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鬼灯の実  作者: ロースト
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友人と平穏の喪失

“ねえ 知ってる?あの話。三人目の被害者、出たんですって!”

“学校の裏にある鬼灯の木、実に自己中な願いをすると呪われるって?”

“願い事叶えてくれるんでしょ?代償が入院なんて割に合わないけど!”

“えーでも、死ぬ前に一度くらい……”

楽しそうな声音で交わされる会話。こっそりとした声音で言われているが、皆が静聴するため大きく聞こえる。人々の口に上る都市伝説。最近まではただの言い伝えでしかなかったのに今では誰もが知っている。

幾度も其処彼処で交わされる会話に私は怯える。聞きたくなくて、耳を押さえそうになる。頭を抱え込んで包まってしまいたい。それでもそうしないのは、偏に[知った]ことを隠すため。あの日の出来事が脳内を駆け巡る。あの日の会話が、蘇る。

『ねえ、本気なの?カナちゃん。もし本当に叶っちゃったら……』

止めようとする私に強い視線を向けて言い放つ彼女。

『こんな機会、見逃せない。私は、何を引き換えにしても夢を叶えたい』

強い意志で意見を跳ね返す彼女に私は力なく手を掴むことしかできず、付き添うことしかできずに、知ってしまったのだ、現実を。


怖い。思い出したくないのに、人々の声はあの日の情景を彩色にして私を責め立てる。あの日から、人が怖くなってしまった。狂気を傍に置くような精神状態。もし、この人達の中に、彼女以外の人形、あの木によって入れ替えられた偽物がいたら……。突然に牙を向いたならっ!!恐怖が身体を凍らせる。

《怖い怖い怖い怖い怖い……「少し時間いいか?」

クラス内で交わされる恐ろしい話から逃げ出そうとして、もはや学校の何処にも逃げる場所がないと思い至り、再び頭を抱えるように机で身を小さくした時だった。この騒音の中で確かに自分が問われたことを感じ、視線を巡らす。

大きな声でなかったから人々が注意を向けることはない。こちらに視線を向ける唯一の人が呼んだのだとわかった。しかし理由が思い浮かばなかった。己を呼ぶ人物は教育実習生で、授業以外の関わりを持たない。私自身の存在は他人から知覚されるに乏しく、言ってしまえば印象が薄い。親しい友人も、高校に入って知り合った彼女、カナちゃんだけだったのだ。

だから、警戒した。遂に来たのだ、と。あの日、私は見てしまったから。

身体が小刻みに揺れる。血の気が引いた。嫌な汗をかく。

それでも近づく。蛇のような視線が逆らうことを許さず自分に纏わっているのだから。


教育実習生に連れられたのは保健室だった。視線で入れと促される。普段は保健教員が常駐している。しかし安心は出来ない。二人には共通点がある。彼らは1週間前、あの日の翌日から来た者。

やはり、アレと関わりがある。私をどうしようとしている?そんなの―――

「いつまでそうしているつもり?」

ああ……。思考は前触れなく開かれた扉によって崩された。

保健教員の赤い唇が目に付いて、綺麗な微笑に頭の中が真っ白になった。


「つまり私に囮になれ、と?」

そう、と頷く彼女に胸がざわめく。

最初の緊張感はない。彼らの身が一応の証明をされたからだが、裏がある。話していないことがあるだろう。しかし、私に知る権利はない。仮に知らないことで危険が増えようと、彼らは目的達成のためにどれだけの犠牲を払おうと構わないからだ。

「無事を祈っているわ」

言葉を切って縁の無いように見える二人組は出て行く。ここの現在の主であることも気にせずに。


私は夜の道を歩いていた。あの場所、噂の実のなる木のある校舎裏、鬼灯の木。

あの木には近づかない、関わりたくない、と心の底から思っていた。

私は、彼女を止められなかった。その後悔が、私の足を進める。

恐怖は胸に巣食っている。それでも、私は魅了されたようにそこへ向かい、足は操られているように止まることを知らない。

そう。あの日も同じく二人でこの道を歩いた。違うのは、隣に彼女がいず、意思を持ってあの場所に出向いていること。


あの日。鬼灯の木になる実、中でも一番小さな実に彼女は夢を語った。ソレに向かい願いを、祈りを飛ばした。

私は鬼灯の木が見えた途端に歩を止めた。恐怖で踏み出せず、腕を振り払われても気にせずに立ち竦んだ。何故、見えていないのだろう。

鬼灯の木は暗いにも関わらず、はっきりと全体が見え、実が自ら発光しているようだった。透けて見えた実の中には、人が、入っていた。そう、実の被害者として名を連ねていた人たちの人数分。

異常な光景。でも彼女はまるで見えていない。彼女は変わった。

先の意気込みなど無かったように穏やかに笑い、引き返した。一人置いていかれるなんて、冗談じゃない。その時は自分だけで、彼女のことまで見ていなかった。だから、彼女の変わりように戸惑い驚くだけだったのだ。彼女が、壊れるまで。

彼女が、長年の夢を叶えた瞬間、彼女は堕ちた。それからはよくわからない。ただ、意識の無くなった彼女は入院し、次の日には学校で話題になった。今日までもう一人、犠牲者が出た。事態はそれしか変わらなかった。何をしたらいいのかわからなかった。私は何も出来ずに怯えていた。


視界に入る鬼灯の木。実はあの時の様に人に見えるということは無い。カナちゃんにもこう見えていたんだと実感した。言葉を発そうと、口を開く、

「ぎゃあああああああああああああああ」

木は奇声を放ち、巨体を揺らして苦しみもがく。木が、真二つに刻まれていた。

咄嗟に振り向けば彼らがいて、次の瞬間には彼女の首は飛んだ。唇についた赤いルージュよりも鮮烈な色合いが視界を覆う。私は呆然と木を見ていた。

実は潰れ、カナちゃんも、潰れていた。彼は絶命した彼女を気にするでもなく連絡を取っていた。その様子は冷静で、私も何も感じられなかった。


私は時間も気にせずに彼女の病室に行った。どうやって来たかも、どうなっているのかも、わからなかったけれど、彼女の病室の扉を開けた。

彼女は窓を開けて月を見ていた。意識不明の昏睡状態だったのに、あの木の影響かしら。頭のどこかでぼんやりと思った。

「カナちゃん」

呼びかければ彼女は以前のように微笑み、顔を崩した。

「次はおまえだああああああああああ!!!!」

濁った眼で狂ったように叫んだ彼女はその場で崩れ落ちた。白く濁った目が空虚にこちらを見ている。口は力を失ってだらりと開いている。手も足も軟体動物のようにグニャリと曲がっている。

もう、心臓が止まっていることはわかっていた。だって、彼女と眼を合わせたときに感じた。自分以外の意識の存在を。私の意識は途切れた。


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