だ。女子供を切り殺すのが好きな連中に対し女子供だけでこの場に赴けば自ずと知れる。

 けれど、だからこそ、連れて来た。これだけの餌があって尚、交渉に応じる素振りもみせないことはない。ここに迎がいたのならば、警戒してそれを見せて来る事はなかっただろう。隠されて、終わりだった。そうなればこの盗賊たちをどうしたところで、こちらには場所が分からない可能性がある。手の出しようがない事態には陥らせたくなかった。

「――好きにしろ」

 放り投げて遣される腕輪に鬼灯は笑んだ。男は背を向け、もと来たテントへと帰ってゆく。

「じゃ、持って帰ってね」

「……ああ」

 無愛想に返して、一度だけ夏梅は鬼灯と視線を合わせた。その瞳には微かながら心配のようなものが浮かべられていた。作戦の成否よりも良心がこの時ばかりは勝ったと見える。けれど鬼灯は笑みを浮かべたままだ。そう、心配などする必要は最初からない。

 軽い感触の腕輪をシャランと音を立ててその小さな手の上に落とした。紅の宝飾は輝かしいばかりの色を鮮やかに放っている。


「さあ、お楽しみと行こうか」

 夏梅の遠くなる背を見つめる鬼灯に、ヤイールの言葉が掛かる。代償に自らを差し出すとしても、目的だけは果たす必要があるのだ。それがルール。

 ――尤も、抵抗しないとは誰も言っていないけれど。



   ***


「待て坊主!」

 森の中、自然に出来た広場から遠ざかること数キロ。幾つもの影が小柄な一つに追随するように自然の迷路の中を動いていた。それは鬼灯が交渉したはずの盗賊らが夏梅を追っている光景。――鬼灯との約束を破ってまで盗賊は追いかけてきた。

「ちっ!すばしっこい」

「おい!妙な技を使うぞっ」

 そう盗賊らが思うのも無理はない。夏梅は異界に対する脅威として育てられた。術符の使い手でもあって、その子供という不利はあっても、その戦闘経験は彼らよりも長い。能力を使えば、また戦闘スキルだけで言っても、夏梅は盗賊らを相手に優に勝てる。けれど、だからこそ、この状況というのは夏梅にさえ不利だった。

「っやりにくい!」

 人を殺さない。――それは夏梅の攻撃力の高い能力では相当な困難だ。異界という化け物相手に戦う為の技術は、けれど人を相手にするには高すぎる技術だ。

「呪縛!」

 集中を要する術式を移動しながら多数相手に行う。それだけでも天才的であるが、戦況は変わらない。森の中とはいえ、森は夏梅に味方せず彼らにも味方しない。リンを連れて来れば良かったか、と思うがフォーマンセルは目立つ。とりわけ子供が多すぎる。団体行動今回のような任務には不向き。

「三線結界!」

 符を三方向に投げ、それらを角に空間を分け、中から出さない。本来は異界の攻撃に対する守りとなるが、内側の強度も強い。数人捕まった者もいるが、まだまだ追いかけてくる。

 数ある術式の中、使えるものは補助系ばかりだ。呪縛で蔦を動かして拘束しても単体にか効かず、また刃物で切り付けられれば取れてしまう。逃げるだけの時間が欲しい。

「何処まで着いてくるつもりだ?」

 あの場に戻る為の時間が……と汗の滲んできた自分にそんな余裕があるのかと問いかけつつ思う。手に握られた安い輝きを放つブレスレットが汗で滲む。


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