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第38話 愛を食らわば墓場まで

本編はこれにて完結です。


真っ暗な世界



この景色を見るのも久しぶりだ



だが私の前にあの少女は居ない



代わりに私の目の前にはアリスが居た



「やっぱり定められた運命の強制力は強いね」



だがアリスとは似つかぬ程とても流暢に私に話しかけてきた



「だけど大丈夫、貴方はそれを乗り越えられたから」



アリスは私の手を握る



「もう貴方を脅かす怪物は居なくなったんだよ」



アリスはそう言って私に微笑む



「だからこれから一杯幸せになろうね、ママ」



そして私の視界はホワイトアウトしていった





***



目が覚める。

見覚えのある天井、どうやら私はヴァーミリアンの屋敷にいるらしい。

カーテンは日の光が入らない様に完全に締め切られている。

私は起きあがろうと身体を起こすとその瞬間、かつてない程の倦怠感と脱力感が身体を襲う。


『そうか、あの時私は刺されたんだ。』


私は傷の様子を確認しようと寝巻きの前を開けた。

しかし貫かれた筈の胸元には傷どころか痕すら残っていなかった。

その代わりに胸元から首や腕にかけて薔薇の蔦様な痣が浮き出ていた。

そしてその中心、胸元左側には薔薇の花の様な痣が咲いている。


「なんだこれ……。」

「それは吸血鬼の術痕だ。」


私は声のした方向を向く。


「ユウ様。」

「敬称はいらない、これから俺の事はユウ(・・)と呼べ。」


そう言いながらユウは私の方へと近付いてきた。

そしてユウは私の胸元に浮かび上がる痣に優しく触れる。


「この痣はあの時胸を刺された涼香を助ける為に俺が施した術の痕跡だ。」

「これがですか?」

「そうだ。」


そうしてユウはあの夜の出来事を詳細に語った。


「あの時涼香は俺の兄上に刺されて一時は絶命していた。」

「でも今私は意識もあって動けています。

それにユウも私に触れられるので今の私は霊的なものでも無いと思うのですが……。」

「だから俺が涼香の貫かれ動かなくなった魔核を吸血鬼の力と魔力で再構築し胸部(ココ)に埋め込んで蘇生させたんだ。」

「そうだったのですね。」


私はその痣を無意識に撫でる。

そしてユウは話しにくそうに口を開いた。


「だが気をつけて欲しい。

涼香の心臓ともいえる魔核(ソレ)は術者の俺と直接的に繋がっている。

故に俺が死ねば施した術は解除され涼香も死ぬ、その事だけは忘れないでいて欲しい。」


私は自分の胸に手を当てた。

トクントクンと私の中でユウから貰ったソレ(・・)は一定の速さで脈を打っている。


「そうか……此処にユウが居るのか……。」


自分で言ったその言葉がふっと胸に落ちた。

そうか私はユウという唯一無二が欲しかったんだ。

恐らく本能(彼女)も私の心の深淵で燻る欲望を汲んだに過ぎなかったのだ。

だけど本能(彼女)にはいい様に弄ばれた気もしなくはない、だけど今回は結果的には良い方に転んでくれた。


「ユウ、私のせいで沢山迷惑をかけてしまい申し訳ありません。

それと助けてくれてありがとう。」


そう言うとユウは私を抱き寄せ胸の中に閉じ込める。


「ちょっと……苦しいです。」

「少し我慢していてくれ……今は涼香と離れたくない。」


ずっと私に抱きついて離れないユウはまるで淋しがりで甘えん坊な子供の様になってしまった。

アリスも甘えん坊さんだがここまでではない。

すると部屋の外からノックの音がした。


「涼香起きていますか?」


すると扉の外からモーエヴィンの声がした。

そろそろ離れましょうと声をかけるもユウはごねて一向に離れてはくれない。


「俺が離せば涼香はまたすぐ何処かへ行ってしまうだろう。」

「行きませんよ、それに今の私は傷病人なので。」


そんなやり取りをしていると寝室にモーヴィが入ってきてしまった。


「……おやおや、日の高い内から夫婦の共同業務中でしたか。

これは失礼致しました。」

「違う!誤解だから気まずそうに目を逸らさないでくれ!」


そしてモーヴィは私の言葉に耳を貸すことはなく扉を閉めて部屋を去って行ってしまった。


「はぁ……要らぬ誤解をされてしまった……。」


私は気を切り替え改めて状況を整理しようと周りを見渡す。

はだけた胸元、逃すまいとガッチリホールドするユウ、そして乱れたベッド上。

これは確実に誤解をされたと私はまた青ざめた。

するとそれを見ていたユウが私の耳元でこう囁く。


「別に誤解されたところでもう夫婦なのだから問題は無いだろう。」

「いや問題でしょう。

そもそも私は目覚めたばかりです。

それに夫婦って……私はユウと籍を入れた記憶は無いですが。」


そう言えばユウは顔を顰める。


「もう俺から離れなれない身体になった癖して何を言っているんだ。」

「ちょっ……」


ユウは私の胸の痣を意識させる様になぞる。

私の胸は早速張り裂けそうなくらい激しく脈打つ。


「じゃあ涼香に認めてもらえる様に今からもっと頑張らないといけないな。」


そう言うとユウは私の胸に咲く様に浮かび上がる薔薇の痣に唇を落とした。


「ちょっと……やめてください、こんな真昼間から……。」

「本当は涼香も満更でも無い癖に。」


口ではまるで悪戯っ子の様に私に意地悪を言うが、彼の私を触わる手付きはとても優しい。


「まだ本調子では無い様だから今日の所は手加減してやろう。」


そうしてユウは夕刻まで私の寝室から出て行く事は無かった。



***


あれから半年が経った。

もう私の思考や感情を蝕む魔の本能は存在しない。

恐らくアイルに刺されたあの晩に死んでしまったのだろう。

本来なら私もあそこで死んでいる筈だった。

だけど一年が経った今も何の問題も無く生きている。


「涼香体調はどうだ。」

「ユウ、お仕事お疲れ様です。

はい何も問題ありません。」


そして一つだけ変わったことがある。

ユウが私の夫になったという事だ。

私の立場は正式には第二夫人らしいが、その辺はもう気にしていない。


「心配なのもわかりますが、あまり執務室を抜け出すとまたシルキーに怒られますよ。」

「もう一通り仕事は片付いたから今は中休憩だ。」


そうユウに伝えるとユウは私の座っているソファーに腰掛け私の体を包み込んだ。


「また休憩時間のエネルギー補給手伝ってくれるか?」


そう言って私の耳元で囁くのは止めて欲しい。

耳が孕んでしまいそうだ。


「……手短にお願いします。」


そう言うとユウは私の上の服を丁寧に脱がし首と肩を露出させる。

そしてユウは私の目を見て催眠をかけた後、優しく私の首筋に牙を立てた。

牙を突き立てられる時は一瞬痛むが、次第に頭がポーッとして何も考えられなくなる。


「どうした涼香?まだ少ししか吸っていないぞ。

……まさかまた血を吸われただけで感じているのか?」

「そんな訳無いでしょう……。」

「嘘をつかなくても良い。」


するとユウの手は私の身体をあちこち優しく撫で始める。


「ちょっとユウ止めてください!お腹の子に悪影響です!」


そう言うとユウの手は止まった。


「すまない、あまりにも可愛らしい反応をするからついつい苛めてしまいたくなる。」


そう言うとユウは私に抱きついてきた。


「でも涼香とこうしてくっついているだけで俺は満ち足りる。」

「もう……いい加減油を売っていないでお仕事にお戻りください。

じゃないと……」


その瞬間部屋の扉が開いた。


「ユウまた此処にいたのですね!

休憩時間は終わりでしてよ、さぁ書類仕事を(わたくし)と共に片付けましょうか。」

「シルキー今いい所なんだから邪魔しないでくれ。」


ユウの私の腰を抱く腕に力が入る。


「そう言う事は仕事が片付いてからにしてください。

本当あの頃の威厳あるユウはどこへ行ってしまったのやら……。」


そうしてユウはシルキーに執務室へ連行されて行った。


「もうすっかりシルキーも大人の女性だな。」


私の記憶の中の彼女はユウに恋する少女だった。

なのに今では屋敷の経理も財布も握っているしっかり者の奥方様だ。

だけど後から嫁いだ私にも嫌な顔せず接してくれる彼女は本当に懐の広い人だ。

嫁いで直ぐに私の懐妊がわかった時ですらシルキーは素直に喜んでくれた。

そんなシルキーを思い出すとなんだか過去の私自身の言動が恥ずかしくなる。


人の幸せを素直に喜べない自分。

自分だけを見て欲しいとばかり願っていた矮小な自分。


だけどこらからは素直に人の幸せを喜べる様なそんな自分になりたい。

今私の腹の中で育っている我が子に母親として恥ずかしい所を見せない様に。



***



昔々あるところに誰にも愛されない哀れな少女がいました。



少女は家族や周囲からも愛されることなく育ちました。



やがて少女は家族から離れる為に家を出て旅をしました。



雨に打たれ風に吹かれ時には雪にも吹雪かれ、そうして少女はようやく居場所を見つけました。



少女を大切にしてくれる青年に出会うことができたからです。



しかしその幸せは長くは続きませんでした。



少女の家族が少女を返せと青年を脅かしたからです。



それに激昂した少女は家族を一人残らず村ごと消してしまいました。



そして少女は怪物に堕ちた後一人の子を授かりました。



それは青年との愛の結晶であり少女の宝物です。



少女はその宝物を大切に大切に育てました。



そして少女は時にドラゴンの力も借り子供を育てました。



そうして数年後、ふたたび巡り合った少女と青年は様々な障害を乗り越え結ばれました。



「めでたしめでたし」

「それっておとうさまとおかあさまのおはなしでしょ?」

「もう知ってるのか。」

「だっておとうさま、まいにちねるまえにずっとそのはなしばかりするんだもん。」

「父はママの事大好きだから仕方がない。

それに私達に言ってないだけで父はママと毎日寝室でイチャイチャしてる。」

「なにそれみたい!」

「止めとけ後悔するぞ。」


そうして隣で物語を聞いていた妹を諌めてベッドに寝かせる。


「アリスねぇもいっしょにねようよ。」

「もうお姉さんになるんだから一人で寝られる様になりな。」


そしてアリスは寝室の蝋燭に息を吹きかけ灯りを消した。






END



***


【あとがき】


ここまで読んで頂きありがとうございました!

10万字を超える大作にはなりましたがここまで読んでもらえて嬉しいです。


そしていいねや励みになるコメントありがとうございます。

お陰様でここまで書き切ることができました。

この後この世界線での物語気が向けばまた続きを書いていくつもりなのでよければ楽しみに待っていてください!


また見返しやすい様に登場人物設定や世界観設定を別で投稿するのでよければ覗いてみてくださいね!


           有機鈴凛(ゆうきりんりん)(トマチン)

ここまで読んで頂きありがとうございました。


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