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第16話 滅亡したあの夜

私は叔父達との話し合いから引き上げ部屋へ戻った。


「それにしてもあの叔父、そんなに私の要望を聞くのが嫌なのか?」


結局今回の話し合いの結果、交渉は取り合ってもらえなかった。

そもそも交渉する気すら無さそうだったが……。


「明日こそは首を縦に振らせないといけない。」


そもそもとっくの前に引き下がれる様な状況ではないのだ。

私は気合を入れる為屋敷に来る途中で購入したホーンラビットの干し肉を齧る。

腹が減っては戦はできぬと先祖は言った。

ならばそれに倣い従わねば無作法というもの。


私は久々に満腹になるまで持っていた保存食を平らげた。

そして明日に備え眠りにつく。

私の布団はもう捨てられていた様だったので持っていた寝袋を使うことにした。


***


その日の深夜だった。


私は突如家の者に叩き起こされた。

引きずられる様に屋敷を出ればそこには大人数の屋敷の人間が行燈を持ち私が外に出てくるのを待っていた。

そしてその中心には氷高と雪奈、そして小雪も居た。

とても穏やかという状況ではなさそうだった。


「こんな時間に何のご用ですか?」

「まあ今にわかるさ。」


それだけ言うと私は彼らに逃げられない用に全方面を囲まれ押されるがまま連れて行かれた。


かなり歩いたであろう。

途中で気がついたがどうやら私は一族の儀式を行う為の社に向かっている様だった。

綺麗に整備された階段があるとはいえ手元の灯りのみで夜中にこの距離の移動はなかなかに身に堪えた。


「この辺でいいだろう。」


叔父がそう言うと私は叔父様と小雪の方に突き出される。

何かの儀式を執り行うのだろうか。

すると叔父は社の左右に魔法陣を施し始めた。

そしてその左側に小雪を座らせる。

この時点でなんとなく察しがついた私は起きうるであろう最悪の展開に身構える。


「涼香を取り押さえろ。」


その刹那、私は大人人数の人間に思い切り頭と身体を地面に押さえつけられた。


「あとはお前の持つソレ(・・)だけが必要なんだ。」


私は抵抗するが複数人に押さえつけられているせいで身動きが取れない。

私を見下ろす様に叔父は目の前に立ってこちらを冷ややかに見下ろす。


「小雪の為なんだ。

涼香、呪石の糧となってくれ。」


叔父の手にはあの時豪雪が持っていた黒いガラス片が握られていた。

それが私の魔核のある心臓付近目掛けて振り上げられた。


『まずい!』


私は咄嗟に氷魔法で障壁を作る。


氷とぶつかり呪石は間一髪で防いだ。

私は押さえつけていた者達を氷魔法で氷漬けにし周囲を囲む家の者目掛けて投げ飛ばした。

そうすれば次々と家の者は倒れて行く。

そして私を再び取り押さえようと覆い被さってくる奴らに私は氷の剣の一太刀を浴びせた。


「動ける者は直ちに涼香を制圧しろ!」


殺さなければ私が殺される。

私は氷高の指示が終わる前に広範囲の氷魔法を展開した。

そうすれば私目掛けて家の者達が襲いかかってくる。

次の瞬間、魔法陣を踏んだ者達は氷柱により身体の中心を貫かれ次々と倒れてゆく。

普段なら狩りをする時以外は使わない設置型のトラップ魔法がこんな所で役に立ってくれるとは思わなかった。


「あっぶないなぁ」


そうすれば周囲は一気に静かになりその場には私と叔父と雪奈、小雪の四人だけとなった。


雪奈は目の前に広がるグロテスクな光景に気を失ってしまった様だった。


「まさか今更生きたいとでもほざくのか?

この家の繁栄の役に立てる折角の機会だと言うのに、恩知らずな奴め。」

「恩?私が屋敷に居た十三年間、貴方達に恩を感じたことなど欠片もありませんが。」


私は叔父の目を見てはっきりと告げた。

そして叔父はそんな私を見るなり笑いだす。


「ハハハハハ本当にお前はあの女(母親)に似ているな。

自分だけがこの世で一番不幸な人間なんですみたいな面しやがって。

そう言う奴が俺は死ぬ程嫌いだよ。」


叔父は私の心臓目掛けて飛び掛かってくる。

間一髪で叔父の攻撃を両手で受け止め叔父の鳩尾に数発蹴りをお見舞いする。

叔父は鳩尾を押さえながら地面に丸く疼くまる。

そして私は呼吸が上手くできずに踠いている叔父の頭を踏みつける。


「貴方には今から二つ選択肢をあげます。

大人しく条件を呑んで私を解放するか、この場で私と戦い一族全員皆殺しにされるか。

聡い叔父様ならどちらが一族にとって利になるかわかりますよね?」

「……わかった条件を呑む、だから俺の女と娘には手を出すな。」


私は怯む叔父に向かって続ける。


「ではまず条件を飲んでもらいましょう。

なに、条件なら誰でもできる簡単な事です。」


私は叔父に嫌味を込めて笑みを浮かべる。


「まずは金輪際私や私の周囲の人間に干渉しない事。

二つめ貴方達が私から取り上げた母の形見を直ちに返す事、それだけです。」

「……」

「返事がありませんがどうしますか?」

「殺れ」


すると背後に控えていたであろう者達が私目掛けて襲いかかって来る。


「ハハハハハ!残念だったな涼香、俺は結構用心深いんだ。

こう言うことになるやもと思い茂みに控えさせておいて正解だったな。」


叔父は満足そうに笑っていたがその顔は一瞬で引き攣った。

何故ならあれだけ居た刺客は一瞬の間に氷柱で身体を貫かれていたからだ。


「お前……まさか……」


叔父は尻餅をつきわなわなと震えながら私を見ている。

私の身体の内からとめどなく溢れる魔力に圧倒されているのだろうか。

私は叔父を思い切り睨みつける。


「一瞬の間の勝利の味はどうでしたか?

でも残念ですね、流石の私でも堪忍袋の緒が切れました。」


私はまっすぐ雪奈の元へ向かう。


「待て!止めろ!」


腰が抜けてその場から動けない叔父の声を無視し私は雪奈の喉笛目掛けて氷の剣を刺した。

とめどなく溢れる赤は真っ白な雪を染め上げていく。


私は紅白でとても縁起が良いななんて考え始めていた。

そして次は雪奈の娘、小雪の前へと足を進めた。

まだ三つと幼いが、家の者である以上野放しにはできない。


「や、やだ……!

たすけてととさま!!」


逃げることすらできずに目の前でもがく小雪に私は苦しまない様首目掛けて氷の剣を振り下ろした。

長く白い髪がハラハラと散り、同時に首が地面に転がる。

小雪の切り口からは白い雪などではなく赤が噴水の如く吹き出す。

そして赤は私をまるで戦闘民族の様に赤く化粧を施してくれる。


「あ……あ……」


『そんなに大切なものなら一族の使命なぞ捨てて娘と幸せに生きていく為の選択をしてやればよかったのに。』


つくづくこの男は愚かだ。

私は動かなくなった小雪と雪奈の左胸を氷の剣で裂き、中から魔核を取り出す。

そしてそれを味わう様に口で転がしながら叔父()の目の前でゆっくり飲み込んだ。

私は娘と愛人を同時に失ったショックと恐怖で顔の引き攣る叔父()に近寄り間髪入れず首に剣を突き立てた。

そうすればあれだけうるさかった社一体は静寂に包まれた。

私は小雪と同様に叔父()からも魔核を抜き取り飲み込む。


その直後私は罪悪感と虚無感に襲われその場に立ち尽くした。


一族と言うだけで私はこの場にいた全ての者を手にかけてしまった。

だがもう後悔はしていない。

穏便に済ませられるのならそうしていた。

だがその選択で上手くいく事はなく、そんな夢幻は血の雨で全て流れてしまった。


「でも貴方達の命は全ては無駄にはしない。」

これは今私ができる精一杯の償いだ。

私は今からここに転がっている亡き者達皆の魔核を全て喰らう。

私の本能がそうせねばならないのだと訴えていたから。

この世は弱肉強食だ。

弱きは強き者の糧となる。


「……嗚呼、お腹が……空イタ……」



——急に視界が霞みがかった様に赤くぼやけていく——



なんでもいい



ワタシの


     乾きヲ



「ちょう……だイ」



             ソノ甘美ナ




     血ト肉デ




 満  タ

                     さネば——




      


     

私は譚代∈ と足を進める——





その晩、夜が開けるまで私は彼らの魔核を再現なく喰らった。


「さテ、残りの


       獲  物 を


         どうするか(・・・・・)考えないと—。」



私は生まれ育った屋敷の方を見据えた。




***


華都国のとある村が廃村となった。

噂によると、現場を目撃した商人はいつもの様に品を卸しに氷宮の屋敷を訪れ様と村へ赴いた所、そこには凄惨な光景が広がっていたそうだ。


女も子供も関係なく手にかけられており、そして亡くなっていた村人全てが心臓付近を何かで抉られた様な傷があったらしい。

噂では魔物の仕業とも言われていたが、どの家からも金めの物が全て無くなっていた事により村は山賊に襲われたのだと付近の村で噂になった。


そしてその一件は華都国(カイト)で処理され噂は大して広がる事はなく収束したのだった。





to be continued……


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