第25話勇者(アイルside)
「これは想像以上に深刻な状態だ。」
僕はアイル・ルーン・ヴァーミリアン、ノエル国で二百年もの間面倒な立場にいる吸血鬼。
できるだけ面倒事を避けながら生きてきたというのに面倒な事は執拗に着いてくるものだ。
僕は宿についてから今回の目的を振り返った。
一つは黄金のドラゴンの件だ。
ノエル国からさほど遠く無いファフコールの山脈にある岩山に住むそのドラゴンは時に富を時に災害をもたらす神獣だ。
そんなドラゴンがある日突然住処である祠の洞窟から姿を消したと一部で大騒ぎになったのだ。
土地の守り神の様な役割担っていた為周辺の地域は大変混乱している様だった。
そしてもう一つが魔物の異常発生。
原因はまだ不明だが義妹からの伝言によると、この時代に再び魔王が現れた可能性が高いとの事だった。
こちらもファフコールを中心に大陸に徐々に勢力を伸ばしており、早急に対策を打たねば人々が築いてきた文明が滅びてしまうだろう。
その調査に一番手薄だった僕が遣われた訳なのだが……。
「まさか全部涼香ちゃんが原因だったなんてね。」
彼女は今自分の置かれている状況がどれ程大事なのかをまるで理解していない様子だった。
でなければあんな一般人が住む様な借家に黄金のドラゴンと共に住めるわけがない。
恐らく僕が涼香に接触した事はすぐにユウ達の耳に入る事だろう。
「君はもう普通の人みたいな生活は送れないかもしれない。
ごめん、でもこれが今の僕の役割だから。」
僕は机の引き出しから便箋を取り出し今回の出来事を書き記していく。
明日にでも早くこの件を報告せねばならない。
元勇者として必死で守り抜いてきた国を、文明を絶やさぬ為に。
***
三百年前、まだ大陸がアウルム帝国に統治されていた頃。
ヴァーミリアン家はその高い知力と頭脳を駆使してアウルム帝国の宰相まで登り詰めた上流貴族だった。
だがそれを妬ましく思う貴族に嵌められ宰相は命を狙われた。
その時まぐれにも通りかかった吸血鬼の元祖様に血を分けて頂き眷族になる代わりにその命を救われた。
これがヴァーミリアン家が吸血鬼の一族として生きていくきっかけとなった。
そして二百年前、宰相は聖女の力を持つ妻を娶り二人の子をもうけた。
それが後に魔王を倒し勇者となるアイル・ルーン・ヴァーミリアン。
そして後にセンチュラルの政界を若くして掌握するユウ・ロラミア・ヴァーミリアンである。
百八十年前、突如魔王が現れたことにより魔物の動きが活発になった。
そしてそれを鎮圧する為アウルム帝国は兵をあげた。
その中には当時まだ二十歳になっていなかったアイルも居た。
しかし倒しても倒しても湧いてくる敵に兵も国も疲弊してしまった。
そんな中アイルは一騎当千の力で勝ち筋を示し魔王の首を打ち取ることができたのだった。
そして二十歳の誕生日を迎えた日にアイルは国を救った勇者として国に祀りあげられた。
これでようやく穏やかな日々が過ごせるかに思われた。
しかし戦果に紛れ反旗を翻す者達が現れたのだ。
長引く戦に国や兵だけでなく国民も疲れ果て不満を募らせていたのだ。
そこに当時貴族派だった男ノエルの謀略により国の各地で紛争やデモが頻発した。
戦争で腹を空かせ住む場所を追われた国民はどこまでも恐ろしい存在だった。
帝国は休む暇もなく紛争の鎮圧に向かわざる終えなくなったのだ。
その結果手薄になった警備を容易く突破されてしまい、当時の皇帝や皇族は皆殺害されてしまった。
そしてアウルム帝国は五つの国へと割れてしまったのだった。
そして黒幕ノエルは新しく自分で作った新しい国、ノエル国で勇者であるアイルを政治利用しようと娘フレイアと結婚を推し進めた。
そうして勇者だったアイルはノエル国の傀儡になってしまった。
「帰りたくないなぁ。」
アイルはベッドに寝転び目を瞑った。
to be continued……




