第1話 交わる出会い
初投稿です。
よろしくお願いします。
酷い人生だった。
勇者に剣を突き立てられた自身の胸に目をやる。
少しずつ意識が遠のいていく。
あの人やあの子に顔を合わせる事すら憚られる様な大罪を私は犯した。
家族らしい事なんてあまりしてあげられなかったけど
どうか……
幸せに生きていてほしい。
***
久々に夢を見た。
夢とは違う天井。
自分の胸に剣が刺さっていないのを確かめてホッとする。
私はとある事情で元々住んでいた国を離れ大陸へと降り立った。
故に私は世間知らずなのでよくこうして人のよく集まる食堂や買い物ついでに商人などから様々な情報を仕入れる。
そして私は立ち寄った街の商人から吸血鬼の館という噂を耳にした。
どうやらその国ではかなり有名な名家で大昔、王族の補佐をしていた一族らしい。
今では王権制から民主主義となった国をまとめる政治家として有名な家だそうだ。
しかしそれは表の顔、裏では人間や獣の血を求め闇市場を訪れているだとか、その屋敷を訪れた客人が行方不明になっているという不気味な噂だ。
「怖い話もあるものだ。」
私は店主に代金を支払い店を後にした。
『そろそろ路銀も尽きそうだしそろそろ何処かで働かないといけないな……。』
しかしこの地域の冬はかなり寒いうえに視界が悪くなりやすい。
そういう話をきちんと聞いておくべきだった。
山に出て暫く経たないうちに天気は荒れ始める。
私は寒さを凌ぐため丁度付近にあった洞窟に身を潜める。
少し肌寒いが吹雪を凌げるのであれば問題無いだろう。
とりあえず洞窟の隅に荷物を置き焚き火を準備する。
ひと段落すると一安心したのか徐々に眠気が襲ってくる。
ぼやける意識の中何処か懐かしい声が聞こえた。
『涼香』
何処か懐かしい様な安心感のある声だった。
目を覚ますと洞窟の入り口で同じく山で遭難したであろう人が倒れていた。
見た目は何処かの貴族なのかかなりの値がしそうな衣服を身に纏っている。
『だが何故こんなところに居るのだろう?』
不思議に思うがそれよりもまずは生きているかの確認を行う。
見るからに恐らく私と歳はそこまで違わないであろう青年だった。
肌は冷たいが呼吸もしているし心臓も止まっていない。
火はまだ着いているが勢いが落ちている。
私は薪を焚べなるべく身体を冷やしてしまわない様焚き火の側に横たわらせる。
呼吸はしているようなのでしばらく温めてあげれば目覚めるだろう。
まだ吹雪は止みそうにない。
私は鞄に入れていた保存食を齧る。
私は雪女の家系なのもあり寒さには強い。
しかし火や日光は少し苦手だ。
しかし火というのは緊急時に必要になるもの。
攻撃や調理の手段としても使えるし時に目標としても機能する為できるだけ火は起こす様にしている。
暫くすると隣から眠たげな声が聞こえてきた。
「おはようございます、お加減はいかがですか?」
「……誰だ君は?」
「私は一人旅をしている者です、それでお加減はいかがですか?」
「特に問題は無い。」
そう言う彼の顔は少し青白く見えた。
そして瞳には何処か危うさを孕んでいる様に見える。
吹雪に晒されてかなり体温が下がっているのだろう。
「何か食べますか?
簡単なスープでしたらすぐにでも準備できます。」
「なんだ唐突に」
「これから山を下るとなると体力をつけるためにも食事は必要ですから……ええと……。」
「ユウでいい。」
「ユウですね、私は涼香です。
見たところユウの顔色はかなり悪い様に見えます。
体力をつける為にも何か腹に入れましょう。」
そう提案し私は荷物から非常食を漁ろうと立ち上がると彼に止められる。
「大丈夫だ必要ない。」
彼は首を横に振る。
「そんなわけにはいかないでしょう。」
だってあんなに飢えた獣の様な目でずっと見られているのだ腹が空いていない訳がない。
「それに貴方はこの国でも身分の高い方に見えます。
国民の為にもちゃんと生きて帰らねばなりませんよ。」
「そうではないのだ。」
「どうかお金の事は気になさらないでください。」
「違う」
そういうと彼は私の腕を掴む。
「俺は普通の食事では足りぬのだ。」
目がかち合う。
鋭く光る眼光に何処か身体が一切反応しない。
直後腕を勢いよく引かれ体勢を崩す。
彼の吐息が首筋にかかる。
「すまない、もう我慢の限界だ……。」
何事かと身を引こうにも身体を強く押さえつけられ身動きが取れない。
「少し我慢していてくれ。」
「……っ!!」
次の瞬間首筋に激痛が走る。
首筋に歯を強く突き立てられ離すまいと力を込められている。
チュルチュルと血を啜る音が聞こえる。
そうか彼があの噂の吸血鬼だったのか。
気づく頃には私は完全に気を失ってしまった。
***
私は雪女を先祖に持つ大きな家の後継として生まれた。
しかし白く透き通る様な白髪ではなかったという理由で後継者候補から外される。
そして一族皆口を揃えて「ならばせめて最低限の役目を果たせ」と言い幼い頃から結婚の道具として扱われ生かされてきた。
私の扱いが酷くなったのは十三歳を過ぎてからだった。
私の母は白髪の女児を産めなかった事を理由に一族内で冷遇され自らを手に掛けこの世を去った。
そして母の弟の愛人が当主の後任としてその座に収まった。
そしてその愛人が産んだ娘、小雪が白髪の持ち主だった。
私は小雪の生まれたその日にその村で二番目に大きな冬村家に嫁ぐ事が決まった。
その相手も私の事を忌み子として扱う様な人だった。
歓迎も祝福すらもされない家を追い出される様な形だけの結婚。
私は結婚する事が決まったその夜、結納の儀を放棄し実家を出た。
行く宛てなど決めずにただ遠くに。
私の家族や婚約者すら知らない何処か遠くへ——
***
どのくらい眠っていたのだろう。
気が付けば私は知らない天井を見ていた。
きちんと掃除の行き届いた部屋。
身体を起こし部屋の窓を覗く。
外の吹雪は収まり曇り空雪色の町がよく見える。
「お目覚めになりましたか。」
振り返るとそこには使用人らしき人物が立っていた。
先程までは一人だったのにいつの間にここに居たのだろう。
「ご挨拶が遅れました。
私この館の使用人のモーエヴィンと申します。
お支度のお手伝いに参りました。」
「ありがとうございます。
ですが一人でできるので大丈夫です。」
「では桶とタオルはこちらに置いておきます。」
そういうと桶とタオルを置いて彼は引き下がっていった。
とりあえず顔を洗い服を着替えようとするが着替えが見当たらない。
そもそも私のトランクは何処にあるのだ?
くまなく探すが一向に見つからない。
その代わりに私のものではない上等な生地でできたワイシャツとズボンが綺麗に畳まれて机の目立つ位置に置かれてあった。
これを着ろという事なのだろうか。
私はそれらに着替えモーエヴィンを呼ぶ。
「ではお着替えが済んだ様ですのでお食事にいたしましょう。」
そう言い彼は食事を部屋まで持ってきてくれた。
どうやら私が貧血でフラフラなのがバレていたのだろう。
スープは薄味だがとても食べやすいものだった。
どうやらモーエヴィンはこの屋敷の主人から私を一週間程療養させる様にと仰せつかっている様だ。
お陰で私は特に用がない限り部屋から出る事は一切できなかった。
『だが誰かも知らない私を助けてくださったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。』
***
そして五日目の夜、私は屋敷の主人から一緒に夕食をと誘われた。
正直言って何故私がこの屋敷で療養しているのかも不明だがそれも今宵理由を伺えるのだろうか。
モーエヴィンの後ろをついて行くと広間へと通された。
向かいの席にはあの時の青年ユウが座っていた。
「お客様をお連れいたしました。」
「うむ」
反射で身体が硬直してしまうが何事もなかった様に席に座る様促される。
『何が幸運だったのだろうか、あの時の私を全力で殴ってやりたい。』
そう考えているとモーエヴィンに椅子を引かれる。
「今日は礼儀など気にせず存分にディナーを楽しんでくれ。」
席に座れば私の前には順番に美味しそうな料理が運ばれてくる。
どれもこれも庶民では味わうことのできないものばかりだ。
緊張であまり食欲が湧かないのが難点だがそれでもカトラリーを動かす手は止まらない。
久しぶりの固形物摂取で調子に乗る私とは真逆で彼は料理をほんの少し食べては殆どを残している。
『俺は普通の食事では足りぬのだ。』
その言葉を思い出した。
思い出しただけでも手が震えてしまう。
「涼香と言ったか。」
「はい……。」
私の挙動を不審に思ったのだろう彼は私に話を振る。
「客人に失礼な話ではあるが、今夜私の部屋に来て頂きたい。
話しておきたい事がある。」
「それは構いませんが何故でしょう。」
「それは今ここで話せる内容ではない。」
「……わかりました。」
そしてまた食卓は静寂に包まれた。
カトラリーのカチカチという音がやたらと大きく聞こえる。
『早くこの気まずい空気何とかならないものか。』
***
食事も終わり私は湯浴みを済ませる。
ずっと旅をしていたので基本的に水浴びかタオルで拭いて終わりな事が多かった。
なので久しぶりの風呂なのだ。
風呂は入れるうちに入っておかねばならない。
とは言っても私は熱い湯は苦手なのでほぼ水かぬるま湯で入浴を済ませる。
そして何故だか部屋の前でモーエヴィンに待ち伏せをされておりかなり高そうな化粧水や乳液を全身に塗る様に言われた。
そして私のいない間に部屋に香まで焚かれていた。
客人だとしてもこんな待遇怪しいに決まっている。
だとしてもこの後ユウの元に呼ばれた以上行かねばならない。
外は寒く噛まれた首の傷跡はかなり深傷だった様でまだジクジクと疼く。
私は上着とランプを手に取り彼の元へ向かう。
「確かこの館の3階奥だったような。」
モーエヴィンに教えてもらった通りに向かえば他の部屋とは明らかに違う大きな扉が見えてくる。
「失礼致します涼香です。」
「入れ」
扉をノックすると向こう側から無愛想な返答が返ってくる。
部屋に入るとそこは他の部屋と比べ一段と薄暗く室内は机上の蝋燭のみにうっすらと照らされている。
そしてその部屋の奥のベッドに腰掛けほんのり灯りに照らされ浮かび上がる恐ろしく整った顔の青年がそこにはあった。
あの時は他の出来事での対処で手一杯で顔などまじまじと見ることはなかった。
「こちらに来るといい。」
ユウが私に手招きする。
私が側に寄ると彼は私の手を引いた。
背中に伝わる柔らかい衝撃。
カーテンの隙間から溢れる月明かりに照らされる。
そしてユウの真っ赤な瞳は私をじっと見つめたまま動かない。
『嗚呼結局あの洞窟の時と同じなのか』と悟る。
でも何処か腑に落ちた気がした。
噂からの憶測に過ぎないがこんなに顔が整っているのだ。
女性にも困らないであろう彼は恐らく他にも女性を喰らっている。
その結果世間で起きた行方不明騒動と紐付けられそういう噂が流れたのだろう。
私は目を硬く閉じ次に来るであろう痛みを待つ。
しかし痛みは待てどやってくる様子はない。
そっと目を開けば彼は私の首筋の噛み跡をじっと見つめている様だった。
「少しじっとしていろ」
顔が近づいてくる。
私は反射でまた目を硬く閉じた。
しかし痛みは無く代わりに首筋感じたのは生暖かい感触だった。
「んっ……」
舌は容赦なく私の傷口を舐る。
最初こそ痛みに耐えていたのに今では頭が熱く心地良さにどうにかなってしまいそうになる。
「んっ……はっ……」
首筋に舌が這う感覚に私は声を抑えるのに必死だった。
「終わったぞ」
彼の顔が上がる。
私はその場から飛び起き首筋に付いた唾液を拭う。
「何を……!?」
「傷治ってるだろ」
見てみろと言われ首に手を当てる。
確かにあの噛み跡が綺麗さっぱり無くなっていたのだ。
「あの時俺は命を助けてもらったのだ。
そんな人に無碍な扱いはできない。」
そう言い彼は私に頭を下げた。
「吸血鬼の唾液には傷を癒す効能があるとはいえ説明不足なうえに先程は怖い目に合わせてしまい申し訳無かった。」
「頭を上げてください。
それに貴方が無事なら私はそれで良かったです。」
「いえ貴方が良くても俺がそれを許せない。
俺が日頃から血を選り好みせずに摂取していれば済んだ話なのだ。」
すると彼は私の顔を見てこう言った。
「だから詫びと言ってはなんだが代わりに俺が貴方の願いをなんでも聞こう。」
もちろんできる範囲でだがと提案される。
正直旅をする為の資金も底をつきそうなうえに今は雪も積もる冬だ。
私は悩んだ末こう答えた。
「では私をこの屋敷で一時的に働かせて頂けませんか?」
「この屋敷で働きたいのか?」
「えぇ、もちろん雑用係で構いません。」
「お恥ずかしながら私旅をしている身でして、今は冬なのもあり働き口がないのです。」
「……わかったでは涼香、君の願いを聞く事にしよう。」
そういうと彼は少し考えた後私のお願いを承諾してくれた。
「ありがとうございます。」
でもここでこの選択をしたのが本当に正しかったのかと自分を問うことになるとはこの時想像もしていなかった。
to be continued……
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今後物語のシナリオ進行によっては大幅な修正をいたします。
また読んでくださると嬉しいです。
トマチン




