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第26話 再びセンチュラルへ


アイル様とお会いしてから半年が経ったある日の事。

私は普段通り仕事を終わらせてから市場へ寄っていた時だった。


「お久しぶりです、氷宮涼香様。」


私は名前を呼ばれ振り返る。


「貴女は……」

「ヴァーミリアン家のお屋敷ぶりですわね。」


彼女はローブのフードを取る。

綺麗に手入れされたブロンドの髪、そして視線を吸い込んでしまいそうなほど美しいバイオレットの瞳。


「シルキー・クイン・ヴァーミリアンです。

涼香様を探しておりましたわ。」



***


私はひとまずシルキーを住んでいる家へ案内した。


「お屋敷に比べれば狭いですがどうかお寛ぎください。」

「あらそんなに気を遣わなくてもいいのよ。

突然押しかけたのは私なのだから。」


そういうとシルキーは食卓の椅子に腰掛けた。

私はすぐに出せそうな簡易の茶葉を見繕い湯を沸かし始める。


「ここは誰かと一緒に暮らしているのかしら?」

「はい、私含めて三人ですね。」

「へー……もしかしてご結婚されているのかしら?」


シルキーは先程私の手元を凝視していたが何か気になる事があったのだろうか。


「いえ結婚はしていません。

娘のお世話をしてくれる友人と娘三人で暮らしています。」

「貴女娘がいたのね。

いつも私の前だと物静かで何処かとっつきにくい感じだったから少しだけびっくりしちゃったわ。」

「……そうですかね。」

「ええ、氷の女王って言葉がよく似合うくらいにはね……。」


そうこうしていればお湯が沸いたので茶葉の入ったポットに注いで茶葉を蒸らしていく。


「よければどうぞ、こんな茶請けしかありませんけど……。」


私はお茶と一緒に茶菓子をシルキーに出した。

それは最近アンとアリスがよく気に入って買ってくる焼き菓子だった。

すぐに買い直してくるので今回は許して欲しい。

シルキーは焼き菓子を一つ手に取り口に運んだ。


「これすごく美味しいですわね。」

「そう言って頂けて光栄です。」


そうしていればお茶が程良く香り鼻腔を擽る。

私はティーカップに茶を注ぎシルキーの前に差し出した。

そして私は自分の分のティーカップに氷魔法で氷の礫を作りそれを浮かべた。


「ありがとう。」

「いえお気になさらずに。」


私はティーカップを口元に運んだ。

お茶を飲んでいるだけなのにとても気まずい沈黙が時間の流れを遅く感じさせる。

少しの沈黙の後、シルキーはお茶を飲む手を止め一呼吸置くと私に話題を切り出してきた。


「涼香さん、ヴァーミリアン家の屋敷に帰ってきては頂けないでしょうか。」

「……それは何故でしょう。」


するとシルキーの表情が曇る。


「今、ユウが……危険な状態なんです……。」

「ユウ様が……ですか。」

「ええ、近頃体調を崩してしまう事が多くて、不安でお医者様に診て頂いたのですが……。」


シルキーはとても言いづらそうに口を籠らせる。


「それが私がヴァーミリアン家に行く事と何か関係があるのですか。」

「勿論ですわ!……だって………!」


そう言うとシルキーは私を睨みつけこう言い放った。


「ユウはまだ貴女の事を愛しているんです……。

悔しいですが、それで病んでしまって苦しむくらいに……!」


シルキーの涙が机上を濡らしていく。


「最近なんて仕事は愚か一人で身の回りの事すらできなくなっているんです!

眠っていてもずっと涼香って貴女の名前ばかり呼んで………」


シルキーの目元は赤くなっていた。

彼女も辛いだろう。

愛した夫が他の女を想って病んでしまったという事実が。

そして自分では何の力にもなれない無力感が。


「……わかりました。

ユウの事は任せてください。」

「……!」

「私が原因で病に罹患してしまったというのなら、私にも少なからず責任があります。」

「……ありがとう!」


シルキーは私の手を握り大粒の涙を溢した。



***



その日の夕方、私はアンとアリスにシルキーの件の事を伝えた。


「という訳で私はこの家を開けねばならなくなりました。

すぐに帰って来れる距離ではないから最悪この家を引き払う事になります。」

「うむ、ならば三人でセンチュラルへ行くという事か。」

「……そうなりますね。」

「……。」


少しの沈黙が続く。


「いこう、センチュラルに」

「アリス……。」

「むこうのおかしいっぱいたべるの」


気を利かせてくれてるのだろうか、こんなに幼いのに本当に聡い子だ。


「うむわかった!では余は少しでも其方の力になろう。

だってここに残ってもやる事ないしな!」

「ありがとうアン、君と出会えて本当に良かった。」


そうすれば重かった空気は無くなり出発の予定を三人で考え始めるのだった。


***


次の日私達は大家さんに鍵を渡してこの国を旅立った。


「お待ちしておりましたわ。」

「お待たせしました。」


広場の噴水前に佇むシルキーに私は声をかけた。


「では行きましょう。」


そして私達四人はセンチュラルへ向かう馬車へと乗り込む。

ここからセンチュラルまで早くても四ヶ月、季節によっては半年もかかる距離だ。


『どうか何事もなく無事に辿り着けますように。』


私は過去一度も信じた事もなかった神にそう願った。




to be continued……

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