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第37話 魔核


「貴方の魔核(ハート)ワタシに頂戴——」


ユウは涼香の豹変ぶりに身体を硬直させる。


「は?……何を言ってるんだ?」


慌てて私は誤解を解こうと口を開く。


「だってユウだけ狡いじゃない。

シルキーともあんなに楽しそうなコトしてたのに……本当に欲張りさんなんだから♡」


駄目だ、頭では「違うそうじゃない。」と言おうとしているのに私の口は勝手に言葉を紡いでいく。


「でもそれってあまりにも不平等でしょ?

それじゃあいつまで経ってもワタシは二番目のまま……。

そんなのは真平ごめんよ。


だって……ワタシはユウの一番が欲しいんだもの♡」


そう言うと身体は勝手にユウの腕を掴む。


「でもユウはシルキーが好きなんでしょ?愛しているんでしょ?

ワタシはユウの幸福の為に譲歩してあげてるの。

だからユウの魔核はその代わり……解ってくれるわよね?」


そう言うとユウは私の手を振り解いた。


「君は頭がおかしい、どうにかしている!」


そう言うユウの表情は本能(彼女)に見せられたあの光景に少し似ていた。


「そう……残念ね。

じゃあもう強引に奪っちゃうしか方法が無いじゃない♡」


私の身体はユウの胸ぐらを掴む。

足元には私に贈られる筈だった白い薔薇の花束が花弁を散らし地面に転がる。


「ワタシと一緒に行きましょう、ハネムーンへ!

行き先は勿論黄泉の国(・・・・)これからはあっちで沢山ユウの知らない世界ワタシが見せてあげるから!」


私の身体は氷魔法を発動し氷の剣を作り出した。


「やめろ……!」

「大丈夫よ、一瞬で終わるから♡」


ユウを刺殺さんとするその刹那、私の身体に激痛が走った。

目線を下に落とすと胸からは血濡れた刀身が飛び出ている。

恐らく何者かに背中から胸にかけて貫かれたのだろう。


「そこまでだ。」


私の背後で声がする。

嗚呼やっと来てくれたのだなと私は身体を貫かれ意識が朦朧とする中そう思った。

私は掴んでいたユウの胸倉から手を離しその場に崩れる。


「間一髪だった……。」

「兄上……。」


ユウは私の背後にいる人物を見て驚きを隠せないでいた。



話は数日前に遡る。


***


「ところでこの手紙はなんでしょうか。」

「涼香から元勇者宛に届けて欲しいと頼まれて届けにきたものだ。

どうやら急ぎの様らしい早く目を通せ。」


そうしてアイルは涼香の手紙に目を通す。

内容はこうだ。


『アイル様お久しぶりです。

ノエル国の方はいかがお過ごしでしょうか。

私は現在体調は不安定で良好とは言えません。

それは私の身体が今、危険な衝動性を持つ別の人格に喰われてしまいそうになっているからです。

その為こうして平静を保てる今のうちに手紙を出しております。

そしてこの手紙の本題ですが、一つアイル様に頼み事があります。

もし何かあった時の為に私を監視していて欲しいのです。

そして何か私がしでかそうとした時私をどんな手段を使ってでも止めて欲しいのです。

勿論ただの一個人の願いですが、これは私が今暮らすセンチュラルやそしてアナタの弟であるユウ様の命に関わってくる話なのです。

聡明な判断をお願いいたします。


                  氷宮 涼香より』


「これは……。」

「どうした元勇者、余にも見せてみよ。」


アンは手紙を覗き見た。


「まさか……もうコントロールが出来なくなっていたとは……。」

「コントロール……?」

「ウム、最近は落ち着いている様に見えたから油断しておった。

恐らくこのままだと涼香は確実に魔王に堕ちるだろうな。」

「魔王!?そんなデカイスケールの話なの!?」

「嗚呼、これを涼香から頼まれたのなら仕方がない。

元勇者よ心して聞け。」


そうしてアンはアイルに涼香の身に何が起きているのか詳細を語ったのだ。


***


「ユウ無事で良かったよ。」


アイルはユウの元へ駆け寄ってきた。

そして放心するユウは赤く染まっていく涼香を見ていた。


「アイル様!主人様!」


どうやら騒ぎを聞きつけた様でモーエヴィンも庭園までやってきてしまった様だ。


「……涼香!」


モーエヴィンの声で覚醒したかの様に放心していたユウが再び動き出した。

そしてユウは涼香の側に寄り、ぐったりして動かない彼女の身体を腕に抱き必死になって名前を呼んだ。


「起きろ涼香!返事をしてくれ!」


だがどれだけユウが名前を呼んでも涼香は返事を返す事はなかった。


「……魔王は死んだ。」


そう呟いたアイルをユウは睨みつけた。


「なんて事してくれたんだ兄上……!」

「仕方のない事なんだ、もし何か問題があれば殺してくれと頼んできたのは涼香ちゃんの方だったんだから。」

「そんな言い訳が通用すると思うのか!?」

「感情的になるな、ユウ君らしくないぞ。

それに僕が止めなきゃ死んでたのはユウ君だったんだから。」

「うるさい、もう喋るな。」


ユウは涼香に刺さった剣を抜き詠唱を始めた。


『まだ完全に肉体が死んでいなければ治癒魔法が使える筈だ。』


だが命に関わる程の深い傷はユウには治す事ができない。


『せめて魔核だけでも治さねば——』


そうしていると横から支援の手が差し伸べられた。


「私も手伝います。」

「モーエヴィン……。」

「私が身体の外傷を治します。

ユウ様はその魔核をなんとかしてください。」

「ありがとうモーエヴィン。」


ユウは再び横たわる涼香と対峙した。


魔核の治癒……普通なら傷がつけば治癒魔法で治す事は不可能と言われる難しい臓器だ。

だが古い文献で読んだ事がある。

ユウの持つ吸血鬼の力を使えば完全にとは言えないが、一度死にかけた者を再び蘇らせる事ができると。


「……やってみるしかない。」


そしてユウは指の先端を噛み切り自身の血を口に含んでいく。

そして涼香の口にその血を魔力と共に口移し流し込んでいく。

そしてユウは詠唱を始めた。

庭園の地面に大きく赤い魔法陣が形成されていく。


「我が肉体に宿し始祖の魂よ、この者の傷を癒したまえ——」


そしてユウの身体から大量の魔力が吸い上げられていく。


「ヴッ」

「ユウ君!」

「主人様!」


次の瞬間横たわっていた涼香の身体が赤く光る。

そして傷を負い欠けていた涼香の魔核がユウの魔力で元の形に形成されていく。

暫くするとその光は消滅した。

ユウは急いで涼香の胸に耳を当てた。


「動いている……。」


瞬間ユウはその場に崩れ落ちた。


「主人様!」


膨大な魔力を短時間で使用した影響だろうか、ユウはその場で気絶してしまった。









to be continued……

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