第11話 守るべきもの
「おめでたですね。」
「はい?」
私は思わず聞き返してしまう。
どうやら私の腹の中には新たな命が宿っているらしい。
私は最近体調がすぐれない日が続いた。
最初は馬車酔いだと思っていたが、馬車から降りた後でも収まらず、尚且つ宿で休んでいる時でもその不快感や気持ち悪さが治らなかった。
『これ以上体調不良が長引けば帰省どころでは無くなってしまう。』
そう思い次の街の医者に診てもらう事にした。
そしたら冒頭の通りである。
私は自分の腹に手を当てる。
「……そうだったのか。」
腹はまだ真っ平でこの中に赤ちゃんがいると言う実感が湧かない。
街の病院から帰る途中様々な考えが私の頭をよぎる。
私はユウとの子供を授かれて嬉しい反面、この子の周りを取り巻く不安要素の多さにすぐに頭を抱える。
まずはこの子の父親であるユウは厳密に言えば私の夫ではない。
その上彼には婚約者であるシルキー嬢がいる。
そしてもう一つは私の実家の問題だ。
一族の奴らは根っからの純潔主義なので連れ戻そうとしている後継者候補が他所で子供こさえて帰ってきましたなんてバレれば私は豪雪の時の様に即殺さねかねない。
でも私はもう目の前の問題から逃げないと決めたのだ。
それに今はもう一人ではないのだと思うと私自身がしっかりしないといけないと思えてくる。
私は胸に手を当て頭の中でユウを思い浮かべる。
「ユウ様、こんな無責任で自分勝手な臣下で申し訳ありません。
そして生きているだけの屍の私に宝物を授けてくれてありがとうございます。
この子は私が死んででも守ってみせます。」
その為には徹底的に私の実家とは対峙する事になるだろう。
明日には私の生まれ故郷の近隣村に到着する。
今のうちに身体も休めておかねばならない。
私は宿に帰ってすぐ横になった。
身体は冷やさぬ様いつもよりもブランケットを多めに被りながら。
***
いつもの暗い空間、どうやら私はまた夢を見ている様だ。
私の目の前にはあの謎の少女が立っていた。
「もう全部思い出せた?」
すると少女の意図が図りかねる質問が飛んでくる。
「君は何の事を言っているんだ。」
私は問いが理解できず首を傾げる。
「貴方に託した未来の記憶だよ。」
そう言えば最近矢鱈と不可解な夢を見るとは思っていたがそう言う事だったのか。
あれは私の身に起こる未来なのだ。
「いや、全てかはわからないし正直言って不明な点も現段階では多過ぎる……。」
「そっか……」
すると少女は私の方へ近付いてくる。
「そんなに思い出すのが辛い?」
またもや少女から意味の分からない質問が飛んでくる。
「思い出すも何も私にそんな記憶は無い。」
そう言うと少女は私の手を握る。
「じゃあ最後にこれだけ……
怪物はアナタを狙っている。
だから気をつけて。」
また去り際に意味深な事を言うと、少女は吹雪と共に暗闇に姿を消してしまった。
***
目が覚めるとそこは荷馬車の中。
どうやら旅の途中で眠りこけていたらしい。
その日私は故郷の村に辿り着いた。
相変わらずの人の少なさと田舎特有の寂れた感じがおどろおどろしい雰囲気を纏っていた。
私は自分の記憶を頼りに村でも大きく綺麗な屋敷を目指して足を進める。
少し歩けば村の中で一番大きく訪問者すら威圧する門が私を迎えた。
私は門番に例の文を見せ家の者だと伝えれば即座に門を通してくれた。
出迎えすら来ない。
ここでの私はこの程度の扱いなのだ。
それはもう慣れた。
私は迷う事なく屋敷の玄関へ向かう。
扉をノックすれば家の者が出てきた。
出迎えてくれたのはこの屋敷の使用人冬子さんだった。
「涼香様!?」
「久しぶりですね冬子さん。」
「とりあえず中に上がってください。」
冬子さんに着いて行けば、かつての自分の部屋だった狭い座敷間に通される。
日も当たらない薄暗く不気味な部屋。
薄暗いのには慣れていた筈なのに、何故だかここは二年程しか居なかったあの場所よりも居心地が悪く感じる。
私は幼い頃からこの狭い座敷で育った。
部屋から出ていいのは屋敷の仕事をやらされる時だけ。
無論食事も自分の部屋でひとりで食べていた。
その食事すら自分で用意せねば誰も用意してはくれない。
助けを乞うても兄や母ですら助けてはくれなかった。
ひとりぼっちの寂しい幼少期。
ここにはそんな記憶しか残っていない。
「駄目だ……。」
この屋敷での嫌な記憶を必死で振り切る。
私がここに来た目的を忘れてはならない。
今回の目的は今後私に関して一切の干渉をしない事を条件に小雪に正式な後継者の地位を約束する事。
そして母の形見である櫛を返してもらう事だ。
そうこうしていると座敷の襖が開く。
「涼香様、大広間で当主代理の氷高様がお呼びです。」
「わかりました。」
私は覚悟を決め大広間へと向かった。
***
「失礼いたします。」
「入れ」
襖を開けるとそこには現当主の雪奈とその代理の氷高、そして二人の子供である小雪が大広間の中央に座っていた。
「顔を上げろ」
「はい」
私は平静を装うが緊張のあまり既に手や脇にかなり汗をかいている。
「かなり探したぞ、いったい何処をほっつき歩いていたのだ。
お前の婚儀に関わる大事な時期だと言うのに。」
目の前で私を虫けらを見る様な目で見下ろしている人物は氷高という。
私の叔父にあたる人だ。
氷高の叔父様は昔ながらの考えの人間なので私の反抗に呆れている様子だ。
「今回呼び出した件だが、涼香ならもう察しはついているだろう。
私の娘小雪に氷宮家の継承権の全てを渡せ。」
やはり予想通りの内容だった。
「それは構いません。
しかしそれにあたって一つそちらに飲んでほしい条件があります。」
「ハハハ面白い冗談だ。
お前如きにそんな寛大な対応なぞしてやる義理があるとでも思っているのか?」
叔父の私を見る目は冷ややかで私に対して譲歩する気は無さそうだ。
ここは一つ勝負に出るしかない。
そう思い私は叔父に食い下がる。
「でもいいんですか?
折角条件を飲めば素直に引き下がるとこちらが提案しているのに……。
立場がわかっていない様子なので言わせてもらいますが、小雪は当主になる為に必要な力が生まれつき全く使えない。
おまけに正統後継者の娘……私と言う力を扱える存在がいるせいで見た目に関係なく一族内で私を推す勢力が生まれているのは事実でしょう。」
そう叔父様に詰めれば奴は鼻で笑った。
やはり凝り固まった差別意識のせいでまともに取り合ってもらうのは難しそうだ。
「俺はただ小雪に当主の継承権を譲るとさえ言ってくれるだけでいいんだけどな。」
「私も言ってあげたいのは山々ですが、私の提示する条件すら呑めないのであればその必要は無いかと思っております。」
すると先程まで沈黙していた現当主が声を上げる。
「貴女!さっきから氷高様に失礼なんじゃない!?
たかが力が使える程度でイキってんじゃないわよ!忌み子の癖に!」
『その力を貴方達の娘が使えないからこうなっているのでは?』と脳内でツッコむ。
「埒が明かないですね。
一度日を改めてお話しましょう。」
私は話し合う気のない彼らを背に大広間から出て行った。
***
「何なのよアイツ!」
涼香が大広間から去った後、雪奈は悔しそうに涼香の出て行った方を睨みつけている。
「まあもう過ぎた事は仕方ないさ。」
俺は冷静さを掻こうとしている雪奈を宥める。
「それに俺はとっておきの秘策を用意しているから心配いらないよ。」
そう言ってあげれば彼女は落ち着いた。
「その秘策とは何ですか?」
「これだよ、元々穏便に解決できれば使うまいと思っていたが……止む終えないだろう。」
俺は懐にしまっていた例のブツを取り出す。
反対勢力なんかがあるから小雪が非難されてしまうのだ。
「安心しろこれで氷宮は安泰だ。」
ならばその問題ごと消してしまえばいいだけなのだ。
氷高の手には呪石が握られていた。
to be continued……




