第28話 もう一度
この回はかなり重要になってくるところなので頑張って書きました。
よろしくお願いします。
これは本能の記憶なのだろうか。
そこには死体の山が出来上がっていた。
「嗚呼、そうだった——」
殺したのだった。
これから生まれてくる愛おしい我が子の邪魔になるワタシの身内全員を。
そしてワタシは腹の子を育てながら旅を続けていた。
そしてワタシは宿で娘を出産した。
(何だろうこの違和感は……)
本能の記憶と私の記憶とは似ている様で話が違う。
何故なら側に居たのはアンではなく産婆だったからだ。
何処か違和感を感じながらも私は本能の記憶を追う。
それから娘はスクスクと育ち可愛く賢く天真爛漫な少女へと育った。
娘といつもの様に買い物へ出掛けていると突如現れたローブを着た何者かによってワタシはセンチュラルに連れてこられた。
その犯人はユウの妻シルキーだった。
ワタシという食料が居なくなってからユウは心の病を発症したらしく、その治療の為にワタシを連れ戻そうと計画を企てたらしい。
だがユウと対面した際、ユウはワタシの娘を見るや否やあからさまに不機嫌になった。
「娘を傷つけられたくなければ大人しく俺に従え。」
そう言う彼は何処か弱々しかった。
そうしてワタシは自由を失い、毎晩の様にユウに血を吸われ、心の病の治療と称してユウに抱き潰される毎日を過ごした。
ユウはワタシの事をどう思っているのかは知らないが、甘い筈のその時間はいつも事務的に感じた。
ワタシは心から愛した彼の為だと思えば、例え吸血行為や愛のないまぐあいでもいいとすら思っていた。
でもあれからずっと試しても試してもユウの病の進行は遅らせる事はできれど完治には至らなかった。
そして事件が起きた。
ユウが政界を牛耳っていた頃に作った敵対組織がユウを失脚させようと新聞社に情報を売ったのだ。
内容は既に妻子のいるユウ・ロラミア・ヴァーミリアンが屋敷の使用人に手を出し更には相手との間にも子供がいるというものだった。
この世界では有名な人物程そういう民衆の娯楽の為にスキャンダル記事を書かれる事が多い。
だがユウは昔からあったヴァーミリアン家にまつわる良くない噂があるせいであっという間に世間から孤立した。
そしてその結果、ユウは更に心を病み体調を崩した。
そしてあの頃の輝かしかったユウはあっという間に政界のトップから失脚した。
それ以来ユウは屋敷の者達や自分の身内にまで辛く当たる様になってしまった。
どんどん顔色は暗くなり、周囲から孤立していくユウをワタシは見ていられなくなった。
ワタシはそんな愛する人を孤立させるこの世界が許せなくなってしまった。
「これは彼の為だから……これは罪ではない、ただのお掃除だから。」
そしてワタシは華都国を滅ぼしたあの日の夜の様にセンチュラルの国中を血の海へと沈めた。
「これでユウ様を悪く言う輩はもう居ない。」
もう後には戻れない。
だけどワタシの心は清々しかった。
「彼の為なら血だって求められれば枯れ果てるまで吸われたっていい、求められるなら声が潰れるまで抱き潰されたって構わない。
それに殺戮だって……あの人の為なら仕方の無い事……。」
毒を食らわば皿までとはこう言う事を言うのだとワタシは思った。
これでいい、これで安心してユウには療養してもらえる。
そう意気揚々とヴァーミリアンの屋敷へ帰ったのだ。
「何をしてくれているんだ……!」
「——え?」
愛おしのユウはワタシの姿を見るや否やそんな言葉を吐き捨てた。
ユウは視線をワタシに向ける。
ワタシの身体や服には殺戮で付着した返り血がべったりと付着し真っ赤に染まっていた。
でもワタシは気にする事なくユウに意気揚々と戦果を報告した。
「……でもこれでユウ様は心置きなく療養に励む事ができるではありませんか。
だ カ
ら
また、ワタシと共に病を治す為励みましょう。」
ワタシは固まったまま動かないユウの側へ近付く。
そして優しくユウを抱きしめた。
しかし彼はそれを振り解いてしまった。
「君は頭がおかしい、どうにかしている!
こんな事をしておいて君はタダでは済まない!」
そう言う彼の顔はまるで怪物でも見た様な引き攣った顔をしていた。
「そう……もうワタシ達に帰りの馬車は無いのね……。」
ワタシはその日、別部屋に隔離されていた娘を連れ出し隣国のノエル国へ逃げた。
寒く誰も寄りつかない山に娘と二人隠れたのだ。
しかし間もなくてしワタシはユウの兄であるアイルによって発見され身柄を捉えられた。
それ以降ワタシは薄暗い牢の中に長い間閉じ込められた。
娘には合わせてもらえないが毎日働かなくても簡素だが食事がもらえる。
そんなある日、アイルによってユウが亡くなった事を知らされた。
「うそ……」
その瞬間、ワタシはショックのあまり力の制御ができなくなってしまった。
発狂し暴れ狂う、まるで怪物になってしまったかの様だった。
ワタシは檻を蹴破り脱走した。
「ユウ様……ユウ
さマ……」
そして逃げるワタシの前にアイルは立ちはだかる。
「ここから先、君を通す事はできない。」
「退キ な
さ イ!」
「魔物の本能に理性を乗っ取られたか。」
アイルはワタシに剣を向けた。
「魔王涼香よ、このまま大人しく戻ってきなさい。
でないと僕は君を人類の最悪として消さねばならない。」
アイルの顔は様々な感情でぐちゃぐちゃで今にも結界してしまいそうな目をしていた。
だってそうだ、あんなに可愛がっていた弟が死んでしまったのに悲しみに暮れる暇すらないのだから。
「いいの——
ワタシは もう
戻レなイから——」
そしてワタシはアイルとの死闘の末、アイルの剣によって胸を深く貫かれ命を落としたのだった。
もう一度やり直せるのなら……
今度こそは
絶対に幸せになってやる……!
もしワタシの人生を哀れだと思うのならどうか一度でいい
もう一度やり直すチャンスが欲しい
もしワタシの願いを聞いている神がいるのなら——
ワタシの願いを聞いてくれ——!
(わかった)
その瞬間、木漏れ日の様な暖かい光に包まれる
(いいよもう一回チャンスをあげる)
身体が……魂が溶けていく感覚
(時の神アリスによりアナタの魂を過去に送る——)
『その声は……』
とても聞き馴染みのある、けど何処か放って置けないワタシの愛しい宝物の声だ
微睡む意識の中、ワタシの耳元で神は囁いた
(巻き込んじゃってごめんね……ママ、大好き)
そこで記憶は途切れたのだった。
「はっ……!?」
『思い出せたかしら?』
目の前には私の頭を掴んだままの本能が居た。
『これでアナタがすべき事、少しでも分かったかしら?』
「……。」
『今日はもういいわ。
でもまた近々会う事になるかもね——』
そういうと本能は消えて行ってしまった。
そして目が覚めれば既に日は真上に登っていたのだった。
to be continued……




