施設育ち、高校中退、バイトクビ。本物の最底辺が送る、静かすぎる異能日常。――「それでも、僕は生きている」
携帯のアラームが鳴る。
画面には「午前11時」の文字。
俺は布団…というか、煎餅みたいに薄くなった汚れた敷布団から起き上がった。
及川透、18歳。身長165センチ、体重49キロ。平均以下の体格だ。
児童養護施設出身。
平均以下の出身だ。
高卒認定試験になんと3回も落ちている。
平均以下の知能だ。
現在は残念ながら無職。そら当然だよな。
部屋を見回す。
6畳、風呂なし、トイレ共同。家賃2万3千円。壁には染みがあって、窓ガラスは一部ヒビが入ってる。家具はプラスチックの衣装ケース一つと、誰かが捨てたちゃぶ台だけ。
冷蔵庫はない。仮にあっても使わない、電気代がもったいないしな。
「……さて」
誰にともなく呟いて、水道の蛇口をひねる。
冷たい水で顔をゴシゴシと罰すかのようにキツく洗う。タオルはもう何日洗ってないか覚えてない。
ゴシゴシと肌を痛めつけるように拭った。
朝食?
ない。昨日コンビニで買った賞味期限切れのおにぎり(半額の半額、40円)は昨夜食べた。財布の中身は427円。給料が入るのは…いつだっけ?
はぁ...先月までは頑張ったもんな。
金額には期待したい。
携帯を開く。
LINEの通知ゼロ。
公式ラインを含めて良いならあるぜ。
着信ゼロ。メッセージゼロ。
友達はいない。正確に言えば、施設に一緒にいた奴らとは連絡が途絶えた。向こうも忙しいんだろう。俺みたいな負のオーラ出してる奴と繋がってても意味ないし。
今日の予定は…ハローワーク。
3日前にコンビニのバイトをクビになった。理由は「無断欠勤」。いや、行こうとしたんだ。でも朝起きれなくて。目覚ましが鳴っても体が動かなくて。
店長に電話したら「もういいよ」って言われた。優しい声だった。それがまた辛かったなぁ。
着る服を選ぶ。選ぶって言っても、持ってるのはTシャツ3枚とジーパン1本だけだから、選択肢はない。全部施設のバザーでもらったやつ。
鏡を見る。目の下にクマ。髪はボサボサ。歯を磨く。歯ブラシの毛先が全方向に広がってる。新しいの買わなきゃ。でも100円ショップに行く気力が出ない。
部屋を出る。鍵をかける。廊下には誰もいない。隣の部屋からはテレビの音が聞こえる。楽しそうな笑い声。
俺には関係ない音だ。
アパートを出て、駅に向かう。歩いて20分。電車賃がもったいないから、いつも歩く。
途中、公園がある。ベンチに座ってる老人が新聞を読んでる。犬の散歩をしてる主婦。ジョギングしてるサラリーマン。
みんな「普通」に生きてる。
ハローワークに着く。受付で番号札を取る。78番。待合スペースは人でいっぱい。でも、みんな黙ってる。
検索端末で仕事を探す。「高卒以上」「要普通免許」「経験者優遇」。
俺に当てはまる条件、ほぼゼロ。
唯一あったのは「未経験OK・学歴不問・深夜清掃スタッフ」。時給950円。週5勤務。
まあ、これでいいか。
応募ボタンを押す。「後日担当者から連絡します」の文字。
連絡、来るかな。
ハローワークを出る。時刻は10時半。昼まで時間がある。でも行く場所がない。
図書館に行く。無料で時間が潰せるから。エアコンも効いてる。
適当に本を手に取る。『人生を変える7つの習慣』。
ページを開くけど、文字が頭に入ってこない。3ページ目で諦めて、本を閉じる。
そのまま椅子に座って、ぼーっとする。
周りを見ると、勉強してる学生、新聞読んでる老人、絵本読んでる親子。
みんな「何か」がある。
俺には何もない。伽藍堂。
午後2時、図書館を出る。腹が減った。でも金がない。
コンビニに入る。見切り品コーナーを漁る。パンが100円。買う。
レジで店員が「温めますか?」って定型句で聞いてきやがる。
「いいです」
温めても冷たくても、味は変わらない気がするからな。
アパートに帰る。部屋に入る。
パンを食べる。水道水で流し込む。
それから、布団に横になる。
天井を見る。染みの形が、何かに見える。でも何だかわからない。
携帯を開く。通知ゼロ。
そうだよな。誰も俺に用はない。
窓の外から、子供の笑い声が聞こえる。
俺も昔は笑ってたのかな。覚えてない。
目を閉じる。
明日も多分、こんな日になる。
明後日も。
それでも、とりあえず生きてる。
生きてるだけで、まあ、いいか。
中学時代の自分をイメージして書きました。
あの頃は非常に無気力で人生に絶望していたんですよ。
ガキの分際でね。
笑っちゃいますよね。




