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第30話 ヴァーミリアン家

いよいよ終盤に差し掛かってまいりました。


サブルで一晩過ごした私達は、ヴァーミリアン家のあるセンチュラルの街へと向かった。

ここから馬車で約三日で着く距離にあると聞いて存外近いものだなと感じてしまう。

恐らく私の物差しは長旅で感覚がズレてしまっているのだろう。

そしてアンの協力により三日の距離を半日もかからずに横断できたのだった。

街を過ぎればヴァーミリアンの屋敷が見えてきた。

もうすぐユウと対面することになる。

私は本能(彼女)に見せられたあの光景が脳裏から離れなないでいる。


『私がユウを思えば思う程、ユウを苦しめてしまう。』


何故本能(彼女)が私の中にある記憶を呼び起こしたのかはまだわからない。

だが今私のすべき事はユウの病の為の治療だ。

病が治れば私の存在は必要無くなる。

そうすればまたアリスとアン三人でファフコールで暮らしていけばいい。


私にとってユウという存在は劇薬だ。

ユウに求められる嬉しさを、ユウからの愛情を喜びを知ってしまったら、もう冷静な私には戻れない。

私の中で押さえ込んでいるナニかが目を覚ましてしまうから。


『あの記憶の様に私はユウには嫌われたくはない。』


だから私は演じるのだ。

氷の様に冷たい女を。


***


屋敷の前にアンは降り立つと私とアリス、シルキーを下ろしてくれた。

そしてアンは少女の姿に戻る。


「ほほぉ、これが元アウルム帝国宰相の屋敷か。」

「アンは一体何百年前の話をしているのですか?」


アンはシルキーに突っ込まれてしまう。

シルキーはドラゴンという事は知っているがまさか目の前に居るのがあの黄金のドラゴンという事はまだ知らない様子だった。

きっと何か事情があって黙っている可能性があるのでそこはそっとしておくことにした。


すると玄関からはモーエヴィンが慌てた様子で出てきた。


「何事ですか!?」

「モーエヴィン只今帰りましたわ。」

「シルキー様!それに涼香ではありませんか!」


モーエヴィンは混乱している様子だった。


「アンの背中に乗せていただいてファフコールからここまで帰ってきたのです。」

「そ、そうでしたか……てっきりドラゴンに屋敷が襲われるのかと思いましたよ。」


モーエヴィンは安堵した様で私達に目を向けてきた。


「それに、待っていましたよ涼香。

とてもお出迎えできる状態ではありませんが旦那様もお待ちになっております。」

「ありがとうございます、モーヴィ。」


私は覚悟を決め再びヴァーミリアンの屋敷の玄関を跨いだ。


***


玄関を潜れば大広間に見覚えのない使用人達がお出迎えをしてくれた。


「使用人随分と増えましたね。」

「ええ、私がヴァーミリアン家に嫁ぐ際、私の屋敷から良く知れた親しい使用人達だけを連れてきたんです。」


すると奥からアリスよりも一回り小さい子供二人が駆け寄ってきた。


「「おかあさま!」」

「アデル、マルグリット!」


シルキーは子供二人を抱き寄せる。


「さみしかった〜」

「ぼくたちもつれてってほしかった!」

「ただいま二人共、長い間寂しい思いをさせてごめんなさい。

でもこれからはずっと私が一緒にいますから。」


そう言いながら二人の頭をなでるシルキーは、私と初めて出会った頃の少女とは思えない程母親の顔をしていた。


『もうこんなに時が経ってしまったんだな。』


私がこの屋敷を出て四年。

シルキーは子供二人を持つ母親に、そしてユウはそんなシルキーの夫であり二人の子を持つ立派な父親になっていた。


『今更私が子供を連れ目の前に現れたとしてユウはあの夢の様に私の子を嫌うだろう。』


ファフコールを出発するまでは早くユウの病を治してあげたいなんて思っていたのに、今ではユウと顔を合わせるのが憂鬱になってしまっていた。


「あっちで乳母と遊んでなさい。」

「「はーい」」


シルキーは子供達と別れ私の方を向いた。


「ではユウの所へ案内いたしますわ。」


でももう後には引けない。

私は静かに首を縦に振った。


***


「ユウ起きていますか?

シルキーです、只今戻りましたわ。」


扉の向こうからは返事がない。


「入りますよ。」


シルキーがそう声をかけて扉を開けた。

相変わらず部屋の中は薄暗い。

だが以前と決定的に違うのは臭いだった。

病人特有の臭い。


「シルキー只今戻りました。」


ベッドの上にはユウが居た。

今は昼間なので深く眠っている。


「今は眠っておられる様ですね。」


シルキーはユウの手を優しく握る。

身体も痩せており何処か弱々しく見えた。


「また夕方にこちらへ伺いますわ。」


行きましょうと言われ私はシルキーと共に寝室を出た。


「最近はずっとこんな感じなのです。」

「モーヴィ……。」


寝室の外にはモーエヴィンが立っていた。


「ユウ様は現在愛飢病を患っておられます。」

「愛飢病……?」


私は聞き馴染みのない病名に首を傾げた。


「はい、吸血鬼が稀に発症するとされる心の病です。

発症すれば吸血衝動が抑えられなくなりいずれ死に至らしめます。」


シルキーの顔が曇っていく。


「ですのでお願いです。

ユウを助けられるのは涼香貴方しかいないのです。」


そう言いシルキーは頭を下げた。


「頭を上げてください。

それに治すと言っても何をすればいいのか私はさっぱりわかりません。」

「それは……」


そう言うとシルキーは少し言いにくそうな素振りを見せた。

そんなにも難しい治療なのだろうか。


「ユウと涼香が……」


シルキーの目に涙が溜まっていく。


「ユウの気持ちを涼香が認めて受け入れてあげる事なんです……!」

「ユウの気持ち……ですか。」


かなり抽象的な説明にこんがらがるが要するにユウの抱える悩みを私が聞き入れ受け入れればいいのだろう。


「わかりました。

早速明日からユウの治療を手伝わせてください。」

「……はい。」


そう返事を返せばシルキーは大粒の涙を溢しながら私に笑顔を向けてきたのだった。





to be continued……

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