第18話番外編(ユウside)
涼香がこの屋敷を去ってから半年が経とうとしていた。
俺はもうじきシルキーと結婚すると言うのにまだ涼香の事が頭から離れない生活を送っている。
事の発端はルカンの神殿から神の信託があったと報告が来た事から始まった。
内容は二百年程前に現れたとされる魔王が再びこの地に降臨したとの事らしい。
しかもその場所は涼香の出身である華都国だった。
恐らく最近大陸で見られる魔物の不可解な暴走はその影響なのだろう。
まだ町や民間では魔王復活の噂は耳にはしないが、それも時間の問題だろう。
その件もあってか各国は魔王による混乱を抑える為、結びつきを強め始めていた。
センチュラルとルカン神聖国も例外ではなく、国々の結びつきを確固たるものにする為、想定よりも早くシルキーが我がヴァーミリアン家に嫁いでくることとなったのだ。
だがシルキーはまだ誕生日を迎えていないので十五歳だ。
ルカン神聖国では成人であっても我が国センチュラルでは十五歳はまだ未成年。
妻になる女性とは言えまだまだ子供、下手に手を出せるわけが無いと彼女に言ったのだが、シルキーはそんな事は今は重要では無いと俺に言ってのけたのだ。
その時の彼女の瞳に迷いなど無かった。
やはりシルキーは強い女性だ。
学にも幅広く精通し立ち振る舞いどこを取っても一流だ。
生まれが違えば女領主、いや女王にすらなれた逸材だっただろう。
そんな気高く美しく強かな彼女であれば、俺なんかよりも良い男よりどりみどり選べた筈だ。
「ユウ様、何を考えているんですの?」
「いや……なんでもない。」
「……ふーん」
結婚式の打ち合わせ中に考え事をしているとシルキーに脇を小突かれる。
「しっかりしてくださいまし。
式がまだとはいえ私達は書類上既に正式な夫婦なのです。」
「申し訳ない。」
「……変な人ね。」
シルキーは俺との結婚式をとても楽しみにしてくれている。
一方で俺が浮かない顔をしてばかりいるせいなのか、最近は会話が上手く続かない。
シルキーが盛り上げようと頑張ってくれているのを理解しているが、そんな姿を見て俺はますます情けないと余計に落ち込んだ。
そんなある日の事だった。
シルキーに誘われて俺達は久しぶりに二人でお茶をすることになった。
だがその日はシルキーの様子が変だった。
いつもはまっすぐに俺を見てくる彼女が今日は殆ど視線が合わない。
そして目が合っても直ぐに逸らされてしまう。
それでもお茶会はつつがなく進行していく。
「……これは私が気に入って直々に取り寄せたハーブティーなんですよ。」
そう言いながらシルキーは俺に茶を淹れてくれた。
どうぞと勧められ俺はそのハーブティーを口にした。
三口程飲んだ頃だろうか、急に身体から力が抜ける。
身体も熱く呼吸が荒くなっている気がする。
『頭がクラクラする……。』
「ユウ様……ごめんなさい……。」
そう言う彼女の顔は何処か悲しそうな顔をしていた。
***
意識が浮上する。
俺は眠りに堕ちる前に起こった光景を思い出し飛び起きる。
そこは俺の寝室だった。
シルキーとはいつも通り客間でお茶をしていた筈だ。
それが何故シルキーの客間で寝ているのだ。
そしてもう一つ不可解な点があった。
『何故俺は服を着ていない。』
状況から推察するに俺はシルキーに嵌められたのだろう。
まあそうなっても仕方のない状況だった。
俺に子供を抱く趣味はない。
そう言ってシルキーがヴァーミリアン家に嫁いでから俺は今までシルキーに指一本出した事は無かった。
シルキーの妻としての尊厳を踏み躙っていた事も知らずに。
俺は起きて直ぐにシルキーの元へ向かった。
「シルキーいるかい?」
「ユウ様!?」
シルキーは俺を見るや否や気まずそうな目でこちらを伺う。
「ユウ様……あの……あの日の事ですが……。」
「すまなかった。」
「……はい?」
「シルキーはもうとっくに私の家族であり妻なのに、私は自分の都合でシルキーの事を蔑ろにしてしまった。」
「い、いえ!私こそあんなはしたない真似をしてしまって申し訳ありません……。」
シルキーは恥ずかしそうな顔で俺に謝罪する。
顔には不安や焦りが見受けられた。
「いや、悪いのは全部私だ。
シルキーの気持ちを蔑ろにしてしまった愚かな私を許してほしい。」
そう言えば彼女は俺の手を優しく握ってくれる。
「だから次は私がシルキーをエスコートしよう。」
そう言ってシルキーの頬に手を添えれば優しく微笑んでくれた。
「勿論ですわ。
私の事たくさん可愛がってくださいまし。」
シルキーはホッとした様に顔を緩め俺を見つめてくれた。
その日の晩、ユウの寝室の蝋燭は消える事はなかった。
to be continued……




