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風と羽の商隊譚  作者: くうねん。
第1章
3/7

第3羽 『 記憶を飛ぶ』

テントの隅、淡い光を灯す瓶の中で──

レコルの手にある“空”が、ふわりと揺れた。


その瞬間、彼の視界は、色を失った。


…ざぁっ…波の音。

吹きつける潮風。

目の前に広がるのは、青くひらけた「空」と「海」の境界。


──まだ小さな頃の、自分だ。

どこかの港町。

誰かと、約束した。


「この空、いつか全部見せてやるよ!」

そう笑った自分の隣にいたのは──


「…………誰だっけ?」


記憶は、そこで途切れる。


レコルは目を覚ました。


「……ジール?」


「ああ、いる」


レコルのとなりには、心配そうなジールがしゃがんでいた。

瓶は空になっていた。


「…見たんだ、昔の記憶。オレ、誰かに空を見せたくて旅してるんだな、たぶん…でも、顔も名前も思い出せない」


ジールは少しだけ目を伏せてから、静かに言った。「それが夢なら、追えばいいさ」


「……あんた、意外とやさしいじゃん?」


「うるさい。飛べるうちに進むぞ」


テントを出ようとしたとき、店主の老人がレコルを呼び止めた。


「その瓶、…君が見た記憶の空は、まだ“終わって”いない」


レコルが振り向く。


「記憶の続きは、あの“塔”にある。

世界のてっぺんに届くと噂の、グラスの塔。

誰もたどり着けない、夢の場所さ」


「…行くしか、ないじゃん」


レコルの声は震えていなかった。

その目は、少年の頃と同じように、まっすぐだった。荒野を越え、渓谷を抜けて、二羽の旅鳥はようやく辿り着いた。


そこは、どこまでも空を突き刺すような“塔”がそびえる場所。

雲より高く、根元すら霞むような不思議な構造物──グラスの塔。


「……ほんとに、あんのかよ、あれ」


ジールが呆れ顔で空を見上げる。

レコルも思わず息をのむ。


「行くっきゃないな…って、あれ? 人影──?」


遠くから、鳥のような影が歩いてくる。

よく見ると、赤いパーカーに水色の羽。しっぽの先が、まるでペン先のように黒く染まっている。


「やっほー! グラスの塔目指してんの? 一緒だね!旅仲間!」


突然現れた陽気な声に、ジールの羽がピクリと動いた。


「……誰だお前は」


「名乗るよ!? じゃーん! オレの名はアカツキ!

夢見るフリーダムバード! んで、こっちは──」


「クロメン。……喋る必要、あるのか?」


赤いパーカーのアカツキと、青黒い体に白い翼を持つクロメン。

ふたりはどこか“アンバランス”ながら、妙に息が合っている。


「俺たちも記憶を探してんの。グラスの塔って、そういうの得意なんでしょ?」


「……ついてくる気か?」


「うん!だって絶対面白いじゃん。ほらレコルくんもジールくんも、いいコンビっぽいし?」


レコルは少し驚いた表情を浮かべながらも、苦笑い。


「くん付けやめろって…」


「じゃあ呼び捨てで!」


「それもなんか違うんだけどなぁ」


──かくして、空の記憶を巡る旅は、4羽になった。


しかしその塔を前に、誰もが気づいていなかった。


“塔は、選ぶ”。登る者を。


塔の根元には、無数の「足跡」が刻まれ、そして──

「戻ってきた形跡」は、どこにもなかった。

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